2019年06月13日

日本より中国を選んだロシア

【平和条約「日米の軍事協力が難しくしている」露大統領、交渉長期化示唆】
 プーチン露大統領は6日、日露の平和条約交渉が進展していないことについて「かなりの部分において、日米の軍事協力が難しくしている」との認識を改めて示した。日露両国が平和条約を締結するためには、包括的な関係拡大が欠かせないと指摘。「『この問題を明日にも解決できる』と話せるものではない」と述べ、長期化が避けられないとの見方を強調した。
 プーチン氏は今月28日から大阪市で開く主要20カ国・地域(G20)首脳会議に出席し、29日に安倍晋三首相と会談する予定。日米安全保障条約が日露の交渉進展に対し障害になっていると指摘。「この条約下で日本が何らかの主権を行使できるのか見極める必要がある」とも語った。
 プーチン氏はロシア第2の都市サンクトペテルブルクで開かれた経済会議に出席し、主要通信社との会見で発言した。「我々は日本が自国の安全を保障する権利を批判しないが、日本も我々の懸念に配慮すべきだ」と言明。日本が配備を予定する陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」を念頭に置いた批判を繰り返した。そのうえで専門家レベルの協議の必要性などにも言及した。
(6月7日、毎日新聞)

日本の報道だけ見ていると、あたかも安倍首相が譲歩に譲歩を重ねたあげく、プーチン大統領から足蹴にされたかのような印象になってしまうが、それほど単純な話では無い。

6月5日にモスクワで中露首脳会談が行われ、「中露の戦略的関係の強化」で合意された。
中国としては、米中関係が悪化している以上、ロシアとの連携強化は不可欠であり、ロシアも米欧との関係が改善されない以上、中国との連携強化は避けられない情勢にあった。
ただ、ロシアからすれば、中露のパワーバランス上、「中露協商」が一方的に中国側に有利に働く恐れがあった。また、中露協商が上手くいかなかった時の担保として、同時並行的に「日露協商」を進めていた。

恐らくは「中露協商の強化」が現実的なものとなった時点で、ロシア側は対日交渉のハードルを上げたのだろう。
推測でしか無いが、ロシア側が必ずしも現実的な脅威とはなり得ない在日米軍基地の話に拘り始めたのは、「日本が中露協商側に来るなら良いが、対米従属したまま中露協商に乗っかることは許されない」ということを意味しているものと考えられる。

外交関係で複数の国を天秤に掛けることは歴史的にはままあることだ。
日露戦争時には、日本は日露協商と日英同盟を天秤に掛け、日英同盟が成立したため、日露協商路線を破棄して対露開戦を選んだ。
また、1939年の独ソ不可侵条約は、37年に締結された日独伊防共協定の軍事同盟への強化と天秤に掛けられていた。ドイツは日本に対して軍事同盟への昇華と参戦条項と新たな仮想敵としてアメリカの追加を求めたが、日本側は例によって意思決定できず(主に陸海軍の対立によるが、昭和帝も反対)、ドイツはいつまで経っても決断できない日本を見捨て、独ソ不可侵条約を選んだ。この時、日本側では陸軍が賛成していたが、同時並行で進んでいたノモンハン事件で大敗していたこともあって、一時的に権威が落ちていた。
この後、日本はドイツの対仏戦勝利を見て三国軍事同盟を締結(1940.9)した後、41年4月に日ソ中立条約を締結して南進に方針を決めるも、ドイツが対ソ開戦すると、41年7月には14個師団を戦時動員して関東軍特種演習を行い、北進か南進かで大議論している。結局北進は採用されず、南進・対米開戦するも、45年8月には「関特演によって中立条約は破棄された」などの理由をもって、ソ連の侵攻を許している。
日本政府がアメリカを仮想敵とする三国軍事同盟を決断できなかったのは対米開戦の二年半前であり、日ソ中立条約締結から三ヶ月後には対ソ全面動員を行っている。この「行き当たりばったり」観は決してデジャブーではない。

話を戻せば、ロシアからすれば中露協商の強化は、保険的価値しかない日露協商よりもはるかに大きな価値がある。しかし、「美味しい」が故にデメリットも大きく、中国が「次の覇権国家」になってしまうことを恐れている。とはいえ、現状では「背に腹は代えられない」ということなのだろう。
プーチン大統領からすれば、「中露協商強化が実現した以上、日露協商にこだわって、中国の心証を悪くする必要は無い」という判断だったに違いない。というよりも、ロシア側が交渉のハードルを下げる理由が何一つ無くなった、という方が現実的かもしれない。

こうなってしまうと、「次のチャンス」は情勢が一回転するのを待つほかないだろう。
しかし、安倍首相のように強いリーダーシップを発揮できるものが今後現れる保証は無く、日露交渉は一段と厳しさを増すだろう。また、交渉の機会が発生したとしても、その条件はますます日本側に不利になるものと思われる。
対米従属はやめられず、日露協商には失敗し、朝鮮半島情勢にも絡めず、中国からは交渉優先度を下げられつつある日本の外交環境は非常に厳しいものがある。
posted by ケン at 12:00| Comment(0) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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