2016年07月25日

日本で一番悪い奴ら

196597.jpg
日本で一番悪い奴ら』 白石和彌監督 日本(2016)

「日本警察史上最大の不祥事」とも言われる「稲葉事件」をモチーフにした映画。
原作は、本ブログでも紹介している(2011.12.07)。
『恥さらし 北海道警悪徳刑事の告白』 稲葉圭昭 講談社(2011)
銃摘発のカラクリ、マル暴と暴力団の関係、薬物氾濫の流れなどがつぶさに分かる。ノルマを稼ぐために犯罪者を泳がせ、密売元には触れない警察の実態。名刑事は捜査の過程で暴力団員とズブズブの関係に陥っていく一方で、上司からノルマ達成の偽装を依頼され、ますます堕ちていく。まさに「事実は小説よりも奇なり」である。これを映画化しないで何を映画にするというのか。若松監督あたりならやってくれるか?

柔道の腕を買われて北海道警にスカウトされる普通の警察官が、暴対や銃器対策室に配属される中で、自らも意識しないうちに暴力団員らとズブズブの関係に陥り、上層部のノルマに追われて自ら銃器や麻薬の販売に手を染めてゆく。
上層部が過剰なノルマを課す中で、違法捜査や文書偽造が蔓延、上納する分と協力者に渡す裏金をつくるために、犯罪に染まってゆく警察の実像が描かれている。そのタッチは比較的軽妙で、本来重いテーマのはずだが、コメディ要素も交えて上手く構成されている。

正義感の強さ故に捜査に前のめりとなり、人柄故に協力者も増え、結果を出すが故にますますノルマを課され、本人の自覚やコントロールの効かないところで、凄い勢いで上り詰めると同時に堕ちるところまで堕ちてゆく姿が、良く描かれている。
主人公役は、超売れっ子の綾野剛氏だが、気合いの入った熱演をしており、周囲とも息のあった熱度の高い作品に仕上がっている。また、1970〜80年代の空気感が良く再現されており、スカパラの音楽と共に、40代以上の共感を呼ぶ雰囲気がある。
惜しむらくは、前半のスピード感に比して後半がやや冗長になっており、監督の意図するところは分からなくも無いが、2時間15分はちょっと厳しい気がする。
それでも、日本警察の暗部を、クライム・ムービーという形で見事に描いている良作であることは間違いなく、一見の価値があろう。もっとも、作中上司が言う「明日までに領収書出せよ」との発言が、裏金用の架空領収書を指すことなどは、一定の知識が無いと分からないとは思うが。

ちなみに、主人公のモデルとなった稲葉元警部は、

「当時、何百丁と挙げた拳銃のほとんどがやらせだった。8年間の捜査のなかで、実際の捜査による拳銃の押収は、たった2丁」

と回顧しており、覚醒剤130キロと大麻2トンを北海道警察と函館税関が組織的に密輸していた疑惑も浮上、一連の事件を扱った北海道新聞は、道警などからの圧力で一面に謝罪広告を載せている。現実には、映画よりもさらに深い闇があるのだ。
なお、本作が公開される直前には、覚醒剤密売の仲介者と共謀して虚偽の調書を捏造したとして、道警本部に勤務する警部補が逮捕されている。道警の暗部はいまもなお健在らしい。
posted by ケン at 12:54| Comment(0) | サブカル、音楽、アート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年07月06日

映画 帰ってきたヒトラー

210456.jpg
『帰ってきたヒトラー』 デヴィッド・ヴェンド監督 ドイツ(2015)

1945年4月30日、ベルリンの総統地下壕にて自決、遺体を焼かれたはずのアドルフ・ヒトラーが、2014年のベルリン同所に突然転生してしまう。街中では「趣味の悪いコスプレ芸人」と見られてしまうが、あるテレビ局員に「才能」を見いだされて、政治コメディ番組に出演すると、一気に大ブレイク、インターネットの効果もあって、ドイツ全土を震撼させていく。

本作が凄いのは、「ヒトラーが現代に転生する」という一点を除いて、どこまでもリアリティを追求している点にあり、当初コメディとして認知されていたものが、いつしか全大衆を巻き込むプロパガンダへと変質し、その境目が分からなくなってゆくところにある。また、ヒトラーを「狂った煽動家」としてではなく、クールで理知的な人間として描いているところに凄みがある。彼は、「自分が望む世界」を一方的に大衆に押しつけるのでは無く、「大衆が望む世界」をどこまでも追求し具現化しようと試みる。結果、1920〜30年代にあった政治課題を、すぐ現代に置き換えて「ドイツの環境保護」や「難民問題の不可逆的解決」を唱え、大いに支持を得てゆく。誰もがコメディとして見ているが、本人はヒトラー本人であるが故にどこまでも本気であり、本気であるが故にプロパガンダとしての実質も高まってゆく構図になっている。これは、鑑賞する側にとっても同じで、どこまでがコメディでどこまでがプロパガンダなのか、判断の線引きが難しいことが分かる。
実在の政治家の映像を使ったり、ドキュメンタリー手法を駆使して、実際に街並みに現れて撮影したりしているせいで、ますますリアリティとコメディ具合が増している。

これは、日本では全く笑えない話で、元総理が「ナチスの手口に学べ」と言ってみたり、同じく元総理が「国歌を歌わない五輪選手は日本代表に相応しくない」と述べてみたり、現総理が他国の元首を率いて伊勢神宮に参拝したりと、現実政治とコメディの境界は完全に融合してしまっているからだ。逆の立場から言えば、民進党と共産党の「合作」を挙げても良いだろう。

あまり深く考えずに映画館に足を運び、後から色々考えるのが楽しい作品と言えそうだ。色々なところにパロディが散りばめられているので、笑うポイントも人様々だろう。なかなかの珍作にして名作である。
posted by ケン at 12:19| Comment(0) | サブカル、音楽、アート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年06月05日

祝!再アニメ化 はいからさんが通る

574e5214b98bd.jpg
大和和紀女史の代表作「はいからさんが通る」の劇場版アニメーションが新たに制作されることになった。公開は2017年の予定。

やっぱ大正浪漫だよね。東北帝大法学部が女子の募集を開始したのが大正12年、司法試験の門戸開放は昭和11年。祖母も「日本初の女性弁護士」に触発されて法学部を目指した。そういう時代。
posted by ケン at 12:00| Comment(0) | サブカル、音楽、アート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年05月29日

灰と幻想のグリムガル

617kS-1YErL__SX353_BO1,204,203,200_.jpg
『灰と幻想のグリムガル』既刊8巻 十文字青 オーバーラップ文庫

前期のアニメで一番のお気に入り。原作も大人買いして一気に読んでしまった。
記憶の一部を失って、ファンタジー異世界で突然目覚めた主人公たちは、あぶれた者同士でパーティーをつくり、「義勇兵(見習い)」となって日々を生きるためにモンスター討伐に身を投じる。

(以下、ネタバレ注意)

基本的には最近流行のオンラインRPG世界におけるファンタジーなのだが、戦闘の地味さと登場人物の感情表現の微細さが際立っている。パーティーのメンバーは主人公を含めて、何一つチート的な能力も装備も持っておらず、ゴブリン相手に延々と苦労する始末。最初の方などは、6人パーティーなのに「ゴブリン2体とかちょっと無理じゃね?」くらいのノリで、新選組の「3対1原則」も真っ青なところから始まっている。
もともと私は、高い能力を有する主人公がチートな装備を持って、圧倒的な強さを誇る敵をバッタバッタとなぎ倒してゆく式の少年漫画のノリに飽き飽きしていただけに、

「超弱い主人公が、仲間と協力して、弱っちい敵を超苦労して倒す(倒せないこともあるし、味方もやられる)」

という、本作の「リアリティ」に思わず、「これだよ、これ!」と快哉を上げてしまった。

【参考】 「リアルロボット」のリアリティを求めて

ケン先生的に、リアリティはもう一つあって、それは「良いヤツほど早く死ぬ」原則が貫かれている点にある。従軍者の回顧録などを読むと、良く「良いヤツほど早く死んでいってしまい、オレなんかが生き残ってしまった」的な話をたびたび目にするのだが、この原則は政治に従事するものとしても、非常に強く実感できる。
戦場では、危険にさらされている仲間を率先して助けようとしたり、「ここはオレに任せてお前は先に行け」などという名ゼリフを吐いてしまったりするものから死んでゆき、「後で援軍を連れて助けに来るからな」と言って二度と戻らない者ばかりが生き残る原理になっている。

