2020年12月18日

Netflix『クイーンズ・ギャンビット』



11月に配信開始されたNetflix『クイーンズ・ギャンビット』を見る。
一ヶ月で6千万以上のアカウントを達成したというモンスター・コンテンツだ。
しかも、(今どき)チェスというゲームを題材にしているのだから、尚更だろう。

1960年代のアメリカを舞台に、孤児の少女が孤児院の用務員にチェスを教わってのし上がり、チェス棋士として独り立ちし、最後にはソ連で世界最強のプレイヤーと戦うまでを描く。
ミニ・シリーズで7回だけなので、あっという間に見られるが、心地よいテンポで進み、無駄がない割に「ここまで来たか」という到達感や達成感をも感じさせてくれる。
ただ、チェスと成長物語だけなら良いのだが、依存症、フェミニスム、性差別を手始めに膨大な記号が盛り込まれており、現代風ではあるのだが、「盛りすぎ」感は否めない。あまり気にしなければ良いだけかもしれないが、いちいち反応していると疲れてしまうだろう。

私もチェスは何となくしかわからないのだが、ルールを知らなくても楽しませてくれる演出があり、それでいてそれなりに譜面も見せてくれるので、飽きることはないだろう。一応カスパロフ氏が指導しているらしい。
チェスだけでなく、1960年代の音楽とファッションが上手に再現され、使われており、60年代好きとしてはたまらない。
主人公のベスは50年代調のダサいファッションをお仕着せられるが、自分で稼いで60年代の象徴となっていく様を見てるだけでも、多少服装史をかじったものとしては懐かしく感じられる(アメリカンだからダサいはダサいのだが)。
主人公を演じるアニャ・テイラー=ジョイの演技も素晴らしい。基本的に無表情の主人公だが、眼力と顔の筋肉で極めて繊細な意思表示を表現しており、ただただ感嘆させられる。まだ若いのに、その存在感たるや大したものだ。

ゲーマー的には、チェスがアメリカではマイナーな競技であったことを初めて知った。
ソ連時代は、本作でも描かれていたように、公園で老人たちがチェスに興じていたし、フランスでも公園やカフェでチェスがプレイされているのを見たことがあるが、アメリカはそうではないようだ。基本、マッチョ文化だからだろう。
ドラマのラストは、世界最強のプレイヤーと戦うためにモスクワに飛ぶのだが、その話も「ジャンプ系」そのものな感じで、激アツだ。ソ連の描き方も、冷戦期のような「悪の帝国」ではない。

とにかく色々見どころ満載の作品であり、私も早々に二回目を見てしまいそうだ。
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2020年12月05日

『トップをねらえ!』リバイバル上映!



なんと、わが青春の『トップをねらえ!』が32年ぶりに劇場に帰ってきた!
少ないとは思うが、若い読者にもわかるように。
西暦2015年。白鳥座宙域で航行中であった「るくしおん」艦隊が、謎の宇宙怪獣の襲来により全滅した。それから15年後、宇宙怪獣の襲来に備えて沖縄に、宇宙パイロット養成学校「沖縄女子宇宙高等学校」が設立された。その生徒の中に「るくしおん」艦長の娘、タカヤノリコの姿があった…。「私もいつか宇宙パイロットになって、父のいた宇宙に出る!」厳しいコーチの特訓の中で、メキメキと才能を発揮していくノリコ! 今、パイロットのトップになるための、そして地球を守るための、辛く険しい戦いの幕が上がる…!!

個人的には庵野秀明監督の最初にして最高の作品だと思っている。
「熱血ロボット根性もの」という新たなジャンルを開拓したかと思いきや、後に続くものなく、唯一絶対の金字塔となり続けている、1980年代の超傑作。そのコピーは「炎の熱血友情ハードSF宇宙科学勇気根性努力セクシー無敵ロボットスペクタクル大河ロマン!!!!!」。

この「どうにでもなれ」感からもわかるように、当時のGAINAXが『オネアミスの翼』で生じた巨額の負債を一度で返すためにやけっぱちとなって、「カレーとハンバーグと唐揚げを混ぜれば、三倍おいしくなるはず!」とばかりに「全部のせ」をやったら、本当に成功してしまったという超レアケースの一作。
「パンしゃぶの構造」でも説明したとおり、普通99%は本来噛み合わない要素を複数盛ると、本来の味が失われて「で、何の話だっけ?」となるのだが、本作だけは例外と言える。
当時の時事ネタや他社アニメ・ネタ、庵野監督の好きな岡本喜八ネタなどがふんだんに盛り込まれ、パロディだらけになっているはずなのだが、全て問題なく成立させてしまっている点、何度見ても傑作としか言いようがない。むしろ、年を経て、元ネタがわかるようになればなるほど、「やり過ぎ」が笑えると同時に泣けてくるところが、ますます超絶技巧になっている。
ストーリーからキャラクターのネーミングまで適当具合もハンパ無いのだが、この面白さと言うか、凄さを他者に説明するのは難しい。特に若い人が見ても、何が面白いのかまずわからないだろう。

