2018年06月29日

5、6月の読書報告(2018)

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『アメリカ外交の大戦略―先制・単独行動・覇権』 ジョン・L・ギャディス 慶應義塾大学出版会(2006)
冷戦研究の泰斗であるギャディス先生による、911事件以降のアメリカ外交論。基本的に講演録なので分量は少ないが、アメリカによる先制攻撃ドクトリンがブッシュ政権固有のものではなく、独立戦争と米英戦争(1814)に端を発する伝統的な考え方であるとするもの。むしろルーズベルトによる国際協調・大同盟路線こそが異端だったが、それによって世界覇権が確立したことを高く評価しつつ、安全保障環境の変化で再び先制攻撃ドクトリンに転換したと説明している。非常に納得させられる部分が多く、お薦めしたいのだが、イラク戦争は失敗したと断じているにもかかわらず、先制攻撃・単独行動ドクトリンは正しいとする結論部分だけは、「何故そうなる?」と疑問を禁じ得ない。

『新版 北朝鮮入門』 礒崎敦仁、澤田克己 東洋経済新報社(2017)
中国で朝鮮半島問題について講義して欲しいと言われ、門外漢なので途方に暮れ、専門家の同志に相談したところ、真っ先に薦められた一冊。表題にもある通り、確かに入門書で、北朝鮮に関する事項をかなり網羅的に書いているのだが、その水準は高く、記述もバランスがとれており、まず全体像を把握するにはもってこいのものだった。

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『フクシマ以後 エネルギー・通貨・主権』 関曠野 青土社(2011)
関先生は、在野の思想家なれど、全体主義学徒の私は非常に多くの示唆を受けている。「近代の終焉」「代議制民主主義の機能不全」「国民国家の終焉」などのキーワードを論じる。欧米日などの民主主義国家は、階級間の利害調整弁としての機能が期待され、階級間の和解の上に成立していたが、国家が銀行=資本を優先救済するために税金を投じた時点で、その和解は破綻したという理解。確かに、国家と資本の癒着が急速に進み、大衆からの収奪が苛烈になるのは、2000年以降である。議会制民主主義も国民国家も、一定の階級和解が前提となって成立しうるが、その和解が破綻している現状では、成立要件を欠き、システムが機能不全に陥り、統治不全が進行する恐れが強い。そもそも議会制民主主義は、19世紀の産業革命を前提とし、一国の工業化を実現する上で、労資間の階級和解が必要(合理的)だという認識に基づいていて成立したものであり、近代化と資本主義が終焉を迎える21世紀に通用する合理的理由は無い。

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『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』 水野和夫 集英社(2017)
『資本主義の終焉と歴史の危機』 水野和夫 集英社(2014)

水野和夫先生の小論を集めたもので、水野ファン的には真新しさは無いものの、「資本主義の終焉」「近代の終焉」「国民国家の終焉」というキーワードを考える上で欠かせない要素を全て提示してくれている。成長型経済から定常型経済への転換という視点なくしては、今後の世界は語れない。

『立憲君主制の現在: 日本人は「象徴天皇」を維持できるか』 君塚直隆 新潮社(2018)
イギリス王政の研究家である著者による、世界各国の君主制度の現状を網羅した珍しい一冊。立憲君主制を採用している国が多い欧州諸国の場合、王族がデモクラシーの原理を尊重しつつ、政治に直接触れることなく、国際親善と国内の階級和解に精力的に活動することで、市民からの信頼と階級和解の象徴となって、体制の安定に寄与しているという。だが、既存の立憲君主制が「安定的」に見えるのは、一定の経済的繁栄とそれに基づく国民福祉が充実しているからであって、立憲君主制が体制安定に積極的に寄与しているという著者の見解は、いささかマッチポンプの嫌いがある。今後、急速に貧困化が進むであろう日本と欧州にあって、君主制が階級和解の象徴となり得るのか、その辺をもっと考察すべきだろう。

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『東部戦線の独空軍』 リチャード・ムラー 朝日ソノラマ(1995)
なかなかの名著。アメリカの比較軍事史研究者による博士論文の解題であるだけに、それなりの基礎知識が必要ではあるものの、非常に深い内容で戦争の本質を追究している。表題の通り、独ソ戦におけるドイツ空軍の盛衰に焦点を当てている。英本土航空戦で消耗し、限られた航空戦力をもってどの任務を優先するのか、ソ連政府を屈服させるために最も効率的な航空運用は何かという空軍内部の議論が検証されており、興味深い。1942年以降は、想定外の長期戦と総力戦の中で、ソ連空軍も強化され、独空軍は損耗を増やし、戦略の再構築が求められる。デミヤンスク包囲戦における空中補給作戦では第8航空軍団が265機の損失を被るものの、作戦全体では「成功」と見なされ、スターリングラード・ポケットにおける空中補給につながって行く経緯も参考になる。原書にはあるはずの参考文献がついてないのが惜しすぎる。

『中国化する日本』 與那覇潤 文春文庫(2014)
一時期話題になった一冊。中国化とは、権力の一元化と経済分野の放任主義を指すキーワードで、これに対するのが分権化と経済社会の固定化を指す「江戸時代化」という認識。指摘は興味深いところもあるが、中国論で言えば足立啓二先生の『専制国家史論』を読むべきだ。日本社会論としては、奇をてらいすぎなのと、自己顕示欲が前面に出すぎて、評論文としては全く水準に達していない。

『国体論―菊と星条旗』 白井聡 集英社新書(2018)
既出。
posted by ケン at 13:21| Comment(0) | 学問、文学、教育 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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