また、本作では、仲間の戦士のために皆がお金を出し合って兜を買うシーンがあり、なるほどと思った次第。確かに自分たちでTRPGをしていて、パーティーで相談して戦士系キャラの装甲を強化すべく、優先的に良い鎧を買うことはままあるが、そこで兜を買おうという話にはならないからだ。だが、実戦では兜は非常に重要な防備であるのは間違いない。
古代の戦争は集団戦がメインであっただけに、隊形が密集しており、回避行動が難しく、同時に盾も装備していたので、頭部が狙われがちだった。個別の白兵戦でも、頭部は他の肉体の部位に比して動きの少ない部分であるだけに、攻撃側からすると狙いやすかった。それは、現代の剣道やフェンシングでも面を付けることからも明白だろう。
頭は、ちょっとした衝撃を受けただけで失神したり、意識混濁したりするので、その点でも防御力を上げて戦闘不能リスクを軽減する必要があった。

「リアリティ」以外にも、キャラクター間の関係の描かれ方が緻密で、その代償としてのテンポの遅さは否めないものの、他のラノベには無い独特の雰囲気を醸し出している。ダメなキャラのダメっぷりをストレートに描いている点も、痛々しいが好印象。
ただ、同時に世界設定などの描写や説明は少なく、いわゆる「親切設計」ではないため、テンポの遅さも含めて、好き嫌いの分かれる作品と言えそうだ。
また、アニメは原作の「苦い」ところを薄めて、上手にきれいにまとめ上げた感じがあり、アニメの完成度からすると、原作を読んで違和感を覚える人がいてもおかしくない。個人的には、作家のネガティブなところも含めて気に入っているので、なかなか評価が難しい。
posted by ケン at 00:00| Comment(0) | サブカル、音楽、アート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年04月02日

宣伝:ジョーカー・ゲーム アニメ版

img-0022.jpg
今期期待のアニメはこれ

ついに中野学校までアニメ化。柳広司氏の同名原作で、制作はプロダクションI.Gだから、クオリティも期待できよう。伯父上を偲びながら楽しみにしたい。
私の大伯父は、陸士から中野学校を出て、支那派遣軍や関東軍の情報部で諜報活動を行っていた。終戦時には新京におり、機密文書の廃棄等を行った後、満州を徒歩で横断、ソ連軍の戦線をすり抜けて、浦潮から船で帰国。外地からは誰もまだ帰還していない45年9月か10月には東京にいて、皆から亡霊のように見られたという。

【参考】
Dの魔王 
忠義とロイヤリティA補 
posted by ケン at 13:00| Comment(2) | サブカル、音楽、アート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年02月20日

英国の夢 ラファエル前派展

20151226-08.jpg
「リバプール国立美術館所蔵 英国の夢 ラファエル前派展」 Bunkamura ザ・ミュージアムにて 3月6日まで

ラファエル前派展は毎年のように開かれているが、やはり見に行ってしまう。今回は、リバプール美術館所蔵作品群ということで、初来日の作品が多く、興味深いものがある。リバプール美術館と言っても、立派な建物が三つもあり、その3館全体を指している。19世紀のリバプールは造船業を中心に工業化の最先端を行っていただけに、その繁栄の象徴と言える。ラファエル前派もまた、19世紀末に最盛期を迎えただけに時期的にマッチングしており、非常に良い作品がそろっている。ミレイ、ロセッティ、ムーア、バーン=ジョーンズ、ウォーターハウスらの図版では見たことのある作品が見られるので、「おぉ、これもある!」と驚かされる。
ケン先生的には、大所ながら、ミレイの「いにしえの夢─浅瀬を渡るイサンブラス卿」「春(林檎の花咲く頃)、バーン=ジョーンズ「フラジオレットを吹く天使」、ウォーターハウス「デカメロン」あたりが見応えがあった。こってりした色合いと服の質感、そして物語性がたまらない。全体の配置やセンスも好印象。

Bunkamuraミュージアムの良いところは「程よい大きさ」にあり、気軽に見に行ける点がお気に入り。もう一回見に行っても良いくらいデス。
posted by ケン at 12:00| Comment(0) | サブカル、音楽、アート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年02月14日

ダンス☆ダンス☆ダンスール

P1250123.jpg

ジョージ朝倉先生の新作『ダンス☆ダンス☆ダンスール』は、バレエ男子が主人公ということで注目中。朝倉先生はぶっ飛び具合が魅力なんだけど、今のところまだ抑えられている模様。いつ破綻するかドキドキなんだよね。作品の構成としては、ダンス漫画の王道を行っている。
ジョージ先生、期待してマス!

自分にも男の子がいたらバレエを習わしていたと思うだけに、思うところも色々。
『テレプシコーラ』は以前意を決して読んだところ、あまりの重さに心が折れて、今回某お姉様から「読了命令」が下されて再挑戦。
posted by ケン at 10:04| Comment(0) | サブカル、音楽、アート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする