2016年04月04日

帝国が衰退する時

【トランプ氏、日本の核保有容認を示唆 在日米軍撤退論も】
 米大統領選の共和党候補者指名争いで首位のドナルド・トランプ氏(69)が、日本の核兵器保有を容認する考えを示唆した。米紙ニューヨーク・タイムズが26日に掲載した同氏のインタビューで、在日米軍などの大幅削減を主張する一方、核兵器開発を進める北朝鮮に対抗するため、日本の核保有もありうるとの見通しを示した。同氏はインタビューで、「もし日本に(北朝鮮による)核の脅威があるならば、(日本の核保有は)米国にとっても悪いことだとは限らない」と語った。また、「我々が攻撃されても日本は何もする必要がないのに、日本が攻撃されれば米国は全力で防衛しないといけない。これは極めて一方的な合意だ」と日米安保協力に不満を示した。
(3月27日、朝日新聞)

自分がソ連・東欧学徒であるためではあるが、ゴルバチョフ氏が東欧ブロックを手放したケースで考えると分かりやすい。帝国の衰退とはこういうものなのだ。ゴルバチョフ氏が書記長になった1985年の時点で、ソ連が自ら東欧ブロックを解体するなど殆どの人は想像もしなかった。だが、現実にはその4年後には同ブロックは解体、さらにその2年後にはソ連邦自身も消失してしまった。
日本のケースで考えても良い。徳川慶喜が、朝廷の懇願を受けて将軍位に就いたのは1866年12月のことで、長州戦争に敗退して幕府の権威が大きく揺らいでいたが、それでも倒幕派の重鎮たちは「これで御一新が十年は延びた」と言い合ったという(維新後の回顧)。実際、慶喜主導の下、幕府はフランスから借款を得て製鉄所と造船所を建て、軍事顧問団を招聘して軍制改革を行い、急速に近代化を進めた。だが、一年と保たずに、翌67年10月には大政を奉還、68年1月には鳥羽伏見戦をきっかけに戊辰戦争が始まった。

ゴルバチョフ氏にしても、徳川慶喜にしても、一国の最高責任者として体制の限界を十二分に自覚しており、それ故にペレストロイカと近代化を進めたが、情勢の変化に追いつかず、東欧ブロックあるいは幕藩体制の解体に手を付けざるを得なかった。興味深いことに、どちらの場合も、危機感を抱いていたのは本人と周辺の人間だけで、むしろ敵対側の人間(この場合、西側や倒幕派)ほど、体制の強固さを誤認して過剰評価していた。

恐らくは、オバマ氏やトランプ氏も同様の危機感を持っているものと推察される。故にオバマ大統領は、中東からの撤退を進め、ウクライナ問題はEUに押しつけようとしている。欧州は欧州で、自分たちの手による植民地間接統治に失敗した結果が、大量の難民とテロという現象を引き起こしているにもかかわらず、その対応で手一杯になってしまい、西側ブロックの一員としての役割を果たせなくなりつつある。
米国はアフガニスタンとイラクの統治に失敗した。その後、リビアとシリアへの介入では西側ブロックが十分に機能せず(英仏が直接介入に不同調)、単独による軍事介入を見送った。ここでも、アフガニスタン介入に失敗して泥沼化させてしまったソ連が、ポーランドへの軍事介入を見送った経緯が思い起こされる。江戸幕府も、長州戦争以降、他藩に対する武力行使を行っていない。

・ソ連は何故ポーランドに軍事介入しなかったのか

オバマ政権が中東から手を引くのを見て、トランプ氏は「その次」を見据えて「アジアからの撤退」を主張、それに真っ向から反対して従来の帝国路線を唱えているのがヒラリー氏や他の共和党候補という構図になっている。
特にトランプ氏の場合、自身が実業家であるためか、「経済的権益が確保されるのであれば、軍事的支配は無用(むしろ有害)」と考えている節があり、在日米軍の撤退に触れると同時に、中国に対する関税引き上げや貿易格差の是正を主張している。巨額の軍事費を使って、軍事的衝突のリスクを抱えて、中国の軍事的進出を止めようとする現行の安全保障戦略は、少なくとも米国にとってメリットよりもデメリットの方が大きい。まして、尖閣諸島をめぐる日中対立にアメリカが首を突っ込むなど、何のメリットも無い。日本もそれを理解しているからこそ、「アメリカの戦争に日本も参戦します」と宣言したのが、今回の安保法制だった。

大統領選挙の戦略上、ヒラリー氏やクルーズ氏は「帝国の復権」を呼号しているが、現実には「帝国の落日」は避けられそうにない。連邦債務は17兆ドルを超え、フードスタンプ利用者は5千万人を超えて利用制限が課されるようになった。刑務所の囚人が230万人を超え、仮釈放と保護観察下にあるものが500万人を超えるという「収容所群島」ぶりだ。これらの事実については、日本ではまず報じられない。

傀儡政権を担ってきた自民党と霞ヶ関が、ますます「日米同盟の強化」「同盟の絆」などと叫ぶのは、ある種「断末魔の叫び」であり、ベルリンの壁崩壊前の東独でホーネッカーが「ソ連邦同志との絆」を訴えるのを彷彿とさせる。だが、たとえ形式的であれ、民主主義体制下にある日本の野党までそれに便乗する必要は無く、我々は「米軍撤退後」を見据える必要がある。
その場合、日本が採り得る選択肢は、一国で中ロと対抗する軍事大国路線か、中国の影響圏入りを認めるかの2つに1つと考えられる。だが、衰退傾向にある日本が軍事大国路線を採るという選択肢は全く現実的ではなく、また昭和の悪夢でしか無い。となれば、他のアジア諸国と連携して、「いかに中国と共存するか」を模索するほか無いだろう。しかし、現実には、「日米同盟強化」を理由に日本は対中脅威を煽り、歴史認識問題などからアジアで孤立して、非常に難しい状況に置かれている。

自民党の宣伝ビラは逆効果? 

詳細は別の機会に論じたいが、日本も1990年代に細川政権が「常時駐留なき日米安保」を構想したことがあったが、短期政権に終わって羽田内閣を経て自民党(自社さ)政権に戻ってしまった。それから15年を経て民主党鳩山政権が同様の構想と東アジア共同体構想を提唱しようとしたが、陸山会疑獄と鳩山バッシングに沈み、菅・野田政権で「日米同盟強化」に逆戻りし、今日に至っている。この点で、民進党岡田執行部に安倍政権と安保法制を非難する資格は無いと言える。
だが、日米安保に固執して日中関係を悪化させればさせるほど、在日米軍が撤退した後の空白リスクが高まるのは間違いなく、下手をすれば、米国の傀儡である自民党政権が倒壊して、親中権威主義政権が樹立し、デモクラシーの形骸化が急速に進む恐れがある。そのリスクを軽減するためにも、今から野党の手で日米安保に替わる代替案を用意しておくべきだ。
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2016年04月01日

右傾化する東欧諸国を考える

ヨーロッパでは旧東欧諸国で右傾化が際立っている。ハンガリーは2011年に憲法が改正されて、大統領の権限が縮小されて首相の権限が強化された他、憲法裁判所の裁量も縮小された。また、内閣が中央銀行の人事権を握り、教育の中央統制を強化、民間放送の政治報道を大幅に制限した。EU内では「権威主義への回帰」と非難する声が高まっているが、政権党「フィデス」は相対多数の支持率を維持している。
フィデスの場合も、フランスの国民戦線と同様、一般的には「極右」と報道されているが、本来は共産党(社会主義労働者党)の系譜を引く社会党に対抗する、キリスト教系保守政党だった。従来の意味での極右政党は外国人排斥やEU離脱を掲げる「ヨッビク」であろう。
ハンガリーの場合、共産党独裁からデモクラシーへの移行が穏便に行われ、後継の社会党によるエリート支配の仕組みが一部温存された。そして、本来は左派政党であるはずの社会党が市場経済化を進めると同時に、社会保障の切り下げなどを推進したため、右派政党であるフィデスが再分配政策を掲げて国民の支持を得るという、従来の「左右」の構図では説明しきれない形になっている。

ポーランドでも昨年の総選挙で右派の「法と正義」が勝利して政権に就き、中央銀行や憲法裁判所への人事介入、マスコミ統制を進めるほか、難民の受け入れ制限や教育の中央統制などを打ち出している。
「法と正義」の場合も、前政権党「市民プラットフォーム」が新自由主義に基づく公的部門の縮小に対するアンチテーゼを掲げ、高齢者の医療費無料化、子ども手当、最低賃金の引き上げといった従来の左翼的政策を前面に出すことで、政権交代を実現している。
ただ、ポーランドの場合、社会民主主義政党や共産党の後継政党が存在しないという点で、東欧の中でも特異な政治情勢にあるとは言える。

同志がコメントで触れた「ピラニア」の喩えではないが、冷戦期にはソ連・東欧ブロックが西側自由陣営の対抗軸として厳然と存在していたため、そのアンチテーゼとして西側は自由と民主主義を強調すると同時に、社会保障を充実させて労働者階層を慰撫する必要があった。ところが、ベルリンの壁が崩壊し、ソ連邦が消失したことで、西側陣営は「ピラニア」を喪失、自由と民主主義は相対的価値ではなくなり、労働者階層を慰撫する必要もなくなった。卑俗な言い方をすれば、「釣った魚にエサはやらない」状態になった。1990年代から2000年代にかけて新自由主義が猛威を振るった背景である。
日本の場合、NK党だけでなく社会党までもがマルクス主義の呪縛から逃れられないまま解党を迎えたため、今や旧東欧圏にも存在する、社会民主主義政党が存在せず、「右派・保守か共産か」という狭い選択肢を余儀なくされている。

興味深いのは、2000年代にロシアが急速に復興したのに対して、東欧諸国が脅威を覚えたのは当然としても、ロシアの権威主義への対抗方法として、自分たちも権威主義化を進めている点にある。日本も同じで、中国の経済成長や軍備拡張に伴い、急速に権威主義化が進んでいる。もう一つ共通点を挙げると、第二次世界大戦前、この三国はともに権威主義体制にあった。日本は帝政、ハンガリーはファシスト政権、ポーランドは軍部独裁下にあった。
この点について、E・トッド先生の指摘は示唆に富んでいる。1929年に起きた世界恐慌後の各国の選択は以下の通りだった。ドイツ=ナチス、日本=軍閥、イギリス=何もしない保守党、アメリカ=ルーズベルト、フランス=人民戦線。これが意味するところは、ドイツと日本が暴力的解決を志向したのに対して、イギリス人が政治解決を拒否して自力救済を選択、アメリカ人とフランス人は平等的解決を望んだということ。恐らく歴史上唯一の例である、企業の内部留保に対する課税はこの時のルーズベルトが行った(但し失敗した)。
これは、大きな問題が発生した時に、その解決手段として合議(プロセス)を重視するか、決断(時間)を重視するか、という文化的側面もあるのかもしれない。

もっとも、現代のハンガリーとポーランドは国家社会主義を志向しているが、日本は国家資本主義(開発独裁?)を志向している点で大きな違いはある。この辺りのことは、今後も考えを深めて行きたい。また、日本だけでなく、韓国も権威主義化が進んでいることは、やはり西側ブロックの衰退に伴うドミノ現象の一環と捉えるべきなのかもしれない。それは、東側ブロックの崩壊が、東欧諸国の民主化を誘発し、西側ブロックの衰退が権威主義化を誘発していることと、非常に軌を一にしているだけに、今後も注視して行く必要があろう。

【追記】
東欧諸国の中でもチェコが権威主義化していないのは、大戦前からデモクラシーの伝統があることと、それ以上にロシアの脅威に直接接していないことが大きいと考えられる。

【参考】
左右の定義 
右翼のヤバさと中道の難しさについて 
日本の反インテリ闘争小史 
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2016年03月24日

ヤンキーならトランプ選びマス

【「ロシアはお祭り騒ぎに」=トランプ氏の主張通れば―クリントン氏・米大統領選】
 米大統領選の民主党指名争いの首位に立つヒラリー・クリントン前国務長官(68)は23日、カリフォルニア州での講演で、共和党候補トップの不動産王ドナルド・トランプ氏(69)の「外交政策」をこう批判した。日米同盟や北大西洋条約機構(NATO)は米国への財政負担が重過ぎるとするトランプ氏の主張を念頭に置いた発言だ。クリントン氏は「ロシアと中国は世界的な同盟網が米国の戦略的強みだと分かっている」と指摘。「同盟に背を向ければ危険なシグナルを送ることになる。米国の安全は損なわれ、世界はより危険になる」と強調した。
(3月24日、時事通信)

自称有識者たちは大騒ぎしているが、アメリカ人なら普通トランプ氏かサンダース氏を選ぶだろう。ヒラリー氏の主張は、ソ連共産党におけるゴルバチョフらに対する保守派の批判にそっくりだ。ソ連研究者たちは笑いが止まらないに違いない。
誰も書かないから、やっぱり自分が書くしかないようだ。私はもちろんアメリカの専門家では無いため、あくまでも一般論として書くが、自称あるいは他称「米国通」とされる連中が、こぞってトランプ候補をディスっているのを見ると、「安保マフィアの陰謀かよ」と思えてくる。が、これについては、最後に記す。

ソ連史を学んだ者は、ソ連が冷戦に敗北して崩壊したのは、一義的には市場経済化による経済成長を実現できなかったこと、二義的にはアメリカとの軍拡競争の財政負担に堪えられなくなったこと、三番目の理由として同盟国支援の経済負担に堪えられなくなったことがあるのを知っている。
ソ連は、第二次世界大戦の「戦果」として東欧ブロック(経済圏)を構築したが、各国の経済自立は難しく、ソ連から資源を国際市場よりも大幅に安く仕入れることで何とか生き延びていた。だが、ソ連圏が拡大しただけでなく、いつまで経っても経済的に自立できない同盟国を抱えたソ連は、自国の経済的停滞とともに、同盟国支援の財政負担が重くなっていった。最終的にゴルバチョフが、東欧諸国を「見捨てた」のは、ソ連がもはやその財政負担に堪えられなくなったことが大きい。

これに対して、現在の米国は産業が完全に空洞化して、フードスタンプ利用者が5千万人に達するほど貧困化が進んでいる。そして、世界最大にして最強の軍隊を抱えながら、実情としては非対称戦争に役に立たないものと化しており、存在するだけで巨大な維持コストが掛かっている。言い換えれば、国民生活を犠牲にして「世界最強」の軍隊を抱えながらも、現実には「世界の警察官」を担えないという、「張り子の虎」と化している。さらに、「西側自由陣営」を維持するためには、同盟国(親米国)を支援する必要があるが、今の米国にはもはやそれだけの財政力は無い。あれだけ大騒ぎしたウクライナに対して、オバマ政権がどれだけの支援をしたか見れば明らかだろう。もっとも、現在のアメリカはTPPやFTAに象徴されるように、同盟国から収奪する政策を採っており、「同盟国支援の財政負担」というよりは「度重なる戦費負債」の方が重いのかもしれない。

トランプ氏は、センセーショナルな主張に目を奪われがちだが、政策の根幹は意外と現実的だ。その主なものを挙げると以下のようになる。

・移民規制の導入

・法人税下げと最賃下げによる産業の国内回帰促進

・米中貿易格差の是正

・米軍再編(海外展開の大幅縮小)

・個人武装権の担保


トランプ氏はソ連崩壊前後にロシアで事業展開したことがあるだけに、ソ連崩壊のプロセスを熟知している可能性がある。上に私が挙げたソ連崩壊の要因を回避するためには、「国内市場の活性化」「軍事費の大幅削減」「同盟国の切り捨て」が必要となる。ソ連の場合、同盟国を切り捨てただけで崩壊してしまっただけに、事情を知るものとしては強い切迫感を抱いて当然なのだ。ト氏の政策は米国的手法(自由主義的)ではあるが、この3つの課題を抑えていることに注目しなければならない。

ちなみに、1979年にソ連共産党政治局でアフガニスタン介入が審議された際、当初は否定的な見解が大勢を占めたものの、最終的には「友党を見捨てることはできない」との判断に落ち着いて介入が決定されたが、その2年後のポーランド危機に際しては「我々はリスクを冒すことはできない。ポーランドに軍を介入させるつもりはない」「もしポーランドが連帯の手に落ちたとしても、それはそれだ」(政治局会議におけるアンドロポフの発言)とまで言い切るようになっている。
また、ゴルバチョフが書記局に入ったのは1978年だったが、まず農業担当として正規の統計を閲覧して、その危機的状況に愕然とし、さらに85年に書記長に就任するが、そこで初めて国家全体の統計数値を見て、一刻の猶予も無いことを自覚させられたという。

今回の米大統領予備選挙で、トランプ氏とサンダース氏のみが非従来型の政策を主張しており、その他の候補はことごとく従来型の大国・介入主義を貫いている。合理的な米国人であるならば、従来型の大国主義を継続するのがもはや不可能であることを十分理解しているはずだ。自由主義的手法で経済再生を図るトランプか、社会主義的手法で再分配を図るサンダースか、という違いはあるものの、その狙いは「西側ブロックの盟主を辞めて、一国の再生を図る」ところにある。ただ、共和党員は歴史的に孤立主義に親和的であり、民主党員は介入主義寄り(ルーズベルト幻想)であることが、民主党では従来型政策を掲げるヒラリーを有利にしているものと見られる。
トランプ氏は「アメリカのゴルビー」となる可能性はあるものの、「西側ブロックの盟主を辞める」という選択肢は、非常に合理的だと言える。

なお、日本で「知米派」と目されるジャーナリストや学者がこぞってトランプ氏を非難しているが、これはトランプ氏が大統領になった場合、在日米軍が撤退し、日米安保体制が大幅に変更される可能性があるためだと思われる。
つまり、日本を支配する「安保マフィア」たちからすれば、トランプ氏やサンダース氏は自分たちの傀儡的地位を脅かす「悪魔」でしかない。安倍氏をホーネッカーに喩えれば、トランプ氏はゴルバチョフに相当するだけに、外務省を始めとする霞ヶ関にとっては悪夢なのだ。

オバマ大統領の言動を見ている限り、氏も「西側の盟主であり続けるのは不可能」と考えている節が見られるのだが、ウクライナやシリアを見れば分かるとおり、口では立派なことを言いながら、実際には何もしないという非常に中途半端な政策になってしまっている。それだけに、ヒラリー氏やクルーズ氏が積極的介入を唱えることで、従来型政策の支持を集める一方で、トランプ氏のように「盟主辞任」を明言する者も現れたと考えられる。
だが、今回の大統領選でヒラリー氏やクルーズ氏を選ぶということは、ゲーム的に言えば、1985年のソ連で「ゴルバチョフを選ばずにペレストロイカもやらない」という選択肢を採ることと同義になる。その場合、数年は現行体制を延命できるかもしれないが、国家を再生するラスト・チャンスをも失うことになるだろう。
posted by ケン at 12:02| Comment(2) | ロシア、国際関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年02月22日

ロシアとの外交は成立するか?

【<露外相>4月来日へ…日露首脳会談、ソチで調整】
 日露両政府は15日、東京都内で外務次官級協議を行い、ラブロフ外相が4月中旬に来日する調整を始めることを確認した。両政府は安倍晋三首相が5月上旬の大型連休中にロシア南部ソチを訪れ、プーチン大統領と首脳会談を行う検討を進めている。同日の協議でも議論したが、具体的な内容は明らかにしていない。北方領土問題についても具体的な交渉は行わなかった。
 日本側から原田親仁政府代表兼日露関係担当大使、ロシア側からモルグロフ外務次官が出席して約5時間にわたって行われた。北方領土問題をめぐって、ロシア側は「解決済み」との立場を崩さないため平和条約締結交渉は難航しており、協議では次回の交渉日程を話し合うにとどまった。両政府は事態を打開するため首脳や閣僚間の意見交換の必要があると判断。ラブロフ氏が来日して岸田文雄外相と論点を整理した後、安倍首相が訪露し、首脳会談を行う。
 安倍首相の訪露は、地方都市であるソチへの非公式訪問の形式をとる。具体的成果よりも首脳間の対話継続を重視したもので、プーチン大統領の来日日程についても調整を進める。 前ロシア大使の原田氏は新設された担当大使に1月に就任後、初めて協議に参加し、この協議の名称を「日露外務省ハイレベル協議」に変更することも決めた。協議ではほかに、北朝鮮の核実験やミサイル発射を受けて決定した日本の独自制裁についてロシア側に説明し、国連安全保障理事会で制裁決議について緊密に連携することで一致。ウクライナやシリア問題についても議論した。
(2月15日、毎日新聞)

安倍一派はやたら対ロ外交に固執しているように見えるが、そもそも外交が成立するのかナゾ過ぎる。言うまでも無いことだが、外交というのは相手がいて、互いに要求をぶつけ合って、どこまで譲歩し、何を与えて何を取るか、という話である。ところが、いまの日本に「与えるもの」があるのかと聞かれても答えられないし、その割に要求ばかりが多い。例えば、

「北方四島返せ」(日ソ共同宣言違反)
「オホーツク海で漁させろ」(流し網で採り尽くし)
「対中包囲網に加われ」
「北朝鮮に圧力かけろ」
「シベリア抑留の記憶遺産登録に文句言うな」(自分は中国にクレーム)
「お前の天然ガスは買わない」(インドネシアから買うから)
「ウクライナとシリアに関わるな」(自分は海外派兵解禁)
「核廃棄物もらってくれ」

といった感じに目白押し状態だが、日本側が提示するのは、

「制裁緩和してやる」(そもそも経済関係が希薄)
「もうちょっと木材買ってやってもいい」(企業にお願いするだけ)
「シベリア投資の口利きしてやってもいい」(日本企業に余力無し)

程度のものであり、とても外交交渉(取り引き)として成立しそうに無い。
これでいったい何を交渉しようというのか、どなたか浅学なそれがしにご説明いただきたい(爆)
posted by ケン at 13:23| Comment(0) | ロシア、国際関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年01月14日

北朝鮮核実験の周辺と背景にあるもの

北朝鮮が1月6日に実施した核実験については、まだ専門家からレクも受けていないし、ロシア側の分析も読み込んでいないので、とりあえず勝手な推測だけ述べておく。
今回の実験は、普段なら必ずある予告や予兆の類いが全く見られず、専門家から見ても「突然」のものだったようだ。だが、その一方で日本政府の対応は、まるで準備していたかのように淡々としたものだった印象がある。北朝鮮当局から日本政府に秘密裏に予告がなされていたとは思えず、恐らくはアメリカ等から情報提供を受けていたものと見られる。今から調べてみると、12月上旬には「北朝鮮の核実験場で新たなトンネル建設か」旨の報道が確認されるので、諜報機関は何らかの予測を立てていたとしてもおかしくない。

そう考えると、年末になって唐突に日韓の慰安婦問題が不自然な形で合意した背景が透けてくる。つまり、北朝鮮の核実験再開を防げないと判断した米国が、次善の策として日韓宥和を命じ、対北同盟の手綱を引き締めたということだろう。
北朝鮮の核実験再開(最後は09年)は、金正恩体制が「強硬(ハード)路線」を選択、六カ国協議の枠組みを拒否して、対米・対中自立路線を示したことを意味する。六カ国協議は、北朝鮮に核兵器・開発を放棄させる代わりに、北朝鮮の体制を認め経済的自立を支援、中長期的には南北対立を解消して、東アジアの集団安全保障体制を確立するというもので、米国的にはアジアから軍を撤退させることまで視野に入れていた。在日米軍に権力基盤を求める自民党と霞ヶ関は、「北の脅威」が消失することを恐れるがあまり、六カ国協議に非常に消極的だった(外務省内の推進派は粛清された)。六カ国協議に消極的だったのは、北朝鮮だけでは無かったのだ。

北朝鮮は北朝鮮で「合理的な選択」をした可能性が高い。金正恩体制へと移行して外交路線の再検討がなされたと推測されるが、その選択肢は主として「独自路線」と「六カ国協議」の二択だったと思われる。だが、これまでの現実は米欧に従って化学兵器を廃棄したイラクのフセイン政権は軍事侵攻を受けて瓦解し、無惨な末路を迎えた。核開発を放棄したリビアも、似たような末路を迎えた。同じく核査察を受け入れたイランは、アラブ諸国と対立する中で切り札を失って不安な状態にある。つまり、現実の政治は、大量破壊兵器の放棄によって得るものよりも失う物が多いことを示している。小国の安全保障政策として、核武装した大国から「武装解除」を命じられて「はい、分かりました」と応じた場合、丸裸にされるのは小国の側だけで、後は「大国の信義」に頼るほか無いということになり、それはすでに政治では無い。大量破壊兵器の存在こそが「安全保障の要」である例証ばかりとなっているのだ。

実際のところ、ソ連崩壊の経験は、大量破壊兵器を所有する国家が瓦解した場合、同兵器が拡散して他国やテロリストの手に渡る危険性が高まることを示しており、アメリカにしても中国にしても、金体制を瓦解させられないジレンマに陥っている。ソ連崩壊で拡散したはずの大量破壊兵器が今日までテロに使われていないのは奇跡的なことである。北朝鮮が核技術を高めれば高めるほど、小国やテロリストからの需要が高まり、列強諸国は体制瓦解を画策できなくなる構図になっている。

他方、日本政府としては内心、核実験再開を喜んでいるはずで、「これ幸い(天佑)」とばかりに「北の脅威」を囃し立て、「日米同盟強化」「軍事権の拡大」「緊急事態法制」を主張してくるだろう。ケン先生的には外務省幹部を捕まえて「おめでとうございます!」と言ってやりたい気分だ。しかも、「濡れ手に粟」で、極めて日本に有利な形で慰安婦問題が解決しているだけに、笑いが止まらないに違いない。
だが、喜んでいられるのは今だけだろう。政府間で合意がなされたとはいえ、日韓の国民感情は悪化の一途を辿り(カネを投げつけられて喜ぶものはいない)。朝鮮半島をめぐる対立構造は全く解決しないまま、北朝鮮が核開発を進めると同時に、日本が軍拡(軍事権の自主拡大を含む)を進め、下手すると日本も韓国も核武装の検討に入る恐れがある。
笑えないのは、米国の現実主義者たちが、せっかく東アジアの対立構造を解消した上でアジアから手を引く方向で画策していたのに、日本などがそれを邪魔したために、対立構造を残したまま「俺の手には負えないから後は中国さんにお願いしてよ」と勝手に引き上げてしまう可能性が高まっていることだ。霞ヶ関官僚や自民党員は「米国の信義」を信じているようだが、そんなものは大戦中の「ソ連の信義」と同様、全く信じるに値しない。誰しも他国の安全よりも自国の安全を優先するものだからだ。

日本では今年中に衆参ともに選挙が行われ、そこで自公勢力が議会の3分の2を占めた場合、自民党の改憲案が上程されて、権威主義体制と戦時体制が確立する恐れがある。日本もまた東アジアの脅威度向上に多大な貢献をしているのだ。

なお、北朝鮮が行った核実験について、「発表されたような水爆では無い」とする見解が多い。これはなかなか難しいところで、アメリカからすれば「北が水爆を持っている」ことを認めるわけにはいかず、仮に本当に水爆だったとしても容易には認められない。とはいえ、実際に実験によって感知された「地震」の規模は確かに以前と同様のものだったようで、水爆であることを示す根拠は示されていないため、北がハッタリをかましている可能性も十分にあり、本稿では私も「核」とした。

【追記】
冷戦期、西側諸国はずっと「東からの脅威」を煽ってきたが、ベルリンの壁が崩壊していざフタを開けてみると、大ウソとも言える誇張だったことが判明した。1989年、西ドイツはレオポルド2を1800輌配備し、レオポルド1を民間防衛隊に格安で払い下げていたのに比べ、東ドイツ軍が保有していたT−72は200輌ほどで、それも稼働100時間毎にエンジンを分解整備しなければならないという不良品だった。私もVG社の「NATO」をプレイして、「東に奇襲されたらやべぇ」と思っていた一人だが、実は騙されていたのだ。
posted by ケン at 12:24| Comment(4) | ロシア、国際関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年01月06日

ラビリンスやらずとも同じ結論

【対テロ戦争、「勝者はテロリスト」 米世論調査】
 米国率いる有志連合が2001年の米同時テロ以来続けてきた対テロ戦争は、テロリスト側が勝利を収めつつある――。そう考える米国人がかつてなく増えている傾向が、CNNとORCが28日に発表した世論調査で浮き彫りになった。欧米諸国で過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」によるテロ事件が相次ぎ、テロ対策を巡るオバマ米大統領への信頼は揺らぎ、来年の米大統領選を控えて共和党の候補者は有権者の不安をあおる。
世論調査では74%が、対テロ戦争の進展に満足していないと回答。テロリストが勝利しつつあると答えた人は40%に達し、これまでの最高だった2005年8月の数字を17ポイントも上回った。オバマ大統領のテロ対策については60%が不支持を表明、ISISへの対応についても64%が不支持だった。
イラクでは政府軍が米軍による空爆の援護を受けて要衝のラマディをISISから奪還した。米政府はこの勝利について、イラク軍の「勇気と決意」の証しだと称賛。ホワイトハウスにはISIS撲滅のための軍事戦略だけでなく、テロに対する不安の増大を巡る米国内での政治戦争を制する作戦も求められている実態を見せつけた。
(12月29日、CNN)

GMT社の「ラビリンス−テロ戦争」をプレイすれば分かると思うが、仮にアメリカがシリアに武力介入して、アサド政権とISISを倒したところで、イスラム国はイラク領内に避難、テロ組織は細分化してリビア、イエメン、スーダン等に逃亡するだけの話であり、その後シリアに安定した政権が樹立されない限り、また戻ってきて以前よりも酷い状態に陥る可能性がある。アフガニスタンとイラクの現状がまさにそれだからだ。むしろ、そこにシリアが加わる上に、不安定要素がさらに飛び火・拡散することになる。
そして、ジハーディスト側は「聖戦」として、欧米諸国に対するテロ攻撃を正当化し、中東地域やイスラム教徒の中で支持を広げて行くことになる。欧米側はテロ攻撃のいくつかは阻止できるだろうが、ジハーディスト側は一つでも成功すれば「十分」なのだ。

また、ジハーディストによる欧米攻撃は、中ロにとっては「僥倖」であるため、表では非難しつつも、裏では支援することになる。特にロシアにとっての死活問題はウクライナであるだけに、ウクライナから欧米の目をそらすためもあってシリア・アサド政権に軍事支援を行っている。これ自体は「反イスラム国」ではあるのだが、その結果としてパリでの連続テロ事件が起き、全欧州の目はウクライナを離れて中東に向けられた。そして、中東紛争が激化するにつれて、難民が増加、欧州になだれ込んで、さらに不安定化が進んでいる。欧州の不安定化は、自らの武力行使のハードルを下げる。「ラビリンス」的に言えば、外交路線が「ソフト」から「ハード」へと傾き、中東における武力行使の頻度が高まることになるが、ジハーディスト的には「欧米軍が存在しないところを叩く」というだけの話であり、むしろジハードの正当性が証明されて支持者が増えると考えるだろう。

2003年にイラクに侵攻した米軍が撤退したのは2011年のことであり、アフガニスタンには侵攻から14年を経た今も公称で1万人が駐留している。両国ともに米政府が立てた傀儡政権は実質的な支配力を失っており、内戦は激化するばかりで、安定から程遠いところにある。安定という点では、バース党やタリバンが支配していた時の方がよほど安定していただろう。つまり、欧米が強要した「自由」とは何のことはない、無秩序でしかなかったのだ。これではどう取り繕うと米欧による武力介入を正当性することなどできないし、そのことが逆にジハーディストに正当性を与えてしまっている。

こうした非対称戦争の構図は、ベトナム戦争やソ連によるアフガニスタン戦争、日本人の記憶的には日中戦争が当てはめられるが、現在でも変わっていない。非対称戦争を終わらせるためには、紛争当事者が互いに互いを交渉相手と認め、介入者が撤兵することが条件となる。そして、武装解除や外国軍の撤兵、双方が合意できる統治機構の有り様を探ることが必要だ。アフガニスタンやイラクのケースは、大国が武力で一時的に独裁者やゲリラ・軍閥勢力を駆逐したところで、国内の合意なき新政権は傀儡化して長くは続かないことを示している。
また、ソ連におけるボリシェビキが戦時体制から脱却できないまま延々と続いたことや、中国で共産党政権が成立してしまったのは、欧米列強や日本が軍事介入したことが原因となっていることも考慮すべきだ。

話を戻そう。記事にある世論調査の結果は、「オバマは手ぬるい」と見ている者と、「不介入のモンロー主義に戻るべきだ」と考えている者が、「不支持」を表明していると見るべきであり、必ずしも私のように「どうせ勝てないから止めるべきだ」とは考えていないだろう。ベトナム介入に懲りたはずのアメリカで、性懲りも無くアフガニスタンやイラクに対する武力行使が圧倒的な支持を受け、その失敗を経てなお、さらにまだ相当数の市民がイスラム国に対する直接攻撃を望んでいるというのはナゾであるが、テロ戦争の実態が殆ど伝えられていないと考えるべきなのだろう。その意味で腐敗したマスコミの責任は重く、マスコミが腐敗した国は全体主義国家と同じで、政策の修正ができなくなり、同じ過ちを繰り返してさらに状況を悪化させてゆくことを暗示している。

【参考】
・ラビリンス−テロ戦争:第二戦
・ラビリンス‐テロ戦争:第3戦
posted by ケン at 12:25| Comment(6) | ロシア、国際関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年01月05日

慰安婦問題は解決するか

【慰安婦「解決」を強調=安倍首相が外交報告】
 安倍晋三首相は4日、衆参両院本会議で外交報告を行った。慰安婦問題をめぐる昨年末の日韓合意について、「最終的かつ不可逆的に解決されることになった」と強調。「これをもって日韓関係が未来志向の新時代に入ることを(韓国側と)確認している」と述べ、成果を訴えた。中国が進出を強める南シナ海問題に関しては「力による現状変更は行ってはならない、平和的に国際法にのっとって解決すべきだ、などの原則を提唱したが、着実に国際社会に浸透しつつある」との認識を示した。 
(1月4日、時事通信)

慰安婦問題については、つい先日「解決しない」と書いてしまっただけに、触れておかねばなるまい。

同問題については、民主党・野田政権の時にも韓国の李明博政権と水面下で交渉が進んでいたが、自民党の強い反対(妨害)と当時の野田首相の判断によって中止されている。今回は、反対の当時者である自民党が自ら進んで交渉したわけで、「反対者が少ない」という点で合意形成の土台は堅かった。
ただ、安倍一派は以前から常々「河野談話の見直し」「軍の関与否定」「強制性の否定」などの主張を繰り返しており、今回の韓国政府との合意内容(軍の関与と日本政府の責任認定)とは完全に矛盾している。これまでの安倍氏の主張から推測すると、「将来にわたって韓国政府には文句を言わせないという言質を取ったから良いのだ」ということかもしれないが、そのために「旧軍潔白神話」という彼らの主張の核心を放棄するというのは無理があるのではないか。
さらに言えば、昨年8月15日の総理談話を受けて、外務省は自らのHPから慰安婦問題を始めとする歴史認識Q&Aの部分を削除している。私の記事も外務省幹部の話を複数聞いた上でのものであるだけに、決して根拠が無かったわけではない。

各方面の話を聞く限り、今回の件の裏には米国の強い意図があったようだ。要は、急速に対中傾斜を強める韓国と、反中・嫌韓を始めとするナショナリズム・レイシズムに傾斜する日本を見て、北東アジアにおける「自由主義ブロックの瓦解」を懸念、それを克服するために仲裁に乗り出した、ということらしい。実際、米国のライス大統領補佐官は12月28日、「米国は合意とその完全な履行を支持し、この包括的解決が国際社会に歓迎されるべき、癒やしと和解の重要な意思表示であると確信している」と日韓合意を歓迎する声明を発表している。
こうした同じ陣営内の紛争を盟主が仲裁するということは、冷戦期には東西を問わずに見られたことであり、珍しいものではない。

日本側としては、宗主国から言われれば、誰が総理であろうと拒否できるはずはなく、拒否したところで民主党の鳩山氏のように無惨な末路を迎えるだけの話だろう。また、安倍一派としては、確かに自説を曲げるデメリットはあるものの、「日韓関係最大の障害を自ら解決」「宗主国の意向に従う」というメリットがあり、「オレの努力によって、未来永劫、韓国からクレームが付くことは無い」と喧伝できるだけに、選択に悩むほどの話ではなかった可能性が高い。
また、合意は「日本政府が責任を痛感」としているものの、日本国外務省は「日韓条約で賠償問題は解決済み」とのスタンスを崩しておらず、要は河野談話(法的責任はなく道義的責任)と同じ立場であって、後退したわけでは無いので、「十分」と言える。

他方、韓国政府はすでに詰んでいるかもしれない。韓国はアメリカとFTAを結んだことで、経済的に従属下に置かれているが、国内では経済格差の拡大に伴う不満が高まっており、その不満を日本に向けることでこの間、政権を維持してきた。その日本では、嫌韓感情が高まって在日コリアンに対する差別・排斥運動が強まっている上に、年々軍備も強化され、武力行使の自己規制も解除する方向に進んでおり、韓国から見れば、その脅威は日本人の想像を超えるものがある。対日脅威と対北脅威の双方を解決するために、韓国政府は政治的に対中傾斜を強める選択をしていた。そこに宗主国アメリカから、対日宥和を命じられた格好だった。
本来であれば、問題の当時者たる慰安婦支援団体と調整した上で、日本政府と交渉しなければ、真の解決にはならないはずだが、今回は調整なしで日韓合意を事後報告している。これは、「当時者と話したら合意は無理」と韓国政府が判断したことを意味しており、このことも「宗主国の命令」を暗示している。しかし、命ぜられて日本政府と合意はしたものの、当時者を排除してのものであり、同時に「反日カード」の使用を制限されてしまった韓国政府は、今後民意を抑えられなくなる恐れがある。「今すぐ」ということではないが、意外と近い将来、大衆が蜂起して現体制が瓦解、親中政権が発足し、西側陣営から離脱するところまで行くかもしれない。

根本的なことを言えば、戦後補償と歴史認識の問題は、一方が謝罪して終わるものではなく、「負の遺産」を共有しながら継承してゆく姿勢が無ければ、相互理解は得られない。今回の日韓合意は、言うなれば加害者側の日本が、被害者側の韓国に「10億円やるから二度と文句言うなよ!」と凄んでいるだけの話であり、暴行傷害などの一般的な刑事犯罪を想定してみれば分かりやすいが、これで被害者側が納得(理解)できるはずがない。
実のところ謝罪自体はそれほど重要ではなく(形式的に必要だが)、より重要なのは、日本による植民地支配や従軍慰安婦の実情がどのようなものであったかを解明しつつ、日韓両国・国民が納得できる歴史を後世に継承してゆくことにある。
その意味で、韓国側が「日本悪玉論」を反日カードとして利用し、日本側が「旧軍潔白神話」を掲げて軍拡を進める現状にあって、今回の合意をもって日韓関係が修復されることは無い、というのが私の見立てである。
posted by ケン at 12:44| Comment(0) | ロシア、国際関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする