2018年05月22日

永田町から見た南北朝鮮問題・下

前回の続き)
もっとも、この点について各国の利害は一致していない。中国に権限を委ねて東アジアから手を引きたいアメリカに対し、経済発展を優先させたい中国は安全保障のコストを上げたくないことから消極的スタンスを保つものと見られる。また、北朝鮮と韓国は、中国の影響力増大を恐れることから、米中のバランスが保たれることを望むだろう。

いずれにせよ、米朝和解とそれに続く朝鮮戦争の終結は、冷戦構造の継続と対米従属(衛星国)を切望する霞ヶ関・自民党にとっては悪夢でしか無い。
霞ヶ関と自民党というのは、冷戦期における東欧諸国の共産党と同質のもので、覇権国であるアメリカによる世界支配の正統性の下で、封土統治の権限が認められ、議会選挙や公務員試験などは形式的・儀礼的なものでしかない。それは、日本の義務教育において、デモクラシーやリベラリズムに基づいた主権者教育がなされてこなかったことが証明している。
冷戦の最終盤において、ソ連が財政上の理由から東欧の覇権を手放した瞬間に、東欧諸国の共産党はハンガリーを除いて瓦解、解体してしまうわけだが、それは彼らがソ連共産党の権威の下でのみ統治の正統性を持ち得ていたためだった。かろうじてハンガリーだけは、体制内改革を進めていたこともあって、社会主義労働者党が存続し得たが、例外的なケースだった。

日本の霞ヶ関と自民党もまた、体制内改革を否定し、東アジア内での和解を拒否して強硬姿勢を貫き、国内にあっては親露、親中、親朝、あるいは国連連携派を弾圧してきた結果、対米従属に基づく緩い開発独裁国家から抜け出す術を持たず、中国を中心とする東アジア新秩序体制に参加するだけの政治的資源が無いという情況に陥っている。
例えば、現在の外務省には北朝鮮と交渉するパイプがなく、今頃になって自民党などの政党幹部が朝鮮総連を訪問する事態になっている。中国については、若干マシとはいえ、尖閣沖で漁船衝突事件が起きた際、外務省にも民主党にも中国側と本格的に交渉するパイプがなく、事態を悪化させ続けたことがある。これらは、圧力・強硬外交一本槍のツケと言える。

対北外交については、日本は1990年の金丸訪朝団と2002年の小泉首相訪朝の二度、大きな転機を迎えていたが、どちらの場合も帰国後に国内の強硬世論が沸騰、日本側から和解を拒否してしまった。この二度については、北朝鮮側も大きな譲歩を示していただけに、「首領様」の権威を大きく傷つける格好となり、「日本は一切信用できない」という話になっている。昨今でも、経済制裁などで最強硬路線を唱え、在日朝鮮人に対する差別や弾圧を放置してきた日本政府を信用する理由は、北朝鮮側には無い上、貿易ゼロの日本と交渉するメリットも失われてしまっている。日本側がよほど巨額の戦後補償を用意しない限り、日朝交渉は進みそうにない。
同じ傾向は日露外交にも見て取れる。政府が60年にわたって四島返還を主張し続けた結果、領土問題でロシア側と妥協することができなくなってしまっている状況がある。

なお、日本政府や有識者は、「日本の経済制裁が北朝鮮を屈服させて、外交交渉のテーブルにつけた」などと臆面も無く述べているが、現実の北朝鮮は仮想通貨とインターネット上の仮想企業を駆使して取引しており、米ドルと数年前の紙媒体の資料に基づいた経済制裁は、控えめに言っても十分に機能していない。
実際のところ、北朝鮮では中国を見習って国内のイントラネットが整備されつつあり、スマートフォンも全国で10〜20%、平壌に限れば30%以上の保有率になっているとの情報もある。だが、日本人の大半は1990年代後半の飢餓で痩せこけた子どものイメージしか無い。

日本は、外交的には孤立、盟主から見放されつつある中で、国内では貧困化が加速している。霞ヶ関と自民党は、改革によってアジアシフトと経済再生を進めるのではなく、外交的強硬路線を継続しつつ、国内では収奪と権威主義化を進めることで、体制の存続を図ろうとしている。トランプ米大統領と安倍総理の関係は、ソ連のゴルバチョフと東独のホーネッカーを彷彿させるものすらある。
朝鮮半島の和解は、日本にとって「ベルリンの壁崩壊」に相当する大きな変動の始まりとなるかもしれないが、体制転換を望んだ東欧の市民と異なり、日本人は市民意識が低く、東欧で見られたような自由社会への憧憬に相当するものが中国型モデルに対しては存在しないこともあって、現状維持を望む声の方が大きい可能性もあり、その場合は緩慢なる死を迎えることになるだろう。逆に、貧困化の進行が国民を好戦的にするケースもあり、この場合、満州事変のような陰謀が政府内で画策される可能性もゼロでは無い。

なお、日米の民間で行われた世論調査(2017.12)によれば、対朝軍事侵攻に賛成するのは、日本20.6%、米32.5%、反対するのは日本48.3%、米44.2%だった。イラク戦争時に米国内で9割の支持があったことを思えば、米国人の内向き化が指摘される。また、日本国内でも思ったよりは、朝鮮紛争の勃発を望む声は多くなく、今のところは理性が働いていると見て良い。但し、この手の世論調査は参考にしかならない。例えば、1937年の日本を見た場合、盧溝橋事件が起こる前と起きた後では、世論の反応が大きく変化している。

今日の外交的孤立を招いた主な原因は、オルタナティブ(別案)を用意すること無く、冷戦構造と対米従属を盲信し続けた霞ヶ関と自民党にあるが、国際情勢を読み解くだけの情報が無かったことも大きい。日本は憲法上の理由と対米配慮の点から対外情報機関を設置してこなかったが、それは結果的に諜報分野における対米依存を強め、アメリカにとって有利な情報しか入ってこない状況を生んでいる。国家の自立という点で、優秀な情報機関は必要不可欠だが、保守派は対米配慮、リベラル・左翼は「戦前回帰」を恐れて、議論してこなかったことが、危機的状況を生んでいる。この点でも戦後体制は制度疲労を起こしており、ケン先生が「待機主義」に移行した理由にもなっている。
posted by ケン at 00:00| Comment(4) | ロシア、中国、国際関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)って、結構頑張っている国
なんですね。中国の後ろ盾があるとは言え・・。
我々の「心の国境」の壁は、年々厚く、高くなる一方なのに、
ヒト・モノ・カネをまとった電子データは容易く国境を越える・・・。

Posted by ムラッチー at 2018年05月22日 00:31
中東やアフリカの独裁国を見ていると、一代でも成し遂げるのは難しいのに世襲とか、まして三代目とかほとんど化石ものですよね。

「心の壁」も一見厚くなっているように見えますが、日本人が普通に出稼ぎのために中国などに出て行く日はすぐそこまで来ていると思いますよ。
Posted by ケン at 2018年05月22日 14:05
アメリカと北朝鮮の交渉は、窓口であるスウェーデン(そしてドイツ、ポーランド)を介して何度もされており、それがあるから北朝鮮の非核化には驚かないという声明がヨーロッパから出たのでしょう。
日本は最初から蚊帳の外で、本気で拉致被害者取り戻す気あるの?と思いました。
別に日本にとっての北朝鮮は拉致問題以外は特に何もなく、強いて言えば本音では北朝鮮は中国が大嫌い(韓国より嫌いですよ)ですから、出来れば日本には頼りたいのですが日本がだらしなさ過ぎるのでアメリカを便りにすると思います。
情報機関も大切ですが、まずは論理的に思考・推論出来る集団なり機関がなければまともな分析が出来ないと思います。
Posted by 高橋良平 at 2018年05月22日 18:43
拉致交渉は、戦後補償とバーターでしか成立し得ません。が、日本の韓国政府に対する態度を見れば、「こいつは信用できない」と思うのは当然でしょう。

「日本が北朝鮮と国交回復するメリットは無い」とは良く囁かれていますが、ただでさえ市場が飽和している中で、2500万人以上の人口を持つ国が「開放」されることを想像すべきです。希少金属もありますし。現代日本人は想像力がなさ過ぎです。
Posted by ケン at 2018年05月23日 12:47
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