2019年04月12日

紙幣刷新をめぐるあれこれ

【渋沢栄一の新1万円札 韓国で批判的報道】
 新たな1万円札の肖像に日本経済の近代化に貢献した実業家の渋沢栄一が採用されたことについて、韓国メディアでは、「渋沢は、日本が戦前に朝鮮半島の経済を奪い取った象徴的な存在だ」などと批判的な報道が相次いでいる。
 5年後をメドに刷新される日本の紙幣のうち、1万円札の肖像に渋沢栄一が採用されたことを受け、韓国・聯合ニュースは「渋沢は日本が戦前に朝鮮半島の経済を奪い取った象徴的な存在だ」と伝えた。報道では、渋沢が設立した銀行が1900年代のはじめ、朝鮮半島で日本の軍事的な圧力を背景に渋沢の肖像が描かれた紙幣を流通させ、「恥をかかせた」と指摘している。
 また、保守系の大手紙・朝鮮日報は「過去の歴史を否定する安倍政権の基調が反映されたとの解釈もある」とした上で、「日韓の摩擦を激化させるとの見方も出ている」と伝えている。
(4月10日、日本テレビ系)

新帝即位に合わせて様々なプロパガンダが仕組まれている。世界各国で階級対立や民族対立などが先鋭化する中で、デモクラシーの伝統がない国では政治的求心力と国民統合を維持するために権威主義化が進んでいる。日本もその一つである。
今回の紙幣刷新もその流れの中にあるわけだが、どうにもセンスが悪いし、発想が古すぎる。
まず韓国や北朝鮮の国民感情に油を注ぐような選択肢を故意に選んでいることだ。財務官僚や日銀官僚が「知りませんでした」では済まされず、政治統制を担う自民党の意向も踏まえて、「敢えて渋沢を選んだ」と考えるべきだろう。逆をいえば、「渋沢でなければならない」理由はなく、この点でも恣意性しか感じられない。ただでさえ日韓関係が史上最悪と呼べるまでに悪化しつつある中で、敢えて火に油を注ぐ理由が分からない。一体誰が得するのだろうか。

国内的にも、渋沢は日本初の労働者保護法であった「工場法」の制定に反対した急先鋒であり、その主張は「工場法なんぞ制定されたらオレたち経営なんてできない!」というものだった。同法は小工場は適用除外だった上、今読むとスカスカな内容に思われる代物だが、そんな法律にも徹頭徹尾反対した悪徳ブルジョワの典型だった。つまり、渋沢は階級弾圧の急先鋒だったわけで、戦後日本が志向した「階級和解体制」の象徴としては最も不適当なものであることを意味している。論を一歩進めるなら、この渋沢を日本銀行券の象徴に据えることは、階級和解の破棄を内外に示す意図があると見なすべきなのだ。
にもかかわらず、NK党や社民党からそうした批判が出てこないのは、連中もまた階級意識を喪失していることを意味しており、戦後和解体制に取り込まれて階級政党あるいは階級代表としての役割を忘れ果てていることを示している。

現行の福沢諭吉もまた「侵略主義者の側面」を持っていたことは確かだが、同時に「アジア革命の支援者」としての側面も持っており、何よりも基本的には教育者であったことから、まだ「議論の対象」で済まされたわけだが、渋沢については議論の余地はない。
一部では渋沢の「道徳経済合一論」を支持する向きもあるが、これはこれで現代日本のブラック企業に蔓延する「家族型経営」などの論拠になっており、安易に評価すべきではない。

こうした「近代の偉人」を銀行券のデザインに据えることは、どうしても政治的問題と切り離せない。それだけに、時の権力者(政権党や官僚)の主観が入りやすく、国民的評価が分かれやすい人物は、国民統合の維持という観点から除外すべきだ。
個人的には、どなたかが主張しておられたが、世界的英雄である三船敏郎や高倉健などではダメなのだろうか。三船敏郎にすれば、世界中のファンが収集してくれるだろう。なんと言ってもカッコイイことが肝心である。
歴史人物も悪くはないのだが、聖徳太子は存在自体が否定される始末だし、足利尊氏の肖像画も否定されてしまって、現在では採用が難しくなっている。

さて、もう一点は「今さら紙幣かよ?」というものである。
中国で現金を使わない生活を送っているケン先生からすると、今さら紙幣にこだわる日本の統治者の頭の古さに疑いを覚える。日本政府が進めるべきは、非現金決済の導入加速であり、その方がはるかに効率的だ。
この話を始めると、また長くなってしまいそうなので今回は止めておくが、紙幣に固執する財務省、日銀の旧弊こそ、日本の衰退と時代不適合を示すものとなっている。

そういえば、私が「インフレ進めたいなら、まず五万円券や十万円券を導入して、一円玉を廃止すべきでは」と提案して、若い財務官僚に鼻で笑われたのはもう十年以上前になる。何というか、どこまでも愚かな連中である。

【追記、04/13】
ある方が教えてくれたが、2000年代のある時期に財務省内で10万円札の発行がひそかに検討されたことがあったとのこと。つまり、私の見立てはそう外してはいなかったのであって、改めて高慢ちきなヤクニンどもに対する憎悪がわいてきてしまう。
posted by ケン at 00:00| Comment(11) | 財政、社会保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
よほど日本は経済進展に困窮していると言う事ですね、ことさら他国に因縁つけるんですから
Posted by 石田博 at 2019年04月12日 00:23
出回ってるデザイン案があんまりにダサすぎるわで、元号といいせめて現状維持にしてくれと……

無難な歴史上の人物だと、徳川家康とかですかね。少なくとも明治以後の人物はアウト。
Posted by スパルヴィエロ大公 at 2019年04月12日 08:19
三船敏郎さん高倉健さんは大いに賛成です

厚顔を通り越して安倍麻生二階と考えたら平和ですね
Posted by 石田博 at 2019年04月12日 12:47
そもそも何故5年前から発表するのか分かりません
近いうちに現行日銀券が紙屑にでもなる恐れを考慮してですかねw?
Posted by ひろぽん at 2019年04月12日 13:08
新聞報道によると、軍人や政治家以外で鮮明な写真が残っている人となると、あまり選ぶ余地もないんだそうですが、ならばいっそ建築物でもいいのにね、と思います。
偽造防止技術は進んでいるし、ユーロだって、何より2000円札だってそれでやってるわけなので。
政治的になってしまう建築物もありますが、東京タワーぐらいなら戦後の建築物でも問題ないでしょう。
Posted by am43 at 2019年04月12日 18:40
津田梅子さんにもこんな話が出ているらしく・・・
ttps://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/251644/3
Posted by Read only Member at 2019年04月12日 18:45
結局のところ皆が納得できる人物って非常に限られてしまうと思います。徳川家康だって、豊臣・石田などの子孫は納得できるか微妙かもしれません。わが一族ですら、三河一揆に加わったという理由だけでずっと御家人だったわけですから、「国を思えば仕方ないか」くらいの納得度です(笑)

私の気持ち的には、原節子、三船敏郎、高倉健か高峰秀子というところですが、個人的には夏目雅子推しであります!

先に新券発行を宣言するのは、実際にそれくらいの準備期間が必要なのと、偽造者に対する牽制ですね。まぁ今回は新帝即位と政権浮揚の意図もあるでしょうが。

EUのお札は確かに建物なんですが、やはり味気ないように思えます。日本でも片面は景色や建物、美術だったりしますが、やはり印象深いのは人物だと思います。日本のお札や硬貨に描かれた人物以外の像を全て言える人は殆ど居ないでしょう。
政治的中立性を重視するなら、イスラム諸国のように唐草模様などの抽象意匠のみになってしまうかもしれませんが、どうなんでしょうねぇ。

津田梅子も凄まじいネトウヨぶりでしたね。連中に言わせるなら、あれも「日本の伝統」なんでしょうか。
やはり分かってやっているとしか思えませんね。
Posted by ケン at 2019年04月13日 10:32
> 結局のところ皆が納得できる人物って非常に限られてしまうと思います。

肖像選びに関してはこれが総括と思います。
一般論で言っても物事には功罪清濁が併存しがちで議論が起きない対象というのもなかなか無さそう。
政治経済分野となればなおさらでしょう。
そういう意味では作家や科学者なんかだと比較的評価や価値を共有しやすい気がします。
アイコンとしては仰る映画俳優なんか良いと思いますがコンテンポラリーすぎると権益の整理がつきにくいかもしれんですね。

それより紙幣刷新の話自体に何とも言えぬ今更感を覚えます。あと、デザインがどうも。。。

Posted by mashimo at 2019年04月16日 18:35
ヨーロッパでは作家や科学者にしていたようですが、欧州連合になってそれも難しくなって今に至っています。そうこうしているうちに紙幣なんてもの自体がなくなってしまいそうな勢いにあり、日本の議論はいかにも周回遅れなイメージばかりです。
デザインも同じで、変に「わかりやすさ」に固執した結果、アレな感じになってしまったのでしょう。
俳優はお札になれば、それ以上の宣伝は無いと思いますけどね。
Posted by ケン at 2019年04月17日 19:14
> 俳優はお札になれば、それ以上の宣伝は無いと思いますけどね。

宣伝効果が絶大過ぎて関係者や関連業界が得をし過ぎるのではと想像します。モノが日本銀行券であれば配慮は要りそう。肖像がすでに一般常識や歴史の領分になっているかがポイントかと思いますが境界線はピンと来ず、議論は出そう。ビートルズかストーンズだったか郵便切手発行の際にも英国で類似の議論が有ったと聞いたことが有ります。結局限定発行されてるんでそれなりの整理はついたのでしょうが。

個人的には高倉健さんなんか大賛成なんですけどね。
Posted by mashimo at 2019年04月18日 12:27
確かに権利関係は面倒そうですね。
しかし、人物はやめて、建築物というのも味気なく、仏像などの国宝は今度は宗教分離問題が出てくるし、やっぱ紙幣自体もうダメかもしれません(笑)
Posted by ケン at 2019年04月19日 21:20
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