2019年05月25日

最近の読書傾向から(2019-03, 04)

『日本統治下の朝鮮 - 統計と実証研究は何を語るか』 木村光彦 中公新書(2018)
1910年から45年までの日本による朝鮮統治を経済面に絞って研究したもの。統治期間中、農業生産性は毎年2%近く成長し続け、鉱工業に至っては年10%に及んだ。食生活や公衆衛生も大幅に改善されたという。言うなれば、明治維新以降、本土内で行われた殖産興業をさらに急速に行ったということだろう。工業化に一定の目途がついてきたところで戦争が起きて、(日本人的に)全て失われたことになった。ただ、朝鮮統治のための日本政府の財政負担は非常に低く見ているが(1935−39年で一般会計歳出総額の0.4%)、実際には各種補助金の大半は日本政府の持ち出し、外債の殆どは本土内で買われ、総督府の赤字も確か朝鮮銀行、さらに日本銀行からの補填になっていたはずで、少し単純化し過ぎているように見える。いずれにしても、「元を取る」にはまだまだ程遠い道のりにあったわけで、日本に植民地の資源を自力開発すること自体、相当に無理筋であったことが分かるわけだが、普通の人が読んだら「日本すげぇ〜」に終わってしまいそうな話だった。

『シフト 』 マシュー・バロウズ ダイヤモンド社(2015)
著者は米国大統領のために中・長期的予測を行う諮問機関である国家情報会議(NIC)に勤務し、15年先を予測する「グローバル・トレンド」を執筆、編集していた。NICを退任し、報告書として「書けなかった」部分を含めて、より自説に重きを置いて書き直したものになっている。いわゆる「未来予測」ものなのだが、さすがにアメリカの最高機関がやっていることなので、かなり参考になる。ケン先生は「グローバル・トレンド」を読んで、アメリカのアジア撤退が遠からず実現することを確信したわけだが、本書にも「もし、中国と衝突しても、アメリカが自動的に日本の味方をしてくれると、日本の指導者たちは誤解しているようだが。現実にはアメリカは自国の利益と中国の利益の間に折り合いをつけ、紛争は回避しようとする可能性が高い。アジア情勢の急速な変化と新しい国際秩序のなかで、どのような舵取りをしていくかは、日本の取り組みが遅れている領域であり、今後の大きな課題となるだろう」と書かれている。ただ、アメリカ人らしく、デモクラシーと自由貿易に対する盲信が貫かれており、「そこは全く疑わないんだ」と少し笑ってしまった。

『戦略的交渉入門』 田村次朗/隅田浩司 日本経済新聞出版社(2014)
ハーバード・ロースクールで研究されてきた「交渉学」を分かりやすく実用的に解説している。交渉とは「自分の利益の最大化を目指すゲーム」ではあるが、そこに感情や心理的バイアスが加わるため、予想外のことが発生しやすく、コントロールが難しい。しかし、理論と技術と準備を抑えておけば、相当部分はクリアできる。とかく交渉では「合意を得ること」を最優先する余り、つい妥協に傾きがちだが、「無理な合意」は結局のところ自分の利益を損ね、利害関係者(組織内)への説明がつかなく、合意自体も長続きしないという。例えば、相手の手口を「これはアンカリングだから、その話にはのらないで、話題を変えよう」と思えるだけで、交渉はかなり有利に進められる。交渉ごとは、大小はあれど、人生に欠かせない要素であるだけに、基礎知識として抑えておきたい項目が多い。

『6つのケースで読み解く 日米間の産業軋轢と通商交渉の歴史: 商品・産業摩擦から構造協議、そして広域経済圏域内の共通ルール設定競争へ 』 鷲尾友春 関西学院大学出版会 (2014)
上司に当たる教授から「大学の紀要に日米通商交渉の経緯と仕組みについて教科書的に書いて欲しい」と言われ、「へっ?自分がですか?」と変な声で返事してしまった。確かに私の肩書きは「日本経済研究員」ではあるのだが。そんなわけで、今期中色々読んでいるうちの一冊。日米間の産業軋轢と両国間の通商交渉の歴史を、繊維・鉄鋼・自動車・半導体・構造問題協議からTPPまで6つのケースで読み解く。アメリカがいかに国内の有権者の民意を受けて保護貿易を主張し、イデオロギー上の建前を糊塗するために、日本に「輸出自粛」を強要してきたかがよく分かる。また、アメリカがパワープレイで他国に輸出制限を強いてきたことで、米国内の産業構造の転換を遅らせることにもつながり、長期低迷の原因にもなっていることが推測される。いや、やはり専門分野外の書を読むと、大変だが、新たな「気づき」が多くて面白い。
posted by ケン at 12:00| Comment(4) | 学問、文学、教育 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
いつも為になる記事有り難うございます。『日本統治下の朝鮮 - 統計と実証研究は何を語るか』は気になってました、読んでみます!
Posted by mashimo at 2019年05月30日 22:59
批判ありきの植民地研究でなく、かといって歴史修正主義でもないというのは意外と少ないので、勉強になると思います。
Posted by ケン at 2019年06月01日 12:44
>アメリカがパワープレイで他国に輸出制限を強いてきたことで、米国内の産業構造の転換を遅らせること

構造変化には自らの行動を変えなければ、次世代につけを回すことになり、本質的解決にはならないということでしょう。逃げ切り狙いの官僚達にはできないことですね。
Posted by ybtommy at 2019年06月06日 23:19
アメリカの場合は、むしろデモクラシーが機能し過ぎて、国内の産業界と労働組合の圧力が強く、大統領選や連邦議会選挙に利用された結果という気がします。

むしろ日本の中間団体が、抵抗運動や議員への陳情はよくやっても、選挙後に「応援してやったんだから、公約守れ!」という圧力を十分にかけてこなかったことが、日本では悲劇を生んでいると思います。
Posted by ケン at 2019年06月08日 11:11
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