2021年04月02日

対中非難激化する日本だが

 日米豪印からなるQUAD会議や日米2+2を見る限り、日本の対中姿勢はより強硬さを増しているように見える。日米2+2では、中国を名指しで非難する文書が出され、これに対し中国外務省の趙立堅副報道局長が日本を「戦略的属国」と非難する事態となっている。日中両国が非難の応酬を行うのは2010年の尖閣沖漁船衝突事件以来のこととなる。また、QUAD会議においても、日本は中国を名指しで非難する文言を共同声明に盛り込もうとしたものの、インドの反対によって排除されている。

 菅はもともと2020年9月の自民党総裁選において、アジア版NATOの創設を訴えた石破茂候補に対して、「反中包囲網にならざるを得ない」と否定的な見解を示したことがある。親中派の二階俊博幹事長の支援によって総裁選に勝利した菅は二階の意向には逆らえない。にもかかわらず、政府としてのスタンスは強硬路線に傾斜し、自民党内でも対中強硬派の声が強まっている。

 一つの要因としては、アメリカで成立したバイデン政権が、予想以上の対中強硬スタンスを示したことで、外務省内の親米、反中派が強まっていることが挙げられる。もともと外務省の方針は「アメリカの対アジア・コミットメントを強化する」というものであり、日本が自ら中国との関係を悪化させることで、東アジアの緊張度を上げ、アメリカのコミットメントを強化しようとする意図があると見られる。実際、アメリカの新国務長官と新国防長官の初外遊先が日本となり、反中声明を出したことの意義は大きく、外務省内では「大きな成果」と評価されているという。

 他方、菅はもともと外交を得意としておらず、前任の安倍のように戦略構想を披露することもなく、その外交手腕には当初から疑問符が付けられていた。そして、国内の新型コロナウィルスへの対応や数々のスキャンダルへの対応に追われる菅政権は支持率を30%台半ばにまで低下させており、今秋までに選挙があることもあって、政権としての求心力が低下しつつある。その結果、菅は自民党や外務省内の強硬派に対して強く主張できなくなっており、むしろ対中強硬姿勢を示すことで支持の回復を狙っているものと考えられる。

 自民党内では外交部会を中心に対中強硬姿勢を強めており、2月には外交部会内に「台湾政策検討プロジェクトチーム」が発足、アメリカとの対台連携や台湾との議員交流を強化する提言をまとめる方向で話を進めている。その背景には、国民世論の後押しがある。今年1月に行われた日本経済新聞の世論調査によると、「中国を脅威と感じるか」という質問に対し、「脅威と感じる」(56%)と「どちらかといえば脅威と感じる」(30%)の合計は86%で、北朝鮮の82%を上回った。北朝鮮を上回るのは初めてのことであり、日本国民の大多数が尖閣沖での対立や台湾、香港などにおける中国の動きに強い警戒感を抱いているのが実情だ。こうした国民世論を背景に、自民党の強硬派がますます勢力を増しているが、二階幹事長がギリギリのところで部会内での活動に抑え、自民党としての方針としては認めないところで歯止めをかけている。その二階も菅政権の支持率低下や国民の反中世論の高まりを受けて、以前に比べると統制力が低下している。

 但し、口頭による中国非難は激化しているが、対中制裁については政府内では検討すらされておらず、この点も中国市場に依存し、海域を接する日本の限界が見て取れる。

 一方、中国外務省はQUADを「アジア版NATO」と見て警戒を強めている。確かに中国から見れば、アメリカ、日本、オーストラリア、インドが連携して中国に対抗する形は、古代中国における合従連衡そのものかもしれない。しかし、戦国時代においても合従連衡は最終的に破綻し、秦が中華統一を果たしている。その最大の理由は、秦以外の六雄の利害と秦に対する脆弱性がそれぞれ異なっていたことにあった。現代のQUADが抱える問題点も本質的には同じである。

 アメリカにとって中国はソ連以来最大の脅威ではあるが、中国は世界の覇権を求めておらず、アメリカ自身は自国が衰退する中で、アジアにおける同盟を再構築することで、米国の勢力投入を最小限に止めつつ、中国の太平洋進出を少しでも遅らせることを戦略目標としている。
 
 日本の現体制は第二次世界大戦後、アメリカの指導の下でつくられたもので、現行体制の安全保障は米国に依存し、独力で自国を防衛する思考は無い。踏み込んで言えば、在日米軍の存在が現在の支配体制の正統性を担保している。そのため、日本の戦略目標は、アメリカの対アジア・コミットメントを最大化することとなっている。日本の、特に外務省にとっては、米中対立が激化すればするほど、日米同盟の価値が上がり、アメリカの対アジア・コミットメントが強化されるため、望ましい事態なのだ。しかし、経済面を見た場合、日本の2019年の輸出先としては中国が約19%を占め、米国の約20%を下回っているが、輸入先としては中国が約23%を占め、米国の約11%を大きく上回っている。また、日本はエネルギー資源の8割以上を台湾海峡、東シナ海経由で輸入しており、中国と戦争できる体制にはなっていない。さらに、日本は東アジア内において、北朝鮮とは敵対関係にあり、ロシアとは領土紛争を抱え、韓国とは戦後補償問題で外交的危機が続いており、殆ど孤立した状態となっている。日本はむしろ東アジアで孤立しているからこそ、QUADと連携してASEAN諸国の抱き込みを画策していると言えるだろう。同時に、日本にとってQUADはアメリカのコミットメントを担保するための装置の一つでもある。
 
 日本同様に中国に対して強硬姿勢をとっているオーストラリアも実は中国に対して非常に脆弱である。例えば、2018〜19年におけるオーストラリアの輸出の約33%が中国向けで、アメリカ向けは約5%に過ぎなかった。オーストラリアにとって33%もの輸出先を代替する国は存在せず、中国は死活的な市場となっているため、長期にわたる抵抗は難しい。従って、オーストラリアにとってQUADとは、中国と対立する前線を日本やインドに担わせ、自らに対する圧力を軽減するための装置であると言える。

 インドは先に述べたように、中国と本格的に対立する意思はなく、自国の利益を最大化するためにQUADに加わっただけだろう。インドはQUADの中で唯一中国と国境線を有しているだけに、軍事同盟化して自らが米豪日の手先となって中国との戦争の先陣に立つことを認めるのは合理的ではない。

 以上のように同床異夢と言える合従連衡こそがQUADの実像であるだけに、アジア諸国ではアメリカの同盟国である韓国ですらQUADへの参加を見合わせている。米韓2+2では、QUADへの参加すら議題に上がらなかったとされている。同時に、QUAD会議では「ASEAN諸国への働きかけを強化する」ことを決めたが、逆を言えばASEAN諸国は参加を希望していないことを示しており、米豪日の手先となって対中対立の矢面に立つことなどは望んでいないことが推測される。

 最終的には、中国が世界最大の消費市場を形成している限り、自国の経済を犠牲にすることを覚悟しなければ、中国との本格的な対立は選択できない。その結果、QUADは対中対立の矢面に立つものを押しつけ合うような形になり、実利を明示するRCEPとは完全に対照をなしている。冷戦期における西側陣営は、市場を共有しつつ最大化することに成功したからこそ、ソ連を盟主とする東側諸国に勝利できた。しかるに現在のQUADは安全保障問題のみで同盟関係の構築を図ろうとしており、その関係はどこまでも脆弱なものにしかならないのである。
posted by ケン at 12:00| Comment(0) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月30日

本当のことを言われてキレる奴ら

【中国の「属国」発言、「全く受け入れられない」…官房長官が強い不快感】
 加藤官房長官は19日の記者会見で、中国外務省の趙立堅(ジャオリージエン)副報道局長が日本を米国の「属国」と発言したことについて、「日本政府として全く受け入れられない」と述べ、強い不快感を示した。
 趙氏は、16日に開かれた外務・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)で、日米両政府が中国を名指しして批判したことを受け、「喜んで米国の戦略的属国になった」と日本を批判した。
 日本外務省の関係者によると、中国は日米同盟について、「冷戦の産物」などと批判したことはあるが、日本を「属国」と侮蔑(ぶべつ)したことはこれまでなかったという。日本側は外交ルートでも中国側に反論した。
 外務省幹部は中国側の発言について「バイデン米政権が次々と中国への対抗策を打ち出し、日米同盟を強化していることへの焦りだろう」と指摘した。
(3月19日、読売新聞)

外国軍に常時駐留され、その経費の多くを負担し、外国軍機は自由に空を飛べるのに自国機は自由に飛べない国のことを「属国」「衛星国」と言わずして、何を言うのだろうか。
あえて言えば、北朝鮮は中国やロシアの属国ではないことは明らかだろう。

数年前、日米貿易摩擦の歴史を読み返したが、言うべきことを言ってないわけではないが、最終的なところでは安全保障で米国に依存している以上、「これ以上は逆らえない」と日本から譲歩するのが常だった。

仮に「属国」が「侮蔑」であるなら、冷戦期の東ドイツやポーランドを属国、衛星国と罵ってきたことを公式的に謝罪すべきだろう。
本ブログの「プラハの春−ソ連の対応と誤算」や「ソ連は何故ポーランドに軍事介入しなかったのか」で検証したように、冷戦期の東欧諸国は西側人の想像以上に自己主張していたのだ。
彼らの属国性が日本以上であったことを確信する材料を私は持たない。

例えば、冷戦期のポーランドにはソ連軍は常駐していなかった。また、「プラハの春」に際しても、ソ連軍はチェコスロヴァキアには駐留しておらず、ワルシャワ条約機構の軍事演習の名の下に集結し演習を行った後(実際に演習の予定があった)、一度ポーランドとハンガリーに退去して、再度軍事介入が実施された。外国軍の駐留というのは、それくらい重いものであるという理解が、現代日本人には決定的に欠けている。さらに「プラハの春」では、ルーマニアが最初から不参加を表明、東ドイツは直前になって不参加を決定、ソ連に通知している。イラクに派兵した日本と比べてほしい。
やはりソヴィエト学は大学の必修科目にするべきである。

そもそもアメリカ軍の常時駐留を熱烈に求めたのは昭和帝であり、武装化による対米自立を志向した岸信介を排除したのはかつての自民党だった。
昭和帝政は、アメリカの属国であることを統治の正統性として担保し、成立してきた歴史が戦後民主主義の根底にある。
霞が関の連中は、それを堂々と主張すれば良いだけのことだ。
そして、ソ連軍の撤退とともに東欧の共産党政権が倒れたのと同様、在日米軍の撤退は戦後帝政の終焉に直結するであろう。
posted by ケン at 12:00| Comment(6) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月04日

中露韓、私の敵は貴公でござる?!

【対中韓関係「良くない」80%超 対ロは73%、内閣府世論調査】
 内閣府は19日、外交に関する世論調査の結果を発表した。現在の日中関係について「良好だと思わない」「あまり良好だと思わない」との回答が計81.8%に上り、2019年10月の前回調査から6.3ポイント増加した。日韓関係で同様の回答は5.5ポイント減少したものの、計82.4%と高水準にとどまった。日ロ関係は7.1ポイント増の計73.9%だった。
 中国との関係を巡る意識の悪化は、尖閣諸島周辺で相次ぐ領海侵入などが背景にあるとみられる。対韓国は元徴用工訴訟、対ロシアは北方領土交渉の停滞などが反映されたとみられる。
 調査は18歳以上の男女3千人を対象に実施した。
(2月19日、共同通信)

中国ともロシアとも南北朝鮮ともケンカします!
オトモダチはアメリカだけです!(でも実は奴隷の主人)

でやっていけると思っている人たちはスゴイですね〜(棒読み)
いつまで宗主国に守ってもらえると思っているんでしょうね。
posted by ケン at 12:00| Comment(2) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月02日

恥ずかしいプロパガンダはすぐ止めろ!

20210219SS00001.jpg

>それまで領有権を主張したことのなかった中国・台湾が、突如、尖閣諸島の領有権の主張を始めたのは、1970年代に入ってからなんだよー

どこまでも愚かすぎる。そんなことを言い出したら、

「日本政府が北方四島は千島ではないと言い出したのは、1957年以降のことで、それもアメリカから覚書(日ソ交渉に対する米国覚書、1956年9月7日)を受けて方針転換したからなんだよー」

とか

「固有の領土という概念は日本独自のもので、他国はどこも主張してないんだよー」

とか

「1945年7月に日本政府が策定した近衛和平案は和平交渉における領土の扱いについて、最下限沖縄、小笠原原島、樺太を捨て、千島は南半分を保有する程度とする、としていたんだよー」

とか、いくらでも突っ込めてしまうだろう。
国民を煽ることを目的とするプロパガンダはすぐ止めろ。
posted by ケン at 12:00| Comment(6) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年02月07日

バイデン=菅政権下の日米関係と東アジア外交

※本稿は中国の某研究機関の電子ジャーナルに投稿したものなので、転載無用に願います。

【バイデン政権の陣容】
 1月20日に米バイデン政権が誕生した。国務長官にはアントニー・ブリンケンが、国防長官にはロイド・オースティンが就任した。
ブリンケンは民主党の外交部門で30年にわたって仕事してきた人物だが、共和党からも評価されている。2015年から2017年にはオバマ政権下で国務副長官を務め、アジア太平洋地域に外交・経済戦略の軸足を移す「リバランス政策」を主導した。しかし、オバマ政権下での仕事の多くは中東問題だった。国際協調を重視する立場であると同時に、積極的な人道的介入主義者でもあり、中国に対しては香港や新疆・ウイグル問題について、たびたび批判的な見解を主張、例えば1月6日にはツイッターで「The Biden-Harris administration will stand with the people of Hong Kong and against Beijing’s crackdown on democracy.」と述べている。また、昨年のことになるが、CBSへのインタビューでは、「バイデン氏は中国と対峙するにあたって、まずはアメリカの同盟関係を強化することから始めるだろう。中国の言いなりにはならず、アメリカの意思に沿った形で米中関係を前進させていくためだ」と述べ、中国による香港での人権侵害に対処しなければ、中国共産党がほかの場所でもこれまで以上に野心的な活動を展開しかねないとも警告している 。
ブリンケンは19日に開催された上院外交委員会の指名承認公聴会において、米国との覇権争いが激しさを増す中国について「最重要課題だ。強い立場で向き合う」と述べ、同盟国との連携強化を通じて強い姿勢を示すとした。また、対北朝鮮政策に関して「(前トランプ政権の)政策を検証する。この問題は改善せず、悪化している」とした上で、「北朝鮮が交渉のテーブルに着くよう圧力をかける」と述べた。各国との協調をめぐっては、ブリンケンは「主要な同盟の再生」を唱え、同盟国と連携することでロシア、イラン、北朝鮮の脅威に対抗する上で「はるかに良い立場に立てる」と主張した。
一方、国防長官に就任したオースティンは、アフリカ系アメリカ人として最初の中央軍司令官を務めた陸軍出身で、軍人としてはイラクやアフガニスタンなどで対テロ戦争に従事した。退役後は軍需産業の顧問を務めている。もともと国防長官には、民主党の安全保障部門で長く仕事をしてきたミッシェル・フロノイ(Michele Flournoy)が有力視されていたが、民主党左派から軍需産業との癒着を指摘され、選考から除外されたとされる。2016年まで軍人だったオースティンの政治・行政手腕は未知数であり、特にアジア問題についての知見が足りないことは、日本政府関係者からも不安視されている。
同じ1月19日の上院公聴会において、オースティンは「中国は既に地域覇権国だ」と明言し、従来の政府見解より一歩踏み込んだ認識を示した。「私の仕事は米国の軍事的優位性を維持することだ。中国が米国の軍事力をしのぐようなことが起きないようにする」と述べつつ、新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着けば、アジア太平洋地域を最初の外遊先として検討する旨を表明、アジア重視の姿勢を示している。1月23日には、オースティンは岸信夫防衛相と電話会談を行い、アメリカの対日防衛義務を定めた日米安全保障条約5条が沖縄県の尖閣諸島に適用されると明言、米国は東シナ海での現状変更の試みに反対すると述べた。さらに、オースティンは、自身のツイッターに「私たちは『自由で開かれたインド太平洋』の維持に向けた協力を議論した」と書き込んだ。日本政府がトランプ前政権と共有してきた「自由で開かれたインド太平洋」という言葉を使ったのは、バイデン政権では初めてのことであり、日本政府関係者からは歓迎の声が上がっている。

【カート・キャンベル】
 「対中国シフト」を考えた場合、ブリンケンとオースティンは十分な知見があるとは言えない陣容だ。それを補佐する人事として、国家安全保障会議(NSA)に新設された「インド太平洋調整官」(Assistant Secretary of State for East Asian and Pacific Affairs)に任命されたカート・キャンベル(Kurt Campbell)である。キャンベルは、クリントン政権ではアジア・太平洋担当国防副次官補を務め、オバマ政権でも東アジア・太平洋担当国務次官補を務めた、民主党系のアジア専門家である。上司はジェイコブ・サリバン(Jacob Sullivan)安全保障担当補佐官だが、サリバン本人は当面はイランの核問題と中東を担当すると見られている。この「インド太平洋調整官」という役職は新設の上、政府内における実際の権限や役割については不明な点が多く、バイデン政権内でどこまで影響力を持つことになるのかは現時点では未知数である。
 このキャンベルは、1月12日に中国専門家のラッシュ・ドッシ(Rush Doshi)と共同で、「How Can America Shore Up Asian Order 〜 A Strategy for Balance and Legitimacy」という外交論文を「Foreign Affairs」に発表した 。その主な内容の第一は「勢力均衡の維持」で、アメリカは中国軍とは非対称的な軍事力を整備しつつ、一部に集中している米軍を分散させ、同盟国の自主防衛力強化に努めるとしている。特に重要なのは、「Real regional balance, however, also requires action in concert with allies and partners. The United States needs to help states in the Indo-Pacific develop their own asymmetric capabilities to deter Chinese behavior.」で、これは、近年アメリカで提唱されている「オフショア・バランシング戦略」(Offshore balancing)の概念に基づいている。オフショア・バランシングとは、Christopher LayneやJohn J. Mearsheimerらの国際政治学者が提唱している多極間安全保障システムの考え方で、世界の各地域のバランス・オブ・パワー(Balance of Power)に紛争解決を委ね、地域間での外交・軍事的手段によって脅威拡大を抑止、アメリカは基本的にその枠組みを支援するに止める、という考え方だ。
 第二は「正統性の回復」で、アメリカは中国の冒険主義を抑止しつつ、中国を含めた地域秩序を確立するために努力をし、中国が地域秩序を乱すときは同盟国と連携して集団でペナルティを課す、というもの。ここにも「オフショア・バランシング戦略」の影響が見て取れる。
 第三は「連携の促進」で、対中連携が困難になりつつある現状を肯定しつつ、オーストラリア、インド、日本、米国で構成されている 「クワッド連携」 の拡大強化や人権外交に基づく連携などを提唱している。
 この論文が興味深いのは、「How America Can Shore Up Asian Order」というテーマでありながら、日本の役割について殆ど触れられていない点である。アメリカは在日米軍の戦力を他に分散させつつ、通常戦力の配備を減らす一方、日本の自衛力強化と地域安全保障体制の構築を助力するという方向性が明確に示されている。これは、「米国の東アジア関与を強化しつつ、対中抑止力の効果を上げる」という従来の日本政府の方針から外れている。また、日本政府が推進している「自由で開かれたインド太平洋」構想にも触れていない。
 
【第五次アーミテージ・ナイ報告】
 一方、アメリカの戦略問題国際研究所(CSIS)は昨年12月7日、ジョセフ・ナイ(Joseph Nye)元国防次官補とリチャード・アーミテージ(Richard Armitage)元国務副長官らが中心となって「日米同盟の強化に向けた報告書」を提起した 。同報告書は、「日米同盟の先行きは不透明感が増している」と警鐘を鳴らしつつ、「アジアの現状を変えようとする中国政府の努力は、中国の近隣諸国の安全保障上の懸念を高めている」と位置付け、日米同盟の「最大の安全保障上の課題は中国」と、「中国の脅威」を前面に押し出した。さらに、「中国からの圧力」にさらされている台湾への政治的、経済的関与強化を求めている。同報告書は、菅内閣への提案として、@中国の非合法的な野心に対抗するための「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)の堅持、A防衛予算のさらなる増額とミサイル防衛の追求、B米、英、豪、加、ニュージーランドによる秘密情報協定「5アイズ」への参加を真剣に検討―を挙げた。
 同報告書は、2000年に最初のものが提起されて以来、今回で五度目となる。バイデン政権とは直接的な関係は無いものの、安全保障関連の対日政策では大きな影響力を持ち、日米両政府の政策に影響を与え続けており、外交・安全保障関係者の必読となっている。
 キャンベル・ドッシ論文と比較した場合、従来型の「封じ込め戦略」を基盤としているが、日本独自の軍事力を強化しつつ、東アジアにおける対中抑止力としての自律的役割を求める内容になっている。日本政府の政策により近いものではあるが、日本が米中対立の最前線となることを前提としているだけに、日本に厳しい選択を迫っていることも確かだ。

【日本政府の対応】
 菅義偉首相は1月21日の衆議院本会議で、日米同盟について「わが国外交・安全保障の基軸であり、インド太平洋地域と国際社会の自由、平和、繁栄の基盤だ」と強調。「バイデン新大統領と緊密な連携を構築し、日米の結束をさらに強固にする」と表明した。同日、バイデン大統領就任直後、菅首相はツイッターに「『自由で開かれたインド太平洋』実現に向け、大統領と協力していけることを楽しみにしている」と投稿し、早期の電話会談と訪米に向けて調整を続けている。
 バイデン大統領は就任後、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」への復帰や、世界保健機関(WHO)の脱退取り下げなど、トランプ前政権の政策を次々に転換しているが、そのトランプ前大統領が安倍前首相と連携して使っていた「自由で開かれたインド太平洋」という表現も現時点まで使っておらず、「繁栄し安定したインド太平洋」と置き換えている。これについて、日本の外交関係者は強い不安を抱いていたが、1月23日に、オースティン国防長官が岸信夫防衛相と電話会談を行い、「自由で開かれたインド太平洋」に触れたことで、ひとまずは安堵している。また、1月26日には、ブリンケン国務長官と茂木外務相が電話会談を行い、「自由で開かれたインド太平洋」の推進で合意している。
 日本政府内では「バイデン政権になっても、対中政策に大きな変更はない」との見方が強いものの、3月末までの在日米軍駐留経費負担交渉の行方、慰安婦問題などに起因する日韓対立に対するバイデン政権のスタンス、そして「自由で開かれたインド太平洋」構想へのバイデン政権の対応などを不安視する向きもある(2/7追記、国務長官と国防長官が日本側との電話会談で触れたことからひとまずは安堵されている)。もっとも、「自由で開かれたインド太平洋」については、日本政府内でも具体的内容の検討が進んでおらず、言葉ばかりが先行している面も否めない。また、仮にバイデン政権が台湾に積極的に関与すると決めて、バイデン政権が菅政権に日台連携を求めてきた場合、日本は中国と板挟みとなり、厳しい選択を迫られることになる。実際、米民主党内には、対中強硬派から穏健派まで幅広く存在するため、もうしばらくはバイデン政権の方向性を見極めることになるだろう。
(了)
posted by ケン at 12:00| Comment(2) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年12月29日

「敵基地攻撃能力」結論先送り

【「敵基地攻撃能力」結論先送り 政府、イージス代替は2隻増艦】
 政府は18日午前、年内にまとめるとしてきた敵基地攻撃能力を含む「ミサイル阻止」に向けた方策に関して「抑止力の強化について、引き続き政府において検討を行う」とする方針を閣議決定した。検討の期限は示さなかった。地上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア(地上イージス)」の代替策としてイージス艦2隻を増艦する方針も決めた。
 閣議決定では地上イージスの配備断念を受けて「イージス・システム搭載艦2隻を整備する」と明記。イージス艦は海上自衛隊が運用するとし、具体的な装備は引き続き検討を行う考えを示した。防衛省は令和3年度予算案に関連経費を計上する。
 また、閣議決定では12式地対艦誘導弾の射程を伸ばし、離島防衛に活用するとした。12式は改良により現行の射程200キロから1千キロ近くまでになるとみられる。現在は地上配備型ミサイルとして陸上自衛隊が運用しているが、航空機や艦艇からも発射可能とする。
 政府は12式を「脅威圏の外から対処を行うためのスタンドオフ防衛能力」と位置づけ、敵基地攻撃能力ではないとしている。敵基地攻撃能力に関しては、安倍晋三前首相が首相談話で言及した「ミサイル阻止」の文言も記載しなかった。
 安倍氏は退任前の6月の記者会見で敵基地攻撃能力の取得を検討する考えを表明した。9月の首相談話で「ミサイル阻止に関する安全保障政策の新たな方針」について与党との協議を経て、年末までに「あるべき方策」を示すとした。
 だが、連立与党の公明党は当初から敵基地攻撃能力に否定的な姿勢を示していた。9月に発足した菅義偉(すが・よしひで)政権は公明党の主張に配慮する形で年内の結論とりまとめを見送り、検討の期限も示していない。
(12月18日、産経新聞)

今回は選挙が近いので、KM党に配慮した形となった。
しかし、米国で軍産複合体が支持するバイデン氏が大統領に選出されたこともあり、今後も導入の議論は止まらないだろう。

とはいえ、現実には偵察と諜報を米国に依存し、憲法第9条の縛りが強い日本が保有しても、「宝の持ち腐れ」にしかならないのだが。

【参考】
【メモ】基地攻撃能力保有に関する議論の現状
posted by ケン at 12:00| Comment(0) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年12月14日

バイデン「日米安保条約第5条の尖閣諸島適用」は実は無かった?

「安保の尖閣適用宣言はただの年中行事」の続き。

米民主党のジョー・バイデン候補が11月7日に勝利宣言したことを受けて、菅義偉首相は12日に同候補と10分程度の電話会談を行った。会談の中で、バイデンは「日米安保条約第5条の尖閣諸島適用」に言及し、菅首相は会談後のマスコミ発表においてこの点を強調している。この内容は外務省が、事前にバイデン陣営と調整したもので、外務省は「大きな成果」と自画自賛していた。

ところが、バイデン政権移行チームによるメディア発表は、“underscored his deep commitment to the defense of Japan and U.S. commitments under Article V.”というもので、そこには「尖閣」の文字は無い。実際の電話会談の内容を確認できない以上、真偽を確かめるのは困難だが、日本側が恣意的に「尖閣」を入れて、バイデン側はそれを黙認している可能性がある。現実問題として、日米安保の適用は「日本の施政権下」を条件としているため、一度他国に占領された箇所については適用されず、実質的な意味は無い。しかし、「アメリカの対日関与」と「日米同盟」の価値を訴える上で、必要な政治的意味があると考えられている。
当然ながら、悪意をもって見るなら、外務省がバイデン陣営を騙して、上記の言質をとった上で、菅総理に翻訳する際は「尖閣」の文字を入れた陰謀と見ることも可能だ。

いずれにせよ、外務省は自国民に対してどこまでも不誠実な存在であることは間違いない。
以下、参考。
【Suga says he got Biden's backing on Senkakus in first phone talks】
Prime Minister Yoshihide Suga spoke with U.S. President-elect Joe Biden on Thursday morning for the first time since the latter won the U.S. presidential election, with Tokyo saying that the soon-to-be-inaugurated leader reassured Suga that his administration will commit to protecting the Senkaku Islands under their security alliance.

Speaking to reporters after the roughly 15-minute teleconference, the prime minister said the president-elect made clear that Article 5 of the U.S.-Japan Treaty of Mutual Cooperation would apply to the Senkaku Islands, which China claims and calls the Diaoyu Islands. The article states that the U.S. would defend the territories under Japan’s administration in the event of an armed attack.

The apparent affirmation by Biden on the Senkaku Islands, which was previously re-emphasized by President Barack Obama around the time Chinese vessels began entering waters near them, brings a sigh of relief for Tokyo officials as they monitor Biden’s approach to China with a mix of expectation and trepidation.

However, the Biden transition team’s readout did not mention the islands by name but stated that Biden “underscored his deep commitment to the defense of Japan and U.S. commitments under Article V.” A senior Japanese government official who was present during the talks said Biden brought up Article 5 in response to Suga’s remark on shoring up the security alliance and it was Tokyo’s understanding that the Senkaku Islands would be covered. They did not discuss the island’s dominium, according to the official.

As one of the first Asian leaders to speak with President Donald Trump’s successor, Suga said he congratulated Biden and his running mate Kamala Harris for their victory. Both sides, Suga said, agreed to work together on global issues such as climate change and the novel coronavirus pandemic. They also agreed to enhance cooperation to maintain stability in the Indo-Pacific region, a matter that directly impacts Japan’s national security as well as regional security.
(11/12、The Japan Timesより抜粋)
posted by ケン at 12:00| Comment(2) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする