2018年06月22日

第二次日中戦争の現実味について・下

前回の続き
財政的にも日本は、現状でさえ毎年税収の2倍もの歳出予算を組んでおり、収支を改善する見込みはなく、低成長、技術的退潮、貧困化の下で、今後さらに悪化させて行く可能性が高い。この点でも、「開戦するなら早いほうが良い。戦時景気とインフレで財政赤字を解消できる」という認識を抱いたとしてもおかしくはない。
国力的には、2010年に中国のGDPが日本を追い越して、2017年には中国の12兆ドルに対して日本4.8兆ドルと対中4割近くにまで差が付いている。偶然なのか歴史のいたずらなのか、この「対中4割」はまさに1937年のそれと同じで、これまでの勢いでは中国の成長が続かないとしても、日中間格差が拡大の一途にあることは間違いない。

政治的にも、今の自民党と霞ヶ関は危機的な状況を迎えつつある。自民党・霞ヶ関とアメリカの関係は、冷戦期の東欧諸国共産党とソ連の関係と酷似している。ソ連邦の共産党と軍は、そのヘゲモニーの上に東欧諸国に共産党政権を成立させたが、それが撤退すると同時に瓦解した。
戦後日本のデモクラシーと議会政治は、占領軍支配下で昭和帝が下した欽定憲法(現行憲法)に基づいて成立しており、市民・国民が熱望して、あるいは血を流して獲得したものではない。現実に、議会選挙の投票率は国政で50%強、地方では30%前後という状態が続いており、デモや集会は警察の許可制、マスメディアは政府に従属、大学などの高等教育に対する政府統制も強化される一方で、およそ自由民主主義の実質を伴っていない。
在日米軍の撤退は、戦後体制における統治上の正統性の喪失を意味し、国民的支持が失われたままだと、現行の統治システムそのものが機能不全に陥る可能性がある。
これを回避するためには、大国と戦争して勝利することによって、独自の正統性を確立すると同時に、体制支持率(内閣支持率では無く)を回復させる必要がある。「アメリカがアジアから手を引いて孤立無援になる前に、対中戦を仕掛けて勝利しなければ、現行体制が維持できない」と政治家や官僚が考えたとしても不思議は無い。

また、経済的な行き詰まりから、資本の要請で1990年代以降、国民・市民に対する収奪が強化されつつあるが、これが国民統合力を低下させている。結果、統合を維持するために、政府はナショナリズムを称揚する傾向を強めているが、これが大衆の間で中朝韓やアジア蔑視を強化する方向に働いており、ひとたび戦闘が発生した場合、日露戦争や日中戦争が生起した際のように国論が沸騰、戦争支持が国を支配するだろう。日本政府としては、「小規模の国際紛争における勝利が望ましい」と考えても、国民が全面戦争を望む可能性がある。

以上の話は、個別的には荒唐無稽かもしれないし、「あり得ない」と一刀両断に処することもできようが、感情の底流にある一要素として何時どこで噴出するか分からない存在であり、歴史的には常に「あり得ない」可能性がいつの間にか現実のものになっていたことを忘れてはならない。例えば、日清戦争の前に、日清戦争後10年でロシア帝国と全面戦争をするなどと言ったところで、誰も本気で相手にしなかっただろう。イギリスとアメリカと中国と同時に全面戦争するなど、1935年の段階ですら、誰も本気で取り合わなかったに違いない。
少なくとも、第二次日中戦争の可能性は、確率論的には対英米中仏ソ戦争が起こる確率よりも高いと考えるのが妥当である。それは、現在の政治家と官僚、あるいは市民・国民が、80年前よりも賢くなっているという保証が何一つ存在しないことから説明できる。
だからこその「亡命」でもあるのだ。

だが、現実には憲法と国連憲章上の理由から日露戦争や太平洋戦争で行ったような先制奇襲攻撃が難しく、日本が中国側に対して何らかの開戦理由をこじつけて自衛権を発動する必要があるだけに、選択肢としてはなかなか成立しがたい。とはいえ、突発的に国境紛争が発生し、国論が沸騰して世論が対中戦争を支持する可能性は十二分にあると考え、確率を残してある。

より現実的な選択肢としては、既存のプルトニウムを利用して核弾頭を生産、核武装をもって中国に対して体制と領土(特に沖縄)の保証を要求するという、北朝鮮モデルが考えられる。
この場合、アメリカは在日米軍の撤退と引き替えに日本の核武装を容認する可能性が高まりつつある一方、中国の習近平主席は「中国は日本の核武装に関しても、一貫して反対の立場を強調してきた。これは今後も変わらない中国の外交方針だ」「(日本の核武装を阻止するためには)戦争も辞さない」との姿勢を示している(2017年11月の米中首脳会談にて)。
これは、一歩やり方を間違えると、国連憲章の旧敵国条項が適用されて安保理の許可無しで(例外規定)、軍事的制裁・介入が行われる可能性を示している。敗戦国で核武装したケースが無いだけに、現実的と考えるのが妥当だろう。この点、日露戦争では「長引けば列強が和平仲介してくれるはず」、太平洋戦争では「ソ連は中立条約を守るはず」などと常に楽観的であるのが日本エリートの特徴であり、今回も「敵国条項が適用されることはあり得ない」と判断すると見て良い。

ただし、日本側からすれば、「対中限定戦争よりはマシ」「財政負担も通常戦力増強より軽い」「国内にプルトニウムが余ってる」との理由から、「他に選択肢は無い」「北朝鮮は成功した」との判断がなされる可能性が高い。

他方、中国側からすれば、日本は現状でも「帝政」「デモクラシー」というイデオロギー的に相容れない存在である上に、世界有数の軍事力(予算レベルで7位前後、海軍力で世界第二位)を持つ「東洋最大の脅威」であるだけに、日本の核武装は中国の安全保障上、最大の脅威となるだろう。

最も平穏な道は、日本が核武装をちらつかせて実行する前に、中国側から体制保証を引き出す、という筋書きが考えられる。その場合でも、日本側は天皇制ないし議会制民主主義の放棄と人民解放軍の進駐が求められるかもしれない。
いずれにしても、非常に険しい道であり、現行の政治家や外交官に担える難易度では無いように思われる。

【追記】
もう一つ考えられるパターンは、ナチス・ドイツ型がある。極度の財政的緊張に陥った日本にポピュリズム政権が成立、緊縮財政を放棄して超規模の財政出動を行って大軍拡とインフラ整備を行うと同時に、排外主義を煽ることで破綻しかけた国民の再統合を図るというもの。この場合も、周辺国との摩擦が強まり、些細なことで戦争が勃発する恐れが強くなる。現在の日本が全体主義を求める理由については、近く見解を述べる。
posted by ケン at 00:00| Comment(14) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 まぁ、中華圏に取り込まれても
二千年前の秩序に戻るだけですしね。
収奪・搾取する側にとっては一大事でしょうが、
私の様な底辺にはあまり関係ない事です。
Posted by ムラッチー at 2018年06月22日 00:24
うーん、どうだろ?

1、まず、反共保守政治家、官僚、軍官僚側に第二次大戦の失敗のトラウマが決定的に鎮座しているからなあ。そんな度胸はないのでは?
確かに、数年前まで退役自衛隊幹部たちが「今なら中国海軍に圧勝する」なる煽り記事を盛んに書いていましたけど、最近は皆無。その理由はもはや勝てない情勢になってるからじゃないかな。

2、あと、核の問題があって、朝鮮半島の非核化が進む以上、日本の核武装はまず無理じゃないか。で、核保有国に非保有国が単独で戦争を仕掛けるのは、ちょっと考えられない。もちろん、米軍の戦争計画の下請けの一部としてなら、あり得るわけだけど、米国も本国回帰の路線の今、そんなことする意味ないのでは?

3、日中戦と言えば、日本側よりむしろ中国側に開戦の誘因があると思ってる。いわば、歴史主因論。
120年前の日清戦争って日本が飛躍する契機となり、近代化路線の成果を実証した戦争。逆に、中国側から見れば、没落を決定づけた戦争。
今の中国は、ケ小平以来の改革開放政策、人民軍の現代化政策が成功して繁栄しているのは誰の目にも明らかだが、ここで、第二次日清戦争の勝利によって実証できれば、飛躍の契機になるだろうと考えても不思議じゃない。というか、考えるでしょう、普通。
Posted by はなはな at 2018年06月22日 01:06
先の大戦で本土決戦をやって国土をズタボロにされ死者ウン千万、戦後は東西分割と、ドイツ√を日本も辿った方がマシだったのではと思う今日この頃です。
(所でその場合の戦後〜現代日本の道筋のシチュエーションとかって研究があるのだろうか)

話変わって、日中戦争というと現在「やる夫達で学ぶ日中戦争」という作品が連載されてますが、ブログ主様的にはあの作品の評価は如何でしょうか。
個人的には永田鉄山の総力戦体制の欠陥についての指摘(平時からの導入による経済萎縮)の下りは興味深かったですが。
Posted by スパルヴィエロ大公 at 2018年06月22日 11:19
ムラッチーさん、中国の方が良い面もあるのです。例えば、中国は共産党を自称しているため、社会主義に反する政策は容易に採れないのです。先日も、あちらのエリートさんに「中国の所得税は課税最低ラインが低すぎですよ」と言ったところ、「共産主義の建前上、無理できないんですよ」と返されましたから。

はなはなさん、本稿はあくまでも最悪の場合、最終的にこの辺まで来るかもしれないという仮定の思考トレーニングみたいなものですから、話半分に聞いてもらえれば十分です。そもそも将来予測なんて、殆ど当たらないのが常ですから。ただ、政治は常に予測を立てて、その予測を常に修正しながらやるべきだと考えています。
「常識的に考えて」の常識が全く通用しなかったのが、明治から昭和にかけての歴史の総括でして、その総括を拒否しているのが、安倍政権と霞ヶ関であることは承知しておくべきでしょう。
あと、中国とロシアは基本的に先制攻撃の概念を持ちません。彼らは本質的に恐ろしく受動的なんですよ。逆に超大国のアメリカが先制攻撃を基本理念に置いていることは、歴史上、極めて異質な存在です。なかなかご紹介できてませんが、ギャディス先生の『アメリカ外交の大戦略―先制・単独行動・覇権』をお勧めします。先制攻撃をドクトリンとしている点で、日本とアメリカは共通点があります。

スパルヴィエロ大公さん、アカデミズムでは仮想やイフを厳禁しているんで、研究は無いんですよね。日本分断の仮想物でまず思い浮かべるのは、先日亡くなられた佐藤大輔氏の『征途』ですね。「やる夫〜」は時間あるときにでも見てみます。
Posted by ケン at 2018年06月22日 13:02
やる夫の日本国憲法、やる夫の朝鮮戦争、やる夫の日中戦争の3部作は、
バランス取れてますし、マニアックな軍事面に目が行き届いてますね。
日本国憲法を第一次大戦とパリ不戦条約から説き起こすのは絶対必要なのに、憲法学者は誰もそうしない。

一体作者は誰なんだ、軍事マニアの大学院生?新書書けば買うのに!って感じです。

歴史物では、やる夫の梅松論、楚漢戦争、新・関ヶ原、フューラー(ナチ党)、赤い皇帝(スターリン)も面白いです。
その他、鎌倉幕府の成立で、吾妻鏡を延々連載したのもすごい。御家人同士の陰謀暗殺合戦とか正直興味わかないんですが。
大海人皇子も、大和朝廷草創期の氏族間政治が描かれて相当です。種本読んだ方が早いわけですが。

第一次大戦はマニアの別宮暖朗ベースですが、私自身は面白く読みました。
Posted by taka at 2018年06月22日 13:29
なるほど、ありがとうございます。
Posted by ケン at 2018年06月22日 16:45
いつも興味深く拝見させていただいております。

 もし間違えならば申し訳ありませんが、ケンさんはこれから中国で教鞭をとられるわけですよね。

 もしそうですと今回のテーマを鑑みるに、仮想敵国に対して間接的にですが利益を供与することになると思うのですが、その点に関してどうお考えでしょうか。

 答えにくい質問で申し訳ありませんが、よろしければお答えください。

 
Posted by 東北修理工 at 2018年06月22日 19:28
 連投申し訳ありません

 また中国で教職という立場でお仕事をされたとき、ケンさんの予測のような戦争という最悪の事態になった場合、ご自身の身の安全についてはどうお考えなのかも併せてお聞きしたいです。
Posted by 東北修理工 at 2018年06月22日 19:47
その疑念はもっともなことと思います。

自分の認識では、国民国家とナショナリズムの時代は終わった、個人的にも卒業したと考えています。ですので、どのような政権や体制であれ、戦争が起こった場合には、思想信条を超えて民族国家を支援するという立場を取りません。例えば、現政権が願う「アメリカの力を借りて明治帝政を復活させる」野望を果たすための戦争に協力するなど、「あり得ない」としか思えません。

万が一、日中戦争が生起した場合には、むしろ中国側にあって、可能な限り穏便な形で戦争を終息させるために貢献できればと願っている次第です。また、その戦争に中国側が勝利した場合、日本側に体制転換が発生すると考えられますが、そこでも協力が求められるようにしておきたいのです。
何も起きなければ、普通に日中両国から年金もらって、気に入った方で老後を過ごすまでです。正直なところ、生の政治にはもう関わりたくないという思いもあるのです。

今回のようなケースを想定して、自分は治安関係者や自衛官とは接触しないようにしてきたので、スパイ認定される証拠は無いはずですが、あちらで証拠無しでスパイ容疑をかけられるのであれば、普通に観念します。ですが、ロシアと違って、中国は非常に緩い、よく言えば寛大なところがあるので、いきなり殺害される可能性は非常に低いと考えています。

仮に日本に残った場合、私などは「NK党と新左翼の次」くらいの段階で粛清されるので、戦時体制に移行した場合、日本にいる方が危険にさらされるでしょう。逆に、日本に残る同志たちの亡命先を暖めておく目的もあるのです。
Posted by ケン at 2018年06月22日 20:18
お答えにくい質問にご回答ありがとうございました。

 私個人も東北の震災の際「日本という国家は国民を守る気概を全く持っていないな」と強く思いました。

 ただ、ケンさんのような今まで政治にかかわっていた人間が、仮想敵国と認識している国に教員として就職するのは寂しいなあと感じたので安心しました。

 しかしこのような形で、日本の知性や技術の海外流出は止まらないのかもしれませんね。
 私の息子も車の整備士としてほとんど海外で仕事をしており、日本を労働環境をほとんど見限っております。

 中国でのご活躍にも期待しております、お体をご自愛ください。
Posted by 東北修理工 at 2018年06月22日 22:10
 財界の支持を得るためには日本が獲得できる経済面ので利益が無ければなりません。自分たちの身分保障がなされたうえで東アジア経済圏に穏便に組み込まれることが資本家層にとってベストな選択であり、日中戦争は最悪です。その点で現為政者(政治家)は官僚および資本家層から見限られることでしょう。
 逆に中帝が日本の官僚機構と資本家層を受けいれないとなれば、それこそ日中戦争不可避となるでしょうが、戦わずして勝てるのであれば「天皇制」でさえ受け入れることでしょう。

 しかし中国人が本格的に移住してきて日本植民地化を目論んでいるとなれば・・・少子高齢化を解消できて日本独立戦争(鎮圧)ののち、日本自治区誕生で、めでたし、めでたし(コードギアスNEO)。
Posted by yb-tommy at 2018年06月23日 02:50
矛先は中国が最も高いのでしょうか?朝鮮半島(南、北又は統一的国家)と一戦交える可能性の方が高いように素人には思われますが、、
Posted by ガースー at 2018年06月23日 07:49
東北修理工さんの言葉で
>私個人も東北の震災の際「日本という国家は国民を守る気概を全く持っていないな」と強く思いました。

とありますが、同感です。

自棄になっていうと、現在の体制なり、その後継者の体制が続くのなら、

いっそ、日本は中国なりに完全に組み込まれた方がマシかも・・・て思うこともないこともないです。

天皇を掲げても、その赤子は死んでも屁ではない・・・。


前の戦争の負けても、体質は同じ。

で、中途半端にこの日本が続くなら、為政者層に庶民層の日本人は全部食い殺されるような感じ。


今の為政者層がある限りに、このまま日本国が続こうが、中国に植民地になろうが、変わらん。
ので、まずは天皇制を滅亡させてほしい。日本人でも良いし、中国でもいいから・・・

まあ自棄です。

失礼しました。
Posted by 忠武飛龍 at 2018年06月23日 20:23
東北修理工さん、私の曾祖父は清帝国で教鞭を執っていました。私が大学や大学院で学んでいたときは中国から大勢留学していました。そういうものだと思いますよ。むしろ好ましいこととお考えいただければ幸いです。

yb-tommyさん、ナチス・ドイツをモデルとした場合、貧富の格差が極大化して階級対立が先鋭化した時に、ポピュリズムがナショナリズムと全体主義による一時的な階級和解を志向するケースは日本で十二分に考えられます。財政出動による国内景気への刺激という点でも財界には魅力的でしょう。日本の資本は非常に無能で近視眼的なので、長期的な大陸市場よりも近視眼的な国内統治を重視すると見ています。

ガースーさん、ここで重要なのは中国に対して戦勝を勝ち取ることで体制と領土の保証を得ることなので、朝鮮と戦争して勝っても意味は無いのです。これは立ち位置は異なりますが、フィンランドの冬戦争がモデルです。

忠武飛龍さん、福島原発事故時の官房長官だった人が野党第一党の党首であるというのは非常に象徴的だと思います。現在のような対米従属政権ができたのは、占領下にあって米軍によって人為的につくられたためであり、いわば東ドイツのようなものです。つまり、国民や市民に立脚していないのですから、保護する理由が薄いのは当然でしょう。天皇に至っては、つい先日まで臣民という私物だったわけですが、今上帝は肌感覚で国民統合が危機に陥りつつあることに危機を覚えているように見えます。
日本と中国の間には大海があるだけに、占領さえされなければ、朝鮮ほど従属することなく、ほどよい距離を保ちながら半自立できると思うのですが、今の政治家と官僚には無理なので、一掃する必要があります。
Posted by ケン at 2018年06月24日 10:31
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