2016年01月14日

北朝鮮核実験の周辺と背景にあるもの

北朝鮮が1月6日に実施した核実験については、まだ専門家からレクも受けていないし、ロシア側の分析も読み込んでいないので、とりあえず勝手な推測だけ述べておく。
今回の実験は、普段なら必ずある予告や予兆の類いが全く見られず、専門家から見ても「突然」のものだったようだ。だが、その一方で日本政府の対応は、まるで準備していたかのように淡々としたものだった印象がある。北朝鮮当局から日本政府に秘密裏に予告がなされていたとは思えず、恐らくはアメリカ等から情報提供を受けていたものと見られる。今から調べてみると、12月上旬には「北朝鮮の核実験場で新たなトンネル建設か」旨の報道が確認されるので、諜報機関は何らかの予測を立てていたとしてもおかしくない。

そう考えると、年末になって唐突に日韓の慰安婦問題が不自然な形で合意した背景が透けてくる。つまり、北朝鮮の核実験再開を防げないと判断した米国が、次善の策として日韓宥和を命じ、対北同盟の手綱を引き締めたということだろう。
北朝鮮の核実験再開(最後は09年)は、金正恩体制が「強硬(ハード)路線」を選択、六カ国協議の枠組みを拒否して、対米・対中自立路線を示したことを意味する。六カ国協議は、北朝鮮に核兵器・開発を放棄させる代わりに、北朝鮮の体制を認め経済的自立を支援、中長期的には南北対立を解消して、東アジアの集団安全保障体制を確立するというもので、米国的にはアジアから軍を撤退させることまで視野に入れていた。在日米軍に権力基盤を求める自民党と霞ヶ関は、「北の脅威」が消失することを恐れるがあまり、六カ国協議に非常に消極的だった(外務省内の推進派は粛清された)。六カ国協議に消極的だったのは、北朝鮮だけでは無かったのだ。

北朝鮮は北朝鮮で「合理的な選択」をした可能性が高い。金正恩体制へと移行して外交路線の再検討がなされたと推測されるが、その選択肢は主として「独自路線」と「六カ国協議」の二択だったと思われる。だが、これまでの現実は米欧に従って化学兵器を廃棄したイラクのフセイン政権は軍事侵攻を受けて瓦解し、無惨な末路を迎えた。核開発を放棄したリビアも、似たような末路を迎えた。同じく核査察を受け入れたイランは、アラブ諸国と対立する中で切り札を失って不安な状態にある。つまり、現実の政治は、大量破壊兵器の放棄によって得るものよりも失う物が多いことを示している。小国の安全保障政策として、核武装した大国から「武装解除」を命じられて「はい、分かりました」と応じた場合、丸裸にされるのは小国の側だけで、後は「大国の信義」に頼るほか無いということになり、それはすでに政治では無い。大量破壊兵器の存在こそが「安全保障の要」である例証ばかりとなっているのだ。

実際のところ、ソ連崩壊の経験は、大量破壊兵器を所有する国家が瓦解した場合、同兵器が拡散して他国やテロリストの手に渡る危険性が高まることを示しており、アメリカにしても中国にしても、金体制を瓦解させられないジレンマに陥っている。ソ連崩壊で拡散したはずの大量破壊兵器が今日までテロに使われていないのは奇跡的なことである。北朝鮮が核技術を高めれば高めるほど、小国やテロリストからの需要が高まり、列強諸国は体制瓦解を画策できなくなる構図になっている。

他方、日本政府としては内心、核実験再開を喜んでいるはずで、「これ幸い(天佑)」とばかりに「北の脅威」を囃し立て、「日米同盟強化」「軍事権の拡大」「緊急事態法制」を主張してくるだろう。ケン先生的には外務省幹部を捕まえて「おめでとうございます!」と言ってやりたい気分だ。しかも、「濡れ手に粟」で、極めて日本に有利な形で慰安婦問題が解決しているだけに、笑いが止まらないに違いない。
だが、喜んでいられるのは今だけだろう。政府間で合意がなされたとはいえ、日韓の国民感情は悪化の一途を辿り(カネを投げつけられて喜ぶものはいない)。朝鮮半島をめぐる対立構造は全く解決しないまま、北朝鮮が核開発を進めると同時に、日本が軍拡(軍事権の自主拡大を含む)を進め、下手すると日本も韓国も核武装の検討に入る恐れがある。
笑えないのは、米国の現実主義者たちが、せっかく東アジアの対立構造を解消した上でアジアから手を引く方向で画策していたのに、日本などがそれを邪魔したために、対立構造を残したまま「俺の手には負えないから後は中国さんにお願いしてよ」と勝手に引き上げてしまう可能性が高まっていることだ。霞ヶ関官僚や自民党員は「米国の信義」を信じているようだが、そんなものは大戦中の「ソ連の信義」と同様、全く信じるに値しない。誰しも他国の安全よりも自国の安全を優先するものだからだ。

日本では今年中に衆参ともに選挙が行われ、そこで自公勢力が議会の3分の2を占めた場合、自民党の改憲案が上程されて、権威主義体制と戦時体制が確立する恐れがある。日本もまた東アジアの脅威度向上に多大な貢献をしているのだ。

なお、北朝鮮が行った核実験について、「発表されたような水爆では無い」とする見解が多い。これはなかなか難しいところで、アメリカからすれば「北が水爆を持っている」ことを認めるわけにはいかず、仮に本当に水爆だったとしても容易には認められない。とはいえ、実際に実験によって感知された「地震」の規模は確かに以前と同様のものだったようで、水爆であることを示す根拠は示されていないため、北がハッタリをかましている可能性も十分にあり、本稿では私も「核」とした。

【追記】
冷戦期、西側諸国はずっと「東からの脅威」を煽ってきたが、ベルリンの壁が崩壊していざフタを開けてみると、大ウソとも言える誇張だったことが判明した。1989年、西ドイツはレオポルド2を1800輌配備し、レオポルド1を民間防衛隊に格安で払い下げていたのに比べ、東ドイツ軍が保有していたT−72は200輌ほどで、それも稼働100時間毎にエンジンを分解整備しなければならないという不良品だった。私もVG社の「NATO」をプレイして、「東に奇襲されたらやべぇ」と思っていた一人だが、実は騙されていたのだ。
posted by ケン at 12:24| Comment(4) | ロシア、国際関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年01月06日

ラビリンスやらずとも同じ結論

【対テロ戦争、「勝者はテロリスト」 米世論調査】
 米国率いる有志連合が2001年の米同時テロ以来続けてきた対テロ戦争は、テロリスト側が勝利を収めつつある――。そう考える米国人がかつてなく増えている傾向が、CNNとORCが28日に発表した世論調査で浮き彫りになった。欧米諸国で過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」によるテロ事件が相次ぎ、テロ対策を巡るオバマ米大統領への信頼は揺らぎ、来年の米大統領選を控えて共和党の候補者は有権者の不安をあおる。
世論調査では74%が、対テロ戦争の進展に満足していないと回答。テロリストが勝利しつつあると答えた人は40%に達し、これまでの最高だった2005年8月の数字を17ポイントも上回った。オバマ大統領のテロ対策については60%が不支持を表明、ISISへの対応についても64%が不支持だった。
イラクでは政府軍が米軍による空爆の援護を受けて要衝のラマディをISISから奪還した。米政府はこの勝利について、イラク軍の「勇気と決意」の証しだと称賛。ホワイトハウスにはISIS撲滅のための軍事戦略だけでなく、テロに対する不安の増大を巡る米国内での政治戦争を制する作戦も求められている実態を見せつけた。
(12月29日、CNN)

GMT社の「ラビリンス−テロ戦争」をプレイすれば分かると思うが、仮にアメリカがシリアに武力介入して、アサド政権とISISを倒したところで、イスラム国はイラク領内に避難、テロ組織は細分化してリビア、イエメン、スーダン等に逃亡するだけの話であり、その後シリアに安定した政権が樹立されない限り、また戻ってきて以前よりも酷い状態に陥る可能性がある。アフガニスタンとイラクの現状がまさにそれだからだ。むしろ、そこにシリアが加わる上に、不安定要素がさらに飛び火・拡散することになる。
そして、ジハーディスト側は「聖戦」として、欧米諸国に対するテロ攻撃を正当化し、中東地域やイスラム教徒の中で支持を広げて行くことになる。欧米側はテロ攻撃のいくつかは阻止できるだろうが、ジハーディスト側は一つでも成功すれば「十分」なのだ。

また、ジハーディストによる欧米攻撃は、中ロにとっては「僥倖」であるため、表では非難しつつも、裏では支援することになる。特にロシアにとっての死活問題はウクライナであるだけに、ウクライナから欧米の目をそらすためもあってシリア・アサド政権に軍事支援を行っている。これ自体は「反イスラム国」ではあるのだが、その結果としてパリでの連続テロ事件が起き、全欧州の目はウクライナを離れて中東に向けられた。そして、中東紛争が激化するにつれて、難民が増加、欧州になだれ込んで、さらに不安定化が進んでいる。欧州の不安定化は、自らの武力行使のハードルを下げる。「ラビリンス」的に言えば、外交路線が「ソフト」から「ハード」へと傾き、中東における武力行使の頻度が高まることになるが、ジハーディスト的には「欧米軍が存在しないところを叩く」というだけの話であり、むしろジハードの正当性が証明されて支持者が増えると考えるだろう。

2003年にイラクに侵攻した米軍が撤退したのは2011年のことであり、アフガニスタンには侵攻から14年を経た今も公称で1万人が駐留している。両国ともに米政府が立てた傀儡政権は実質的な支配力を失っており、内戦は激化するばかりで、安定から程遠いところにある。安定という点では、バース党やタリバンが支配していた時の方がよほど安定していただろう。つまり、欧米が強要した「自由」とは何のことはない、無秩序でしかなかったのだ。これではどう取り繕うと米欧による武力介入を正当性することなどできないし、そのことが逆にジハーディストに正当性を与えてしまっている。

こうした非対称戦争の構図は、ベトナム戦争やソ連によるアフガニスタン戦争、日本人の記憶的には日中戦争が当てはめられるが、現在でも変わっていない。非対称戦争を終わらせるためには、紛争当事者が互いに互いを交渉相手と認め、介入者が撤兵することが条件となる。そして、武装解除や外国軍の撤兵、双方が合意できる統治機構の有り様を探ることが必要だ。アフガニスタンやイラクのケースは、大国が武力で一時的に独裁者やゲリラ・軍閥勢力を駆逐したところで、国内の合意なき新政権は傀儡化して長くは続かないことを示している。
また、ソ連におけるボリシェビキが戦時体制から脱却できないまま延々と続いたことや、中国で共産党政権が成立してしまったのは、欧米列強や日本が軍事介入したことが原因となっていることも考慮すべきだ。

話を戻そう。記事にある世論調査の結果は、「オバマは手ぬるい」と見ている者と、「不介入のモンロー主義に戻るべきだ」と考えている者が、「不支持」を表明していると見るべきであり、必ずしも私のように「どうせ勝てないから止めるべきだ」とは考えていないだろう。ベトナム介入に懲りたはずのアメリカで、性懲りも無くアフガニスタンやイラクに対する武力行使が圧倒的な支持を受け、その失敗を経てなお、さらにまだ相当数の市民がイスラム国に対する直接攻撃を望んでいるというのはナゾであるが、テロ戦争の実態が殆ど伝えられていないと考えるべきなのだろう。その意味で腐敗したマスコミの責任は重く、マスコミが腐敗した国は全体主義国家と同じで、政策の修正ができなくなり、同じ過ちを繰り返してさらに状況を悪化させてゆくことを暗示している。

【参考】
・ラビリンス−テロ戦争:第二戦
・ラビリンス‐テロ戦争:第3戦
posted by ケン at 12:25| Comment(6) | ロシア、国際関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年01月05日

慰安婦問題は解決するか

【慰安婦「解決」を強調=安倍首相が外交報告】
 安倍晋三首相は4日、衆参両院本会議で外交報告を行った。慰安婦問題をめぐる昨年末の日韓合意について、「最終的かつ不可逆的に解決されることになった」と強調。「これをもって日韓関係が未来志向の新時代に入ることを(韓国側と)確認している」と述べ、成果を訴えた。中国が進出を強める南シナ海問題に関しては「力による現状変更は行ってはならない、平和的に国際法にのっとって解決すべきだ、などの原則を提唱したが、着実に国際社会に浸透しつつある」との認識を示した。 
(1月4日、時事通信)

慰安婦問題については、つい先日「解決しない」と書いてしまっただけに、触れておかねばなるまい。

同問題については、民主党・野田政権の時にも韓国の李明博政権と水面下で交渉が進んでいたが、自民党の強い反対(妨害)と当時の野田首相の判断によって中止されている。今回は、反対の当時者である自民党が自ら進んで交渉したわけで、「反対者が少ない」という点で合意形成の土台は堅かった。
ただ、安倍一派は以前から常々「河野談話の見直し」「軍の関与否定」「強制性の否定」などの主張を繰り返しており、今回の韓国政府との合意内容(軍の関与と日本政府の責任認定)とは完全に矛盾している。これまでの安倍氏の主張から推測すると、「将来にわたって韓国政府には文句を言わせないという言質を取ったから良いのだ」ということかもしれないが、そのために「旧軍潔白神話」という彼らの主張の核心を放棄するというのは無理があるのではないか。
さらに言えば、昨年8月15日の総理談話を受けて、外務省は自らのHPから慰安婦問題を始めとする歴史認識Q&Aの部分を削除している。私の記事も外務省幹部の話を複数聞いた上でのものであるだけに、決して根拠が無かったわけではない。

各方面の話を聞く限り、今回の件の裏には米国の強い意図があったようだ。要は、急速に対中傾斜を強める韓国と、反中・嫌韓を始めとするナショナリズム・レイシズムに傾斜する日本を見て、北東アジアにおける「自由主義ブロックの瓦解」を懸念、それを克服するために仲裁に乗り出した、ということらしい。実際、米国のライス大統領補佐官は12月28日、「米国は合意とその完全な履行を支持し、この包括的解決が国際社会に歓迎されるべき、癒やしと和解の重要な意思表示であると確信している」と日韓合意を歓迎する声明を発表している。
こうした同じ陣営内の紛争を盟主が仲裁するということは、冷戦期には東西を問わずに見られたことであり、珍しいものではない。

日本側としては、宗主国から言われれば、誰が総理であろうと拒否できるはずはなく、拒否したところで民主党の鳩山氏のように無惨な末路を迎えるだけの話だろう。また、安倍一派としては、確かに自説を曲げるデメリットはあるものの、「日韓関係最大の障害を自ら解決」「宗主国の意向に従う」というメリットがあり、「オレの努力によって、未来永劫、韓国からクレームが付くことは無い」と喧伝できるだけに、選択に悩むほどの話ではなかった可能性が高い。
また、合意は「日本政府が責任を痛感」としているものの、日本国外務省は「日韓条約で賠償問題は解決済み」とのスタンスを崩しておらず、要は河野談話(法的責任はなく道義的責任)と同じ立場であって、後退したわけでは無いので、「十分」と言える。

他方、韓国政府はすでに詰んでいるかもしれない。韓国はアメリカとFTAを結んだことで、経済的に従属下に置かれているが、国内では経済格差の拡大に伴う不満が高まっており、その不満を日本に向けることでこの間、政権を維持してきた。その日本では、嫌韓感情が高まって在日コリアンに対する差別・排斥運動が強まっている上に、年々軍備も強化され、武力行使の自己規制も解除する方向に進んでおり、韓国から見れば、その脅威は日本人の想像を超えるものがある。対日脅威と対北脅威の双方を解決するために、韓国政府は政治的に対中傾斜を強める選択をしていた。そこに宗主国アメリカから、対日宥和を命じられた格好だった。
本来であれば、問題の当時者たる慰安婦支援団体と調整した上で、日本政府と交渉しなければ、真の解決にはならないはずだが、今回は調整なしで日韓合意を事後報告している。これは、「当時者と話したら合意は無理」と韓国政府が判断したことを意味しており、このことも「宗主国の命令」を暗示している。しかし、命ぜられて日本政府と合意はしたものの、当時者を排除してのものであり、同時に「反日カード」の使用を制限されてしまった韓国政府は、今後民意を抑えられなくなる恐れがある。「今すぐ」ということではないが、意外と近い将来、大衆が蜂起して現体制が瓦解、親中政権が発足し、西側陣営から離脱するところまで行くかもしれない。

根本的なことを言えば、戦後補償と歴史認識の問題は、一方が謝罪して終わるものではなく、「負の遺産」を共有しながら継承してゆく姿勢が無ければ、相互理解は得られない。今回の日韓合意は、言うなれば加害者側の日本が、被害者側の韓国に「10億円やるから二度と文句言うなよ!」と凄んでいるだけの話であり、暴行傷害などの一般的な刑事犯罪を想定してみれば分かりやすいが、これで被害者側が納得(理解)できるはずがない。
実のところ謝罪自体はそれほど重要ではなく(形式的に必要だが)、より重要なのは、日本による植民地支配や従軍慰安婦の実情がどのようなものであったかを解明しつつ、日韓両国・国民が納得できる歴史を後世に継承してゆくことにある。
その意味で、韓国側が「日本悪玉論」を反日カードとして利用し、日本側が「旧軍潔白神話」を掲げて軍拡を進める現状にあって、今回の合意をもって日韓関係が修復されることは無い、というのが私の見立てである。
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2015年12月10日

フランスにおける既存政党の難しさについて

フランスの地域圏議会選挙において半数の地域圏で「極右政党」の国民戦線(FN)が勝利した。日本のマスゴミは基本的に翻訳報道なので、欧米のマスコミが「極右」としてしまえば、それをそのまま流してしまう。ところが、国民戦線の現在の主張を見てみると、今の自民党とさほど変わらず、欧州のいわゆる極右政党の幹部はこぞって「オレたちは極右じゃ無い、日本の自民党程度の主張をしているに過ぎない」旨を述べている。つまり、ヨーロッパの極右政党人の理想は「日本の自由民主党」なのだという。では、そのFNの主な主張を見てみよう。
・移民の制限(排斥では無く、フランスの価値を尊重する移住者は認める)
・フランス国内におけるモスク建設の規制
・死刑復活
・公務員の削減
・減税
・同性パートナーシップ制度の廃止
・国籍の血統主義化
・補助金制度の見直し
・農村社会の重視

主張を見ている限り、日本の自民党と維新を足して二で割ったようなイメージであり、これを極右としてしまうと、日本では極右政党が議会の3分の2以上を占めていることになる。ただし、重農主義を唱えている点で、国民戦線は自民党よりも「伝統重視」と言える。
もちろん、我々の立場からはそう考えて良いのだが、であれば、日本のマスゴミも「日本ではすでに極右政党が国政でも地方でも絶対多数を占めている」事実を報じるべきであろう。日本のマスゴミ人は何も理解しないで、ただ欧米の報道を翻訳して流しているに過ぎない。
国民戦線の場合、父親のジャン・マリー・ル・ペン氏が党首だった頃は確かに日本の排外主義団体とさほど変わらない主張を繰り返していたが、娘のマリーヌ・ル・ペン女史が党首に就いた頃から大きく現実主義に転換し、今日に至っている。マリーヌ氏個人としては同性愛や妊娠中絶も否定しないと言われるほどだ。

問題は、既存の政党が有権者の需要に応じられなくなっている点にある。フランスの場合、EUを主導し、移民と難民を積極的に受け入れてきた結果、国内産業の衰退に比して労働力が過剰となり、さらに重税がのしかかっているところに、治安も悪化の一途を辿っている。公務員と大企業従業員は従来通りの裕福な生活を送っているが、それ以外の市民は労働力余剰(移民)のせいで賃金が上がらず、税金の負担ばかりを意識する状態にある。
こうした現状に対し、右派は「さらなるグローバル化と企業優遇」を唱え、「対テロ戦争」で安価な資源を確保しつつ、EUの辺境部に工場を建て、国内では安価な移民労働力を酷使する戦略を採っている。そして、左派は「移民との共生と公共サービスの重視」を主張、企業課税を強化しつつ、現行の社会保障制度を維持、移民などのマイノリティとの共生を図る政策を掲げている。
ところが、現実には少なからぬ有権者が投票先を失った。右派の政策によってブルーカラー層や地方の商工業者が職を失い、それに対して左派は最低生活こそ保障するかもしれないが、移民を肯定し、企業重税を課すため、彼らの問題の解決には全く寄与しなかった。こうして行き場を失った票が国民戦線に流れていると見られる。

この構図は、ナチスが登場した時のワイマール共和国と似ている。当時のナチスも、既存の左翼・保守層がつかみきれない票を囲い込むことで支持層を増やしていき、それに対して既存政党は有効な対抗策を打ち出せなかった。我々としては、「ナチス左派」が既存の左翼票を取り込んだ過程を重視すべきだろう。

こうした現象が起きるのは、社会構造の変化に対して、既存政党が従来の主張(支持層)を守ることで十分に対応できなくなるためだ。フランスの場合、共和党(旧国民運動連合)が経営者層やホワイトカラー層を代表、かつては地方の商工業者もここに含まれたがFNに奪われている。そして、社会党などの左派は公務労働者とブルーカラー層を代表していたが、ブルーカラー層の票がFNに逃げている。また、地域的には移民の多い南部と鉱工業の衰退が著しい北部において、FNが激しく進出している。
ところが、これに対して既存政党は社会構造の変化を十分に認識せず(知っていながら認めていない可能性もある)、従来の政策を変更して失った支持層の回復に努めないため、国民戦線の伸張を許してしまっている。
フランスの場合、右派ならば移民を規制して地方の商工業の振興策を取り入れるべきだし、左派ならば公務労働重視を是正しつつ、国内企業・工場の保護に重点を置くべきだった。それをせずに、ただFNを「極右」とレッテルを貼って攻撃してみたところで、ワイマール・ドイツの二の舞に終わるだろう。

また、私的に特に問題を感じているのは、フランス社会党が余りにもエリート主義に偏ってしまっている点だ。オランド氏や元首相のロワイヤル女史、オランドと大統領候補の座を争ったオブリー女史など、左右にかかわらず皆ENA(国立行政学院)やパリ政治学院の出身で、官僚や弁護士を務めている。共和党と対抗しつつ、行政府の上に立つ政権担当能力の点では十分な人材が確保されているのだろうが、その反面、社会党の支持層や周辺の有権者のニーズを取り込んで党の政策に反映させる能力が低下しているように思われる。つまり、理念と政策が先行して、リアル・ポリティクスの側面が弱くなっているのではなかろうか。戦後初の社会党大統領となったミッテランが、鉄道員出身の対独レジスタンス員だったことを考えれば、隔世の感がある。
卑俗な言い方をすれば、フランス社会党が「よゐこ」になってしまったがために、ヤンキー層をFNへと追いやってしまった、というのが私の見解である。

以上のことは、フランスに限った話ではなく、欧州の多くの国で見られる現象だが、日本にも当てはめることができる。が、それはまた次の機会にしたい。
posted by ケン at 12:06| Comment(0) | ロシア、国際関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年11月26日

ロシアが望む混沌化する世界

【クリミアで大停電=反ロ派の「テロ」? ―ウクライナ】
 ロシアが編入したクリミア半島で22日、ウクライナ本土からの送電が停止した。クリミアに接するウクライナ南部ヘルソン州で謎の爆発が起き、送電線が損傷した。親ロシア派「クリミア共和国」は23日を公休と定め大停電による混乱を回避。一方で「(反ロシア派の)テロだ」と非難している。 爆発があったのは20日。犯行声明は出ていない。クリミアの経済封鎖を訴えてきたウクライナの反ロ派は、インターネット上に爆発で損傷した鉄塔の写真を掲載したが、自らの関与は否定した。 
(時事通信、11月23日)

これは概ねウクライナのキエフ政府か、その支援を受けた反ロシア団体による工作と見て良いが、「誰がやったか」はあまり重要では無い。ただ、キエフ政権はパリで起きたテロ事件によって、欧米の目が中東に向かい、ウクライナへの関心が低下してしまうことを恐れている。ウクライナ問題では、当初「反ロシア」の筆頭格だったハンガリーが、シリア難民を重視することもあって、早々に「反ロ同盟」から降りてしまった。同様に、ドイツもますます対ロ宥和に傾いているだけに、キエフ政権の焦燥は募るばかりとなっており、上記の工作活動はその表れだろう。

一方、ロシアはロシアで、欧米の目をウクライナから逸らすことを一つの目的として、シリア介入を本格化させている。これは、実際に大きな成果を収め、刺激されたイスラム国が欧州本土でのテロを実行し、欧米の目は嫌が応にもウクライナから中東へと向かっている。
ロシア人的には、アメリカが仕掛けたアフガニスタンの「熊罠」に引っかかって政治的大敗を喫したソ連の過ちを踏まえ、シリアに「鷹罠」を仕掛けている。つまり、ロシアは欧米諸国が中東に地上軍を派遣するように誘導しているのだ。
仮に欧米が罠に引っかからず、自制して地上軍を派遣しなかったとしても、今度は欧米の中東に対する影響力と国際的威信が低下し、ロシアのそれが上昇し、「ロシア=イラン同盟」的なものが成立することになるので、「それはそれで良し」という判断なのだろう。
ただし、ロシアはエジプトで自国旅客機がテロに遭い、トルコでは戦闘機が撃墜されているだけに、相応のリスクは取っている。それでも、「ウクライナで紛争が続くよりはよほどマシ」と考えているものと思われる。

トルコでの戦闘機撃墜事件の真相はよく分からないが、天然ガスの50%以上をロシアから輸入し、原子力発電所の建設や観光業についても対ロ依存度の高いトルコが、積極的にロシアと敵対する理由は見当たらず、「現場の暴走」と見るのが妥当かもしれない。一方、ロシアとしても、「イスラム国を攻撃する」としていたものが、実は反アサド派を攻撃していたことが明らかになってしまっただけに、あまり強く出られないところがある。トルコ軍は反アサド派を支援している以上、ロシア軍による空爆を放置できなかったのだろう。
また、反アサド派は、トルコの他に米英仏が支援しているものの、アサド政権やイスラム国に比して劣勢に置かれており、欧米諸国による地上軍派遣を心待ちにしている。米国の担当官などは、「連中にいくらカネや武器を与えても、全部イスラム国に流れてしまう」と嘆いており、小党乱立状態の反アサド派に勝利の目は殆ど無い。同時に、パリで起きた連続テロ事件は反アサド派にとって「僥倖」だったという皮肉が生じている。

また、ロシアはこの方、最新鋭のSu35戦闘機と地対空ミサイルS400を中国に提供することを決めたが、このどちらも航続距離、射程の長さが評価されており、南シナ海や東シナ海を想定したものであることは明らかだ。ロシアとしては、中国に最新鋭兵器を供給することで、米日との軍事バランスを刺激しようとしている。ロシア人的には、中国と米日の対立は「一挙両得」であり、「戦端は開かれないが、深刻な対立」くらいの状態にあることが望ましい。
もっとも、これはロシア人の願望に過ぎず、実際の米国の安全保障観はロシアとイスラム国を第一あるいは第二の脅威と見なしており(その時々で優先順位が入れ替わる)、中国は常に3位以下にあるという。日本の政府やマスゴミは、米中対立を煽っているが、現実にはアメリカは中国に対抗するつもりなど殆ど無い。
日本は日本で、米国のアジア関与を引き留めつつ、国内で権威主義体制を復活させるために、東アジアの緊張度を意図的に高める政策を採っており、中国との冷戦状態を演出している。この点で、日本とロシアは同床異夢の関係にあり、安倍首相とプーチン大統領が親和的であることを説明できる。

ロシアの安全保障は、自国の周囲に緩衝地帯を設け、脅威と直接接しないことを最優先としている。だが、欧米からすると、その「緩衝地帯」自体が「ロシアによる侵略」にしか見えないため、常に紛争のタネになっている。
他方、欧米資本主義の繁栄は、旧第三世界からの資源と労働力の収奪(買い叩き)によって成り立っているだけに、資本主義とその隠れ蓑となっている民主主義を否定するイスラム国やジハーディストは、自らの根幹を否定するものとして存在そのものを抹消せざるを得ない。それだけに、欧米としては中東対策を優先せざるを得ないわけだが、それは結果としてロシアや中国を利することとなる。
日本は、アメリカの衛星国として近い将来、中東・アフリカ戦線に参戦することになるのだろうが、その末路は決して明るいものではない。
posted by ケン at 12:48| Comment(7) | ロシア、国際関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年11月17日

迷宮はさらに深く:パリ連続テロ事件を受けて

【フランス、シリアのIS「首都」を空爆 パリ襲撃事件後で初】
 フランスの空軍は15日、イスラム過激派組織「イスラム国」の事実上の「首都」となっているシリア北部ラッカを空爆し、指揮所と訓練基地を破壊した。仏国防省が発表した。ISが犯行声明を出したパリの連続襲撃事件以降、同国がISを空爆したのは初めて。作戦には戦闘爆撃機10機を含む軍用機12機が参加し、20発の爆弾を投下した。軍は声明で「破壊した第1目標は、ダーイシュ(Daesh、ISのアラビア語名の略称)が指揮所、過激派の人員採用施設、武器弾薬庫として使用していた。第2目標にはテロリスト訓練施設があった」と述べている。
(AFP、11月16日)

【「フランスは戦争状態」 オランド大統領が宣言】
 パリの同時多発テロ事件を受けて、オランド大統領は臨時の上下両院合同会議で演説し、フランスは戦争状態にあると宣言しました。
(テレビ朝日系、11月17日)

フランス・パリで連続テロ事件が発生し、死者は130人以上に上っている。その前日には、レバノン・ベイルートにおいて2回の連続自爆テロが起こり、40人以上の死者を出している。また、10月10日にはトルコの首都アンカラでやはり2回の自爆テロが起きて100人以上の死者が出ている。
ベイルートやアンカラでのテロ事件は大きく報道されること無く、一般的にはほぼスルーされているにもかかわらず、パリでの事件については大々的に報道され、フェイスブックは「安全と平和を願う」旨の連帯表明としてユーザーのプロフィール写真に仏国旗のカラーを重ねられるサービスを開始した。このサービスは私の知人の間にも拡散しているが、「パリ市民とだけ連帯するのきゃ?ベイルート市民は放置?」「フランス三色旗の意味するものを理解しているのきゃ?」という思いはぬぐえない。
また、フランスのオランド大統領は、「今回のテロはジハード主義を掲げる過激派組織『イスラム国』による戦争行為だ」と述べているが、9月末にシリアのイスラム国支配地域に対する空爆を始めたのはフランス側であり、非対称戦争に「後方」など存在しないのは最初から分かっていたはずだ。

今回、フランスが有志連合によるシリア空爆に参戦を決めたのは、「シリア難民の増加」「アサド政権とイスラム国の武力討伐に対する欧州内国論の高まり(トルコや英国の参加)」「ロシアによるアサド政権支援」などが背景にある。フランスはただでさえ、国民の8%がイスラム教徒と化しており、中東の不穏が長期化して難民の流入が続いた場合、国家体制の基盤(共和国の原理)そのものが脅かされる危険がある。フランスの情報当局はテロの可能性を探知していたにもかかわらず、抑止できなかったため、なおさら武力行使の主張を強めてしまった側面もありそうだ。テロを行うためには、実行犯だけで無く、その数倍に上るバックアップ要員や支援者の存在が不可欠だからで、フランス社会はそれだけジハーディストに侵食されていると考えられる。

そして、フランスは国家原理的にイスラム国の存在を許容できない。共和国憲法第一条には、

「フランスは、不可分の非宗教的、民主的かつ社会的な共和国である。」

とあるように、フランスは宗教との決別・分離を基礎に置く共和国であり、非宗教的市民のための政治を担うことに最上の価値を置いている。その結果、宗教との関わりはプライベートな空間でこそ認めるものの、パブリックな空間では徹底的に排除するという原理が成立、それを具象化したものの一つが「公学校におけるブルカ・スカーフ着用の禁止」だった。当然のことながら、宗教政党は一切認められない。
そして、憲法に掲げている「不可分の」は、「一切の例外を認めない」という意味の厳しい決意であるため、日本のように国会議員が神社を閣僚や議員として参拝したり、疑似宗教政党が認められるようなことはあり得ない。それは、わずかな例外を認めることが、独裁を許すきっかけになるという歴史を反映しているのだ。

フランス共和国憲法が掲げる「ライシテ」が、政教分離による非宗教的統合を原理とした民族国家を意味するのに対して、イスラム国はイスラム主義による政教一致を原理とする非民族国家を標榜している。
フランスはナチズムに対する反省から、「共和国の原理」を守るための武力介入を始めとする暴力行使を厭わない性格を有している。結果、フランス社会では、イスラムやイスラム主義を標榜すること自体、「共和国の原理」に対する否定・攻撃と見なされてもおかしくないため、今回の事件のように犠牲者が出るようになれば、「共和国の危機」という反応になる。「デモクラシーと自由に対する脅威はごく身近なところに存在する」というフランス人の自覚の現れと言えよう。これは、自力でデモクラシーや宗教分離を獲得した経験の無い日本人にはなかなか理解しがたいことかもしれない。フランスが「共和国の原理」を掲げてジハーディストと徹底抗戦を唱える以上、どちらかが滅亡するまで終わらない構造になっている。

トリコロールを支持するということは、「共和国の原理」を支持するということであり、死者への追悼と同時にフランスによる軍事介入への支持を表明することになる。少なくともジハーディスト側はそう捉えるであろう。「ムスリムとジハーディストは違う」という反論もありそうだが、「共和国の原理」がムスリムの社会的アイデンティティ表明を許容しない以上、フランスとムスリムの共存は難しい。
つまり、件のFBのそれは、身もフタもない言い方をすれば、「対テロ戦争への賛否を確認するためのツール」でしかない。

対テロ戦争は「勝利無き戦争」だ。仮に今回米欧がシリアに軍事介入したとして(ロシアが介入中のためすぐには無理だが)、ジハーディストはイラクやリビア、イエメンやスーダン等に逃れて同じことを続けるだけの話で、むしろ問題の根を拡散させてしまう恐れがある。米欧の「専門家」からは、「イスラム国は弱体化しており、焦っている」という意見が聞かれるが、仮にシリア・イラクのそれが弱体化しているとしても、イスラム原理主義を糾合する勢力が無くなるわけではない。
同時にさらに難民が発生して欧州に流入し続け、欧州内の統合を脅かすことになるだろう。アメリカが軍事侵攻したアフガニスタンとイラクの現状を見れば、いい加減学習して欲しいところだが、もはや武力行使そのものが利権化しているのかもしれない。

【参考】 ラビリンス−テロ戦争 第三戦

我々日本人としては、盧溝橋事件、通州事件、上海事変を受けて、「暴支膺懲」とばかりに国論を沸騰させて日の丸を振り、中国本土に武力侵攻し、少なくとも1千万人以上の中国人を殺害したものの、8年間にわたる泥沼の戦争が続いたまま、敗戦を迎えたことを忘れてはならない。
日本がテロのターゲットになり、FBのプロフィールが日の丸一色になる日もそう遠くないかもしれない。「テロと戦う」と言うのは簡単だが、国民の犠牲は避けられなくなると明言する必要がある。そして、戦時体制はデモクラシーと人権の犠牲の上にしか成り立たない。

【参考】
文民統制と和平交渉 
華北戦記 中国であったほんとうの戦争 

【追記】
仮に現状でシリア領内からジハーディスト勢力が駆逐された場合、その「立役者」はアサド政権を支援したロシアということになり、今度はロシアの国際的威信が高まり、ロシア製兵器が第三世界を席巻するという話になりそうだ。つまり、「イスラム国掃討」は決して「米欧の勝利」にならず、むしろロシアを利した上に、米欧に対する中東の憎悪を高める結果になりかねない。
posted by ケン at 12:53| Comment(3) | ロシア、国際関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年11月05日

ブレア元首相、イラク戦争で謝罪

【イラク進攻は「誤りだった」、ブレア英元首相が謝罪】
 英国のトニー・ブレア元首相は25日に放送されたCNNの単独インタビューで、米国の主導による2003年のイラク進攻について、「誤りだった」と認めて謝罪した。ただ、サダム・フセイン元大統領を排除したことは後悔していないとした。ブレア氏はインタビューの中で、「我々が入手した情報が間違っていたという事実については謝罪する。(フセイン元大統領は)国民などに対して化学兵器を集中的に使用していたが、それは我々が考えていたような形では存在していなかった」と明言した。
米英政府はフセイン政権が大量破壊兵器を保有しているという報告を根拠に、イラク進攻を正当化した。だがその報告の根拠となった情報は間違いだったことが後に分かった。この戦争とフセイン政権の崩壊によりイラクは混乱に陥り、宗派対立が激化して国際テロ組織アルカイダが勢力を増し、後に過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」が台頭した。長引く戦争で何万人ものイラク国民が犠牲になり、米兵4000人以上、英兵179人が死亡した。
 当時のブッシュ米大統領の最も有力な同盟国だった英国の首相として参戦を決めたブレア氏は、この決断のため、どこへ行っても批判が付きまとった。ブレア氏は情報の誤りのほかにも「計画の誤りや、政権を排除すればどうなるかという認識の明らかな誤り」もあったとして謝罪。ただしイラク戦争についての全面的な謝罪にまでは踏み込まず、「サダム(フセイン元大統領)の排除については謝罪し難い。2015年の現代から見ても、彼がいるよりはいない方がいい」と強調した。フセイン大統領は30年以上続いた独裁政権下で国民を抑圧し、隣国のイランやクウェートに戦争を仕掛け、イラク北部のクルド人に対して化学兵器を使ったとされる。しかしイラクでは今も宗派対立が続き、イスラム教スンニ派の過激派組織であるISISの脅威にさらされる状況が続く。
 ブレア氏は、2003年のイラク進攻がISIS台頭を招く根本原因だったという見方には「一片の真実」があると述べ、「もちろん、2003年にサダムを排除した我々に2015年の状況に対する責任がないとは言えない」と指摘。「だが同時に重要なこととして、第1に、2011年に始まった『アラブの春』も現在のイラクに影響を与えた。第2に、ISISはイラクではなくシリアの拠点から勢力を拡大した」と分析した。さらに、欧米の介入についての政治的論争はまだ結論が出ていないと述べ、「イラクでは介入を試みて派兵した。リビアでは派兵せずに介入を試みた。シリアでは一切の介入を試みず、政権交代を要求している」と指摘。「我々の政策はうまくいかなかったかもしれないが、それに続く政策がうまくいったのかどうか、私にははっきりしない」と語った。イラク進攻の決断を「戦争犯罪」とする見方もあると指摘されたブレア氏は、あの当時は自分が正しいと思ったことをしたと強調、「今になってそれが正しかったかどうかは、それぞれで判断すればいい」との認識を示した。
(CNN、10月26日)

内容はともかく、かつて最高権力の座にあった者が、自らの政治判断について誤りを認め、謝罪するというのは、日本ではまず見られない。いや、アジア全体でも稀な気がする。かつて、ゴルバチョフはカティン事件についてポーランド側に対し謝罪を表明しているし、ハンガリー社会主義労働者党書記長だったカーダールはその遺書で「政治活動で私が誤りも犯したことは間違いない」と認めている。ポーランドのヤルゼルスキも「(ソ連軍介入という)大きな悲劇を避けるため」という文脈下ではあるが、「小さな悲劇」である戒厳令をについて「申し訳なかった」と謝罪している。

ところが、日本では、村山談話を除けば、せいぜい鳩山元首相が沖縄で基地問題の政策転換について謝罪したことくらいしか思いつかない。日本全土を灰燼に帰した責任者の一人である岸信介は米国と取り引きして出獄し首相になり、侵略の片棒を担いだ浅沼稲次郎は自らの責任に頬被りして親中派の「平和の闘士」になり、公約違反の増税・TPP・集団的自衛権を推進した菅直人は政権交代後、堂々と反対派と行動を共にしている。日本では少なくとも政治家は「恥知らず」が必須スペックになっているのではなかろうか。

もっとも、ブレア氏の「謝罪」は「情報が間違っていた」「フセイン排除後の見通しが甘かった」点を述べているのみで、イラク侵攻そのものに対する開戦判断については誤りを認めてはいない。この辺は弁護士らしいとは言えるが、それでもキリスト教徒(カトリックに改宗)らしい、良心に対する真摯さが表れている。
元権力者が政策判断の誤りを認めることは、過去の政策の検証を容易にするが、日本の場合、そもそも公文書管理法がザルであるため検証できない上に、全体主義国のように国家無謬論が政官界を支配しているので、公正な政策検証はおろか、第三者による検証機関すらロクに設けられない状態にある。
例えば、自衛隊に関する機密「防衛秘密」のうち、秘密指定の解除後に国立公文書館に移され保管されている文書が一件もなく、自衛隊によるイラク出兵については議会で検証されることはなく、政府による検証はA4ペーパー4枚で「問題なし」に終わった。

安保法制の成立により、自衛隊の海外出兵はさらに増えてゆくと思われる。特に国連PKOは、その主要な役割を「停戦監視」から「住民保護」に転じており、「住民保護のためには武装集団等との戦闘も辞さない」方針を明らかにしているだけに、例えば陸自が南スーダンに全面派兵となれば、戦闘参加する可能性が高まっている。
ところが、日本国憲法は交戦権を認めておらず、安保法制の審議に際して政府は「交戦権は無いが、自衛権はある、その自衛権は個別的か集団的を問わない」と説明した。結果、自衛隊は交戦権を持たないまま、PKOを任務を果たすために武装集団等との戦闘に加わることになるが、日本の政府にも議会にも、自衛隊の戦闘行動を検証するだけの手段が無いのが実情だ。

「国は決して過ちを犯さない」という国家無謬論が、公文書管理を杜撰に師、歴史検証を許さない体質をつくっている。我々がまず打倒すべきは、霞ヶ関と永田町を支配する国家無謬論なのである。
posted by ケン at 12:25| Comment(0) | ロシア、国際関係 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする