2019年01月23日

日露平和条約は千載一遇の好機

ここに来て反露勢力が盛り上がっているようだ。
いわく「ロシアには2島も譲るつもりはない」「いま占領しているロシア側に妥協する理由はない」「安倍はプーチンに良いように騙されている」などといったもの。

この手の話は日露戦争前の交渉でも散々叫ばれ、結果、現実に戦争に突入してしまった。
あの時は、「ロシアが朝鮮半島を譲るわけがない」「ロシアは日本を騙そうと交渉を先延ばしにしている」「いま戦争しなければ、勝てなくなる」といったことが言われた。
だが、ソ連側の資料が公開された現在では、どれも該当しないことが分かっている。ロシア側は韓国利権を全て放棄するつもりだったし、交渉が先延ばしになっていたのはロシア側の優先度が低かったからだし、後付だが遠からずして欧州大戦が起こっていたことも分かっている。少なくとも1904年の段階で、日本が無理する必要はどこにもなかったのだ。

まぁそれは良い。では現在はどうだろうか。
確かに日露関係のみを考えれば、2島を抑えているロシアに譲歩する理由は見当たらない。
だが、マップ全体を見てみれば、ロシアは容易ならざる環境にある。
敵愾心むき出しのEUとはいつ加熱してもおかしくないし、ウクライナ紛争が再発恐れもある。カフカスとて安全ではない。ロシアの優先順位は常に欧州が第一で、次にカフカスだ。
そして、現在のところ中国とは同盟に近い関係にあるものの、世界第二位の経済力と第一位の人口を有し、軍事力も急速に強化されつつある。今でこそ中国の目は、アメリカと東南海に向いているものの、いつシベリアに向けられるかわかったものではない。ロシアにとって潜在的脅威としては中国が第一等なのだ。

これらに比して日本とロシアは殆ど利害関係が対立しない。
欧州やカフカスに火種を抱え、潜在的に信用できない中国が超大国になりつつある中で、落ちぶれたりとは言え「強国」の一つである日本と平和条約すらなく、しかも領土紛争を抱えている状態が望ましい訳がない。
日本人は停滞と失墜に我を忘れてしまっているが、今のところは世界第三位の経済力と第七位の軍事力を有する大国なのだ。その「大国」の潜在的脅威を小さな島2つ(歯舞は群島だが)で解消することができるのであれば、明らかに安い買い物である。ゲーマー的に表現するなら「クズカード一枚」捨てるだけで済む話なのだ。

ところが、日本側の国内事情の問題から、安倍政権でしか妥結しそうになく、同時にロシア国内を治められるのもプーチン大統領がいるからこそであり、これは日露両国にとって千載一遇の好機なのだ。
ロシア側としては「どうせなら高く売りつけてやれ」と思っているかもしれないが、利害は一致しており、交渉が失敗して困るのはどちらも同じなのだから、本質的には成功率が高い交渉と言える。
今回の平和条約交渉は、ポーツマス交渉やノモンハン処理に比べれば、はるかに難易度は低い。ただ、外務省がことごとく妨害しているから進まないだけの話なのだろう。

どうも軍事の専門家というのは政治の話をさせるとまるっきりダメな感じだ。

もう一点はリベラル勢力から「容易に武力行使する国と平和条約とかありえない」という声が上がっている。
グルジア(ジョージア)やウクライナを念頭に置いたものだろうが、まずグルジアについてはロシアが侵攻したわけではなく、反撃しただけだ。ウクライナについては、ソ連期あるいはソ連崩壊時の国境線処理の不具合によるもので、局地紛争の延長にあるもの。ソフィン戦争やバルト進駐と同列に扱うのは公平とは言えないだろう。
ソヴィエト・ロシア学徒として言えるのは、スターリン死後のソ連・ロシアによる武力行使は、一般的な日本人が想像するよりもはるかに慎重に行われている。

逆に考え方を逆転させてみても良い。「危険なロシア」だからこそ、平和条約でタガをはめておくべきであって、「危険なロシア」との間に「平和条約が存在しない」方がはるかに安全保障上の脅威になる。中露韓朝と対立するとなれば、日本はますます対米従属を強める他なく、それは米による覇権戦争に対するより強力な協力が求められる話になろう。せっかく建造した空母を、中東や地中海に回せと言われてしまうかもしれないが、それで良いのだろうか。

【追記】
22日の日露会談では具体的な成果はなかったものの、会談時間は3時間と非常に長く、両首脳が「双方が受け入れ可能な平和条約締結に向けて努力することを確認、2月中に外相間で交渉を行う」としたことは、少なくとも前進しつつある、あるいは平和条約締結に向けて十分な政治資源を投入することを意味する。確かに安心できる状況ではないが、否定するような要素もないということだ。ロシア外務省の威嚇的な言動は「いつものあれ」なので、冷静かつタフに対応することが必要。ロシア人との交渉は本当に疲れるのだ。
posted by ケン at 12:00| Comment(5) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
なるほど。一理あるなと思いましたが、同時にシリア内戦において露骨な介入を行ったり、イギリスにおいて元諜報員を毒殺したり、国内における反対派を弾圧したりと、かなり強権的かつ残酷な体制であると思います。ま、それがロシアなんだよ、と言われればそれまでですが。(笑)
結論として、平和条約を結ぶことの必要は先生の主張により理解できました。
勉強になりました。
Posted by 高橋良平 at 2019年01月23日 20:06
リベラルが安倍叩きと愛国ぶりたいために4島主張するのは頭痛がします。
敢えてのだめ押しヒール演技かもしれませんが。

道東が寂れる一方なのに国後択捉に意味あるのかと。
(まあ500年後はわかりませんが)
安倍とプーチンの組み合わせは100年に一度の好機なのに。

安倍首相は大嫌いですが、この日ロ交渉だけは適任です。
Posted by taka at 2019年01月24日 20:02
カトリック大国がプロテスタントと同盟したことが近代外交の始まりですから。

二島返還でまずは安全な漁業と経済交流促進ですよ。
Posted by ケン at 2019年01月24日 21:24
ここへきて、「2島もハードルが高い」な主張が散見されるようになったのは、「2島だけでもよくやった!」というふうに持っていくための地ならしと思えます。

今や韓国はほぼ北とチャイナに取り込まれてしまっているので(レーダー照射や徴用工問題で明白)、早急にロシアと仲良くする必要があるのは明白でしょう。

IWC脱退にしても、オージーとの唯一の火種である南極周辺(オージーは南極の領有を主張していて、当該海域は彼らには自国のEEZ)での捕鯨をやめるための方便と思えます。

安倍さんは、その辺の国際センスはあるように感じますね。
Posted by 取敢えず2島ですね at 2019年01月25日 20:51
できることからやろうということでしょうね。
Posted by ケン at 2019年01月27日 12:46
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