2018年08月12日

典型的な印象操作報道

【プーチン支持率、8割から3割に急落 いったい何が?】
 <プーチン独裁を支えてきた高い支持率が急落。W杯に紛れて年金支給開始年齢を引き上げようする指導者はロシア人もさすがに許せなかった>
ロシアでは政府の年金改革案に対する不満の高まりから、ウラジーミル・プーチン大統領の与党・統一ロシアの支持率が、2011年以来の最低水準に落ち込んでいる。
 ロシア連邦議会の最大勢力を誇る与党・統一ロシアの人気は、プーチンあってのものだった。だがサッカー・ワールドカップ(W杯)の開幕直前に年金受給開始年齢を引き上げる改革案を発表し、急いでそれを可決しようとする議会の動きが伝わると、あらゆる世論調査で統一ロシアとプーチンに対する支持率は急降下した。全ロシア世論調査センター(WCIOM)によれば、最新のデータでは、政府の改革案を最も強く推した統一ロシアへの支持率は、37%にまで下落。2011年に記録した史上最低の34.4%に非常に近い。
 プーチン政権に対する支持率低下はさらに激しく、31.1%だった。別の国営調査機関や独立系のレベダ・センターによる調査も、同じような結果になっている。今回の年金制度改革案では、年金受給開始年齢は男性が60歳から65歳、女性は55歳から63歳に、今後10年間で段階的に引き上げる。アメリカ主導の対ロシア制裁や西側との貿易の中断、2014年の原油価格の急落などで膨らんだ財政赤字を削減するためだ。
(8月1日、ニューズウィーク誌より抜粋)


典型的な世論操作報道。
年金支給年齢引上げ案によって低下したのは政権党である統一ロシアの支持率であって、大統領の支持率では無い。独立調査機関レバダセンターの7月の世論調査では、プーチン氏の支持率は67%と出ている。
言うなれば、安倍総理の支持率と自民党の支持率をまぜこぜに使って、都合良く印象操作するような話だ。
年金受給開始年齢は、ドイツでは67歳、フランスでは62歳へと段階的に引き上げられる途上にある。フランスのマクロン政権はこれをさらに引き上げようとして、大反発を受けている。ロシアだけが例外ではあり得ない。

米日において、ソ連、ロシア研究は本当に難しい環境にある。

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2018年07月27日

テロに賛同するリベラル

【決勝乱入者に禁錮15日=ロシアの反体制派バンド―サッカーW杯】
 15日に行われたサッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会決勝で、ピッチに乱入して試合を中断させた男女4人に対して、モスクワの裁判所は16日、15日間の禁錮刑を言い渡した。向こう3年間のスポーツイベント訪問も禁じた。4人はロシアの反体制派パンクバンド「プッシー・ライオット」のメンバー。フランスとクロアチアが対戦した決勝の後半、警察官のような服装でピッチに乱入し、取り押さえられた。その後、同バンドは政治犯の解放などを求める声明を出した。
(7月17日、時事通信)

ワールドカップ・ロシア大会の決勝戦で会場に乱入、試合を中断させたロックバンド「プッシー・ライオット」のメンバーが早々に処断されたことに対し、日本を含む西側諸国ではロシア政府に対する非難の声が上がっている。私の周囲にも、彼らを支持する者が意外と多く、そのダブルスタンダードぶりに、「やはりこの連中とは一緒に戦えない」と思っている。

リベラル派は「人権を弾圧する国で人権擁護を主張することは正義である」との主張をなしているが、それはサッカーの国際試合を妨害することを正当化させる理由にはならない。これが、ロシア連邦議会に乱入して審議を止めたというなら、まだしも行為の正当性が認められるかもしれないが、サッカーの試合を止めるのはただの自己宣伝に過ぎない。
これが認められるのであれば、東京五輪で試合会場に乱入して日章旗を燃やしたり、国歌斉唱を妨害することも許されるだろう。少なくともケン先生はその立場を取らない。
そもそもサッカーの試合に乱入して、これを止め、クロアチアの勝利を妨害したかもしれない行為が、どうしてプーチン政権批判や人権擁護の主張に結びつくのだろうか。

