2018年03月28日

佐川証人喚問は不発だったが

【<証人喚問>与党「森友」収束急ぐ 「官僚の責任」論を展開】
 政府・与党は、27日の証人喚問で佐川宣寿前国税庁長官が学校法人「森友学園」への国有地売却問題に関し首相官邸の指示を明確に否定したことを受けて早期の幕引きを図りたい考えだ。しかし、佐川氏が決裁文書改ざんの理由など核心部分の証言を拒否したため「疑惑は深まった」と野党は批判。与党内にも佐川氏の証言だけで、国民の疑念を晴らすことはできないとの声がある。
「(首相官邸は)何もしていなかったから、なかったということだ」。菅義偉官房長官は27日の記者会見で、官邸からの指示を否定した佐川氏の証言についてそう語った。安倍晋三首相は同日夕、官邸で記者団から「証人喚問が終わりましたが」と声をかけられたが、「どうも」とのみ返答し、コメントしなかった。
 政府・与党は、国有地売却を巡る一連の問題を「官僚の責任」として切り離し、首相や麻生太郎副総理兼財務相の責任を問う声を抑えてきた。佐川氏の証人喚問に応じたのも、証言を通して官邸の関与や忖度(そんたく)がなかったことを印象付ける狙いがあったからだ。
 実際に27日の証人喚問の与党質問はこうしたシナリオに沿った展開となった。自民党の丸川珠代参院議員は、首相と妻昭恵氏からの指示についてそれぞれ「ありませんでしたね」と確認するように尋ね、佐川氏は「ございませんでした」と応じた。さらに、丸川氏は、菅氏や首相秘書官、麻生氏についても「指示はありましたか」とそれぞれ尋ね、佐川氏は「ございませんでした」を繰り返した。
 終了後、自民党の森山裕国対委員長は「多くの疑念が解消された」と強調。野党が求める昭恵氏らの証人喚問は「関知していないことははっきりし、必要はない」と断言した。
 政府・与党は28日に2018年度予算案を成立させたうえで、働き方改革関連法案など重要法案の審議に入りたい考えだ。首相は4月中旬に訪米、5月下旬に訪露の予定。北朝鮮問題への対応など外交に焦点を当て、支持率回復を狙う考えだ。
 ただ、自民党の石破茂元幹事長は「誰が、なぜ、ということが一切分からない極めて異例な証人喚問だった」と指摘。昭恵氏の関与を否定したことについても「全くそういうことはなかったと言い、でもそれを理財局職員に確認したわけでもないと言う。一体何だったのだろうという思いを強めた印象だ」と語った。
 公明党の山口那津男代表は「理財局の中で(改ざんが)行われたことを(佐川氏が)はっきり認めた」と述べ、証人喚問の意義を認めたうえで、「誰がどういう理由で行ったかについて触れなかったのは極めて残念な対応だ。実態解明に向け国会として努力していかなければならない」と強調した。
(3月27日、毎日新聞)

予想通りと言えば予想通りだったが、佐川前理財局長の証人喚問は不発に終わった。自分も院内中継で見ていたが、与党議員は「総理などの関与は無かったんですね」と誘導尋問を連発、「政治家の関与は無かった」証言を勝ち取った。
他方、野党議員は二百三高地に向かって正面突撃を繰り返すような有様で、「疑惑が増した」「証言拒否」と言うのが関の山だった。ゲーム的には、野党側の完全敗北である。

ボスには苦言を呈したのだが、証拠が出そろってないにもかかわらず、野党側が証人喚問、証人喚問と大騒ぎした結果だった。欧米の刑事ドラマを見れば一目瞭然だが、証拠を積み上げて、相手の逃げ道を封じた上で、事実確認を迫るからこそ、相手も罪を認めるのだ。ところが、日本の警察も政治家も状況証拠を提示して、自白を迫るだけで、警察の場合は長期拘留と拷問によって自白を引き出すわけだが、国会の証人喚問は、今回の場合、一人5〜15分の持ち時間しかなく(答弁時間を考えると実質半分)、「無理ゲーにもほどがある」状態だった。

これなら下手に質問するよりも、佐川氏は高橋和巳を愛読していたらしいから、『孤立無援の思想』とか『堕落』を読み上げて、心理戦で氏の心を折りにいった方が良かった(戦術的に妥当)のである。

とはいえ、戦術的には政府・自民党の圧勝だったとは言えるが、全体的には、現行のリベラル・デモクラシーと官僚制度に対する信頼を失墜させ、政府内に腐敗が蔓延し、政官業の癒着構造の腐臭が強まっているにもかかわらず、「国権の最高機関」である国会がいかなる自浄能力も発揮できなかったことを露呈してしまった。
確かに佐川氏は議会証言法のルールに則って証言を拒否したわけだが、結果として証人喚問に求められる統治機構の自浄能力を阻害するところとなった。言うなれば、一プレイヤーが勝利のためにルールを悪用(穴を突いた)した結果、ゲームそのものが台無しになってしまったのである。
官僚も自民党議員も自覚していないだろうが、連中は自分が助かろうとして、無自覚のまま自分の首にロープをかけてしまったのだ。
皇帝への権力集中は、社会統治者集団としての官僚の独自性を消滅させ、彼らは皇帝の私的隷属者に成り下がっていく。皇帝の意を代行する最高の私的隷属者である宦官の下に、権力は集中することになる。(中略)明代に典型的に見られるようになった皇帝への権力集中と、行政の無責任化・統治能力の低下とが、じつは表裏一体の関係にある……
足立啓二『専制国家史論−中国史から世界史へ』(筑摩書房)

あれ?自分は確か中国研究を始めたはずなんだけど……
posted by ケン at 12:20| Comment(6) | 政局ほか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
まさにそのとおりだと思いますね。とくに官僚と自民党の失ったものは大きいのに、それに無自覚なコメントの多いことに驚かされますね。教養に欠けるためか、目先のことでしか判断できなくなってるのでしょうか。官僚を中核とした国家主義を完成させることで、民主主義制度を破壊することが目的であると考えれば筋はとおるのですが、そこに自民党の存在意義などないし、官僚個人も国家の奴隷になるのですけどね。野党は戦場を選べませんよ。
Posted by hakoniwa at 2018年03月28日 13:03
証人喚問のタイミングは多数決なので仕方ないとは思いますが…

証拠不足なら、大蔵省を目指した理由、文書改竄の重大性、これを明らかにする調査の重要性、違法な命令に従う義務は無いことを質問して答えさせた上で、その答弁は先ほどの思いと矛盾しないか、金と地位のために官僚になったのかと心を折りに行くべきでした。

まあしゃーない。
官僚として国辱もん切腹もんだと思いますが、サラリーマンとして自身と家族を守ったんでしょう。
Posted by taka at 2018年03月28日 13:37
心を折りにいく手はあったと思いますね。わりと直情的な方という印象です。野党質問は分裂しているのが悪いほうに出た印象ですね。まあマスコミ的に野党に焦点があたりますが、政治学的には与党の問題のほうが深刻ですね。
Posted by hakoniwa at 2018年03月28日 14:22
おっしゃる通り、野党は戦場を選べませんが、今回の証人喚問は野党が求め、与党が応じたことによって生じたわけで、決戦を求めたのはあくまでも野党側なのです。野戦で雌雄を決するつもりであるなら、それなりに準備をし、一定の勝算があるのだろうと思いますが、現実には何の勝算も無いまま騒いでいただけでした。これが、与党側が先に提案したのであれば、まだ私も納得できるのですが。

野党が小党分立しているのも、前原・神津両氏の責任とはいえ、自業自得なわけですから、どこまでも救いがありません。

一つには、選挙制度の問題が大きく、前回の総選挙で自民党は比例票が1850万票、立民は1100万票を獲得したのに、議席数では300対55という圧倒的な差があります。仮に、これが自民220、立民135とかだったら、政府・官邸・政権党がここまで暴走することは無かったと思われます。
Posted by ケン at 2018年03月29日 12:54
やはり明治政府の原形はプロイセンなどでは無く明国なんでしょうか。
まあ、朱子学やら陽明学やらを内面化している人々の作った政府なので当然と言えば当然のことなのかも知れませんが。
現代日本を理解するには、原形となる明国の政治文化についての研究と理解が不可欠なのかも知れませんね。
Posted by はげはげ at 2018年04月02日 19:14
国家モデルはあくまでもプロイセンなのでしょうが、設計図を描いた人たちは朱子学と陽明学で教育を受けて育ったわけです。適切な表現か分かりませんが、OSは儒教製、ソフトはプロイセン製ということなのかと。GHQ改革でプロイセンは否定されたものの、OSはそのまま残っているからこそ、いまだに安岡正篤が持ち上げられるのでしょう。
明治期でOSを西欧型に更新できた徳川慶喜や木戸孝允もいるのですが、圧倒的に少数派だったようです。
この辺の事情が理解できないと、薄っぺらな理解になってしまいます。
Posted by ケン at 2018年04月03日 12:46
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