2018年06月21日

第二次日中戦争の現実味について・上

ケン先生は、日本が短中期的に中国と戦争する確率について、今のところ3〜5%程度だが、今後30〜40%程度にまで上がるのではないかと見ている。「まさか」と思う人も多いだろうが、1920年代や30年代初めに「日米戦争は不可避」と言えば大体同じような答えが返ってきただろう。

まずイデオロギー的に、日本は君主国家である上、一応形式上は議会制民主主義の態をとっているが、このいずれも現代中国からすれば「危険思想」「自国の体制を否定しかねない脅威」であり、共存の難しい体制である。
しかも、戦後日本は在日米軍のヘゲモニーの上に天皇制の存続と旧体制の温存が認められた擬制デモクラシーの国家・衛星国であるだけに、東アジア冷戦の終結によって在日米軍が撤退した場合、現行の霞ヶ関・自民党の支配体制は統治の正統性を失うことになる。
米国覇権の後退に伴って誕生する新中華帝国(仮称)と日本の現行制度の共存が困難である以上、日本政府は中国に対して遠からず「体制保証」を求めることになるだろう。それは、限定戦争を行って部分的勝利(例えば冬戦争におけるフィンランド)を得るか、核武装した上で北朝鮮がアメリカに対して行ったようなチキンレースを行うかでしか実現し得ない。さもなければ、1989年の東欧諸国のように自民党と霞ヶ関は自壊してゆくことになるだろう。
ケン先生的には、現時点の数字では無いが、最終的にその確率は、日中戦争が3割、核武装が5割、自壊プロセスが2割程度になるのではないかと推測している。

先にも述べたが、近代日本の戦争は、その大半が「やられる前にやれ」の発想に基づいて日本側から攻撃を仕掛けている。そもそも明治帝政成立に際しての戊辰戦争=倒幕戦からして、「このままでは幕府軍の近代化が進んで、数年後には太刀打ちできなくなってしまう」という判断から、薩長と王政復古派の公家が陰謀を巡らし、偽勅をつくってまで開戦に持ち込んでいる。

日清戦争は、外交交渉の中で浮上してきた天津条約案が「清国側に有利すぎる。このままでは朝鮮半島は清にとられてしまう」と日本側に判断され、危機感を覚えた日本政府は半島の軍事バランスを修正するために混成第9旅団を派兵する。この際、伊藤博文総理は平時編制の2千人程度を想定していたが、陸軍の川上操六参謀次長は戦時編制の8千人にして送ってしまう。派兵を決した伊藤にしても、不平等条約改正問題で非難にさらされる中で衆議院解散を控えて、「人気取り」あるいは「タカ派を抑える」という判断が働いていた。ところが、いざ派兵してみると、朝野のマスコミ、輿論が沸騰、さらに衆議院でも開戦論が圧倒的多数を占めるに至り、閣内でも大山陸相と陸奥外相が開戦を迫って伊藤は決断を余儀なくされた。

つまり、日清戦争は政策担当者の主観的には外交交渉の敗北を軍事的勝利をもって上書きすることを目的とし、政治的には朝鮮半島から清国の影響力を排除して日本の単独的影響力を確立することを目的として始められた戦争だった。実際、開戦に先だって日本軍が行ったのは朝鮮王宮の制圧と、李王家の確保だった。
ただし、大衆的には全く異なる文脈で受け止められており、キリスト者の内村鑑三ですら「日支那の衝突は避べからずと、而して二者衝突して日本の勝利は人類全体の利益にして世界進歩の必要なり」(1894年7月27日、国民新聞)という具合に「近代国家と封建国家による文明戦争」と捉えていた。

日露戦争は、もともと満韓交換論で妥結寸前にあった日露交渉について、日英同盟が成立したことを受けて、日本政府が満州利権を要求した結果、紛糾、日本側では「ロシアはいたずらに交渉を引き延ばしている」「ロシアがシベリア鉄道や満州のインフラ整備を進めた場合、日露が開戦した際、日本軍は戦力的に勝てなくなる」との見解が大勢を占め、早期開戦論が高まった。
日本国内の世論はすでに開戦に向けてヒートアップしつつあった。1903年10月下旬の『東京朝日新聞』の社説を見ると、「百戦、百勝の成算、我国にあること疑ひなし」(10/23)、「無期的に此痛苦を忍ぶは、有期的に戦争の痛苦を忍ぶに如かず」(10/24)、「帝国自身に和乎戦乎を決するの時機既に熟したり」(10/28)とばかりに、早期開戦を連呼している。
こうした状況下にあって、露清交渉のもつれから、駐満ロシア軍が奉天を再占領するという事件が起き、日本側の不信感をさらに煽ってしまった。逆に韓国では、11月に入って、ロシアの外交官や軍人が日本人居留民に襲撃される事件が相次ぎ、露日間の国民感情は悪化の一途を辿った。
明治帝は、1904年2月6日に開戦の勅命を下すが、ロシア側が全面譲歩した外交回答が東京に到着したのは、翌2月7日のことだった。

太平洋戦争については、ここで説明するまでも無いが、「国内の石油備蓄が尽きる前に開戦しなければ、一方的に屈服する他なくなる」という理由から、真珠湾に対する無通告奇襲攻撃を行った。無通告問題については以下を参照されたい。

・真珠湾攻撃はハナから無通告のつもりだった? 

ここで疑問に上るのは、「過去はそうだとしても、今の日本が中国と戦争する必要は無いだろう」というもの。だが、過去の戦争は、いずれも「外交的失敗を軍事力で覆す」「ジリ貧に陥る前に起死回生の一発を撃つ」に端を発しており、今日の日本が置かれた状況に似通っていることが分かる。

先に始まった米朝和解のプロセスにより、朝鮮戦争の終結が視野に入った結果、冷戦の最前線は北緯38度線から日本海に移りつつある。これは朝鮮半島が、世界システムとしての新中華帝国に組み込まれることを意味し、日本はほぼ単独で新帝国と対峙せねばならなくなる。
これに対し、旧帝国であるアメリカは、中国との直接対決を回避するため、前線をグアム線ないしはハワイまで下げる意向を強めている。この場合、軍事的には「在日米軍が撤退する前に、中国に先制攻撃を加えて、その勢力を削いでおくべきだ」と考えるのが、「合理的」となる。
自衛隊の充足度で考えても、現状でさえ定数を満たしておらず、隊員の質は年々低下する一方にあると言われており、「開戦するなら早いほうが良い。遅れれば、保有する全艦艇を動かすこともままならなくなる」という判断になるだろう。
中国軍の近代化については言うまでも無く、「開戦が遅れれば遅れるほど、自衛隊に不利になるから、尖閣で一戦を交えるなら、できるだけ早いほうが良い」という議論が自衛隊でなされているという報告を受けた。軍人としては当然の帰結であろう。
(以下続く)
posted by ケン at 12:25| Comment(4) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
国連憲章の「敵国条項」ってのがあるらしいですが。

その説によると、日本が開戦したら、ほぼ「世界相手にケンカを売る」ことになり、アメリカもロシアも自動的に、日本の敵として参戦・・

てことを防ぐ算段を、自衛隊とか日本国とかわかっているのでしょうか。

それとも、「敵国条項」は、無効なのか、この話・説が妄想なのでしょうか。

ではまた。
Posted by 忠武飛龍 at 2018年06月21日 14:55
おまけ。

現体制なり天皇制を否定する人たちには、「敵国条項」ってあって、それでも開戦して、さっさと日本帝国・天皇制が滅亡してくれたら、死人が出る以外は、万々歳の話なのですが。どうなのでしょうかね。

ではまた。
Posted by 忠武飛龍 at 2018年06月21日 14:56
純軍事的には、日米安保が実効的なうちに例えば台湾がらみで中国海軍が暴発してくれれば、
日米海軍で中国海軍の3分の2を粉砕して、その再建まで20年の猶予を得る。
(日露戦争でロシア海軍が粉砕された際は復活に60年要したように)
で、2050年には中国も高齢化で穏健化するだろう…なんて。

しかし、中国海軍もわざわざ負けるタイミングで仕掛けて自滅する訳ないし、建艦ペース半端ないので、もう手遅れかも。
Posted by taka at 2018年06月21日 17:10
忠武飛龍さん、敵国条項は日本が勝手に無効を主張しているだけで、誰も聞き耳持たないです。ですから、日本政府的には、最初の一発は中国に撃たせる必要があるのです。

安倍氏らが恋い焦がれる戦前の日本は国際連盟を脱退して連合国(後の国連)に宣戦布告したわけですから、明治体制の存亡が掛かっていると考えれば、いつでも脱退して宣戦布告すると思いますよ。
戦前と戦争を反省しないことが、安倍一派と霞ヶ関のアイデンティティですから。

takaさん、まぁそういうことです。時間的猶予があれば、中国でバブルがはじけて内乱状態になるかもしれないわけですが、それって「日本が頑張っていれば、ドイツが勝つ」と同じようなもんなんですよね。
Posted by ケン at 2018年06月22日 12:38
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