2018年06月14日

終焉に向かう東アジア冷戦・上

【非核化費用「韓国と日本が」 トランプ氏が会見で強調】
 トランプ米大統領は12日、シンガポールで行われた米朝首脳会談後の記者会見で、北朝鮮の非核化で必要となる費用について、「韓国と日本が大いに助けてくれる」と述べた。
 北朝鮮は制裁を受けており、費用を払えるのかと記者が質問。トランプ氏は「韓国と日本が大いに助けてくれると私は思う。彼らには用意があると思う」と答えた。さらに、「米国はあらゆる場所で大きな金額を支払い続けている。韓国と日本は(北朝鮮の)お隣だ」と強調した。
 トランプ氏は先月24日、米朝首脳会談の開催を取りやめるといったん発表した際にも、「不幸にも米国が軍事作戦を取る場合、韓国と日本はあらゆる財政負担を喜んでしてくれる」としていた。
(6月12日、朝日新聞)

日本国内では米朝会談・セントーサ合意は「失敗」「成果無し」と評価する向きが強いが、これは政府あるいは官邸の意向を忖度したものと見るべきだろう。
・相互に信頼し、非核化を進める
・新しい米朝関係を築く
・平和体制の構築に努める
・4月の「板門店宣言」を再確認し、北朝鮮は非核化に努める
・両国は捕虜や行方不明兵の遺骨回収に努める
・米朝首脳会談は画期的で新しい未来を始めるものだと認識する
・ポンペオ米国務長官と北朝鮮高官がフォローする交渉をできる限り早く開く
(朝日新聞より)

確かに合意文書は具体的内容に欠けている。だが、例えば1989年12月にソ連のゴルバチョフ書記長と米ブッシュ大統領が行ったマルタ会談では、「冷戦の終結宣言」以外に特段の具体的合意は交わされなかったが、現実に東西冷戦の終結を象徴するものとなった。今回の米朝会談も「儀式に過ぎない」「トランプ氏の目立ちたがりだけ」などの批判が多く見られるが、政治はそもそも宗教儀式の延長として生まれた概念であることを鑑みても、ショー的要素は意外と重要なのだ。
例えば、今回の合意にある「板門店宣言を再確認」で考えた場合、
北と南は、停戦協定締結65年になる今年に終戦を宣言して停戦協定を平和協定に転換し、恒久的で強固な平和体制構築のための北・南・米の3者、または北・南・中・米の4者会談の開催を積極的に推し進めていくことにした。
(4月28日、朝鮮中央通信)

とあるように、明確に「朝鮮戦争の終結」を謳っている。再確認したということは、今年中に終戦宣言を行って、平和条約を締結する方針に変わりは無いことを意味する。それが今回の会談で行われなかったからと言って、騒ぎ立てるほどのものではない。

また、記者会見に際してトランプ大統領は、「戦争ゲームをやめる。膨大な量の金を節約できる」と述べ、米韓軍事演習の停止を宣言、将来的な在韓米軍の縮小、撤退の可能性にも言及した。
トランプ大統領の目的は、北朝鮮の核廃棄によって自国の安全を担保しつつ、同時に東アジア全域におけるアメリカの軍事的負担を縮減することにあると考えられる。これは、ゴルバチョフ氏が、財政上の理由から、東欧全域よりソ連軍を撤退させた経緯と酷似している。
米中間の敵対関係が望ましくない以上、アメリカにとってアジア諸国にある米軍の存在はリスクでしかなく、そこに重い財政負担が掛かっているのであれば、真っ先にリストラすべき対象なのだ。ビジネスライクに考えれば、なおさら妥当な判断である。
その決断が、従来できなかったのは、オバマ氏やヒラリー氏のような米民主党系人脈の方が、軍産複合体と近かったことに起因していると考えられる。
なお、在韓米軍は朝鮮戦争に際して介入した国連軍の一部ということで、停戦監視の名目で駐留しているだけに、朝鮮戦争の終結によって駐留の根拠が失われることになる。

極論すれば、南北朝鮮が平和裏に統一を果たすか、安定的な共存体制ができて、中国の影響圏に入って核兵器も中国のコントロール下に置かれるのであれば、実際に朝鮮半島から核兵器が撤去されるかどうかについては、米国の利害には関係ないところとなる。トランプ氏が、いわゆるCVIDにこだわらないのは、実はそこは最重要ではないと考えるのが自然なのだ。

ところが、これが日本(自民党・霞ヶ関)にとっては最悪の状況となる。
本ブログでは何度も触れているが、朝鮮戦争の終結は冷戦構造の変化を意味するもので、冷戦の最前線が北緯38度線から日本海に移ることになる。従来は、韓国を盾となして、米軍が矛となって中朝軍を撃退する戦略が採られており、日本は後方基地の役割をなすだけで良かった。そのため、韓国のような重武装を持つ必要は無く、軍事負担を軽くしたまま国内のインフラ整備と産業振興に予算を回し、高度成長の基礎を築いた。
その後、冷戦構造の変化によって、1990年代より海外派兵能力を持つようになり、2000年代に入ると中国の隆盛を受けて海空戦力の強化に努めるようになった。しかし、いずれの場合も、あくまでも従来の構造を前提としており、朝鮮戦争の終結は想定していなかった。

朝鮮戦争の終結は、在韓米軍の撤退と朝鮮半島の中国圏(新中華帝国)入りに直結する。韓国は従来、北朝鮮などとの対抗上、日本に戦後補償などについて大きく譲歩してきたが、南北対立が解消した場合、中華圏入りによって日本よりもはるかに大きい市場を獲得できることもあり、日本に遠慮する必要が無くなる。一方、日本は衰退傾向の中で、中国や朝鮮に対する差別意識を一層強めており、日本と朝韓間の対立は今後さらに激化して行くものと見られる。
1980年代までは、日本は有効な海軍力を持たないソ連を仮想敵とし、90年代後半から2000年代始めには北朝鮮、2000年代後半以降は北朝鮮と中国を仮想敵としていた。しかし、今後は韓国が同盟から抜けて中国側に付き、日本は中朝韓と単独で最前線を維持する必要が生じている。だからこそ、安倍政権は必死になってロシアの抱き込みを図っているのだが、ロシア側に足下を見られると同時に、日本側の不誠実もあって、上手くはいっていない。
以下続く
posted by ケン at 12:57| Comment(0) | ロシア、中国、国際関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: