2020年03月10日

ドラマ トロツキー



Netflixで放映している、ロシアのПервый канал(第1チャンネル)が制作した歴史ドラマ。
まぎらわしいことにロシアには「ロシア1」という国営放送局があり、混同されがちだが、「1チャン」は民間テレビ局である。とはいえ、現在ではロシア政府の方針でその株式の51%は政府が保有している。

日本風に言えば「なんちゃって民間」なのだが、それでもソ連期には「背教者」とされたトロツキーをドラマにするくらいには自由を保っていると言える。
しかも、その描き方が半端ない。これはむしろ民間だからだろう。
名作『エカテリーナ』は国営放送局のロシア1がかなり丁寧に、かつできるだけ史実に忠実に作り込んでいたのに対し、本『トロツキー』は敢えて史実に忠実であろうとはしていない。
にもかかわらず、圧倒的な迫力とある種のリアリティを感じさせるのだ。
それは、本作が「あくまでもトロツキーの主観」の再現に重点を置いているからだろう。

本作は1940年、暗殺される直前にトロツキーが過去を回想するという方式を採っている。
これ自体はありがちすぎる設定なのだが、この「ありがち」を逆手にとって、「トロツキーの目で見たロシア革命」をトコトン再現している。
そのため、歴史ドラマにもかかわらず「オレ最強」「自分以外全員敵」「文句あるヤツは皆殺し」「でも正義のためだからOK」と完全に突き抜けてしまっている。
普通なら歴史ドラマとして成立しないレベルであり、実際にロシアの歴史家たちからは酷評されているのだが、「いえいえ、最初から史実では無く、革命家トロツキーの主観を再現しようという試みですから!」と居直ってしまっている。そして、ある程度ロシア革命史を知っている者ならば、「トロツキー視点ではそうなるよねぇ」「だってトロツキーだもん」と納得できる完成度になっている。
実際のところトロツキーは、恐ろしく自信家で、他人を人と思わず、自分の信念を信じて疑わず、敵には容赦なく、およそ仲間というものを作ることのできない人間だった。それだけに、トロツキーの評伝を読めば、「トロツキー視点なら仕方ない」と納得がいくのだ。

そして、個々の映像や表現は非常に優れていて、帝政期や革命期のペテルブルクの再現度は非常に高く、当時のモノクロ写真に色を付けたかのような再現度になっている上、トロツキーを始めレーニンやスターリン役の役者の演技も素晴らしく、声のトーンや話し方まで史実の再現を試みている。レーニンも演説などの録音が残っていて、私も聞いたことがあるが、高い粘着質なトーン・話し方まで再現されており、「やべぇ、本物だ!」と思ってしまった。レーニンとトロツキーの微妙な関係の描き方も非常に良い。これも「トロツキーの目から見たレーニン」なのだろうが、今まで見た映像作品の中で一番納得の行くレーニン像だった。
他にも帝政期の軍服もカッコ良く見えてしまうところも凄い。黒コートが欲しくなってしまう。
ただ、日本語訳はけっこういい加減で、参考程度にしかならない。

ロシア好きにとっては『静かなドン』『ドクトル・ジバゴ』とともに、革命期ロシアの貴重な資料として見ておくことをお勧めしたい。
posted by ケン at 12:00| Comment(0) | サブカル、音楽、アート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: