
『ドイツ空軍全史』 ウィリアムソン マーレイ 朝日ソノラマ(1988)
原著は1980年代、著者は米空軍出の歴史学者。第一次世界大戦の敗北によって航空戦力が全廃され、ヒトラー政権後に一から再生、二次大戦の末期までを描く通史ではあるが、全くムダが無くコンパクトにまとめられており、全体像をつかむには最適の書かもしれない。記述も至って冷静で偏りが無い。このテーマは大昔、小学生か中学生の頃にサンケイ出版の『ドイツ空軍』を読んで以来となるので、非常に刺激的だった。要は近隣諸国との短期決戦のみを想定して、地上支援に最適化し過ぎた結果、想定外の全面、長期戦争になってしまい、方針転換もままならないまま疲弊していった、ということなのだが、それでも英米ソの圧倒的な物量を前に、良くあそこまで戦えたものだ。ただ、かなりの大著を文庫にしてしまったため、注釈や参考文献、あるいは図表が削除されてしまい、非常に惜しいことになっている。朝日ソノラマが無くなった後、2000年代に学研M文庫で再版されたものの、これも絶版になっており、M文庫も廃止された今、戦史ファンとしては心細い状態が続いている。
『スターリン―赤い皇帝と廷臣たち〈下〉』 サイモン・セバーグ・モンテフィオーリ 白水社(2010)
上巻は読んでいたのだが、下巻に入ったところで何らかの理由で中断し、そのままになってしまっていたので、読み終えることにした。モンテフィオーリ卿の最高傑作にして、既存のスターリン伝の中でも最高峰にあると思われるが、いかんせん上下巻で1300ページという恐ろしい大著なので(註が恐ろしく多い)、容易に手を出せないところは否めない。とはいえ、膨大な一次資料を重視すると同時に、生存者へのインタビューも丹念に行って、可能な限り「見たまま」のスターリン像を描き出しているだけに、読み手も苦労する価値があるし、実際にソ連学徒が読んでも半端ないリアル感を覚える。スターリンに限らず、重臣や親族に関する記述も充実しており、多重的に描かれている点が、認識をさらに深めてくれる。次はサーヴィス『トロツキー』に行くか、スナイダー『ブラッドランド』に行くか悩み中。

『スターリン批判 1953〜56年』 和田春樹 作品社(2016)
御年80になられる御大の新著。500ページ近くあり、とても79歳の仕事とは思えない充実ぶり、業界では毀誉褒貶多いものの、やはり一個の巨人であろう。先生はすでに70年代にスターリン批判の分析をされていたが、90年代以降に公開された新資料や証言をふんだんに駆使して、スターリン批判に至る経緯から周辺国への影響に至るまで歴史の再構築を試みている。上に紹介した『スターリン』の最終盤からスタートする話なだけに、より納得でき、知識の上書きを進めている。和田先生の労作群なくしては本ブログも存在しないとすら言える。
『用兵思想史入門』 田村尚也 作品社(2016)
『各国陸軍の教範を読む』の田村先生の新著。古代メソポタミアから現代アメリカの「エアランド・バトル」に至る用兵思想の歴史を俯瞰する一作。ただし、孫子に代表される東洋のそれは含まれておらず、あくまでも西洋が中心。300ページ強で駆け抜けてしまっている観は否めないものの、一つ一つを切り取らずに継承されてきた思想の連続性に着目し、「なぜそうなったか」を再確認することに意義がある。ゲーマーは一読しておくべきだろう。

『働く女子の運命』 濱口桂一郎 文春新書(2015)
少子化対策もそうだが、「女性活躍」というスローガンばかりが先行しているものの、現実には女性の社会進出は遅々として進まず、「活躍」からはほど遠いところにある。その理由を、「日本型雇用」というキーワードを用いて戦前の歴史からひもといてゆく。結局のところ「職務、ジョブ」ではなく、人格丸ごと雇用して無制限の職能や勤務(異動)を強いる、世界に類例の無い日本型雇用を女性にもそのまま適用しているのが「日本型男女平等」「(日本型)女性活躍」になってしまっている、ということらしい。労働時間規制に関心の無い労働組合も、加害者の一員ということなのだろう。やはり労働問題を根本的に解決しない限り、個々人の幸福も生産性の向上もあり得ないと再認識させられる。

『「天皇機関説」事件』 山崎雅弘 集英社新書(2017)
既出。
『新・所得倍増論』 D・アトキンソン 東洋経済新報社(2016)
『新観光立国論』で話題のアトキンソン氏の新著。様々なデータを駆使して、国としては世界第3位のGDPを誇りながら、実は一人あたりのGDPは世界27位(購買力調整後)、一人あたりの輸出額は44位と衝撃的な数字が続出。単に人口規模が大きいため、人海戦術でごまかしているだけの話で、エリートやマスゴミが喧伝するほど優秀でも裕福でも無いことを、淡々と説明している。生産性の低さは昨今強く言われつつあるが、具体的にデータを見ると驚かされる。ただ、「ではどうすればいいの?」となると、途端に曖昧、微妙な表現ばかりで具体性が無い。まぁコンサルなので、具体策が聞きたければ自分を雇えということなのだろうが・・・・・・