仮に「権力に対する打撃」としてのテロリズムと考えても、全く意味をなさない。一般的にテロリズムと言えば、一連の9・11テロや中東における自爆テロ、あるいは日本の地下鉄サリン事件などが思い出され、社会に対して直接的被害を与えることが目的であるかのように考えられており、政府やマスコミもそのように捉えている。だが、本来のテロルの効用は、文字通り社会・大衆に「恐怖」を植え付け、熱狂を促進させ、価値観の変容を強制することにある。

オルテガ・イ・ガセは『大衆の反逆』で大衆社会を、ある価値観が社会を構成して大衆を啓蒙するのではなく、「何となく多数」の価値観が基準として「何となく」共有されている社会であると規定している。そこでは「皆が言っていること」が常識で、「皆が信じていること」が真理で、「皆が望んでいること」が希望、ということになる。
テロリズムは、この「何となく」と「皆」を強制的に変容させる力を持っている。昭和のテロリズムにおいては、何となく共有されていた天皇機関説は暴力的に否定され、リベラル派の知識人が沈黙することで天皇主権説が「皆」となり、軍拡と侵略が「希望」へと変わっていった。
9・11以後のアメリカでは、国際協調主義と寛容の精神が否定され、対テロ戦争の貫徹が「真理」となり、そのために市民的権利が制限されるのは「常識」となった。
1930年代のソ連における大粛清も、その発端は大衆的人気のあったキーロフが暗殺されたことで、スターリンが犯人捜しを始めたことにある。

プッシー・ライオットの行為は、日本では軽犯罪法違反に問われるものだが、その最高罰則は懲役一年であり、これを禁固15日で済ませたロシア司法は、むしろその寛容性を全世界に示してしまったことになる。同時に全世界のサッカーファンやクロアチア全国民を敵に回したという意味で、テロリズムとしても逆効果だったとすら評価できる。

昭和のテロルを生き延びた祖父、1960年代にテロルに従事した父を持ち、ソ連・東欧学徒として官憲テロルを研究、実際にテロルが吹き荒れた90年代ロシアを生きたケン先生としては、「自由とテロルをもてあそぶな!」としか言いようが無い。

【追記】
「ロシアの当局があんな小手先のテロを見逃したとは思えない、知っていて利用したのでは?」という専門家の方がいらしたが、1987年のルスト君事件(赤の広場セスナ機着陸事件)を失念されているようだ。同事件では軍関係者300人以上が解任されただけに、ロシア当局は顔を真っ青にしているだろう。とはいえ、今のところ警備関係者が処分されたという話を聞かないので、陰謀論の可能性も捨てきれないかもしれないが。なお、かのルスト君も犯行動機を「平和を呼びかけるため」と主張していた。彼の場合、禁固三年で後の恩赦で釈放されている。それと比べても、プーチン政権は相当に寛容である。
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2018年07月20日

国際情勢を見る視点

第一流の知性とは、二つの相反する考え方を同時に抱きながら、なおかつ思考を機能させる能力を持つことである。(スコット・フィッツジェラルド)

原文:The test of a first-rate intelligence is the ability to hold two opposed ideas in mind at the same time and still retain the ability to function.

冷戦研究の泰斗であるジョン・ギャディス先生が紹介されていたのを読み、「我が意を得たり」と思った次第。

つい先日、大手紙でデスクを務める後輩が「ロシアに自由はあるか」という上から目線の記事を書いているのを見て、「やっちまったな」「よい子ちゃんにも困ったものだ」と思っていたところだっただけに、改めて自らの中に知性を構築すること、政治や歴史を公正な視点から分析することの重要性を確認させられた。
その記事は、はなから自由を人類固有の権利である善として扱い、現代ロシアにどこまでの自由が存在するのか、あるいは認められているのかを問うコンセプトの上に成り立っていた。しかし、このスタンスに立った場合、「ロシアには自由が無い」「プーチン政権が市民を弾圧」という記事にしかならず、大半のロシア人からすると、「それが何か?」という反応になってしまい、どこまでも西側知識人の自己満足に終わりかねない。
この視点は、ちょうどソ連期における「ハンガリー動乱」「プラハの春」「アフガニスタン介入」などに対する西側知識人の感情的(脊髄反射的)反応に見られた、「悪の帝国であるソ連が、小国の民族自決を踏みにじって弾圧した」に酷似している。
これに対し、本ブログでは、全体主義研究の最前線から現実に起きた事象を再構築して記事にする試みを続けているが、いまだに一つの反論も無い。

・「プラハの春」とカーダールの苦悩
 
・ソ連のアフガニスタン介入における意思決定過程 
・ポーランド危機をめぐる経済情勢 

これらに共通するのは、全体主義を悪とせず、同時に自由主義を善とせず、二つのイデオロギーを並立させつつ、価値判断を挟むことなく、事象を分析するスタンスである。仮に、ケン先生がチェコスロヴァキアの改革派やポーランドの連帯に強いシンパシーを抱き、共産党を敵視するスタンスを採っていたら、既存の読み物と何ら変わらない記事になっていただろう。

自国・日本の安全保障問題についても、ケン先生自身は左派・リベラル派に身を置きつつも、記事を書くにあたっては、可能な限り、タカ派・介入主義・改憲派とハト派・宥和主義・護憲派の二つの論理や価値観を並立させつつ、「何故これが議論になっているのか」を問うスタンスを堅持するよう努めてきた。

・集団的自衛権容認の閣議決定を受けて 
・同盟のジレンマと非対称性 
・自民党は本音で安保を語るべき 

歴史検証に際しても、例えば私は幕臣の末裔にして佐幕派ではあるが、近代と前近代の価値観を並立させつつ論じるよう心がけている。幕末や明治維新を論じる場合も、近代原理や統一国家(明治帝政)を絶対善とするスタンスからは本質を見落としてしまうだろう。

・西南戦争の原因を考える 
・長州人から見た明治維新150周年 
・幕末のインフレーション 

現代の北朝鮮や中国を論じるにしても、「大量殺戮と飢餓輸出によって核開発を進める悪の帝国」とか「言論を弾圧し、表現の自由を認めない独裁国家」といった視点だけで見ると、見えない部分ばかりが増えてしまう。

例えば、中国の場合、卑近な例を挙げるなら、今回の私の就職は一教授の推挙で決まり、旅券の更新に必要な書類を事務方に求めたところ、その日のうちにPDFで送られてきた。これは、中国の大学組織において教授の権限が大きい一方、事務レベルの内容のものは事務レベルで決済できることを示している。これが日本の大学であれば、採用選考には数ヶ月を擁し、私が求めた書類の用意には1〜2週間はかかったはずだ。このことは、日本の組織が中央集権化しすぎて、末端の自由裁量が失われ、組織が重くなりすぎている一方、中国の組織は末端の自由裁量が大きく、迅速な意思決定を下せるシステムになっていることを示している。少なくとも、中国における経済的自由は、日本よりもはるか前に行ってしまっていると言えるくらいなのだ。これは、自由の定義を「政治的自由」に限定してしまう西側知識人の視野狭窄を示している。

ジェンダーの自由を見た場合、確かに中国ではLGBT運動は弾圧されているが、民間企業における女性管理職の比率は35%にも達しており、日本の7%(別の統計では12%)を大きく上回っている。幹部職員の93%が男性という日本企業に、自由があるとは言えないだろう。

あらゆる組織における上下関係でも同じことが言える。中国には共産党という絶対的な権威がある一方で、その他の組織内における上下関係は非常に緩く、部下の上司に対する物言いなども容赦が無いケースが多く、日本人的には「儒教国だよね」と言いたくなってしまう。しかし、そこは逆で、もともと公の概念が弱く、同時に上下関係が希薄だからこそ、「礼」の価値が称揚されたと見るべきなのだ。
他方、日本では現代に至るまで、部活動で「相手をぶっ壊してこい」と監督に命令されて、その指示に唯々諾々と従ってしまった挙げ句、監督は「指示が正しく認識されていなかった」と弁解して許されてしまう社会になっている。頂点に立つ支配者のみがあらゆるルールや罰則から「自由」で、被支配者は絶対的な従属下に置かれてあらゆる自由が奪われている。

国際情勢を見極めるためには、一つの価値観を絶対視すること無く、複数の異なる価値観を併走させて考える必要がある。同時に、ある事象はそれが発生するに至る原因と経緯があることを踏まえ、日頃から歴史研究の基礎を抑えておく必要がある。
posted by ケン at 12:51| Comment(3) | ロシア、中国、国際関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年07月09日

コカインとアヘン生産が過去最高

【コカインとアヘン生産、過去最高=コロンビア、アフガンで急増―国連】
 国連薬物犯罪事務所(UNODC)が26日に公表した年次報告書によると、2016〜17年に世界のコカインとアヘンの生産量が急増し、過去最高を記録した。依然として麻薬組織の勢力が強いコロンビアや、政情不安により政府の統制が及びにくくなっているアフガニスタンでの生産量増加が背景という。コカインの生産量は、最新の統計である16年に前年比25%増の1410トン。このうちコロンビア産が3割超増え、866トンとなった。
 一方、アヘンの生産量は、17年に同65%増の1万500トンとなった。うちアフガン産が約9割増の約9000トンと大部分を占めた。UNODCのフェドトフ事務局長は声明で「麻薬の市場は拡大している。多方面で、多角的な対策が必要だ」と呼び掛けた。 
(6月27日、時事通信)

GMT『ラビリンス』のプレイヤーとしては、ジハーディスト側のカード「Opium(アヘン生産拡大)」を思い出す。ジハーディストの資金が増え、アフガニスタンにセル(テロリスト)が複数置かれるという、アメリカにとって悪夢のカードである上に、何度でも使い回しが可能という恐怖そのものである(普通は回ってきても2回くらいだが)。

対テロ戦争や麻薬戦争で「アメリカの勝利」を謳っていた官僚・政治家やリベラル派の知識人は、この事態をどう説明するのだろうか。欧米諸国が「平和構築」に勤しめば勤しむほど、傀儡政権の腐敗が進み、統治力を失って、暴力と犯罪が蔓延して行く構図。

他方、欧米諸国では社会の停滞と退廃が進み、麻薬の需要がさらに増えてゆく可能性がある。アメリカの場合、あれだけ麻薬摘発に注力しながら、国内の麻薬流通量は1970年代からずっと横ばいのままだという。
AFPの報道によれば、
ケシの実に傷をつけるとにじみ出てくる乳液が凝固した生アヘンは、1キロおよそ163ドル(約1万8000円)で農家から買い取られる。それを精製して最終的につくられたヘロインをタリバンは地域市場で、1キロ2300〜3500ドル(約25万〜38万円)で売っている。ある専門家によると、こうしたヘロインは欧米へたどり着くころには、卸売価格でおよそ4万5000ドル(約490万円)になっている。
(2017.8.27 AFP)

とのこと。GMT社の『A Distant Plain』では、政府軍が麻薬撲滅活動を行うと、麻薬畑=軍閥基地こそ撤去されて国際評価は上がるものの、政府の腐敗が進んだ上(入手した麻薬で私腹を肥やす)、反政府感情が広がるという仕組みがゲームで再現されている。軽々しく「平和」などと言う連中は一度プレイすることをお薦めしたい。
posted by ケン at 13:07| Comment(2) | ロシア、中国、国際関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年06月18日

ジューコフ元帥回顧録

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部屋を整理中に発掘されたジューコフ元帥の回顧録、1983年版、50コペイカ。
ジューコフの回想録は、ソ連・ロシアの歴史を象徴する一つである。

ジューコフは農村の靴職人兼農家の家に生まれるも、父があまり働かなかったため、家は常に貧しく、三年間の初等教育のみを経て毛皮職人に徒弟入りした後、一次大戦に一兵卒で従軍、ロシア革命を迎え、赤衛軍に参加した。内戦終結時には、26歳で騎兵連隊長になっているが、殆ど銀英伝のような話である。この間も騎兵学校で半年ほど学んだのと、1929年冬から翌30年春までの半年間、陸軍大学で学んだことだけが、ジューコフが受けた教育らしい教育だった。ちなみに、同僚のイワン・コーネフに至っては初等学校すら出ておらず、同じく一兵卒から赤衛軍民兵を経て軍人となり、元帥まで昇進している。

