2018年05月21日

永田町から見た南北朝鮮問題・上

【北朝鮮非核化は「リビア方式」にしない トランプ米大統領】
 ドナルド・トランプ大統領は17日、北朝鮮の非核化について、いわゆる「リビア方式」は適用しないと発言した。非核化後に体制が覆されたリビアの経緯を知る北朝鮮の、懸念緩和が目的とみられる。2003年に当時のリビア指導者、ムアンマル・カダフィ大佐は核兵器の放棄に同意した。しかし、2011年には西側諸国が後押しする反体制勢力によって殺害されている。ジョン・ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が北朝鮮の非核化で「リビア方式」の適用に言及したことで、北朝鮮は懸念を強めていた。北朝鮮は16日、来月12日に予定される米朝首脳会談を見送る可能性を警告。一方のトランプ大統領は17日、会談は今でも予定通り開かれるとの考えを示した。
(5月18日、BBC)

先日訪中した際に、朝鮮半島問題について話してもらいたいとの依頼を受け、専門分野ではないので、「永田町から見た南北問題」のテーマで現地の日本研究者を相手に講演した。いかんせん急な話だったため、簡単なハンドアウトしか作れなかったことと、情勢もめまぐるしく変化しているだけに、踏み込んだ話はできなかったものの、「日本側の視点」は抑えられたと思われる。

日本では、大手紙も有識者の多くも、「米朝首脳会談は失敗に終わり、アメリカが軍事行動を起こす」観測を示している。これは、彼らの情報源が外務省あるいは首相官邸であることに起因しているが、根拠のある話というよりも、「日本が数年耐え抜けば、ドイツがヨーロッパを制覇してイギリスも屈服する」類いの願望に近い話であろう。

日本の霞ヶ関と自民党は、根源的なところで冷戦体制の存続を希望しており、そこに60年以上の既得権益がからんだことで、他の外交的選択肢を潰してきた経緯がある。
安全保障論や地政学的なところから入ると、日本は北緯38度線を最前線とする東洋の冷戦構造下で、長いこと後方支援の地位に甘んじてきた。戦争状態を抱えたまま重武装し続けねばならなかった韓国に比して、はるかに軽い軍事的負担で済んだことは、日本の高度成長の主要因でもあった。

1990年代以降、日本は国際社会から経済力に見合った軍事的負担を求められるようになり、海外への軍事投射能力を少しずつ育成し始め、2000年代以降には中国の台頭によるシーレーン防衛が課題となったほか、米国の中東シフトが顕著となったことを受けて、独自の防衛力強化に乗り出さざるを得なかった。
米国側はすでに1990年代半ばには、日本に対して自主防衛を求めてきたが、冷戦構造そのものが既得権益化していたことと、霞ヶ関と自民党が「アメリカから支配の正統性を付与された」ことがあって(白井同志の言う「菊と星条旗」)、特に外務省はアジアから手を引こうとしているアメリカの裾を掴んで放さない挙に出ている。結果、アメリカ側の要求は高まる一方となり、あり得ない価格のミサイル防衛システムや航空機などの購入も、イラク戦争への派兵も受け入れざるを得なくなっている。

もし仮に今回の米朝会談が成功した場合、それは朝鮮戦争の終結を意味するものとなる。一部の報道では、米朝会談と同時期に中国の習近平主席が同地(日本報道ではシンガポール)を訪問するということだが、これは米朝会談で「手打ち」が決まった場合、そのまま中国代表を交えて、休戦協定が結ばれる可能性を暗示している。
意外と知られていないことだが、朝鮮戦争の休戦協定は「国連軍代表=アメリカ、北朝鮮、中国」の三国で締結されており、韓国側は代表者を送っただけでしかない。この休戦協定を平和条約に転換する場合も、必要なのは米朝中の三カ国のみであり、韓国側は同意さえあれば十分で、文大統領には拒否する理由が無い。

だが、現状における朝鮮戦争の終結は、在韓米軍の撤退と韓国の中国覇権入りを意味し、日本が冷戦継続を臨む場合、日本海が冷戦の最前線となることを意味する。すでに米国には、中国と覇権を争う意思はなく、できれば日本からも撤兵して、東アジアの安全保障から手を引きたい意向が強い。ただし、米国の中には、いまだ覇権主義者も少なくないため、日本政府などの懇願もあって、実現していないが、大きな流れとしては「パックス・アメリカ−ナの終焉」は時間の問題となっている。

冒頭の記事は一つの象徴とも言える。北朝鮮の非核化を言う場合、検討されるのは主に「リビア方式」と「イラン方式」で、前者は「核兵器が完全に撤去されたことが確認されたら、経済制裁を解除して支援を行う」であり、後者は「撤去段階を見極めながら、経済制裁を緩和して行く」ものを指す。
この「リビア方式」の場合、完全に撤去したリビアは西側諸国の煽動による「アラブの春」で瓦解、カッザフィー氏は見殺しにされた。また、イラクでは「大量破壊兵器の完全撤去が確認できない」と難癖を付けられて、アメリカなどの多国籍軍が侵攻、フセイン氏も殺害された。北朝鮮的には絶対に認められない方式である。
この間、日本の「専門家」「有識者」やマスゴミは、「アメリカがイラン方式を容認することはあり得ない」「米朝会談は高確率で失敗し、アメリカは軍事行動に出る」旨を主張し続けてきたが、早速ボロが出ている。連中は、自らの願望を述べているだけで、国際情勢の何をも反映していないのだから当然の結果だった。

さらに日本側が懸念するのは、米朝会談においてアメリカ側が妥協して、長距離弾道弾の破棄で手打ちして、核兵器の廃棄についてはウヤムヤにしてしまう恐れがあることだ。この「ウヤムヤ」は、核廃絶の実証が困難であることに起因している。先に挙げた2003年のイラク侵攻の口実を思い出すと良い。アメリカを中心とした査察団による厳密な検証を強行した場合、米国内や日本の好戦派が査察を妨害して、イラクの二の舞となる可能性が高い。
トランプ大統領の考え方はビジネスマンのそれなので、国際政治も効率優先で考える傾向が見られる。それだけに、朝鮮半島問題には深入りせず、戦線を整理縮小する方向で動いており、米国を中心とした核査察体制にはしたくないと考えているだろう。そして、可能な限り、中国を引き込み、場合によっては査察団の主役に据えることで、責任を押しつけた方が話が早い(反対するのは日本だけ)。
アメリカからすれば、要は核弾頭が米本土に届かなければ「十分」であり、あとは交渉材料でしかない。下手に時間をかけて情勢が悪化し、軍事介入の声が高まる方が、トランプ氏的には悪夢だろう。極論すれば、北朝鮮の核兵器は、中国吉林省の国境を越えたところに移送して隠してしまうだけでも、形式上は「廃棄」にできる(中国にとっては迷惑千万な話だが)。北朝鮮は北朝鮮で、核兵器製造のデータと体制保証さえあれば、実物は中国やロシアに移管されても問題ない。
以下続く
posted by ケン at 13:23| Comment(2) | ロシア、中国、国際関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
下の話題にもなると思いますが、アメリカのアジア撤退は、ソ連の東欧撤退と同じ意味を持ちますでしょうか。持つ場合、自民党政権の正統性は崩壊すると思いますが、いかがでしょうか。
Posted by hanamaru at 2018年05月21日 16:35
原理的には、日本とアメリカの関係は東独とソ連の関係と酷似しているので、アメリカの撤退は西側陣営=日本の瓦解を引き起こすはずです。
ただ、東欧の場合、経済・財政的破滅状態と市民の西側自由社会への憧憬が、体制転換の担保をなしていました。

日本の場合、今のところ東欧レベルまでは経済的に破綻していませんし、中国型モデルへの憧憬も見当たりませんので、すぐにベルリンの壁崩壊には至らないものと考えられます。ただし、国民生活は今後急速に悪化するものと見られるので、そこで大きな変化が起こる可能性はあります。
Posted by ケン at 2018年05月22日 13:57
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