2019年05月21日

丸山某は議会から追放すべきか?

【野党6党派、丸山氏辞職勧告案を提出=自民は採決に慎重】
 立憲民主党や日本維新の会など野党6党派は17日、戦争による北方領土奪還に言及した丸山穂高衆院議員に対する辞職勧告決議案を衆院に共同提出した。
 野党は速やかな採決を目指す。これに対し、提出に加わらなかった自民党は、党内協議が必要だとして当面は採決に慎重な立場だ。公明党と週明けに対応を協議する。
 辞職勧告案を提出したのは立憲、維新のほか、国民民主、共産、社民各党と衆院会派「社会保障を立て直す国民会議」。決議案は丸山氏の言動を「論外」と厳しく批判。「国会全体の権威と品位を著しく汚した。議員の職を辞するべきだ」と記した。
 衆院議院運営委員会の野党筆頭理事を務める立憲の手塚仁雄氏は17日、自民党の菅原一秀与党筆頭理事と国会内で協議。共同提出に与党も加わるよう要請したが、決議案の表題などで折り合わず、野党が提出に踏み切った。 
(5月17日、時事通信)

何でもかんでも政争の具にしようとするのは望ましくない。
いくら野党の支持率が低位推移しているからと言って、ブーメランになりかねない手法である。

思い出されるのは、齋藤隆夫の除名事件である。
1940年3月7日の衆議院本会議では、民政党の代議士である齋藤隆夫を除名処分にする採決が行われた。
その理由は、同年2月2日の本会議で齋藤が行った、いわゆる「反軍演説」に対する懲罰であった。
今でこそ「反軍演説」などと聞くと、「どんだけ?」と思うだろうが、実際にその議事録を読んでみると、ごく普通の、当然の質問であって、反軍的内容など指摘する方が難しい。
要は、「国は支那事変をどう解決するつもりなのか」「東亜新秩序とは具体的にどんなものなのか」「世界戦争の危機に対してどう対処する所存か」「汪兆銘政権への対応は?」といった類いである。
そして、もっとも非難されたのは「中国と戦争やって、日本も何万もの兵が傷ついているってのに、戦争目的が大東亜新秩序の建設って何デスか?領土も賠償も取らないなんて、国民は納得しないッスよ!」という点だった。
さらには、実際の本会議場では普通に拍手が鳴り響き、終了後も齋藤の下に激励の手紙や電報が続々と届いたという。

にもかかわらず、齋藤の演説は「反軍的」となり、軍部批判=国家批判と判断されて、懲罰動議が出されることになった。
投票総数447票のうち、賛成296、棄権・欠席144、反対7という、圧倒的な数での除名決議となった。
なお、齋藤の所属する民政党は党議拘束をかけて賛成を強要し、反対者はたったの1人(岡崎久次郎)に過ぎなかった。
社会大衆党も同調したものの、34名中、安部党首や片山哲を含む10人が棄権することになり、うち8名を除名処分にした。浅沼稲次郎、河上丈太郎は賛成している。

つまり、戦時中は戦争指導を疑問視した者を追放し、いまは開戦を主張する者を除名しようというのである。
だが、代議制民主主義はあくまでも主権者の主権と意思を国政に反映すべく、その代理人として議員を選出するシステムであり、開戦論を主張する丸山某もまた、大阪の一部における相対多数の有権者の意思を反映しているだけに過ぎない。これを「開戦論を唱えた」と言って議会から除名するのは、大阪19区の有権者の主権を否定、阻害することになる。

これは「憲法に反した発言」も同様で、国会議員が反憲法的な意見を述べただけで除名されていては、憲法改正など秘密会でしか審議できなくなってしまう。だからこそ、立法の一員である国会議員の身分は特別に保証されているのだ。平和憲法を神聖視する者は、自由主義の原理に反している。
そこは、大臣など行政府側の人間による発言とは区別して考えるべきであろう。大臣や官僚が、憲法遵守義務を負うのは、主権者の意思を反映した議会で制定された法律を、施行者が恣意的に解釈して勝手に運用することを戒めるためである。

丸山某が大阪の民意を代弁する者としてふさわしいかどうかは、あくまでも彼の地の有権者が判断すべきことであり、他地域の主権代行者に過ぎないものが勝手に云々するのは戒めるべきである。
もっとも、逆を言えば、大阪19区の有権者の多数は「北方領土を武力で奪還すべき」と宣言したものを主権代行者として三度選出し、議会で主張させていたことを、重々承知すべきだろう。

日本では、総理大臣が防衛出動(武力行使)を発動する場合、「事前に国会の承認を得るいとまが無い場合」を除いて、事態対処法9条に基づき国会の承認を得なければならないことになっている。
仮に時の総理大臣が「北海道の一部を占領し続けているロシア軍」に対して防衛出動を命じたとしても、事前の承認が必要になる。
もし時の議会が衆参ともに過半数をもって支持するのであれば、「そこはそれ」でしかない。議会制民主主義とはそういうものだからだ。
それすらも納得できないとなれば、やはり現行憲法を厳密に解釈して非武装路線を貫くべきであろう。

【追記】
そもそも論で言えば、「択捉、国後は日本の領土である」などという話は、イギリス人が「フランスは我々の領土である」と言うのと同様(少なくとも16〜17世紀までは言われていた)、愚かにも程がある話でしか無い。だが、それが日本の有権者の一般認識であり、本当に統治形態として代議制民主主義が適切なのか疑われるところではある。
posted by ケン at 12:00| Comment(8) | 憲法、政治思想、理念 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 どうも、ケン先生。
だから、国会議員は「国民の代表」じゃなくて
「おらが村の代表」なんですよ。
全国一区にでもしない限り、「地域の利権代表」に
留まるわけです。
あーっ、選挙制度が憎い。
「丸山辞めろ」と言うのは簡単ですが、「議論」を
吹っ掛けると相手の土俵に乗ってしまう訳で・・。
「おしゃべり」に関しては丸山氏の方が上ですからね。
あーっ、腹が立つ。

Posted by ムラッチー at 2019年05月21日 13:02
ここまで来るとぞろ揚げ足取りと変わらないですね。
Posted by mashimo at 2019年05月22日 08:47
途中送信しちゃいました。
本件は失言の類かも知れませんが異論に議論で返さず排除というのがありがちなパターンにて萎える気分です。
Posted by mashimo at 2019年05月22日 08:54
例えば与党が野党議員相手に使うことを考えると非常に悩ましいですが…、
ドイツ議会でユダヤ人とジプシーは追放とか、税金勿体ないから障害者は断種すべきとか言えば、これは議会追放ものでしょう。まあ刑法犯になりそうですが。

日本の場合は、先制武力行使がそれに当たると解しうるのでは。敵国条項を正面から踏みに行ってますし。
先制武力行使となれば、敵味方に死人が出る訳で、交戦権放棄した我が国では外国人の殺害主張と同視できます。
政策議論として許容範囲と見るか、国会議員として備えるべき識見を欠く犯罪慫慂、人道違反主張と見るか。

あと、斎藤隆夫議員と異なり、発言謝罪して撤回してますよね。
謝罪したから良いとみるか、自分でも不適切と自認してるのだから処分しうると見るか。謝罪したのを捉えてさらに処分するのは酷ですが、世の中ありがち。
Posted by taka at 2019年05月22日 12:27
あれは「ためにする」もしくは「自己顕示」のための主張ですから、そもそも取り上げない、無視するのが正解です。
ムラッチーさんがおっしゃる通り、地域代表であるがために、ごく一部地域で強く支持されれば、どんな者でも当選してしまうところは難点の一つで、だからこそどんな腐敗議員でも地域に利権さえ還元していれば、再選される仕組みになっています。

ドイツ連邦議会の規則はわかりませんが、アメリカ連邦議会には除名既定がある一方、英国議会は議員の身分保障が強いようで、一概には言えなさそうです。
ドイツの場合は、憲法裁判所が処断するのかもしれませんが、議員の自由権をどこまで保障するかという問題は避けて通れないでしょう。

同様のことは、リベラル派の論調だと、例えば私が国会議員になって、「天皇制なんて廃止した方がいい」とポロッと言ってしまった場合、除名もしくは辞任勧告ということになるわけですが、少なくとも私は許容できませんね。辞任もしませんよ。
Posted by ケン at 2019年05月22日 19:24
> あれは「ためにする」もしくは「自己顕示」のための主張ですから、そもそも取り上げない、無視するのが正解です。

このご指摘にハッとし腹落ちしました。本件を大問題扱いする報道に釣られそのそもそもの認識に至っておりませんでしたね。
Posted by mashimo at 2019年05月22日 22:35
天皇制廃止は、現行憲法の、天皇制との調停・休戦の趣旨に反しますが、
誰も死なない国内の政治問題ですので、憲法がその議論を禁じるとは考えられません。
それに、現行憲法は天皇制の無力化無害化による自然消滅を狙ってると読めば、廃止主張はむしろ趣旨にそうかも。

そこは本筋じゃなくて、じゃあ中国に倣って金盾で検閲しようぜ主張はどうかですが…基本的人権の侵害主張ですが、議会追放には当たらないかも。
やはり国内問題で。
女性の参政権剥奪主張はどうか……これは境界事例かなあ……。国内問題だからどっちでも良いですが。

本件丸山をたとえると…
銀英伝6〜7巻の自由惑星同盟で、帝国軍とレネンカンプを追い出すために、軍拡してヤン現役復帰で奇襲攻撃しようぜと同盟議員が公然発言したら…ですかね。

同盟議会が民主主義と国会の自由な議論の価値を守って放置すれば、レネンカンプに「帝国への奇襲を公然議論するとは条約違反」として軍事介入の口実を与えかねない。
同盟議会がびびって民主主義の理念を放棄して議員を追放すれば、カイザーラインハルトに「民主主義とやらの理念を放棄した同盟政府に統治能力なし」とかなんとか軽侮されて、
やはり完全占領軍への道を開くかも。

どっちにしてもアカンやん!
国会議員にしたとこで詰んでた。。。
Posted by taka at 2019年05月23日 11:02
リベラル派の主張は、憲法99条に依拠していますから、厳密に解釈すると、天皇制の否定は憲法違反になるんですね。彼らの主張をそのまま認めると、改憲論議事態禁止になってしまいます。
また、どこまでがOKで、どこからがダメなのかについて、誰がどう判断するのかという問題があります。

国会議員に特別な身分保障が付与されているのは自由な議論を担保するためであり、逆にそれ故に行政権は付与されていないわけです。
そこを間違うと、「お前の発言は気に入らんから除名」「不敬罪で除名」という事態に発展しかねません。

デモクラシーにおける失政の責任は主権者、つまり国民全員が負うべきものであり、「丸山某を選んだ責任」から目をそらすことは許されないと考えます。
Posted by ケン at 2019年05月24日 18:25
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