にもかかわらず、本人は恐ろしいほどの勉強家で、78歳で死去した際には数万冊からの蔵書があったという。回顧録を書き始めたのは、70歳近くなってからで、一年間国防省公文書館に通い詰め、1500点以上の資料を引用、「回顧録自体が歴史書として成立するほどの精度をなしている」というのがロシアの歴史家の評価だ。
だが、この精確さが逆に災いし、当局の厳しい検閲にさらされ、1969年の初版発行に際しては、全体の約半分が当局によって削除、修正されたとされる。
また、1974年のジューコフの逝去に際しては、回顧録を執筆していた別荘をKGBが襲撃、原稿を回収すべく、徹底的な家捜しを行った。しかし、それを予測していた本人が予め親族に原稿を渡して隠すことで、難を逃れている。

その後、ペレストロイカ・グラスノスチを前後して、当局の検閲も緩和され、1980年以降、版を重ねるごとに修正部分が減り、オリジナルに近づいていった。ソ連崩壊後の1992年発行の第11版は、初版の752ページに対して、何と1159ページもあることだけを見ても、どれだけ検閲が入っていたか分かるだろう。ちなみに、写真の1983年版は第5版984ページで、ゴルバチョフが登場する前から「雪解け」が始まっていたことを伺わせる。
なお、2010年の第14版が「完全版」とされるが、960ページしかない。出版社は否定しているようだが、現政府の要求があったのか、自主規制しているのかを示唆している。

朝日新聞社が出した同回顧録の翻訳は、初版に基づいているため(全文では無い)、ソ連学徒としては、1992年の11版か95年の12版を日本語に再訳して欲しいと切に願っている。
posted by ケン at 12:43| Comment(2) | ロシア、中国、国際関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年06月15日

終焉に向かう東アジア冷戦・下

前回の続き)
霞ヶ関と自民党は、冷戦期における東欧諸国の政府と共産党と相似形にあり、宗主国アメリカの庇護がなければ本質的に存続し得ない。彼らの統治者としての正統性は、アメリカによって担保されているに過ぎないからだ。確かに日本では形式的に選挙が行われているものの、投票率は国政選挙で5割、自治体選挙で3割という始末で実態を伴っていない。その支配の正統性の担保が在日米軍であり、その撤退はアジア冷戦構造の終焉と、衛星国日本の体制崩壊を意味する。
それだけに、安倍政権と外務省は必死になって米朝会談の妨害を行ってきたが、失敗に終わった。

さらに近代日本の歴史を俯瞰した場合、日清、日露、シベリア(出兵)、太平洋戦争、さらには見方によっては日中戦争を含めて、帝政日本が起こした戦争の殆どは「やられる前にやってしまえ!」の発想に始まっていた。行動経済学的には、「10%でも損失ゼロにできる可能性があるならやるべきだ」という損失回避の法則から説明できる。

日清戦争の「勝利」を検証する 
日露開戦の代償−開戦経緯を再検証する 

日本では「シベリア出兵」として知られる「極東介入戦争」の場合、1917年の二月革命と十月革命によってロマノフ朝が瓦解し、ボリシェヴィキ政権が樹立する。ロシアの大戦からの脱落と東部戦線の崩壊を恐れた連合国は、ボリシェヴィキ政権を打倒すべく、軍事介入を決断する。日本は日本で、朝鮮と満州の利権を確立しつつ、シベリアに影響力を拡大、さらにロシアとの緩衝地帯を設けるべく、シベリアに傀儡政権を打ち立てることを視野に、宣戦布告無しでシベリアに侵攻した。日露戦争で排除しきれなかったロシアの軍事的脅威を完全に排除する目途もあった。「ロシアが復讐してくる前に先に仕掛けるべきだ」という議論は、当時も盛んになされた。
日本では学校でまともに教わることも無く、しかも「出兵」などとされているが、ロシア人的には全く言われ無き侵略であり、その死傷者は民間人を含めて50万人以上に上った。

現行の政府は明治政府の後継者であり、帝政や敗戦の反省を経ずに成立しているため、基本的な行動様式や思考パターンは継承している。従って、現状のまま米朝和解と朝鮮戦争の終結が進んだ場合、霞ヶ関や自民党は「アメリカがアジアから手を引く前に中国に仕掛けるべきだ」と考えるのが妥当だろう。その可能性は、以前なら0.1%以下だったものが、今では5%程度には上がっているはずで、その確率は今後さらに高まってゆくものと考えられる。
同時に、北朝鮮で核廃棄が(たとえゆっくりでも)進められる一方で、日本国内では急速に核武装論が浮上してくると見られる。単独で中朝韓と対峙する選択を採る以上、まず避けられそうにない。つまり、北朝鮮が脱重武装を進める一方で、日本が重武装と独裁を強めて行く可能性が非常に高い(今のところ7割くらい)。ケン先生が先手を打って亡命を決断した一因でもある。

現実に話を戻すと、冒頭の記事にあるように、アメリカと北朝鮮には核廃棄の資金を自前で出すつもりはサラサラなく、韓国と日本に丸投げしようとしている。韓国側では大きな問題にならないかもしれないが、日本側では「拉致問題が解決してないのに泥棒に追銭をくれるのか!」と世論が激高する恐れがある。そもそも、日本政府は米朝和解の可能性から目をそらし続け、会談も失敗すると言い続けてきた経緯があるだけに、どのように説明しても苦しいものにしかならない。
本来であれば、南北対立の終焉と武装解除をもってミサイル防衛システムも不要となるのだから、アメリカから買い付けているMDの予算を転用すれば良いだけのはずである。だが、霞ヶ関にとってはアメリカの歓心を買い続けることこそが至上命題である以上、「ミサイル防衛を止めます」とは言わないだろう。
その場合、財政難の政府としては増税で対応する他ないが、世論の納得を得るのは至難だろう。場合によっては、倒閣運動が起こって、より好戦的な内閣が成立する可能性もある。この点、ソ連・ロシアに対する敵意を煽り続けた結果、北方領土問題で妥協できなくなっている日露関係とよく似ている。

今回の米朝会談は、個別の議題や結果に囚われすぎることなく、「アメリカ覇権の衰退」「グローバリズムの終焉と地域ブロック化」「日本の衰退と孤立」などの大きい視点から俯瞰しないと、全体像を見失うことになるだろう。
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2018年06月14日

終焉に向かう東アジア冷戦・上

【非核化費用「韓国と日本が」 トランプ氏が会見で強調】
 トランプ米大統領は12日、シンガポールで行われた米朝首脳会談後の記者会見で、北朝鮮の非核化で必要となる費用について、「韓国と日本が大いに助けてくれる」と述べた。
 北朝鮮は制裁を受けており、費用を払えるのかと記者が質問。トランプ氏は「韓国と日本が大いに助けてくれると私は思う。彼らには用意があると思う」と答えた。さらに、「米国はあらゆる場所で大きな金額を支払い続けている。韓国と日本は(北朝鮮の)お隣だ」と強調した。
 トランプ氏は先月24日、米朝首脳会談の開催を取りやめるといったん発表した際にも、「不幸にも米国が軍事作戦を取る場合、韓国と日本はあらゆる財政負担を喜んでしてくれる」としていた。
(6月12日、朝日新聞)

日本国内では米朝会談・セントーサ合意は「失敗」「成果無し」と評価する向きが強いが、これは政府あるいは官邸の意向を忖度したものと見るべきだろう。
・相互に信頼し、非核化を進める
・新しい米朝関係を築く
・平和体制の構築に努める
・4月の「板門店宣言」を再確認し、北朝鮮は非核化に努める
・両国は捕虜や行方不明兵の遺骨回収に努める
・米朝首脳会談は画期的で新しい未来を始めるものだと認識する
・ポンペオ米国務長官と北朝鮮高官がフォローする交渉をできる限り早く開く
(朝日新聞より)

確かに合意文書は具体的内容に欠けている。だが、例えば1989年12月にソ連のゴルバチョフ書記長と米ブッシュ大統領が行ったマルタ会談では、「冷戦の終結宣言」以外に特段の具体的合意は交わされなかったが、現実に東西冷戦の終結を象徴するものとなった。今回の米朝会談も「儀式に過ぎない」「トランプ氏の目立ちたがりだけ」などの批判が多く見られるが、政治はそもそも宗教儀式の延長として生まれた概念であることを鑑みても、ショー的要素は意外と重要なのだ。
例えば、今回の合意にある「板門店宣言を再確認」で考えた場合、
北と南は、停戦協定締結65年になる今年に終戦を宣言して停戦協定を平和協定に転換し、恒久的で強固な平和体制構築のための北・南・米の3者、または北・南・中・米の4者会談の開催を積極的に推し進めていくことにした。
(4月28日、朝鮮中央通信)

とあるように、明確に「朝鮮戦争の終結」を謳っている。再確認したということは、今年中に終戦宣言を行って、平和条約を締結する方針に変わりは無いことを意味する。それが今回の会談で行われなかったからと言って、騒ぎ立てるほどのものではない。

また、記者会見に際してトランプ大統領は、「戦争ゲームをやめる。膨大な量の金を節約できる」と述べ、米韓軍事演習の停止を宣言、将来的な在韓米軍の縮小、撤退の可能性にも言及した。
トランプ大統領の目的は、北朝鮮の核廃棄によって自国の安全を担保しつつ、同時に東アジア全域におけるアメリカの軍事的負担を縮減することにあると考えられる。これは、ゴルバチョフ氏が、財政上の理由から、東欧全域よりソ連軍を撤退させた経緯と酷似している。
米中間の敵対関係が望ましくない以上、アメリカにとってアジア諸国にある米軍の存在はリスクでしかなく、そこに重い財政負担が掛かっているのであれば、真っ先にリストラすべき対象なのだ。ビジネスライクに考えれば、なおさら妥当な判断である。
その決断が、従来できなかったのは、オバマ氏やヒラリー氏のような米民主党系人脈の方が、軍産複合体と近かったことに起因していると考えられる。
なお、在韓米軍は朝鮮戦争に際して介入した国連軍の一部ということで、停戦監視の名目で駐留しているだけに、朝鮮戦争の終結によって駐留の根拠が失われることになる。

極論すれば、南北朝鮮が平和裏に統一を果たすか、安定的な共存体制ができて、中国の影響圏に入って核兵器も中国のコントロール下に置かれるのであれば、実際に朝鮮半島から核兵器が撤去されるかどうかについては、米国の利害には関係ないところとなる。トランプ氏が、いわゆるCVIDにこだわらないのは、実はそこは最重要ではないと考えるのが自然なのだ。

ところが、これが日本(自民党・霞ヶ関)にとっては最悪の状況となる。
本ブログでは何度も触れているが、朝鮮戦争の終結は冷戦構造の変化を意味するもので、冷戦の最前線が北緯38度線から日本海に移ることになる。従来は、韓国を盾となして、米軍が矛となって中朝軍を撃退する戦略が採られており、日本は後方基地の役割をなすだけで良かった。そのため、韓国のような重武装を持つ必要は無く、軍事負担を軽くしたまま国内のインフラ整備と産業振興に予算を回し、高度成長の基礎を築いた。
その後、冷戦構造の変化によって、1990年代より海外派兵能力を持つようになり、2000年代に入ると中国の隆盛を受けて海空戦力の強化に努めるようになった。しかし、いずれの場合も、あくまでも従来の構造を前提としており、朝鮮戦争の終結は想定していなかった。

朝鮮戦争の終結は、在韓米軍の撤退と朝鮮半島の中国圏(新中華帝国)入りに直結する。韓国は従来、北朝鮮などとの対抗上、日本に戦後補償などについて大きく譲歩してきたが、南北対立が解消した場合、中華圏入りによって日本よりもはるかに大きい市場を獲得できることもあり、日本に遠慮する必要が無くなる。一方、日本は衰退傾向の中で、中国や朝鮮に対する差別意識を一層強めており、日本と朝韓間の対立は今後さらに激化して行くものと見られる。
1980年代までは、日本は有効な海軍力を持たないソ連を仮想敵とし、90年代後半から2000年代始めには北朝鮮、2000年代後半以降は北朝鮮と中国を仮想敵としていた。しかし、今後は韓国が同盟から抜けて中国側に付き、日本は中朝韓と単独で最前線を維持する必要が生じている。だからこそ、安倍政権は必死になってロシアの抱き込みを図っているのだが、ロシア側に足下を見られると同時に、日本側の不誠実もあって、上手くはいっていない。
以下続く
posted by ケン at 12:57| Comment(0) | ロシア、中国、国際関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする