2019年08月12日

日本暗殺秘録

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『日本暗殺秘録』 中島貞夫監督 東映(1969)

今日では半ば忘れ去られているが、「昭和動乱+笠原和夫」というマニアには垂涎ものの一作。
幕末の桜田門外の変(井伊大老)に始まり、明治期の紀尾井坂の変(大久保内務卿)、大隈重信暗殺未遂事件、星亨暗殺事件、大正期の安田善次郎暗殺事件、ギロチン社事件(アナキストによるテロ)を経て、昭和初期の血盟団事件、相沢事件、二・二六事件と繋がる一連のテロリズム史を、オムニバス形式で描いている怪作である。
オムニバス形式なので、言ってしまえば再現ドラマの連続のような感じだが、一応血盟団事件が本筋のような感じで映画の骨格をなしている。
つまり、血盟団事件のみがきちんとしたドラマになっており、後は暗殺シーンだけなので、全体としての作品のバランスは非常に悪い。人によっては「これは何の映画なの?」と思ってしまうかもしれない。が、そんなことはマジでどうでもいい。

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なんと言っても『二百三高地』や『仁義なき戦い』など昭和を代表する脚本家の笠原和夫が脚本を担当。
そして、贅沢すぎる役者群が凄すぎる。
テロリスト役として、若山富三郎(桜田門外の変における有村次左衛門)、安田善次郎を殺害する朝日平吾役は菅原文太、五・一五事件の精神的指導者である藤井斉海軍大尉は田宮次郎、血盟団事件の小沼正は千葉真一、永田鉄山を惨殺する相沢三郎少佐に至っては高倉健である。これらの人々が次から次へと「天誅!」「奸賊!」とやるのだから、(悪い意味での)高揚感が半端ない。菅原文太や高倉健などは、出てきていきなり「天誅〜〜!」して次のシーンに移ってしまうのだが、恐ろしくカッコ良く描かれている。

当時、本作を見た反左翼の若者がこぞって右翼に入ろうとしたらしく、当時まだ存命だった小沼正から感謝され、「テロリズムを助長する」と非難され、公開規制まではされなかったものの、マスメディアからは完全に無視され、口コミでしか広がらなかったという曰くがある。
批判を受けた中島監督は「右翼やテロを美化する意図は無かった」と弁解したそうだが、「いや、それは無理ってもんでしょ」と言いたくなるくらい、真に迫っている。

血盟団事件と昭和動乱がナゾ過ぎるのは、井上準之助を殺害した小沼正や団琢磨を射殺した菱沼五郎が無期懲役となりながら、1940年には恩赦(法律上、殺人・殺人未遂には恩赦は不適用だった)で出獄、戦後もそのまま活動し続けている点にあるが、笠原はきちんと取材しており、テロリストの実像に迫っている。

映画作品としての完成度は低く(バランスが悪すぎる)、テーマ的にも問題ありまくりなのだが、現代作品では再現(演技)不能な熱量を誇っており、少しでも興味を持った者は是非ともGYAOなどで見て欲しい。

【追記】
いわゆる血盟団事件(本人らはそう名乗っておらず、検事がつけた名称)に際してテロに賛同した20〜30人ほどの集団には、東大生が四人、京大生が三人いた。この点、現代では理解しづらいことだが、理解・受容できないと、この時代のことは理解できない。
また、相沢事件(永田鉄山暗殺)に際して、相沢少佐は永田局長を斬殺した後、そのまま任地に赴任するつもりだったが、実行時に興奮していたためか自身もけがをしてしまい、医務室で施療を受けていたところを憲兵に拘束されたという。殺害後、陸軍省内では大騒ぎになったが、根本新聞班長や山下奉文調査部長らが「良くやった!」などと激励、拘束された憲兵詰所においてすら「握手してください!」と人が集まったという。こうした空気感が想像できないと、昭和の時代は理解できない。とはいえ、現代もそれに近い雰囲気が醸成されつつある。
posted by ケン at 10:39| Comment(0) | サブカル、音楽、アート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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