2019年07月26日

参議選2019を分析する・上

日本の第25回参議院議員通常選挙は、7月4日に公示され、同月21日に投票が行われた。大手マスコミは概ね「与党の勝利」または「大勝」と報じているが、本当にそう言えるのか、「勝利」の定義を含めて改めて評価する必要がある。その上で、今後の国会情勢を占ってみたい。

現在、参議院の定数は245で、このうち124議席が今回の選挙で改選となった。改選124議席の内、自民党と公明党が獲得した議席は71であり、半数の62を9議席ほど上回っている。概ねマスコミはこれをもって「与党勝利」としている。
 だが、自民党の改選議席(2013年参院選の当選者)は68議席で、これが57議席に減り、公明党は11議席から14議席に増えている。つまり、「議席を減らした」という点では「自民党が勝利した」とは一概に言えない。
 また、安倍晋三首相が悲願としている憲法改正を実現するためには、衆議院とともに参議院においても全議席の3分の2が必要で、その数は164議席である。しかし、自民、公明、改憲志向の野党である維新の合計議席は157議席で、3分の2には及ばなかった。「指導者が求める戦略目標を達成できなかった」という点でも、「勝利」と言ってしまうのは安易に過ぎるだろう。
 しかし、野党は野党で、野党側が期待したほどには得票が伸びず、野党内で政権批判票を奪い合う形となり、不満の残る結果となった。前回2016年の参院選比例代表の得票率、獲得議席と比較して検討してみよう。得票数ではなく得票率で分析するのは、投票率が異なるためである。2016年の投票率は54.7%だったが、今回は48.8%に低下しており、得票数では単純に比較できなくなっている。

 2016年の参院選で自民党が獲得した比例区の得票率は35.9%で獲得議席は19。一方、分裂する前の野党民進党の得票率は21%で議席は11だった。今回の参院選では、自民党が35.4%、19議席を獲得。公明党は前回13.5%、7議席で、今回は13.1%、7議席となっている。他方、野党では民進党が2017年に分裂、立憲民主党と国民民主党に分かれたが、立民が15.8%、8議席、国民が7%、3議席となっている。得票では旧民進党系が若干伸びたものの、議席増には至らず、自民党はほぼ横ばいに終わっている。
 
 2016年と比べて今回得票を大きく減らしたのは日本共産党で、前回の比例区得票率10.7%が9%にまで低下している。また、社会民主党も2.7%から2.1%にまで低下している。これに対して、山本太郎議員が新たに結成した「れいわ新選組」が4.6%を獲得した。山本太郎は2016年の参院選では「生活の党と山本太郎となかまたち」の一員として選挙を戦っており、参考値だが同党の比例得票率は1.9%だった。このことから言えるのは、自公政権に批判的な既存の左翼政党の票が新たに結成されたポピュリズム政党に流れたということであり、自民・公明が支持を失ったわけではないことを示している。
 以上、得票率から言えるのは、自民党と公明党は安定的に勝利したが、両党の比例得票率は48.5%と半数に満たず、政権に批判的な野党の合計得票率は38.1%に及んでおり、およそ「与党が圧勝」とは言えない結果にある。ただ、比例区と違い、選挙区は大政党に有利な制度であるため、総合獲得議席では自民党に有利な形になっている。

 選挙区を概観した場合、一人区が重要となるが、32カ所のうち野党系候補が勝利したのは10区で、2016年の選挙より一カ所減っている。北海道、千葉、兵庫、福岡の3人区では、いずれも与党が2人当選させており、与党が選挙戦を有利に進めたことが分かる。特に4人区の大阪で、政権に批判的な野党が一議席も獲得できなかったこと、また6人区の東京において立民の二人目が当選できず、維新に議席を許してしまったことは、立民にとって大きな打撃となっている。大票田の都市部において立民が十分に票を集められなかったことは、次に想定される衆議院総選挙に向けて大きな課題となるだろう。立民と国民は、比例区では分裂前の民進党と同程度の得票だったが、選挙区では2016年に民進党が獲得した32から立民と国民あわせて23議席に減少しており、党分裂による影響力低下が見て取れる。
 野党は32ある一人区のうち10カ所で勝利したものの、もともと自公の地盤が弱い東北に偏っており、野党共闘に課題を残す形となっている。

 全体的には、与党側は安定的な勝利を得たものの、「改憲に必要な参議院の3分の2を取る」という戦略目標の達成には失敗した。他方、野党は「与党に3分の2を取らせない」という目標は達成したものの、与党票を取り込んで票を伸ばすには至らず、野党内の少数乱立が災いして現状維持に留まった。
 筆者が関係者に尋ねた感触では、自民党では「厳しい情勢の中で十分健闘した」という感想が一般的だったのに対し、立民と国民では「実質的に敗北」と捉える向きがあり、当事者の主観においては概ね与党が勝利、野党は敗北という認識にあるようだ。特に立民内における敗北感は深刻なようだが、これは別途記事にしたい。

 また全体情勢とは別に、本選挙においてはいくつかの大きな問題が露呈している。一つは低投票率で、全国の投票率は48.8%と5割を切った。これは1995年の44.5%に続く低さになる。2017年の衆議院総選挙も投票率は53.7%と低く、安倍内閣と自公連立政権が長期化する中、政治的無関心層が増加、代議制・議会制民主主義の根幹を揺るがしつつある。
 参院選の公示1週間前にNHKが行った世論調査を見ると、「投票に行くか」という質問に対し、「必ず投票に行く」と答えた者は46%だった。つまり、「必ず行く」と答えた者以外は殆ど投票しなかったことになる。また、支持政党についての質問では自民党が34.2%で、自民党支持者がそのまま自民党に投票していたことが分かる。これに対して、立憲民主党の支持を明言した者は6.0%、国民民主党の支持者は1.5%に過ぎなかった。にもかかわらず、実際の投票では両党あわせて22.8%を得票しているが、これは「政党として支持はしていないが、政権党以外の投票先として他に選択肢が無く、やむを得ない」判断として、投票していることを暗示している。つまり、自民党の支持者は強い自覚を持っているが、野党は政党や政治家が必ずしも支持されていない中で、政権批判票として消極的に投票されていると言えるだろう。こうした健全な批判勢力の不在、野党の機能不全といった要素が、さらに政治と議会への不信あるいは無関心を助長していると見られる。
(以下続く)
posted by ケン at 23:00| Comment(0) | 政局ほか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: