2019年08月13日

『二百三高地 愛は死にますか』

今となっては忘れ去られているようだが、かの名作映画『二百三高地』にはTVドラマ版がある。
映画公開の翌1981年1月〜2月に放送されたものだ。
骨格は映画版を踏襲、脚本も基本的には変更せず、時間的に全8回分に増えた分のエピソードが追加されている。
追加された分の多くは銃後の人間関係に費やされ、第七連隊(金沢)の中隊兵士の家族や恋人などが細かく描かれている。乃木の家族についても同様。
軍関係でも、南山攻略や海軍との関係が追加され、全体像がわかりやすくなっている。

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大きく異なるのは配役で、主人公の小賀少尉役があおい輝彦から永島敏行に、恋人の松尾役が夏目雅子から坂口良子に、乃木希典が仲代達矢から田宮高広に、明治帝が三船敏郎から(現)松本白鴎(当時は市川染五郎)などになっている。
この配役の違いをどう評価するかが、大きなポイントとなるわけだが、どうしても映画版で記憶がプリンティングされているため、マイナス評価になりがちだ。特に夏目雅子が良すぎただけに……
とはいえ、田宮高広の乃木は絶品で、最近再評価されつつあることを含め、「乃木はこれだよ!」と快哉を上げたくなるほど成りきっている。
明治帝も三船がやると三船になってしまう点で染五郎の方が良く、むしろそっくりさんみたいになっている。

また、銃後の描写が増えた分、いささか「お涙ちょうだい」化が見られるものの、ケン先生が「ゴールデンカムイの背景にある日露戦争症候群」で描いた日露戦争症候群の要素が多分に追加され、NHKが制作した「坂の上の雲」のような英雄万歳作品とは一線を画している。
この点は庶民目線の笠原和夫ならではであるが、笠原のドライな視点が薄めなのは残念だ。
しかし、映画を含め本作は当時、「戦争賛美」「右翼映画」と非難されたそうだが、左翼の私が見てもサッパリ理解不能だ。やはりNK党は禁止すべきなのだろうが、それは良い。

乃木や第三軍司令部の描写も、当時は既に司馬史観が蔓延し「無能」の評価が定着していたはずだが、今見てみると意外と中立的に描かれており、「さすが笠原和夫」と言いたくなってしまう。例えば、乃木は必ずしも正面突撃に賛成では無かったが、砲弾不足と周囲(上)からの要請によって、他に選択肢が無くなってしまった点など、良く描かれている。

1960〜70年代の戦争映画のような熱量は無いし、現代の戦争映画のような再現性も無いわけだが、人間ドラマとしてはやはり良くできた作品だと思う。
posted by ケン at 12:00| Comment(4) | サブカル、音楽、アート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 どうも、ケン先生。
おおっ!この流れで行くと次回は
「〽愛する人よぉ〜」ですか?
この時期の「戦史映画」は独特の
趣がありますねぇ・・。

でも、この手の映画って
確かに独特の高揚感がありますよね。
Posted by ムラッチー at 2019年08月13日 12:23
最近の映画はCGもセットも充実していて「チャチさ」はなくなっているのですが、役者がどう見ても「当時の人」には見えず、どこまでもリアリティが無いんですよね。
もちろん私も当時を知るわけでは無いのですが、やはりその時代に生きた人が演じるのと、戦争や恐怖支配を知らない現代人が演じるのとではどうしても違ってくるのだと思います。
Posted by ケン at 2019年08月14日 10:09
ケン先生、お帰りなさい。お暑うございます。
TV版ソフトのジャケは初めて見ました。笠原和夫がもっとも言わせたかったであろう小賀のセリフを右肩に持ってくるあたり、本気度がうかがえます。セリフはさらに「それを乃木式の軍事精神で救えるがですか?」と続く。これは明らかに乃木の背後におわす明治帝を刺しており、後の『大日本帝国』にも通じる笠原の真骨頂でしょう。
乃木役は劇場版で高倉健が断ったと笠原が述懐していますよね。高倉のセルフイメージはキャリア後年に至っても「青年将校」のままなのが固辞の理由だとの見立ては冷徹ですが、当たっている気がします。
小賀小隊で生き残るのが筋者と豆腐屋。戦後、前者は勲章ジャラジャラいわせながら辻立ちで軍記を語り、後者は戦地でも吹いていたラッパを手に仕事に戻る。戦争を知る者だから描ける一面と感じます。
劇場版で笠原が当初構想した明石元二郎の諜報活動や金子堅太郎の和平工作、高橋是清の資金調達も含めた「完全版」をつい夢想してしまいます。
Posted by 横道者 at 2019年08月15日 09:23
ドラマ版では金子や高橋の活躍も出てきますよ。いい感じで、バランスが取れています。

一歩間違えれば陳腐に聞こえる台詞をごく自然に言わしてしまうところが、笠原先生の神たる所以だと思っています。

高倉健はやはり高級指揮官向きじゃないと思いますよ。
そこが軍曹から連合艦隊司令長官までやってしまう三船との違いであり、高倉はそれ自覚していたのかなと推察します。
Posted by ケン at 2019年08月16日 09:32
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