2018年05月26日

働き過ぎたから賃金カットという地獄、そして資本主義の終焉

【除雪がんばったら給料カット!? 福井市職員 猛反発】
 今年2月の記録的な大雪による除雪費膨張の影響で、財政が危機的な状況に陥ったとして、福井市が職員の給与を削減する方針を決めたことに対し、市の職員組合は18日、反対を申し入れました。これを受け自治労福井県本部は21日、総決起集会を開き、この福井市のケースが全国的な広がりを見せないようくさびを打ち込むつもりです。
 「体力の限界まで頑張った見返りが給与カットとは!」「信じられない仕打ち」「来年も今年以上の積雪があったらどうなる」「除雪業務、もう頑張れない」「子育てでお金がかかるのに……」。除雪費が膨らんで財政悪化し、給与カットを打診された福井市職員の声です。
37年ぶりの記録的な大雪に見舞われた福井市。によりますと、今年2月の大雪に伴って昨年度の除雪経費は、当初見込んでいた4億円余りの10倍以上となる50億円に膨れ上がりました。
国の補助金や市の貯金にあたる「財政調整基金」全額を充てたほか、大型公共事業を先送りするなどして予算を捻出しましたがそれでも8億円が不足し、そのため▽一般職員2300人の給与や管理職手当を10%▽市長ら特別職の報酬を20%、それぞれ7月から9カ月間削減してまかなう方針を、市の職員組合に提示していました。
 これに対し、組合側は「給与で被災財源を補填するのは不合理極まりない」として、▽給与削減提案の撤回▽労使合意のないまま給与削減に関する条例改正案を議会に上程しないことなどを、東村市長あてに申し入れました。福井市職員の平均給与は月額32万円余り。10%削減されると月3万円ほど減る計算です。
17日夜の組合員の緊急集会では給与削減の提案に反対する方針を確認しました。また、福井市の提案に他の自治体も同調しないよう自治労県本部や県内のほかの市町の組合のメンバーらも応援に駆け付け反対の輪に加わりました。
福井市職員組合が加盟する自治労福井県本部は、財源不足を職員の給与で補填するといった提案が全国に波及しないよう、21日夜、総決起集会を開き、県内のほかの市町の組合員らと連携を取って、反対の方針を確認する予定です。
(5月21日、福井テレビ)

大雪で除雪を行ったところ、財源が底を尽き、除雪を担った市職員の給与を削減するという話。
民間企業であれば、労働契約法などによって賃金の引き下げに対して非常に厳しい規制が掛けられており、経営危機が理由の場合、労働者個別に合意を得る必要がある。管理職などで見られる「給料の一部返上」についても、懲戒処分以外は、当事者の同意が必要となる。ただし、現実には中小企業などでは、社長がクビをちらつかせるなどして恫喝し、賃金カットの同意を強要するケースが蔓延している。

しかし、公務員の場合、労働法の多くが適用除外となっており、「職員の同意無き賃金カット」が可能になっている。
「労働組合法、労働関係調整法及び最低賃金法並びにこれらに基く命令の規定は、職員に関して適用しない」
(地方公務員法第58条)

「この法律は、国家公務員及び地方公務員については、適用しない」
(労働契約法第22条)

そして、公務員は労働基本権が大きく制限されており、団結権は認められても、団体交渉権や争議権(スト権)は認められていない。そのうち団体交渉権については、地方公務員の場合、自治体に独立性の高い人事委員会などが設置され、労使関係の調整を行うことになっている。ところが、この人事委員は首長が指名して、議会の同意をもって任命されるため、殆どの自治体で首長と議会が自民党で占められている日本の場合、人事委員会は自民党の影響下に置かれているケースが大半となっている。

給与改定の過程は、人事委員会が人事院勧告と地域の給与水準を鑑みて独自の勧告を行い、それに従って自治体行政が給与改定方針を作成、議会が条例を改正する流れとなる。そのため、人事委員会、首長、議会が同一人格(政党)で占められている地方は、理論上自由に賃金を改定できる。

現実には、1990年代までは、日本社会党がそれなりの勢力を持って自民党と対峙しており、自民党の「やりたい放題」にはならなかったわけだが、社会党なき今、一般公務員の利益を代弁するのは、旧民主党系の自治労組織内議員とNK党だけになってしまっている。現在の立憲民主党の中にも、「公務員の賃金が高すぎる」と主張する議員は非常に多く、自治労が支援する理由が全く分からない。
地方の場合、地域経済の疲弊と余剰インフラに伴う財政破綻が前提にあるところに、社会党という抑制機能が失われ、地域資本の暴走(最後の悪あがき)が始まっていると解釈される。

福井からの報告によれば、自民党側は右翼にテロルの要請を行い、近々右翼の街宣車が福井市職労の周辺で大音量の恫喝活動を行うという。市職労は市役所の中にあるため、実質的には市民に被害が出る恐れが生じる人質作戦とも言える形となるため、公務員組合は基本的にテロルに対する耐性が無い。
こうした手口は、自民党が右翼団体を動員して、まず警察にデモ隊を襲わせて、路地に逃げ込んだ市民に暴力団が暴行を加えたという、1960年の安保闘争。あるいは、大学当局が右翼を動員して、学生運動家に対する個別テロを行った、1968年の日大闘争など、50年代から60年代にかけては日常茶飯事だったが、最近はあまり見られなかった。
このことは、1970年代から2000年代くらいまで成立していた戦後和解体制の瓦解を示しており、マルクスが指摘した「資本は、労働者の利益を犠牲にすることで自己増殖し、暴走する」の復活を意味している。

しかし、地域資本やそれを代表する自民党は、自らの首を絞めているだけでしかない。ただでさえ十分な産業基盤を持たない地方の場合、公務員の給与が地域消費の一大源泉となっているため、公務員の賃金削減は消費減に直結するところとなる。
これは別途記事にする予定だが、地方ではデパートが撤退して、ショッピングモールや大型スーパーとなり、それも撤退して小型スーパーとなり、それすらも経営維持に難儀しているのが実態だ。少子化、人口減解決のメドが立たない以上、企業に投資するインセンティブはなく、地方事業を切り捨て、人件費を抑制するほかなく、その影響は地方自治体にまで出ている。

つまり、デフレと人口減少にあっては、資本主義そのものが成立しえず、日本の地方はその最先端を行っているわけだが、資本家も霞ヶ関官僚もそれを認めないため、資本主義的手法で解決しようとする。
だが、利潤の上がらない地方に投資するメリットは企業になく、公債を発行して公共投資するケインズ的手法は、維持費ばかりかかる余剰インフラを増やして財政を悪化させる効果しか無い。
実のところ、少なくとも地方では、計画経済や協同組合制度に移行する方が望ましいと考えられるが、日本のエリートは思いつきもしないだろう。

話がズレてしまったが、従来の手法では利潤を上げられなくなった資本は、労働を収奪することでしか延命できなくなっている。本来、自由主義を貫くのであれば、不採算・低採算の企業は倒産させて、収益性の高い産業にシフトするように仕向けるべきなのだが、資本と行政と立法とマスゴミ(情報)が一体化している日本の場合、公的資金が優先投入されて不採算・低採算の企業が生き残り、ひたすら賃金コストの圧縮を進める事態になっている。国会で審議されている「高度プロフェッショナル制度」もその延長線上にある。

福井市の事例は、センセーショナルな形で顕現しているが、遠からぬ将来、日本全国で起こりうるものであることを覚悟しておくべきだろう。

「他の自治体に波及する恐れがある」として総動員を呼びかけた自治労福井県本部の見識は慧眼であり、産別労組のモデルであると言える。同志からの報告では、保育士や非正規職員の加入にも力を入れているとのことで、率直に敬意を表し、エールを送るものである。
posted by ケン at 00:00| Comment(5) | 労働、経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
年によって大きく変動する費用には積立金を用意するのが普通でしょうが、それをしてこなかった理由も「財政難」なのでしょう。負担を住民が増税で引き受けるのか、高給と言われている職員が引き受けるのかという議論にすり替えられているのであれば、公務員給与の問題は別途議論すべきでしょう。
Posted by yb-tommy at 2018年05月26日 21:39
大雪という天災があり、その対応を頑張ったら減給された

当事者にはそのように捉えられるのも仕方ないですね。
市長さんは様々な方策を考えた上で、支出を減らすしかない、減らせるのは人件費しかないという結論に至ったのであろうと思いますが。

除雪に莫大な費用が掛かった、それは必要な支出であった、と市民のみなさんが納得されるのであれば期間を限定した増税も受け入れられるのではないかという気もします。
その前振りとしてまず公務員だけに負担を求めるという方針を打ち出し、そこから市民の間に増税やむなしという空気の醸成を狙っているのではないかという気もしますが、どうなんでしょう。
Posted by とよたつ at 2018年05月27日 19:56
最近は降雪量が少ない傾向が続いているので、どこの自治体も財政難から基金を減らしてしまっているのです。その意味では、危機管理能力の欠如でして、不足するまでに至った福井市のケースは無能、無定見の最たるものではありますが、福井市に限った話ではありません。

住民税率は地方税法で定められており、自治体ごとに一定の調整が可能にはなっていますが、例えば市町村税の所得割を見た場合、標準税率6%に対して、財政破綻した夕張市でも6.5%にしかなっていません。
しかも、増税すると住民流出が起こる恐れがあり、簡単にはできないのです。
そういえば、江戸初期には農村人口の激減から農民の奪い合いが起こって、大名間の税率の引き下げ合戦となり、幕府が標準税率を掲げました。

それに増税して懐が痛むのは、自民党を支持する地場資本・地主層ですから、まず提起しないでしょう。

Posted by ケン at 2018年05月28日 13:47
福井市にお住まいの方々自身も当然大雪の被害を受けているわけで、さらに増税とか言われても・・・というところなんですかねぇ。
まぁこういうニュースが広まれば今は域外からもなぜか税が集まってくるらしいですので、「頑張ったら減給!?」というストーリーで同情を誘う、悪くない手段なのではないかと思います。

返礼品として雪を固めた小さなブロックでも用意できれば・・・とさすがにこれはもう無理ですかね。
そんなもんどうやって送るんだって話ですけども。

どこからカネを集めるにしろ、最終的に特別職以外は減給なしくらいまで持っていければ重畳、足りなければ市職員にも多少の負担を求めるのはやむを得ないかなぁというとこなんじゃないでしょうか。
Posted by とよたつ at 2018年05月28日 18:26
日本社会の最大の問題は失敗したトップに対する責任追及が弱すぎるところにあると考えています。
仮に福井市が財政危機を迎えて職員給与を減らすほかに無くなったとしても、まずは財政計画を立ててきた首長や幹部職員、それを審議・承認する議会が責任を負うべきであり、そこの責任を問わずに職員の給与を減らすというのは、戦後の「一億総懺悔」と同じ構図です。
そして、失敗した幹部の責任を問わずに、同じ地位に置いた場合、高確率で同じ過ちを繰り返すでしょう。日本型組織は、幹部の降級が無いことでも、大きな変化に対応できないものになっています。
Posted by ケン at 2018年05月29日 12:49
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