2019年09月10日

ポーランドがドイツに賠償請求?

【ポーランド侵攻から80年、復活するドイツへの戦後賠償要求の動き】
 第2次世界大戦の口火を切ったナチス・ドイツによるポーランド侵攻から1日で80年を迎えた。だが、ナチスによる爆撃の音は、80年が経過した今も両国の戦後賠償論争の中にこだましている──。
 隣り合わせの両国はここしばらく、北大西洋条約機構(NATO)、そして欧州連合(EU)の同盟国として、第2次大戦のページをめくったようにも見えていた。
 しかし、2015年のポーランド総選挙でその様相ががらりと変わった。与党となったEU懐疑派の右派政党「法と正義(PiS)」は、EUやドイツとの関係を政治的駆け引きの道具として利用し、また戦後賠償に関する論争も再開させたのだ。
 ポーランドのマテウシュ・モラウィエツキ首相は先月、「ポーランドはいまだ適切な補償をドイツから受けていない…第2次大戦でわが国は600万人の国民を失った。大きな補償を受け取った国々よりもその数はずっと多い」と発言していた。
 2017年、PiS党首のヤロスワフ・カチンスキ氏はこの問題を再提起した。それ以来、議会の委員会が戦時中のポーランドの人的・物的損失の規模について見直す分析を行ってきた。
 その規模については、大戦直後の1947年に行われたポーランドの算出額を上回り、現在の換算で約8500億ドル(約90兆円)に相当すると、PiSのアルカディウシュ・ムラルチク議員は語る。
 AFPの取材に応じた同議員は「第2次大戦が終わって随分たつが、ドイツは自らの過去を反省していない。ドイツは法の支配による民主的な基準を守り、人権を尊重することよりも、自国の予算の安定を気にかけているのだ」と述べた。
(9月2日、AFPより抜粋)

すでにギリシアがドイツに対して同様の賠償請求を行っているが、隣国のポーランドが公式に賠償請求するとなると、他国の追随も起こりうるだろう。バルト三国やウクライナ、チェコ、旧ユーゴ諸国など、可能性を考えれば枚挙にいとまが無い。あるいはフランスやイタリアですら、「やっぱ俺も納得いかん」となるかもしれない。
これが本格化すれば、EUなどひとたまりも無さそうだ。
もともとEUは、二つの世界大戦を繰り返さない理念の下に始まったものであり、歴史問題を蒸し返し始めると、ドイツ人ですら「ヴェルサイユ条約が〜〜」「ドイツ分断が〜〜」と始めてしまう恐れがあり、もはや理念崩壊だ。

ギリシアの場合、ドイツは1960年の多国間戦後補償解決の一環としてギリシアに対しても一定額を払っており、「解決済み」としている。これはやや日韓の問題と似ている。

ポーランドの場合はより厄介で、保守系議員たちは「共産党政権が行った東ドイツとの合意は、ソ連の強要によって傀儡政権が行ったものであり、何重にも違法」という主張を行っている。確かに全否定できないところが厄介なのだが、これを認めてしまうと、東欧諸国やウクライナ、ベラルーシ、バルト三国も、「じゃあ、俺も」となるだろう。ウクライナとベラルーシはソ連の構成国だが、「ソ連加盟は強要されたものであって違法」と言い出せば終わってしまう。
厄介のは、西側自由主義史観ではそれを認めざるを得ないところにある。「ソ連=独裁=悪」という史観に立てば、共産党政権や一党独裁自体が市民の合意なくして成立した不法の政権であって、それに強要された契約はすべて不成立であると言われれば、それを否定するのは難しいだろう。

さらに難しいのは、仮にドイツに対して賠償請求を行った場合、「じゃあロシアに対してはどうなるんだ?」という意見が必ず出てくることだ。ポーランドやバルト三国などの場合、いわゆる「往復ビンタ」状態になり、それが被害を拡大させた原因になっているだけに、ソ連の後継であるロシアに対して賠償請求しないとなれば、異論が出るのが自然だろう。
そうなった場合、またぞろドイツとロシアに「なんだ貴様は!」と言われ、両国で対ポーランド感情が急悪化することは間違いないだろう。

どう見ても理性的には得策ではないと思われるが、より過激な主張をした方が(デモクラシー的に)票を集めてしまうところが非常に危険になっている。この点、今の日韓も同様で、より激しく相手を罵倒した者が喝采を浴びる状態にまで来ている。

世界はより不穏で不安定な時代に突入していきそうだ。
posted by ケン at 12:00| Comment(2) | ロシア、中国、国際関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
<「第2次大戦が終わって随分たつが、ドイツは自らの過去を反省していない。ドイツは法の支配による民主的な基準を守り、人権を尊重することよりも、自国の予算の安定を気にかけているのだ」
これをドイツに向けて言ってるのが左派でなく右派ナショナリスト、ってあたり、すごく複雑な感じが。
……いやポーランドの民族主義者からしたら侵略者ドイツは許せない、ってなるのは至極当然ではあるし、おかしいと思う方がおかしいってのは頭では分かっているのですが。

とまれこういう対立を覆い隠してくれていた冷戦時代は平和だったのだなと、ポスト冷戦時代生まれの人間としては思えます。
Posted by スパルヴィエロ大公 at 2019年09月17日 15:42
冷戦というのは、東側では共産党支配による強制的階級和解(弾圧)体制であった一方、西側では労使協調による反共主義体制だったわけです。その中には、歴史対立も含まれていて、いわば双方それぞれ「敵」を抱える中で、不完全にせよ強制的に封印してきたわけですが、東西対立がなくなったところ、「蓋」が取れてしまった格好なのでは無いか、というのが私の見解です。
Posted by ケン at 2019年09月19日 14:59
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