2018年03月05日

ロング・ロード・ホーム



『ロング・ロード・ホーム』 マーサ・ラダッツ原作 マイク・メダヴォイ制作総指揮 ナショナルジオグラフィック(2017)
2004年4月、フセイン政権崩壊の1年後、イラクは連合軍暫定当局が統治。アメリカ軍のバグダッド駐留の任務は保安活動だった。しかし、外国の占領に反感を持つ宗教指導者サドルとの衝突が生まれ、状況は緊迫。アメリカ軍は水道工事の護衛を終えて基地に戻る途中で奇襲され、激戦が始まってしまった・・・・・・

『ザ・ステイト〜虚像の国』といい、最近ナショナルジオグラフィックとヒストリーチャンネルの区別が付かなくなっているが、そこは重要では無い。
イラク戦争の重要な転機となった武力衝突事件「ブラックサンデー」の全容を、全8回のドラマで描く。ブラックサンデー事件については以下の通り。
2004年4月4日(日)、バグダッドの貧困地区サドル・シティで発生したアメリカ軍とイラク武装勢力による武力衝突事件。パトロール中の米陸軍第1騎兵師団の小隊が、連合軍暫定当局による占領支配に反対するシーア派指導者ムクタダ・アル・サドル師の創設した民兵組織「マフディ軍」に襲撃され、駆け付けた米軍援護チームを交えた戦闘へと発展。8人の米兵が命を落とし、51人が負傷する惨事となった。この事件を皮切りに「ファルージャの戦闘」などイラク各地で米軍と武装勢力との戦闘が勃発し、当時既に有志連合軍によるイラク進攻から1年余り、復興支援へと移行していたイラク戦争は泥沼化していくこととなる。さらに、サドル師の強い影響下にあったサドル・シティ(もともとはサダム・シティと呼ばれていた)も、その後4年以上に渡って米軍やイラク治安部隊によって包囲された。

ちょうど部隊が再編され、交替で多数の新兵が米本土から到着した矢先(4日目!)の出来事となる。バグダッド市内において復興支援に従事、基地に戻ろうとした米軍小隊がシーア派民兵の襲撃を受け、車輌を破壊されて、民家に籠城、本隊が救出部隊を送り出すも、同民兵によるゲリラ戦で阻まれ、被害を拡大させていってしまう。

実時間で2日程度のストーリーなのだが、米兵の視点、米兵の家族の視点、イラク人の視点などを盛り込むことで、重層的なつくりになっている。
実際の現地写真や取材資料をもとに、舞台となるサドル・シティを100棟以上の建物からセットで再現するという、ドラマを超える規模の作品になっている。
ケン先生は、2003年6月に某党の議員視察団に同行してバグダッドを訪問したが、全く違和感のない再現度と言える。

最近の戦争ドラマはリアリズムが徹底しているため、たとえアメリカ側の視点でも全く容赦なく現実を描いており、見ているだけでSAN値(正気度)が削られてゆくイメージだ。
「世界最強」を誇るはずのアメリカ陸軍だが、2003年の話ながら多くの綻びが見られる。例えば、パトロールに出た小隊がGPSを装備しておらず、救出位置を把握するために発煙筒をたかなければならない。救出部隊は救出部隊で、装甲車両が足りず、剥き出しのトラックに搭乗するわ、無線を装備していない車輌が山ほどあるわ、すぐ車輌が故障するわと、最精鋭の騎兵第一師団とは思えない状態が露呈されている。この辺をキッチリ描いている辺りは、さすがアメリカだと思う。今の日本では、自衛隊の装備不良を描いただけで、そこここから叩かれてしまうだろう。

『ザ・パシフィック』を見た時は、「日本軍にそんな弾薬あるわけないじゃん!」と思ったものだが、本作ではシーア派民兵がロクに身を隠さない素人くささを見せつつも、凄まじい弾幕を張ってきて、車輌やボディ・アーマーに護られているはずの米兵が次々と倒れてゆく。「民兵やりすぎだろ〜」と思わなくも無いが、この後に起きるファルージャ戦では、半年近く包囲したファルージャを攻撃した米軍が、100人近い戦死者と500人以上の負傷者を出している。また、ファルージャはイスラム国が2014年1月に占領するが、イラク政府軍が奪還したのはその2年半後のことだった。その辺を考えると、それほど外してはいないのかもしれない。

とはいえ、アメリカのドラマなので、指揮官が妙に人格高潔すぎるところや、「オレ達の(正義の)戦いはこれからだ!」的なラストは、いささか受け入れがたいものがあるが、そこは百歩譲って容認したい。
もう一度見るには、SAN値の回復を待つ必要がありそうだが、イラク戦争がどのようなものであったか実感するには最適の題材と言える。

【追記】
主人公格の小隊員たちが「基地に戻ったらD&Dやろうぜ」と話してる辺りがゲーマー的にキます。
posted by ケン at 12:40| Comment(2) | サブカル、音楽、アート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
最近ヒストリーチャンネルがつまらんです。

私もロングロードホーム観ましたが、これは米兵アカンと思いました。
米兵現地語の挨拶くらい覚えて行ってほしい。イラク人への敬意が無さ過ぎます。

あと、志願兵なのに死の覚悟が無さ過ぎます。だから怯えて過剰な火力を振るう。まあ現代先進国兵士はこんなもんでしょうが。

対するイラク人民兵は死を恐れず死体の山。

かつての宣教師のように、命がけで治安維持にやってきましたって、米兵も無防備に撃たれて死なないと
イラク人の敬意を得られず協力も得られないんでは。
Posted by taka at 2018年03月14日 11:40
覇権国家の中華思想の現れなんでしょうね。米国人は世界で最も外国語が弱く、「日本人以下」とすら言われます。
イラク戦争時に国務省や国防省でアラビア語を理解するものは五人もいなかったと言います。

当時の米兵はみな治安任務、復興支援と称して送られたわけですから、本格戦闘の覚悟が無いというのはちょっと酷だと思います。騙した方は大概ですが。

アフガニスタンでは、少なくとも友邦国を支援するという建前を貫いたソ連の方が、「アメリカよりはマシだった」という評価になっているそうです。
Posted by ケン at 2018年03月14日 12:57
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