2018年06月15日

終焉に向かう東アジア冷戦・下

前回の続き)
霞ヶ関と自民党は、冷戦期における東欧諸国の政府と共産党と相似形にあり、宗主国アメリカの庇護がなければ本質的に存続し得ない。彼らの統治者としての正統性は、アメリカによって担保されているに過ぎないからだ。確かに日本では形式的に選挙が行われているものの、投票率は国政選挙で5割、自治体選挙で3割という始末で実態を伴っていない。その支配の正統性の担保が在日米軍であり、その撤退はアジア冷戦構造の終焉と、衛星国日本の体制崩壊を意味する。
それだけに、安倍政権と外務省は必死になって米朝会談の妨害を行ってきたが、失敗に終わった。

さらに近代日本の歴史を俯瞰した場合、日清、日露、シベリア(出兵)、太平洋戦争、さらには見方によっては日中戦争を含めて、帝政日本が起こした戦争の殆どは「やられる前にやってしまえ!」の発想に始まっていた。行動経済学的には、「10%でも損失ゼロにできる可能性があるならやるべきだ」という損失回避の法則から説明できる。

日清戦争の「勝利」を検証する 
日露開戦の代償−開戦経緯を再検証する 

日本では「シベリア出兵」として知られる「極東介入戦争」の場合、1917年の二月革命と十月革命によってロマノフ朝が瓦解し、ボリシェヴィキ政権が樹立する。ロシアの大戦からの脱落と東部戦線の崩壊を恐れた連合国は、ボリシェヴィキ政権を打倒すべく、軍事介入を決断する。日本は日本で、朝鮮と満州の利権を確立しつつ、シベリアに影響力を拡大、さらにロシアとの緩衝地帯を設けるべく、シベリアに傀儡政権を打ち立てることを視野に、宣戦布告無しでシベリアに侵攻した。日露戦争で排除しきれなかったロシアの軍事的脅威を完全に排除する目途もあった。「ロシアが復讐してくる前に先に仕掛けるべきだ」という議論は、当時も盛んになされた。
日本では学校でまともに教わることも無く、しかも「出兵」などとされているが、ロシア人的には全く言われ無き侵略であり、その死傷者は民間人を含めて50万人以上に上った。

現行の政府は明治政府の後継者であり、帝政や敗戦の反省を経ずに成立しているため、基本的な行動様式や思考パターンは継承している。従って、現状のまま米朝和解と朝鮮戦争の終結が進んだ場合、霞ヶ関や自民党は「アメリカがアジアから手を引く前に中国に仕掛けるべきだ」と考えるのが妥当だろう。その可能性は、以前なら0.1%以下だったものが、今では5%程度には上がっているはずで、その確率は今後さらに高まってゆくものと考えられる。
同時に、北朝鮮で核廃棄が(たとえゆっくりでも)進められる一方で、日本国内では急速に核武装論が浮上してくると見られる。単独で中朝韓と対峙する選択を採る以上、まず避けられそうにない。つまり、北朝鮮が脱重武装を進める一方で、日本が重武装と独裁を強めて行く可能性が非常に高い(今のところ7割くらい)。ケン先生が先手を打って亡命を決断した一因でもある。

現実に話を戻すと、冒頭の記事にあるように、アメリカと北朝鮮には核廃棄の資金を自前で出すつもりはサラサラなく、韓国と日本に丸投げしようとしている。韓国側では大きな問題にならないかもしれないが、日本側では「拉致問題が解決してないのに泥棒に追銭をくれるのか!」と世論が激高する恐れがある。そもそも、日本政府は米朝和解の可能性から目をそらし続け、会談も失敗すると言い続けてきた経緯があるだけに、どのように説明しても苦しいものにしかならない。
本来であれば、南北対立の終焉と武装解除をもってミサイル防衛システムも不要となるのだから、アメリカから買い付けているMDの予算を転用すれば良いだけのはずである。だが、霞ヶ関にとってはアメリカの歓心を買い続けることこそが至上命題である以上、「ミサイル防衛を止めます」とは言わないだろう。
その場合、財政難の政府としては増税で対応する他ないが、世論の納得を得るのは至難だろう。場合によっては、倒閣運動が起こって、より好戦的な内閣が成立する可能性もある。この点、ソ連・ロシアに対する敵意を煽り続けた結果、北方領土問題で妥協できなくなっている日露関係とよく似ている。

今回の米朝会談は、個別の議題や結果に囚われすぎることなく、「アメリカ覇権の衰退」「グローバリズムの終焉と地域ブロック化」「日本の衰退と孤立」などの大きい視点から俯瞰しないと、全体像を見失うことになるだろう。
posted by ケン at 00:00| Comment(11) | ロシア、中国、国際関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
どうも、ケン先生。
今回のシンガポール・セントーサ島での宣言は
実にユニークで興味深い事象ですね。
大雑把というか、可塑性の高い内容での合意で、
枠組みの破綻を避けつつ、双方が牽制し合う・・
と言うのは大変面白いものです。
北は今や「平和圧力」に外交ドクトリンを
定めたように見受けられます。最早、
予告なしに核やミサイルを発動させて
近隣国に誇示することは無いでしょう。
世界人民の衆人環視の下、大見得を切ったのですから。
北の委員長はまだ若いのに大したものです。
北の現状を日本の近代に照らすと、さながら
金日成が「明治」
金正日が「大正」そして
現在が「昭和」なのかもしれませんね。
Posted by ムラッチー at 2018年06月15日 00:37
おっしゃる通り、細かい内容まで決めてしまうと、後ですぐ「合意破棄」と非難される恐れがありますし、国内への説明が難しいことがあると思います。
まずは、最高首脳が直接会って合意したというだけで十分でしょう。
まだ波瀾万丈あるかもしれませんが、大きな方向性に変化は無いと見ています。
Posted by ケン at 2018年06月15日 13:09
日本の重武装、独裁化を押し止める残り3割の要素にはどのようなものを想定されていますか?
Posted by ガースー at 2018年06月15日 17:09
あ〜それ、聞いちゃいますか。

1割は何事も無かったかのように自民党と霞ヶ関体制のまま親中化してしまうケース、2割はどちらにも決められないままドロドロの内紛を演じながら空中分解、政治的混沌に陥っていくケースですね。
Posted by ケン at 2018年06月15日 17:57
 政権党内で親中に寝返った勢力に権力移行が進められる可能性は1割より大きいのではないでしょうか。米中が経済面で接近している状況を鑑みると、新中華帝国冊封体制に日本が組み込まれることはアメリカにとって大きな問題ではないでしょう。日本国内のアメリカ関連利権の清算に係る闘争を親中派が平和裏に治め政治的混沌を長引かせないことはむしろアメリカも望むところとなる気がします。
 また北朝鮮の代わって日本がゴネだしかねない重武装化を米中が本質的に許すとはおもえません。米が日本に軍事負担をもとめているのは米企業の既得権益を守っているだけで、「その程度の水準」を超えて自衛力強化を進めることは無理でしょう。

・中帝への朝貢5割
・重武装化2割(のち米中による分割統治)
・空中分解からの混沌長期化2割(のち米中による分割統治)
・ポピュリズム勢力駘蕩による暴力革命(のち中帝に朝貢)1割

個人的には上記のような配分を希望します。
いずれにしても中国と仲良くしないとと思います。
Posted by yb-tommy at 2018年06月16日 01:04
日本が重武装化を志向しだした途端、敵国条項復活で国連軍(米中ロ)による分割統治、というのもアリかもしれません。そしてあれだけ反中だった政治家やらが親中に…て既視感あるなと思ったら、戦後のアメリカへの「国体」変更ですね。
Posted by 3110 at 2018年06月16日 20:57
最終的に中華帝国の傘下に入るのはほぼ確実でしょうが(従属の程度はあれど)、そこまでに何の波乱もなく世論が納得するとは思えないのです。ここに来て「日本スゴイ」的なナショナリズムが高揚しているのは、「最後に一花咲かせないと納得できない」精神の発露でしょう。

他方で、今の自民党の朝鮮総連詣では凄まじいですよ。恥も外聞も無いとはこのことですが、あの厚顔無恥ぶりが政権を維持してきた原動力でもあるんですよね。
ここに来ても、反朝鮮・親米しか掲げられない立民に未来はありません。
Posted by ケン at 2018年06月18日 12:56
たしかにパクスブリタニカからパクスアメリカーナへの移行に際して大転けした日本ですから、これからの展開は気になるところです。地域的にはパクスチャイナになるのはほぼ間違いないわけですから、どう進めるかでしょうね。個人的には前々から北朝鮮こそが日本の盟友に相応しいと思っていました。なぜなら、北朝鮮は真相心理では中国が嫌いだと思いからです。私は米朝和平によって冷戦が日本海に移行したとはにわかには思えません。米朝和平が進めば進むほど北朝鮮と中国の関係は変化すると考えています。無論巨大市場の側にあるというメリットは生かすと思いますが、メキシコとアメリカの経済関係に近くとも、政治的にはますます対中自立を志向すると思います。でないと北朝鮮と金体制は存続できないでしょうし、中国も本音では韓国の方が遇しやくて好きでしょうから、なかなか微妙な関係になると思います。
なので、大きくはパクスチャイナに従いつつ、北朝鮮やフィリピン、マレーシアやベトナムと連携しつつ海洋的自立を志向すれば良いかなと考えていました。
しかし、結局のところ日本人の大国意識と対中対朝優越意識の前に、自民族と国家の平和と独立は吹き飛び、せいぜいがアメリカに弄ばれる程度です。
所詮もはや、アメリカとの関係は金の切れ目は縁の切れ目となりつつあります。
日本はこのまま進めば、いつかは切れて周りに迷惑をかけるでしょうが、大したことは出来ないので、将来的には、大陸の端にある静かな島国で、昔は元気があってお金ももっていた、らしい、となるでしょう。
ま、それも良しではないでしょうか?
Posted by 高橋良平 at 2018年06月21日 19:17
日本と中国の間には海という物理障壁があるので、どうしても一定の距離が置かれることになり、歴史的には丁度良い距離感を保ててきたと思います。ですので、中長期的には心配ないのですが、現行の対米衛星政権が自壊する前に暴発する恐れがあり、それがあまり他国に迷惑をかけないようにならないといいのですが、という話ですね。
Posted by ケン at 2018年06月22日 12:46
返信ありがとうございます。
ところでケン先生は米中関係についてはどうお考えですか?共存しなければいけないことはお互い理解しているでしょうが、如何なる共存があり得るとお考えですか?日本の進路は一定その方向性に規定されると想いますので。
Posted by 高橋良平 at 2018年06月22日 16:07
そこは非常に単純です。単にアメリカの勢力圏が後退して、グアム線かハワイまで引かれ、中国の影響圏がその手前まで広がるだけの話です。それで、北米ブロックと東アジアブロックに分かれて、共存共栄が図られるだけのことでしょう。そこには本来、対立する要素は殆ど無いのです。
Posted by ケン at 2018年06月22日 16:48
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