2018年12月07日

現代フランスで黄巾党が蜂起? 上

【仏抗議デモ全土拡大、マクロン政権最大の危機に】
 フランス全土に燃料税引き上げへの抗議デモが広がり、エマニュエル・マクロン大統領は就任以来、最大の危機に直面している。警察当局によると、ここ数十年で最悪規模の被害をもたらした1日の首都パリのデモでは412人が拘束され、現在も363人が勾留されている。
マクロン氏は地球温暖化対策であるとして燃料税引き上げを撤回する考えがないことを強調している一方、抗議デモが地方都市や郊外を中心に広がったことから、3日になって政府は妥協策提案の可能性を示唆。エドゥアール・フィリップ首相は閣僚や主要野党の党首らと会談し、対策を協議した。マクロン氏は2017年5月、雇用創出目的の企業投資の促進を柱とした財界寄りの政策を訴え大統領に就任。その後すぐに起業家や高所得者向けの減税を推し進めた。燃料価格の上昇に対する抗議デモ「黄色いベスト」運動の参加者は来年1月に予定されている燃料税引き上げの延期だけでなく、多くが最低賃金や年金の引き上げも求めている。
また、3日には抗議はフランス全土の学校100校あまりに波及。生徒たちが学校を封鎖するなどして大学の入試制度改革に抗議した。抗議運動をめぐっては年末の書き入れ時に買い物客の足が遠のく可能性もあると実業界から懸念の声が上がっているほか、ブリュノ・ルメール(Bruno Le Maire)経済・財務相によると抗議デモが始まって以降、ホテルの予約率は15〜20%ほど落ち込んでいる。
一方、抗議デモを支持してきた極右政党「国民連合(RN)」のマリーヌ・ルペン(Marine Le Pen)党首はツイッター(Twitter)で、フィリップ首相との会談で「マクロン氏が選択した戦略としての対立に終止符を打つ」よう求めたと投稿した。一連のデモでは一部の参加者が暴徒化し、警察隊を襲撃したり車に火を付けたりするなどしたため非常事態が宣言される可能性も出たが、内務省のローラン・ヌニェス(Laurent Nunez)副大臣は3日、現時点でその考えはないと明らかにした。
フランスでは過去、大規模な抗議デモによって政権が政策の転換に追い込まれるという事態が繰り返されてきたが、ルメール経済相は低所得世帯を中心とする消費低迷の解決策について欧州でも高水準にあるフランスの税率を早急に引き下げることだとした一方、「そのためには公共支出の削減が急務だ」と強調した。
(12月4日、AFP)

まさか2千年の時を経て現代フランスで「黄巾の乱」が発生するとは驚きである。本ブログの読者には説明不要とは思うが、簡単に説明すると、中国のいわゆる「三国志」の発端となる事件で、西暦184年春、新興宗教とも言える太平道を奉じた農民が蜂起、華中全域に拡大し、その軍勢は数万人に上り、その鎮圧には半年以上かかってしまう。これにより後漢王朝の衰退が明白となり、群雄割拠時代の幕開けを飾った。曹操や劉備の初陣も黄巾征伐だとされる。黄巾と呼ばれる黄色い頭巾を被っていたことから、この名称がついている。
「蒼天已死 黄天當立 歳在甲子 天下大吉」(『後漢書』71巻 皇甫嵩朱儁列傳 第61 皇甫嵩伝)
蒼天すでに死す、黄天まさに立つべし。
歳は甲子に在りて、天下大吉。

フランスの国旗である三色旗は青白赤であるが、それぞれ「自由、平等、博愛」を指すと言われているが、これは伝説の類いで、現実にはパリの紋章だった青と赤にブルボン朝の白百合を組み合わせたものだった。いずれにせよ、青はブルーカラーの勤労を表すこともあり、「蒼天已死」は自由と勤労の死を象徴すると考えても不自然なところは無いだろう。そして、三色旗にはない「黄」が掲げられたことも「黄天當立」を象徴している。意外なほど無理筋では無いのだ。

ケン先生は一年以上前にこの危険性を指摘しているので、まずは確認していただきたい。
マクロン氏の新自由主義路線は、さらなる移民や外国人労働者を呼び込んで、国内の労働条件を悪化させ、経済格差や地方の疲弊を加速させる可能性が高く、同時にフランスのドイツ従属(欧州銀行への従属)を強める結果にしかならず、「反EU」「排外主義」「保護貿易」支持層を増やすのは間違いない。EUというのは、域内での経済的自由を保障する一方で、地域の経済的自立を保障せず、かといって日本の地方交付金のような域内の格差を是正するシステムも無いだけに、圧倒的に「強い者が勝つ」システムで、敗者を救済する術を持たない。
オランド政権下で実施された富裕税も、同じ社会党政権下でマクロン氏らの主導によって廃止してしまっており、所得再分配機能も大きく低下している。また、マクロン氏はシリアに対する武力介入を支持、ロシアに対する制裁強化を主張するなど、対外タカ派(介入主義)でもあり、この点でも国内対立を促進させる恐れがある。
マクロン氏の「自由」に特化したリベラリズムは、地域コミュニティや国民統合を破壊する方向に働く可能性が高く、今後フランス国内は混沌化が進むものと見られる。
マクロン節はどこまで通じるか、2017/09/26)

マクロン氏は社会党出身ながら今回は単独で立候補しているが、その掲げる政策は専ら新自由主義で、EUの中で民営化と規制緩和を進めることで経済成長を実現するとしている。優遇されている公務員を始め、既得権益層が大きいフランスで、民営化と規制緩和を行えば、激しい抵抗が起こると見られ、国内の不穏がますます高まるだろう。仮に若干の経済成長が実現できたとしても、ドイツとの競争に勝てない限り、国民の不満は高まる一方かもしれない。
そして、親EUと新自由主義路線は経済格差をさらに拡大するため、国内における排外主義を助長し、脱EU論者をさらに増やすものと見られる。今回はマクロン氏が勝つとしても、その施策は近い将来、国民戦線を大きく飛躍させることになるだろう。基本的には、サルコジとオランド路線の焼き直しに過ぎず、反ロシア・反アサド・対外積極策という点でも、従来の政策に懐疑的な層を説得できる可能性は低い。
(2017フランス大統領選1次投票、2017/04/26)

マクロン大統領の就任直後には7割前後あった支持率がいまや3割を切るに至り、逆に今回の「黄巾の乱」を支持する市民が7割に上っていることは、2009年の民主党政権成立前後の事情とよく似ており、議会制民主主義の機能不全を象徴する事態となっている。
なぜこうしたことが起こるのか。まず選挙制度の問題から見てみよう。

そもそも2017年春のフランス大統領選、その第一次投票においてマクロン氏の得票は24%に過ぎず、同19〜24%の中に主要四候補が収まるという大分裂に終わった。そして、決選投票で国民戦線のルペン候補と一騎打ちになったため、当選できただけのことだった。
この第一回投票の投票率は78%、つまりマクロン氏に投票した市民は全体の約18%に過ぎないことを意味している。

また、同じく同年6月に行われた国民議会選挙では、マクロン氏を支持する新党「共和国前進」が全議席の6割を超える308議席を獲得したが、第一次投票の得票率は28%に過ぎず、しかも投票率は5割を切る有様だった。つまり、全投票者のうち「前進」に投票したのはわずか13%でしかなかった。が、結果的に、フランス式の決選投票で大勝しただけの話で、第二次投票の投票率は42%にまで低下している。
国民議会選挙の第一次投票で、13%を得票した国民戦線(右派)はわずか8議席、同11%の「不服従のフランス」(左派)は17議席を獲得したに過ぎない。この二党だけで投票者の約2割が「民意を示したのに議会に反映されなかった」わけだ。

今日、議会制民主主義という言葉が一人歩きしてしまって、不可分のもののように考えられてしまっているが、本来的には議会主義と民主主義は別個の存在であることを再認識する必要がある。

まず議会制度は、もともと王権=行政権に対するチェック機能から始まった。国王による際限なき課税や法律の施行を抑止するために、立法権の分離を図ると同時に、議会で作られた法律が適正に運用されているかをチェックすることが、近代議会の存在意義だった。つまり、権力分立を志向するリベラリズムの考え方である。そのため、本来的には「エリート同士による相互監視と競争」が求められる。

これに対して、民主主義は政治に民意を最大限反映させることを至上とする考え方でしかない。そこに求められるのは、「大衆意思の最大的反映」である。

従って、議会制度ができた当初は、貴族やブルジョワジーなど社会的エリート層しか参加できなかった。しかし、産業革命を経て総力戦の時代を迎えるにつれて、労働力や戦力の広範な動員が不可欠となり、国民の不満を抑えるためにその対価として政治参加=選挙権が認められていった。
つまり、歴史的経緯を見た場合、議会制民主主義という名称は必ずしも妥当では無く、「民主主義的要素を加味した議会制度」という方が妥当なのだ。
以下続く
posted by ケン at 16:34| Comment(0) | ロシア、中国、国際関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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