2020年01月28日

この世界の(さらにいくつもの)片隅に



帰国して映画館に駆け込んだくらいの勢いで見た。
気づいてみれば3年前の作品だが、この三年間で世界各国で70以上の賞を受賞したという。
国際的には殆ど評価されなかった『シン・ゴジラ』と違って、普遍的なテーマを描いていると言うことかもしれない。

本作は30分ほどのシーンが追加されて再編集されたものだが、見た印象(感想)はかなり異なる。
本作では、より登場人物の内面描写に焦点が当てられ、私小説的な要素が強まっている。
オリジナル版でも十分に心に刺さっていたが、本作は刺さってさらに染み渡る感じだ。
逆を言えば、オリジナル版でも十分に情緒的だったものが、いささか情緒過剰になったとも言え(感情移入しすぎ)、その辺が評価を分けるところなのだろう。
個人的には、「どちらもあり」で、確実に言えるのは「ただの長尺版ではない」ということだろうか。

平日の昼間に見たが、かなり高齢層の方が多く、幅広い支持があるのだなぁと思った次第。
改めて2010年代の傑作の一つである。
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2020年01月24日

家族を想うとき

引退を撤回したケン・ローチ監督の最新作『家族を想うとき』を鑑賞。間に合って良かった。

イギリス、ニューカッスルに住むある家族。ターナー家の父リッキーはマイホーム購入の夢をかなえるために、フランチャイズの宅配ドライバーとして独立を決意。「勝つのも負けるのもすべて自分次第。できるか?」と本部のマロニーにあおられて「ああ、長い間、こんなチャンスを待っていた」と答えるが、どこか不安を隠し切れない。

母のアビーはパートタイムの介護福祉士として、時間外まで1日中働いている。リッキーがフランチャイズの配送事業を始めるには、アビーの車を売って資本にする以外に資金はなかった。遠く離れたお年寄りの家へも通うアビーには車が必要だったが1日14時間週6日、2年も働けば夫婦の夢のマイホームが買えるというリッキーの言葉に折れるのだった。

介護先へバスで通うことになったアビーは、長い移動時間のせいでますます家にいる時間がなくなっていく。16歳の息子セブと12歳の娘のライザ・ジェーンとのコミュニケーションも、留守番電話のメッセージで一方的に語りかけるばかり。家族を幸せにするはずの仕事が家族との時間を奪っていき、子供たちは寂しい想いを募らせてゆく。そんな中、リッキーがある事件に巻き込まれてしまう──。

デジタル・エコノミー、グローバル化といった現象の中で、「普通の暮らし」が夢物語となり、100年前に戻ったかのように超長時間労働が蔓延し、働く者が一方的に収奪される社会になりつつある。
100年前と異なるのは、「労働者」という定義すら否定されて、「請負業=個人事業主」として一方的にルールと責任を負わされ、何が起きても「自己責任」として処理されていく点であり、その自己責任は「自由」という名の自己決定によって負わされている点である。
いまや労働者の労働者性は否定され、労働階層は細切れに分断され、国家の補償や保護からも切り離され、まるで「勝手に生きて、勝手に死ね」と言われているかのようになっている。

さらに100年前より悪化しているのは、階級政党が解体、消滅して、資本によって収奪・疎外される階層の利害を代弁する政党がなくなったことで、貧困化や階層分化が急速に進んでいるにもかかわらず、それに対抗できる勢力が存在しない点だ。
例えば、映画の舞台であるイギリスでは、1997年から2010年までの13年間、労働党が政権を担っていたが、野党転落後、労働者派遣業や請負業の規制緩和が一気に進んでいる。労働党は二大政党の一角をいまだに担っているものの、労働者の権利保護に対して無力だったことがわかる。
ちまたでは、「労働党はEU離脱に対して明確なスタンスを打ち出せなかったから総選挙に負けた」との分析がなされているが、非常に表面的だ。
本作の中でも、介護士が訪問した先で、高齢の元運動家から労働時間を聞かれて「12時間以上」と答えたところ、「8時間労働制はどうなったの?!」と驚かれるシーンがあるが、まさにそれである。産業革命以来、労働運動の発祥の地とも言えるイギリスにおいて、あまたの血を流して獲得してきた運動の成果がいまや失われ、「労働者じゃ無い」という名目によって、むしろ収奪が強化されていることがわかる。

本作を見ると、我々が住む世界そのものが「ブラック」化しており、それが自由(個人の選択)と民主主義(有権者の選択)の名の下に正当化され、人間性そのものを破壊しつつあることが実感できるだろう。
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2019年12月05日

中国で映画ミッドウェイを観る

ゲーム仲間に「いまミッドウェイ上映してるよ」と言われ、早速観に行く。
行こうと思えば、平日昼間に映画に行けるのは教員特権だろう。
とはいえ、実際は超ガラガラで土日でもスカスカだったかもしれない。
ま、平日はチケットも安いし、よしとしよう。
中国語訳が「中途島海戦」なのには笑った。



ローランド・エメリッヒ監督、2019年の作品だが、史実を重視しつつ、エンターテインメント性の向上に努めた感じ。
パールハーバー、マーシャル諸島空襲、ドーリットル空襲を経て、ミッドウェー海戦までを俯瞰的に描いている。
ストーリー的には特筆するものはなく、概ね米軍人を英雄的に描いているため、いささか陳腐な感じがする。
他方、日本側の描写については努力の跡は認められるものの、やはり日本人的には違和感を覚えるところが多く、山本五十六(豊川悦司)、南雲忠一(國村隼)、山口多聞(浅野忠信)らの描かれ方も古い教科書でも読まされているようなイメージで深みも面白みもない。人間ドラマとしては、落第点のレベルだ。

CGの出来だけは「さすがアメリカ!」と誉められるが、肝心の戦闘描写も「いやいや、ちょっと待て!!」と言いたくなる部分が散見され、技術に偏りすぎて、本来必要な検証が不十分すぎる気がする。
この点は、フィンランドの「アンノウン・ソルジャー」の監督の爪の垢でも煎じて飲ませたいくらいだ。
本作を観ると、「ザ・パシフィック」が例外的に良くできていたことが、改めて実感される。

なお、日本では2020年秋のロードショーとなっているが、いくつか本編とはあまり関係が無い「日本軍による残虐行為」シーンの検閲が検討されているためなのかもしれない。
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2019年12月02日

中国でゲルギエフ

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あまり中国で観劇に行く気がせず、この方面ではあまり活動していないのだが、たまたま演目を物色していたところ、ゲルギエフ&マリインスキー管弦楽団の公演を発見。早速チケットをゲットした。
日本だったらとっくに売り切れていそうだが、その辺はラッキーだ。
しかし、ランク的にはB席になりそうだが、680元=1万円強と高い。この辺の料金はもう少し何とかならんものか。
これでは私でも半年に一度行くのが精一杯だろう。
何のための中露同盟だよ(笑)
演目は、

ドビュッシー「牧神の午後」
メンデルスゾーン「交響曲第四番」
ショスタコーヴィチ「交響曲第五番」

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牧神の午後ももちろん良いが、自分的には生タコ5さえ聴ければ十分な感じだった。
この日は一日授業があって、なかなかしんどいのだが、致し方あるまい。

肝心の「革命」だが、ゲルギエフ&マリインスキー管弦の面目躍如だった。
テンポこそ速いものの、メリハリがきいており、締めるところは締め、緊張感と壮大さが見事に再現されていた。
オーボエの女性が凄いマッチョで気になっていたのだが、その筋肉にふさわしい力強い音色で、「さすがロシア人!」と感動してしまった。
細かいところでは、今回ピアノとオルガンの奏者が一人二役でピアノとオルガンを行き来しているのを発見、「そういうものなんだ!」と驚かされた。やはり生演奏は発見が多い。

やっぱ音楽と舞台はロシアに限るし、やっぱりまたロシアに行きたくなってしまう。
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2019年10月07日

森口博子「GUNDAM SONG COVERS」

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森口博子「GUNDAM SONG COVERS」
01 水の星へ愛をこめて/ with 寺井尚子 (「機動戦士Ζガンダム」オープニングテーマ)
02 哀 戦士/ with 押尾コータロー (「機動戦士ガンダムII 哀・戦士編」主題歌)
03 ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~ (「機動戦士ガンダムF91」主題歌)
04 BEYOND THE TIME ~メビウスの宇宙を越えて~ (「機動戦士ガンダム逆襲のシャア」主題歌)
05 嵐の中で輝いて/ with 田ノ岡三郎 (「機動戦士ガンダム 第08MS小隊」 オープニングテーマ)
06 フリージア/ with 塩谷哲 (「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」エンディングテーマ)
07 JUST COMMUNICATION/ with 猪野秀史 (「新機動戦記ガンダムW」オープニングテーマ)
08 めぐりあい (「機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編」主題歌)
09 Ζ・刻をこえて (「機動戦士Ζガンダム」オープニングテーマ)
10 RE: I AM/ with TSUKEMEN (「機動戦士ガンダムUC episode 6「宇宙と地球と」」主題歌)
11 宇宙の彼方で [Bonus Track] (「機動戦士ガンダム THE ORIGIN IV 運命の前夜」主題歌)

ケン先生の場合、1985年の「Zガンダム以来」ということになるので、自分にとっても「35周年記念」である。
聞いているだけで、世代的に「クル」ものが多く、かなりヤバい一品。

敢えて難を言うなら、「上手くなってしまった」ことで、「Z」当時の良い意味での素人臭さが失われてしまっているところが、少々「これじゃない!」と言いたくなるところもあるのだが、それは「求めすぎ」であることも理解している。
同様に全体に「オサレ(キレイ)」に仕上げすぎてしまっており、アニソン臭さが失われているため、全体的に薄味になっていることも確かだ。濃いめが好きな人からすれば、やはり「これじゃない!」という反応が出ても致し方ないところだろう。

それでもケン先生的には一枚持っておいて損は無いと思う。
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2019年10月03日

『Uボート ザ・シリーズ 深海の狼』

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西独ドラマ/映画の名作『Uボート』の続編が38年を経て制作された。



1981年のそれは3本のTVドラマと、それを編集してつくられた映画から成っているが、本作は8本編成のTVドラマとして作られ、制作費35億円が投入された。日本では今夏WOWOWで放送された。
ただ続編とは言え、前作と直接的な関係はなく、むしろ新作と言える。
1942年、ドイツ軍に占領されたフランスの港町ラ・ロシェル。ドイツ海軍史上に名を残す英雄の息子であるホフマン海軍大尉はUボート“U612”の艦長に昇進し、初めての出撃を迎える。しかしホフマンは、周囲から親の七光りで昇進したと見下されていると感じ苦悩する。
そんな“U612”に、急遽、通信兵として乗り込むことになった青年フランクは、ドイツ秘密国家警察の通訳になった姉シモーヌに、ある取引の代理を頼み封筒を渡す。中に入っていたのは回路図で、取引相手はドイツに抵抗するレジスタンスだった。基地から出航した“U612”の艦長ホフマンは、司令部から極秘任務を言い渡される……。

ストーリーはUボート側の視点(弟)と軍港側の視点(姉)から描かれ、それぞれ異なる物語が相関的に描かれる。構造的には名作『ジェネレーション・ウォー』に近いが、相変わらずドイツ人の作るドラマはリアルすぎて、見ているだけでMP(精神力)がゴリゴリ削られるイメージ。Uボートの話などは、敢えて爽快さを無くしている感じだし。
展開速度が速く、8時間分も見たとは思えないスピードだったが、いささかプロットを盛り込み過ぎで、展開に着いていくのが大変だ。ロシア・ドラマのように人間関係がわかりにくいということはないのは救いだが。

Uボートの描写は最新技術が駆使されたことで、一層リアリティが増しており、増している分だけ見ていて大変。
軍港における銃後の描写もリアルで、ドイツ海軍とゲシュタポとフランス警察とレジスタンスの関係が十二分に描かれている。ここは敢えて一つのドラマに入れる必要があったのか議論の余地が残りそうだし、いささか無理を感じるところもあるのだが、ゲシュタポが絶対悪として描かれていないところやアルザス人への差別など興味深いところが多いことも確かだ。

早速続編の制作も決定しており、楽しみにしたい。
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2019年09月06日

30年ぶりのロードス島戦記

一ヶ月遅れになってしまったが、水野良『ロードス島戦記 誓約の王冠』を読了。

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ロードス島戦記は高校生の時に読んで、まだ和製ファンタジーを小馬鹿にしていた自分をたしなめてくれた作品でもあった。
30年も経てば黒歴史も笑い話である。
引っ越し(海外移住)や実家の建て替えで、学生の頃に読んだ本の多くは処分してしまったが、大事にとっておいた数少ないものでもある。
ラノベも30年経てば、十分に「お宝」だろう。

その水野先生の新作は先祖返りで「100年後のロードス島」だった。
あえて内容には触れないが、例の如く「薄い、あっさり、超王道」の水野節は健在ながら、今のところ「二番煎じ」でも無さそうで、悪くない出だし。
続刊を楽しみにしたい。どうせ一年に一冊のペースだろうから、中国住まいでも関係あるまい(笑)
posted by ケン at 12:00| Comment(0) | サブカル、音楽、アート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする