2018年06月04日

北朝鮮化する日本

【NATOの「GDP比2%」参考に防衛費確保を−新大綱へ自民】
 自民党は25日、安全保障調査会と国防部会の合同会議を開き、防衛費について北大西洋条約機構(NATO)が「対国内総生産(GDP)比2%」の達成を目標にしていることを参考に「必要かつ十分な予算を確保」すべきだとする提言をまとめた。
 中谷元・安保調査会長は党本部で記者団に対し、防衛費は「現実的には必要なものに予算をつける積み上げ方式だ」としながらも、日本は「あまりにも各国と比べて防衛費の割合が少ない」と強調。欧州の例を参考数値として提言に盛り込むことで、必要な予算の確保につなげたいとの考えを示した。日本の防衛費は18年度で5兆1911億円。17年度の名目GDP548.1兆円の約0.9%。
 提言は巡航ミサイルをはじめ「敵基地反撃能力」の保有検討を促進するよう明記。島しょ防衛や災害時の拠点機能として「多用途運用母艦」を導入し、これに搭載可能な最新鋭ステルス戦闘機「F35B」の取得も盛り込んだ。政府が年末に改定する「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画」に向けまとめたもので、来週にも安倍晋三首相に提出する。
(5月25日、Bloomberg)

GDP比2%というのは単純計算で現在の2倍を意味する。2018年度の防衛予算は5兆1900億円で、対GDP比にすると約0.95%。これを倍にするということは、現状で10兆円以上をめざすことになるわけだが、税収は約60兆円であり、歳出の10%、税収の17%を防衛費に相当する。今後もゼロ成長が続く場合、社会保障費や教育費を大幅に削ることになるだろう。

「いきなり2倍」という大転換は、東アジアにおける国家間パワーバランスの変動に起因している。アメリカの国力は、相対的にはまだまだ中国を上回っているものの、米国の覇権は全世界に対して行使されねば意味をなさないため、中国のみを相手にしているわけにはいかない。結果、東アジア方面では、アメリカは従来の勢力が維持できず、冷戦期の封じ込め政策が通じなくなりつつある。

それを象徴するのが、米朝会談に象徴される米朝和解であり、それに続く朝鮮戦争の終結である。これにより、朝鮮半島は中国の勢力圏下となり、在韓米軍は撤退、冷戦の最前線は日本と台湾のラインに移るが、台湾は経済・文化的に大陸に取り込まれつつあり、政治的独立は名目的なものになっている。

冷戦期の日本の国防は、北緯38度線を最前線とし、北朝鮮の南下に対しては韓国軍が対峙して、アメリカ軍が反撃する、ソ連軍による北海道や新潟上陸に対しては、自衛隊が対峙して、米軍が反撃するという想定の上に成り立っていた。だが、巨大な海軍を持たないソ連軍の日本上陸は全く現実性がなく、現実の脅威は朝鮮半島にしか無かった。
そのため、韓国が巨大な軍事負担によって近代化と経済発展が遅れたのに対して、日本は軽武装により、国内のインフラ整備に専念でき、高度成長を実現することができた。

朝鮮戦争の終結は、冷戦の最前線が日本に移ると同時に、韓国軍と在韓米軍が無効になることを意味し、日本は中国と最前線で直に対峙する立場に立たされる。冷戦期の西ドイツはNATOの集団安全保障に国防を依存できたが、日本には日米安保しかない上、条約上の強制力でも日米安保条約はNATO条約よりも弱い。
例えば、NATO条約は締結国への攻撃に際し「必要と認める行動(兵力の使用を含む)を個別的に及び他の締約国と共同して直ちに執る」と規定しているが、日米安保条約は「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動する」となっている。これは、第一に日本の施政権下でしか発動しないことを意味しており、例えば北方四島や竹島に対しては適用されないし、仮に中国が尖閣諸島を占領した場合、米国は「施政権下にあると認められない」と援助を拒否できる仕組みになっている。そして第二に「自国の憲法上の規定及び手続に従つて」とあるように、日米安保の場合、米連邦議会が参戦に同意しなかった場合、安保条約は発動しない。
ただでさえ日米安保は、二国間条約である上に様々な制約が課されて不安定性が高い。従来であれば、この内容でも問題なかったが、今日のように米中のパワーバランスが拮抗してしまうと、不安定要素が増えることになるため、日本は独自に防衛力を高めるほか無くなってしまう。

購買力平価GDPを見た場合、冷戦期1970年のアメリカが3兆ドルに対して、ソ連は1.35兆ドルだったわけだが、2017年には中国の23.2兆ドルに対して、アメリカは19.4兆ドル、日本は5.4兆ドルでしかない。
本来であれば、遅くとも2000年代から始めるべきであった国防力の強化を先延ばしにしてきた結果、「米朝和解=朝鮮戦争の終結」を目の当たりにして、ようやく「実はオレ、ヤバいんじゃね?」と気づいて宿題に取りかかったのが自民党と霞ヶ関だった。

だが、仮に防衛費を増やしても、超少子化の中では傭兵や外国人でしか兵力を担保できず、実質的には絵に描いた餅にしかならない。現状ですら、自衛隊は兵力定数を満たすことができず、海自に至っては保有する艦艇全てを同時に稼働することが困難になっている。つまり、防衛費を増やしてみたところで、特に下士官・兵の頭数がそろえられなくなっており、今後はさらにその傾向が強まるものと見られる。
日米開戦時の日本海軍の常用航空機定数は3019機で、運用に必要な搭乗員は3445名だったが、海軍所属の搭乗員は全3615名に過ぎなかった故事が思い出される。
それを補うためには、例えば、「5年間自衛官を勤め上げたら、日本国籍を付与する」という制度が考えられるが、国民に受け入れられるのか、それに手を挙げるような(怪しげな)外国人で良いのか、疑問だらけだろう。

歴史を見た場合、高麗王朝の対元降伏から文永の役(第一次元寇)までが15年だっただけに、「朝鮮戦争の次は対日戦に違いない!」と自民党がヒステリーを起こすのは全く根拠の無いものでもない。
今後の日本が採る戦略は、「アメリカの裾を掴んで放さない」「早急に国土をハリネズミ化」「核武装論への傾斜」となるだろう。これは「貧国強兵」の道であり、実のところ「次代の北朝鮮」となる可能性を示している。

自分が中国で講演した通りの筋書きではあるが、ちっとも嬉しくない。
posted by ケン at 12:56| Comment(4) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 あ〜やだやだ、また税金が上がるのかねぇ・・。
ところで、ケン先生。「自国の製造業を滅茶苦茶にした国は、
国防ができない」という仮説は本当ですか?
防衛装備品は海外から輸入するモノも結構あるみたいですが。
ただ、我が日本の製造業は元気がないですし・・。
Posted by ムラッチー at 2018年06月04日 15:00
浅学ゆえの間違いかもしれませんが「NATOの集団安全保障」で良いでしょうか?「集団的自衛権」ではないですか?繰り返しますが、浅学ゆえの間違いかもしれません。その場合はご容赦ください。
Posted by hakoniwa at 2018年06月05日 00:00
日本は、またやられる前にやる(ダメ元)道を歩むのでしょうか、、
核武装となればアメリカが黙っていないとは思いますが(民族意識が高まれば使う理由を持ってますし)。
Posted by ガースー at 2018年06月05日 00:08
「自国の製造業を滅茶苦茶にした国は国防ができない」はかなり疑問ですね。アメリカは製造業を自分でダメにしましたが、いまだに世界最強です。二次大戦期のドイツは、世界有数の工業国ですが、自滅しました。ソ連は、製造業の質は別にして生産量的には全く問題ありませんでしたが、全く別の要因で瓦解しています。
資源高が続く今日では、人件費を抑えることでしか製造業は成立しないため、先進国はみな苦しんでいます。ドイツの場合は、東欧や難民を利用して延命が図られています。

「集団安全保障」は、多国間による安全保障の仕組みを指す言葉で、「集団的自衛権」は国際法上の権利です。

「やられる前にやれ」は日清、日露戦争以来の「伝統」でして、明治帝政の後継を標榜する現行政府や安倍政権が、その手法を踏襲するのは当然でしょうね。
Posted by ケン at 2018年06月05日 13:37
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