2019年08月10日

「令和維新」フェイズに突入?!

【ガソリン散布し着火…少女像、展示中止後も脅迫】
 愛知県で開催中の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」で、いわゆる従軍慰安婦を象徴する少女像の展示が中止された問題について、実行委員会会長を務める大村秀章県知事は5日、定例記者会見で、中止以降も「ガソリンを散布して着火する」という脅迫メールなどが届いていることを明らかにした。県によると苦情や意見の電話やメールなどは4日現在で約3300件に上るという。
 県などによると、ガソリンを散布するとしたメールは5日朝、県庁や県内の自治体に届き、京都アニメーションで起きた放火殺人事件に触れながら、芸術祭会場や県内の学校など複数箇所を名指しし、放火するとしていた。少女像展示との関連を明らかに示す内容はないというが、県は県警に通報し、県教育委員会は学校に注意を呼びかけた。県警は威力業務妨害や脅迫の疑いを視野に、県からの相談に対応している。
 また、大村知事は会見で、「展示内容を事務局が知ったのが4月中旬で、私に報告があったのは6月半ばだった」と、経緯を改めて説明した。
 その際、「希望、要望は強く申し上げた」としたが、「作品の内容について許可、不許可を私がすることはできない」と主張。「税金や補助金が入っているから許されないとの論調があるが、行政が作品内容に踏み込めば検閲ととられかねない」と述べるなど、「行政こそが表現の自由を守るべきだ」と持論を展開した。
 展示中止となった「表現の不自由展・その後」の運営メンバーらは、「一方的に中止を決められた」と反発しており、6日に大村知事宛ての公開質問状を提出するほか、法的手段も辞さない姿勢を示している。さらに県によると、芸術祭に出展している韓国人の作家が作品を撤去したいと申し出ているといい、県で理由を確認したうえで、津田大介芸術監督らとも相談しながら対応する。
 トリエンナーレ実行委で会長代行を務める名古屋市の河村たかし市長は5日の定例記者会見で、事前に展示内容を知らなかったとした上で、「どういう過程で少女像を設置することになったのか、きちんと調査するよう担当部局に指示した」と述べた。
 河村市長は2日、自身で少女像を視察し、「国民の心を踏みにじる行為で、展示の中止を含めた適切な対応を求める」とする文書を大村知事宛てに提出していた。
 これに対し、大村知事は「河村市長の発言は憲法違反の疑いが極めて濃厚」と反論した。
(8月6日、読売新聞)

自治体が憲法擁護イベントへの会場提供を拒否し、慰安婦像の展示が暴力的脅迫と自治体首長からの圧力によって中止される時代になった。
直接的な暴力こそ伴っていないものの、滝川事件や美濃部事件(天皇機関説)を彷彿とさせられる。民主党系の首長が歴史修正と排外主義に積極的で、自民党系の首長が憲法と自由を擁護するという構図も非常に象徴的だ。
ガソリン云々の話は、京都アニメーションに対するテロリズムに感化されてのものと思われるが、テロリズムの本質が「恐怖の伝播」にあることを思えば、テロの狙いは達成されつつある。

今回の場合、テロを示唆した脅迫によって平和運動を封じつつ、日韓あるいは日中関係のさらなる悪化を促進することに成功した。
日韓関係については、徴用工問題に端を発する政府の経済制裁モードに対して、国民の7割近くがこれを支持、排外主義への熱狂が加速しつつある。仮に日韓戦争が勃発した場合、国民の大多数が熱狂的に支持して、「現行憲法なんて機能停止で良い」と言い出しそうな勢いにある。
少し過去ログを引用しながら、テロリズムの復習をしておこう。
1935年2月、貴族院で菊池武夫議員が美濃部達吉議員(東京帝大名誉教授)の天皇機関説を攻撃したことに始まり、「国体を否定するもの」「国賊」「学匪」などといった非難、攻撃が激化、美濃部家には続々と脅迫が届き、本人や家の周囲に不審者がつきまとうようになった。甚だしきは、文部省から「右翼テロに注意するよう」旨の警告に続いて「転向」を求める文書までが来たと言われる。
ところが、実際には美濃部説は当時の学界、官界における通説で、官僚採用のための高等試験も全てこれに基づいていた。しかも、当の貴族院では美濃部が自説を説明したところ、大きな拍手が起きて理解を得たはずだった。にもかかわらず、美濃部は不敬罪で告発され、マスゴミの攻撃にさらされ続け、ついには貴族院議員を辞任、その後右翼テロリストに銃撃されて重傷を負った。その間、政府は「国体明徴声明」を出して美濃部説を否定している。恐ろしいことに、美濃部を負傷させた銃撃犯はついに逮捕されず、同じく銃撃し命中しなかった犯人は懲役3年で済んでいる。
これら右翼人士の多くは、「天皇を機関車呼ばわりするとは何事だ」程度の理解だったと言われる。昭和帝が自ら「天皇機関説の何が問題なのか」と言い、取調べに当たった検事はみな美濃部の教科書を読んで受験していたのだから、今日から見ればナゾすぎる事件だったわけだが、当時はそういう世相だったのである。