光速で飛ぶロボットに乗る主人公だけが年を取らないで、周囲の人間がどんどん年をとっていくのは、結婚しないで子どももいないヲタクへのオマージュだという話もあるが、考えてみれば、自分も周囲には孫もできそうな段階にある中で、確かに自分と旧友のNだけが昔と何も変わらない感じでいる気もする。主人公らは2006年生まれということで、ほぼほぼ私の教え子と変わらない。いやはや考え出すと、色々止まらなくなりそうだ。
posted by ケン at 08:00| Comment(4) | サブカル、音楽、アート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年12月01日

『リベレーター: 勝利へ、地獄の行軍500日』



先日Netflixで配信開始された新作戦争ドラマ。
実写とCGを併用するTrioscope Enhanced Hybrid-Animationを駆使している。
確かに「実写っぽく見えるアニメ」で、アメコミ調にも見える。
わざわざアニメ化する必要あるのきゃ?と思わなくもなかったが、ドイツ軍の戦車や装備が嘘っぽくないし、陰惨な場面を軽減する効果もあり、見ているうちに違和感はなくなった。

オクラホマの歩兵第157連隊の中隊長として赴任した主人公が、先住民、ラテン系、懲罰兵などを率いて、シチリア、アンツィオから、フランス上陸、ヴォージュ山脈(独側のノルトヴィント作戦)、アシャッフェンブルクまでの戦いを描く。
二次大戦における米軍の死傷者はドイツ戦線で約25万人だが、主人公が所属する第45歩兵師団だけで1万人以上の死傷者を出しており、ほぼ師団まるごと人員が入れ替わっている有様だった。

Netflixらしく、決して「アメリカ万歳」にはなっていない。主人公は英雄らしくは描かれているが、悩み苦しむ人間であり、超人ではない。
米軍による蛮行も描いている一方、SSについても蛮行と強さの両面を描いており、重層的な作りになっている。
ただ、50分前後のエピソードが4話だけなので、訓練、イタリア、フランス、ドイツで、あっという間に終わってしまう。
登場人物はみな「あまりにも長く戦い続けて心が壊れていく」と言うのだが、ペースが早すぎて共感できないところがある。10話もあれば、共感できたのだろうが。
見どころはやはりSS山岳猟兵と戦うヴォージュ山脈戦(ノルトヴィント作戦、米第七軍は一時崩壊寸前に)と、ドイツ国内の市街戦を描くアシャッフェンブルク戦で、アニメながらも十分な迫力と演出で描いている。
物語の最後にパットンが登場し、主人公と対話するのだが、これがなかなか「らしさ」が出ていて、楽しませてくれる。

アメリカでの評判は必ずしも良くないようだが、ケン先生的には十分にお勧めできる作品である。

参考:"The True History of Netflix’s ‘The Liberator"
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2020年11月27日

セルゲイ・ロズニツァ『国葬』


『国葬』 セルゲイ・ロズニツァ監督 ロシアほか(2019)

セルゲイ・ロズニツァ『国葬』を観る。スターリンの葬儀と全ソ連で行われた告別式の映像が、延々と2時間以上続く。同じようなプロパガンダとスピーチの連続で、ナレーションもセリフも無い。見続けるのはなかなか苦痛なのだが、全体主義を学んできたものとしては、全体主義の要諦が大衆動員にあることを改めて認識させてくれて、助かった。
デジタル処理やカラー化の具合がよく、葬儀に参列した大群衆の表情があますところなく再現されており、ソヴィエト人民の「偉大なる指導者の死」への向き合い方がよく伝わる。そこから大衆心理をイメージしていく過程も、全体主義研究の一つと言える。

欧米では一般的には、全体主義下の大衆心理は「強制・矯正された感情」と認識されているが、「あれは洗脳された可愛そうな人たち」という認識を持つ限り、全体主義は理解できない。
日本には、戦時下の明治帝政という異形の全体主義を経験している上、靖国神社のような洗脳・動員機関がそのまま存続を許されている特殊な環境にありながら、どうにも全体主義への理解が足りないのは何故だろうか。

一方で考えてみれば、中曽根の「国葬」なんて、非公開にせざるを得ないほど不人気であったのだから、実のところ全体主義とは真逆のところにあることを再確認した次第。もちろん、「権力者の国葬」という発想自体は権威主義のそれではあるのだが、「大衆動員できない」「非公開にせざるを得ない」というのは、自民党が全体主義を理解していない、または都合よくに解釈するなら、「全体主義をやる気はない」ことを示している。
まぁ文科省あたりの出来の悪い官僚は、「意識的に全体主義を志向しているが、全体主義とはなにか理解していない」典型的なパターンでありそうだが。
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2020年10月20日

異端の鳥


『異端の鳥』 ヴァーツラフ・マルホウル監督 チェコ・ウクライナ(2019)
東欧のどこか。ホロコーストを逃れて疎開した少年は、預かり先である一人暮らしの老婆が病死した上に火事で家が消失したことで、身寄りをなくし一人で旅に出ることになってしまう。行く先々で彼を異物とみなす周囲の人間たちの酷い仕打ちに遭いながらも、彼はなんとか生き延びようと必死でもがき続ける―。

ナチスによるユダヤ人狩りを逃れるために疎開させられた少年が、ひたすら差別と搾取と暴力にさらされ続ける話。ストーリーなど無いに等しく、ひたすら旅を続け、どこに行っても迫害されるハードすぎる内容なのだが、35mmモノクロ・フィルムによる映像が美しい上、セリフも音楽も最小限しか無いため、俯瞰的または第三者的に見られてしまうところが秀逸。

暴力が暴力を呼ぶ社会構造を見事に映像化している。
改めて現代日本もこの二、三歩手前まで来ていることを実感させる。

ロシア・東欧系の映画らしく、全く説明が無いので、一定程度の知識が無いと、主役の子どもがユダヤ人なのかも認識できないところが、日本ではなかなか厳しいかもしれない。
『炎628』で主演したアレクセイ・クラヴチェンコが出演しているところも興味深い。

インタースラヴィクという古代教会スラヴ語を基にした人工言語を使用している点も面白く、ロシア語話者として非常に興味深かった。
ただし、ドイツ語とロシア語はそのまま。
これは、場所や設定が特定されないようにする配慮に基づいている。
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2020年09月25日

Netflix リベリオン

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ダブリンで起こったイースター蜂起をきっかけに、英国軍と革命を求めるアイルランド人の対立が加速。血で血を洗う争いが続き、アイルランドを分断していく。

1916年のアイルランド・イースター蜂起から独立戦争(19-21)を経て、1922年の内戦勃発までを描いたNetflixドラマ。
指導者視点ではなく、複数の参加者の視点から描かれる群像劇。
弾圧側の英国視点やアイルランド人ながら英国軍に投じている者の視点もあり、非常にめまぐるしくはあるが、それだけにテンポも良く、あっという間に10話見てしまった。
十話と言っても五話ごとの2シーズンで、第一シーズンと第二シーズンで主要人物が異なる上、相変わらず縁戚関係が多く人間関係がわかりにくい面もあるが、ついて行けないほどでは無い。

相変わらずドラマとは思えない作り込み具合で、当時のダブリンの街並みから衣装、装備まで良く再現されている。
ストーリーもいささか作り込み過ぎな嫌いはあるものの、日本の歴史ドラマのような嘘くささはなく、没入できる。
人物が良く描けており、演技も上々で、完成度の高いドラマに仕上がっている。

本作を見れば、ほんのちょっと前までイギリス人がアイルランドや植民地でやっていたことは、現代の権威主義国家の手本であったことがよくわかるだろう。英国人にこれを突きつけて、「貴君のやっていることと同じことをやっているだけだが、何か?」と言ってやれば、ぐうの音も出ないに違いない。
しかし、英国ではこの手のアイルランドなどの独立問題のドラマが登場するたびに、「英国の名誉をおとしめる歴史修正主義」との声が保守派から上がるそうで、どの国でも同じなのだということもよくわかる。
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2020年09月23日

劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン


『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』 石立太一監督

原作とは異なる展開を見せたアニメ版のラストを飾る一作。
京アニ渾身の完成度と映像美で観客を圧倒してくれる。
アニメ映画で2時間20分のボリュームがあるが、全く時間を感じさせない。
台詞に間を置いたり、冗長なシーンがあって、アニメ的ではない演出手法を駆使しているが、それがまた素晴らしい。
文字にするのは野暮ってもんだ。


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