2017年04月13日

行き当たりばったりのトランプ政権

【シリア攻撃、米国民の57%が支持…CBS調査】
 米CBSテレビが10日発表した世論調査で、トランプ政権が6日に行ったシリアへの攻撃について、米国民の57%が支持していることがわかった。反対は36%だった。党派別では、共和党支持者の84%が支持。無党派層でも過半数の52%の支持を得た。ただ、民主党支持者の支持は40%にとどまった。また、シリアにおけるさらなる軍事行動について議会の事前承認が必要かどうか尋ねたところ、69%が必要と答えた。共和党支持者でも過半数の53%に上った。トランプ氏の支持率は43%(不支持率49%)で、3月29日発表時の40%(同52%)からやや改善した。34%だった無党派層の支持が42%に上昇したことが主な要因だとしている。今回の攻撃によって支持率上昇の大きな効果は期待できないとの見方が出ている。
(4月11日、読売新聞)

どうにも行き当たりばったり観の強いトランプ政権。今回のミサイル攻撃も、どう見ても脊髄反射であり、それ以上には見えない。いかにも「国内政治が上手くいかないから、ちょっとした火遊びで威信を上げて人気も取ろう」的な思考が見え見えだ。まぁゲーム的と言えばゲーム的だが、およそ戦略的では無い。
もともとトランプ氏は、無人機や誘導ミサイルによる攻撃を推進したオバマ政権と、直接介入を指向したクリントン候補を否定して大統領に当選しており、本来は「ISを打倒した後、中東の覇権から手を引く」という方針だったはずだ。そのISに対して最大の脅威となっているのがアサド政権であり、ロシアとイランはアサド政権を支援してイスラム国を打倒するというスタンスを貫いている。米国防省にとっても、最大の脅威はイスラム国とロシアであり、アサド政権の脅威度などは中国や北朝鮮を下回ってかなり下の方にあった。ISに対して最大の戦力を有するアサド政権を叩いてしまっては、本来「元も子もない」はずだった。また、米ロ関係の悪化により、「ロシアの影響力を使って中東を安定化する」という戦略にも障害が生じている。

「アサド政権による化学兵器の使用」についても、報道写真と衛星写真を見ただけでアサド政権のせいにしてしまっているが、内戦の勝利がほぼ確定している段階にあるアサド側がリスク込みで禁止兵器を使う合理的理由はどこにもない。そもそもシリア政府が持つ化学兵器は、少なくとも公式的には国際監視団の下で廃棄されているはずであり、仮にいまだに保有していることが判明した場合、それこそ国連安保理で非難と武力行使を決議することも可能だったはずで、米国がきちんと証明できるなら、いくらロシアや中国といえども拒否権を行使するのは難しい状況にあった。つまり、アメリカは証明する術を持っていないが故に「やった者勝ち」と判断した可能性が高い。
また、「独裁政権だから何でもやるのは当然」という意見には首肯しかねる。何せ世界で唯一核兵器を実戦使用した上、戦線後方の都市に投下したのは民主国家であるアメリカであり、その米国はベトナム戦争で化学兵器を使用、現在も劣化ウラン弾を使い続けている。逆に中国は朝鮮戦争、ソ連はアフガニスタンでともに化学兵器等の使用を避けている。

そして、アフガニスタンやイラク侵攻に続いて、今回も国連決議を経ずに武力行使してしまったことで、国際秩序そのものがさらに揺らいでいる。今回は単純に「アメリカだから」黙認されただけの話で、仮に「禁止兵器を持っているかもしれない」程度の疑惑で隣国に先制攻撃を仕掛ける国が出てきたとしても、少なくとも公正な反論はできなくなっている。
組織や社会の規模にかかわらず、秩序とは「何となく皆が守っているから、自分からは破りづらい」空気感によって維持されるところが大きい。1930年代には、日本による満州国建設、イタリアによるエチオピア侵攻、ドイツによるヴェルサイユ条約破棄などが積み重なった結果、ヴェルサイユ体制は瓦解したのだ。ユーゴスラヴィア内戦も同じだろう。
米国は自らが「国連が認めない武力行使は認められない」というルールをつくっておきながら、次々と安保理決議を経ない武力行使を行って、自ら秩序の破壊者になってしまっている。「中露が反対すると国連決議は成立しないから、独自攻撃は致し方ない」という意見は、全く歴史を顧みないものだ。

シリア攻撃に戻れば、化学兵器の使用者の話を脇に置くとしても、今回のミサイル攻撃によってアサド政権が「ごめんなさい。僕が悪かったです。もう禁止兵器は使いません」と言うだろうか、いや言わないだろう。少なくともロシアやイランの後ろ盾がある限り、今回の攻撃を奇貨としてアラブの反米勢力からの支持を広め、国内秩序の強化に利用するのが、プレイヤーとして合理的な選択となる。
一方、アメリカ側は、アサド側が「ごめんなさい」すれば良いが、居直る、あるいは無視した場合、さらに大規模の攻撃を行うか、本格的な軍事介入をするかの選択肢しか無くなってしまい、どちらも米露関係を決定的に悪化させることになる。特に後者は、先にロシア軍を退去させない限り、全面戦争に至る恐れがあり、そもそも選択肢として成り立たない。つまり、ミサイルを撃ってはみたものの、「次の手」が無い。GMT「ラビリンス」でも、USプレイヤーが「とりあえず軍事侵攻(体制転換)」したものの、「次に打つ手が無い」という状況に陥ることが散見されるが、まさにこれだろう。

アメリカの攻撃によって、シリア内戦が再び激化し、イスラム国が勢力を取り戻した場合、どう見ても「誰得」な状況に陥るが、少なくとも米国の軍産複合体だけは得をするので、つい陰謀論を考えてしまう。
いずれにせよ、トランプ氏は自らの選択でゲームの難易度を上げつつあることは間違いない。
posted by ケン at 12:24| Comment(6) | ロシア、国際関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
どうもトランプ氏は、自分の元へ訪ねてきた人物を友達認定して、そうでない人物は敵(潜在的敵)認定しているような。
直近の安倍や習に対する発言とプーチンやキムに対するそれを、就任前に各国(指導者)に対して発言していた内容と比較するとそう感じられます。

いずれにしろ、甚だしく無定見であることは否定しがたいですね。
かかる人物が合衆国大統領という事実に、マジで恐怖心を感じるんですけど。

Posted by 素朴派(?)大統領 at 2017年04月13日 16:44
>内戦の勝利がほぼ確定している段階にあるアサド側がリスク込みで禁止兵器を使う合理的理由はどこにもない。

勝利がほぼ確定しているからこそ、使ったのではないでしょうか。勢力が均衡していれば介入されてバランスを崩すことになりかねませんが、現状ではそのリスクは少ないからです。

アメリカはアサド・ロシアと言うシリアの枠組み自体を壊す気はないと思いますよ。ただ、化学兵器の使用までは許さない、と。加えて、今後も野放図にのさばることはダメだ、と。そうした警告のはず。現に、ロシアには事前通告しましたし(シリアにも伝わる)、攻撃対象は発進した基地のみで、しかも滑走路は使えるようですから。これが例えば大統領官邸とかも含めた大規模急襲なら情勢は一挙に混迷するでしょうが、アメリカもシリアもロシアも、そこまでいかないことを分かった上で化学兵器を使用し、ミサイルを撃った構図に見えます。

「俺はオバマと違ってヤル時はヤル男だぜ!」と示すのに絶好の対象(名目はあるが実害はない)と絶好のタイミング(米中会談中)だった訳で、トランプは結構戦略的ではないでしょうか。
Posted by M at 2017年04月13日 21:02
>内戦の勝利がほぼ確定している段階にあるアサド側がリスク込みで禁止兵器を使う合理的理由はどこにもない。

アサド政権側にしても長年の戦闘で良質な歩兵戦力が枯渇寸前で
(老兵軍団が編成されたとシリア国営放送でも報じられていました)
以前の様に国際的非難が限定的であれば、住民ごと追い出せる化学兵器の使用は軍事的にも(彼らなりには)合理的です。

大陸戦線での日本軍の毒ガス戦に関する本によれば
例え日本軍であっても相手に防毒装備がなければ極めて効果的な
毒ガスは兵士の損失を減らせると言うことで前線指揮官にとっては魅力的な兵器だったそうです
(突撃精神が鈍るとの批判もあったそうですが…)
Posted by 一読者 at 2017年04月13日 23:08
化学兵器については色々な見方があるでしょうが、いずれにしても03年のイラク戦争を見れば分かるとおり、アメリカにとって「実際に持っているかどうか、使用したか否か」は些細な問題なのです。ただ、イラク戦争時は、少なくとも「傀儡政権を立てて撤退する」という出口が一応ありましたが、今回は「その後どうするのか」というところが何も見えません。
Posted by ケン at 2017年04月14日 12:41
思い付きでDPRKを追い詰めて、自分で選択肢を無くしているような気がします>トランプ
Posted by o-tsuka at 2017年04月14日 15:54
北の挑発に乗るトランプ氏に拍手喝采を送る人たちもたいがいですが。
Posted by ケン at 2017年04月17日 12:11
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