2017年01月16日

いつぞやの手口で楽しく弾圧

【共謀罪「一般人は対象外」=菅官房長官】
 菅義偉官房長官は6日の記者会見で、いわゆる「共謀罪」を創設するための組織犯罪処罰法改正案を20日召集の通常国会に提出することについて「政府が検討しているのはテロ等準備罪であり、従前の共謀罪とは別物だ。犯罪の主体を限定するなど(要件を絞っているため)一般の方々が対象になることはあり得ない」と述べ、理解を求めた。 
(1月6日、時事通信)

霞ヶ関官僚というのは結局のところ同じところに行き着くらしい。入口を小さくして、国民が飲み込みやすいサイズにしておいて、後で際限なく拡大して一網打尽にしようという魂胆である。これまでも共謀罪や秘密保護法の問題点は取り上げてきたが、繰り返したい。

戦前期に植民地を合わせれば10万人以上が逮捕され、共産党の試算では1500人の獄死者と200人の拷問死を出したのが、治安維持法だった。ナチス・ドイツを上回る監視国家となる根拠にもなった。
だが、同法は最初から国民弾圧を目的としたものではなかった。

1925年に日ソ間の国交が樹立したことを受けて、日本国内においてコミンテルンの活動が活発化し、共産主義・反天皇制運動の拡大が真剣に危惧されていた。同時期に普通選挙法が施行されて、25歳以上の男子のほぼ全員に選挙権が付与されて有権者が飛躍的に拡大、共産党が労働者や小作人層から支持されるのではないかという懸念があった。現実には、それらは殆ど杞憂だったのだが、当時の官僚や政党人にとっては現実的な懸念だった。従って、当時にあっても「治安立法自体は致し方ないが、政府原案では国民全員が取り締まり対象になってしまう」といった批判が最も多かったらしい。

ところが、治安維持法が実際に施行されてみると、「実際の運用(適用)が難しい」などの理由から改正が要望され、戦時体制への移行も相まって、適用範囲が段階的に拡大、厳罰化も図られた。その結果、1928年の3・15事件で共産党が一掃された後にも、1937年に人民戦線事件で合法左翼(労農派)が一斉検挙され、さらに労働運動家や反戦思想家、自由主義者や宗教団体にまで適用されるに至り、「天下の悪法」の名をほしいままにしたのである。

共謀罪の恐ろしさは、ソ連やナチス・ドイツのケースを挙げるまでも無く、日本の戦前に見ることができる。1910年の大逆事件では、明治天皇暗殺計画が発覚し、宮下太吉ら5人によるものであったにもかかわらず、幸徳秋水を始めとする24人が死刑に処せられた。当局は当初から5人の計画であったことを知っていたが、大逆罪を拡大適用した。事実が判明したのは戦後のことだった。なお、幸徳が死刑になったのは、公判で「いまの天子は、南朝の天子を暗殺して三種の神器をうばいとった北朝の天子ではないか」と述べたことによるとされている。

1923年の朴烈事件では、関東大震災直後に治安警察法による予防拘束(まだ事件を起こしてもいないし、計画も発覚していない段階での検束)を受けた朴烈が、拷問を受けて、愛人の金子某との「皇太子襲撃計画」について、特高の誘導尋問に同意したと見なされ(自白すらしてない)、大逆罪が適用され、死刑宣告された。後に恩赦で無期懲役になったものの、戦後の1945年10月末(8月15日でも9月3日でも無い)まで刑務所に収容されていた。

戦時中に起きた横浜事件では、出版社の温泉旅行を共産党再建のための謀議と見なした特高によって治安維持法違反で60人以上を逮捕、拷問で4人が獄中死した。後に起訴されて、ポツダム宣言受諾後に「駆け込み判決」が下されて、30人余が執行猶予付き有罪となった。恐ろしいことに、この公判の記録は、戦争犯罪追及を恐れた政府・裁判所によって焼却処分されている。なお、裁判で検察が証拠として提出した写真は、全く別の機会に撮影されたものだったことが判明している。そもそも、戦時下で共産党再建の謀議を行っている者たちが、記念撮影をするとは考えがたい。

治安維持法が最初に審議された際、当時の若槻禮次郎首相は、
「世聞にはこの法律案が労働運動を禁止するがためにできるやうに誤解しておる者があるやうであります。此法律が制定されますと、労働者が労働運動をするについて、何等かの拘束を受けると云ふやうに信じて居る者があるようであります。斯の如きは甚だしき誤解であります。」

と答弁、川崎卓内務省警保局長は、「乱用など云ふことは絶対にない」と断言している。

現行の日本政府は、治安維持法を施行し国民弾圧をほしいままにした帝国政府の後継であり、安倍内閣は「明治の日」に象徴されるように戦前の帝政を称賛しているだけに、菅官房長官の言は全く信用に値しない。「一般の方々が対象になることはあり得ない」というのは原案の話であり、数年後には改悪されて「合法左翼」や「合法リベラル」が対象にされるのは明白だろう。本ブログが閉鎖される日も遠くないかもしれない。

そもそも期間が一カ月もない程度のオリンピックを開催するために、時限立法ならともかく恒久法で市民を「一網打尽」にできる法律が必要であると主張している時点で、政府の本音がどこにあるか分かるだろう。そもそも東京都と政府は、「東京は世界で最も安全な街」を最大のセールスポイントにしていたはずだ。
確かに米国でも9・11連続テロ事件の後に、悪名高い「愛国法」が成立したものの、あくまでも時限立法であり、一回延長されたのみで2015年に廃止されている。行政と議会と裁判所という権力の分立が相応に機能している米国と異なり、日本では行政が圧倒的に強い上に、議会は自民党の一党優位体制が50年も続いて行政と一体化しており、さらに裁判所は行政の従属下にあるという環境にあり、権力の分立が機能していない以上、当局に「誰でも逮捕できる」権限を付与することは恐怖政治の根源にしかならない。

日本の現政府は、骨格を明治帝政から継承し、連合国との戦争に敗れて休戦条約の条件として渋々「民主化」しただけの存在であるため、根源的に自由主義や民主主義を否定し、権威主義に傾く傾向を有している。その政府に共謀罪やら通信傍受やらを許せば、容易に戦前のおぞましい暴力支配を復活させるであろう。その手始めは、沖縄の反基地運動家となりそうだ。権威主義者に際限なき権力を与えることは、「狂人に刃物」であり、その刃先は近い将来、一般市民に向けられること間違いない。誰が「一般」であるかを決めるのは常に権力側なのだから。
真の民主化を実現しなければならないのは、中東などでは無く、この日本である。

【追記】
それにしてもどこかで聞いたことがあると思ったら、偉大なる水木しげる先生の『劇画ヒットラー』だった。全権委任法案の提案演説に際して。
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posted by ケン at 12:46| Comment(2) | 教育、法務、司法 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
政府の悪口を言っただけで逮捕される日も現実味を帯びてきた訳ですね
Posted by 石田博 at 2017年01月18日 06:54
すぐというわけではありませんが、戦争やテロが起こればどうなるか分かった物ではありません。もちろん政府はそれを見越して法律を用意するわけですが。
Posted by ケン at 2017年01月18日 21:21
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