一般的にテロリズムと言えば、一連の9・11テロや中東における自爆テロ、あるいは日本の地下鉄サリン事件などが思い出され、社会に対して直接的被害を与えることが目的であるかのように考えられており、政府やマスコミもそのように捉えている。だが、本来のテロルの効用は、文字通り社会・大衆に「恐怖」を植え付け、熱狂を促進させ、価値観の変容を強制することにある。

昭和のテロリズムは、個々の政治家や財界人や学者を死傷させたことではなく、明治憲法に明文化されていない多元支配の構造(明治末年から大正期にかけて理論化された)を否定し、天皇による一元支配と擬装された軍部支配を実現した点に真の効果がある。同じ意味で、大正期の国際協調主義を否定し、軍国主義を促進させた点も大きい。テロルの副次的効果として、マスコミが便乗して大衆を扇動、リベラル派の知識人が沈黙し、官僚が自らこぞって国家主義・軍国主義に転向していった。また、(左翼)テロに対する警戒を理由に治安維持法などが制定されて恐怖支配が正当化された。

ここで問題なのは、テロルが大衆の熱狂と暴力の容認を生み出す点である。1932年の血盟団事件では、茨城県の若者らが井上準之助前蔵相と団琢磨三井財閥総帥を暗殺したが、裁判に際しては30万通を超える減刑嘆願書が届き、犯人を英雄視する傾向が広まっていった。続く5・15事件では、首相官邸が襲撃されて総理大臣が暗殺されるが、犯人の裁判には100万通を超える減刑嘆願書が届き、嘆願のための自害まで起きた。その結果、反乱罪は適用されず、共同謀議による禁固刑に終わった。
アメリカにおける9・11事件に際しては、米国内でイスラムに対する憎悪がかき立てられ、アフガニスタン侵攻に対する支持は軽く9割を超え、市民権や人権を制限する愛国法の採決に際して上院で反対したのはわずか1名に止まった。
1930年代のソ連における大粛清も、その発端は大衆的人気のあったキーロフが暗殺されたことで、スターリンが犯人捜しを始めたことにある。

オルテガ・イ・ガセは『大衆の反逆』で大衆社会を、ある価値観が社会を構成して大衆を啓蒙するのではなく、「何となく多数」の価値観が基準として「何となく」共有されている社会であると規定している。そこでは「皆が言っていること」が常識で、「皆が信じていること」が真理で、「皆が望んでいること」が希望、ということになる。
テロリズムは、この「何となく」と「皆」を強制的に変容させる力を持っている。何となく共有されていた天皇機関説は暴力的に否定され、リベラル派の知識人が沈黙することで天皇主権説が「皆」となり、軍拡と侵略が「希望」へと変わっていった。
アメリカでは、国際協調主義と寛容の精神が否定され、対テロ戦争の貫徹が「真理」となり、そのために市民的権利が制限されるのは「常識」となった。
テロルの効用について、2014.10.2)

今回の展示を見た場合、ただの「少女像」が置かれているだけで、慰安婦を想起させることが目的とは言え、その展示が「表現の自由を上回る、排外主義や人種差別扇動あるいはそれに相当する公共の福祉に反する」という問題提起は相当に無理がある。
また、こうしたテロ攻撃の予告に対して警察が機能しなかったことも、「左翼の弾圧には熱心だが、右翼テロには寛容」と言われた戦前期を彷彿とさせる(史実的には微妙なところだが)。

こうなってくると、右翼は平和運動や左翼運動に対する攻撃が「認められた」「公権力の支持がある」としてさらに加速させてゆくだろうし、左翼・リベラルもまた「弾圧と暴力に対しては相応の対応が必要だ」ということになり、運動を過激化させてゆくかもしれない。
そうなると、政府としてはこれを口実に社会統制を強化することになるだろう。226事件が軍部独裁と戦時体制の確立に直結したことを思えば、十分現実的な話だ。

美濃部事件が起きた1935年に10年後の日本を想像できたものは誰もおらず、その美濃部は戦時中は吉祥寺に住んでいたが、近くに中島飛行機の工場があったため(現ICU)、頻繁に爆撃を受け、そのたびに家鳴り震動して窓ガラスが割れたが、頑として座敷から離れようとせず、決して防空壕には入らなかったという。

【参考】
山崎雅弘「天皇機関説」事件

【追記】
1950〜70年代の戦争映画を見ると、慰安婦なんてごく普通に描かれており、それに対して保守派や旧軍関係者が抗議したなどということは無かったように思える。むしろ戦争体験者が急減して、戦争や明治帝政に対する美化と民族差別が進んでしまっているのではなかろうか。
posted by ケン at 12:00| Comment(5) | 政治、社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 どうも、ケン先生。
「一期は夢よ ただ狂え」では、ありませんが
人間というのは経済的に困窮すると粗暴になるの
ですかねぇ・・。
1970年代までの日本は「階級闘争の停戦期」にあった、
と以前ケン先生は仰ってましたが、現在の日本は
経済的にズタボロ、しかもデフレと貧困で
八方塞りですからねぇ・・。

あーもぅ、誰か日本をせんたくしてくれ〜

Posted by ムラッチー at 2019年08月10日 14:24
困窮した人が粗暴になるのは分かるのですが、まだそこまでは困窮していないはずの人がこぞって粗暴になるのは、どう理解したら良いのか分かりません。事象としては昭和動乱も同じだったわけですが。

一つにはおっしゃる通り、和解状態だった階級闘争が「解禁」になったことが挙げられますが、階級闘争の側面は現状殆ど見られません。でも、排外主義と暴力主義だけは蔓延しつつあるという話ですね。
Posted by ケン at 2019年08月12日 09:50
「[FT]吹き荒れる極右・極左暴力 眠れぬドイツの政治家」
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO47950500Q9A730C1000000/

<ドイツの左派党(リンケ)幹部のコジャック氏は18年2月の夜、何者かに車を燃やされた
極右勢力に関係する男2人が、襲撃に関わった疑いで拘束されたが、証拠不十分で“釈放”

<左右の過激派による暴力行為は18年、2098件に達した。1678件だった12年と比べて25%増加

<アンドレアス・ホルシュタイン市長は17年、難民に対する同氏のリベラルな姿勢に反対する男に首を刺され、暴力を身をもって経験させられた。さらに19年5月末、「もうすぐまた襲う。今度はもっとうまくいく」という匿名の電話がかかってきた

<ドイツ国内の市長1万1000人の2%が過去4年間に襲撃されていたことが明らかになった。加えて地方議員の25%超が、“政府の難民政策をめぐる問題に絡んで”嫌がらせを受けたと回答

<自宅住所が書かれた政治家と警察官26人の「襲撃リスト」が見つかった

ドイツですらこの有様。

異世界転生にでも期待するしかないですねあばばば
Posted by スパルヴィエロ大公 at 2019年08月13日 13:31
ドイツの場合、ずっと長いこと「EUの優等生」として難民を受け入れてきて、同時に難民と東欧からの移民という安価な労働力を駆使することで経済発展してきたわけで、そのひずみが一気に表面化しているのです。
国内では「職を奪われた」ドイツ人が激高し、国外では「ドイツだけ美味い汁吸いやがって、難民はドイツだけで受け入れろ」ということになっています。

経済発展を伴わないフランスに至ってはいつまで国家の体裁が保てるかというレベルにあります。

古代ローマの滅亡は移民と難民に端を発したわけですが、まさにそれと似たような状況が具現化しつつあります。

これで記事が書けそうですね!
Posted by ケン at 2019年08月14日 10:14
ドイツでは移民擁護派だったカッセル県知事ワルター・リュブケ氏が射殺されたりしてますね…
Posted by o-tsuka at 2019年08月15日 19:52
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: