2017年07月02日

完全版 ウィンター・ウォー〜厳寒の攻防戦

ソ・フィン戦争=冬戦争を描いたフィンランドの名作『TALVISOTA』(邦題:ウィンター・ウォー〜厳寒の攻防戦)の完全版が、一週間限定で公開された。「完全版」というのは、元々90年代に公開されたのは半分以下に大幅カットされたバージョンで、販売されたDVDもそれだった。私もDVDで見たクチだが、面白いは面白いが人物関係もストーリーも全く繋がりが分からず、「どうしてこんなことに」と思っていた。
制作は1989年で、もっと早く完全版も公開できたのではないかと思うのだが、版権が散逸してしまってどうにもならなかったらしい。とにかく今回完全版が公開されたのは僥倖だったが、今度は一週間限定、しかも朝の一回だけ。つまり、土日のどちらかで必ず見なければならないという状況に陥った。
しかも、相変わらず邦題は『ウィンター・ウォー』などというもので、何故日本語で定着している「冬戦争」にできなかったのか。日本のDVDでは95分程度のバージョンだったものが、実は原作ドラマは300分以上、映画に編集されてなお197分の超大作であったことも判明、省略しすぎて別物ではないかと。
言いたいことは山ほどあるが、ここは我慢。

以下、ネタバレ注意

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『ウィンター・ウォー 厳寒の攻防戦』 ペッカ・パリッカ監督 フィンランド(1989)


1939年秋、軍事的要衝カレリア地峡の割譲を迫るソ連の要求をフィンランドが拒否。ソ連軍の侵攻に備え、マルティとパーヴォのハカラ兄弟をはじめ多くの男たちが招集されるが、武器は乏しく満足な装備もなかった。凍てつく寒さの中ついに強大な兵力と軍事力を誇るソ連軍が国境を越えてくると、フィンランド軍は厳しい戦いを強いられ……。

本作は、今公開されている「ハクソー」のような英雄譚とは異なり、ごく一般的な市民が徴集され、民兵も同然の兵装で「まさか戦争にはならないよね」位の感覚で前線に送り込まれたところ、「兵が七分に森が三分」みたいなソ連軍が攻め寄せてきて、ひたすら壕に籠もって耐え続ける話である。
人間関係も戦争も非常に淡々と描かれ、戦死はあっという間、ラストですら突然終わってしまう感じで、どこまでもカタルシスを否定する精神が貫かれている。アメリカ人に爪の垢を煎じて飲ませたいところだ。
動員される方も、米国人のように愛国心に燃えて志願するとかではなく、「ソ連、攻めてくるってよ」「ふ〜ん、どうせちょっと戦ってすぐ講和ってとこだろ、面倒くせぇ」くらいのノリで、見ている日本人の方が「そんなんでいいんきゃ?」という感想を持ちそうだ。

全体的には、動員から戦場に着くまでのシーンは比較的短く、戦場シーンの大部分は塹壕戦で、ひたすらソ連軍の砲爆撃に耐え、時々T26に支援されたソ連軍が大挙して突撃してくるのをスオミ機関銃とモロトフ・カクテルでなぎ倒すというもので、似たようなシーンが延々と続くという意味で退屈は退屈なのだが、冬戦争の実相が良く伝わっている感触があり、どこまでも貴重な映像であることは間違いない。延々と続く砲撃の恐ろしさがよく分かる作品でもある。
マニアックなフィンランド軍やソ連軍の装備については、よだれものであることは言うまでも無い。

ただ、完全版を見ても、相変わらず登場人物の人間関係はよく分からない点が多かった。日本陸軍などと同じで、一つの郷里から召集されて部隊が編成されているため、小隊内もかなり縁戚関係で占められているみたいなのだが、それを抜きにしてもまだ誰が誰だかわかりにくい演出になっている。一つには、軍事に疎い人が翻訳をしているため、どうも階級や部隊編成、指揮系統に誤訳があり、物語を分かりにくくしてしまっている。フィンランド語ができる日本人など数える程度しかいないだろうから、やむを得ないかもしれないが、DVD化するときは、多少値段が上がっても良いので、梅本先生に監修してもらうべきだ(必ず買うから)。また、大河ドラマを再編集して短くしているところも、「完全版」ながら限界があるのだろう。

色々難点はあるものの、テーマと映像自体が超貴重であるという点だけでも名作といえる作品であり、DVDが出たら必ず購入して普及に努めたい。そして、是非とも継続戦争の映画『Tali-Ihantala 1944』も公開あるいはDVD化していただきたい。
posted by ケン at 01:00| Comment(0) | サブカル、音楽、アート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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