2019年03月24日

海自の省力化が意味するもの

【海自「省人化」推進へ なり手不足深刻で効率化】
 海上自衛隊は新たな防衛計画の大綱が適用される来年度以降、省人化の取り組みを強化する。乗員を半分程度に減らせる新型護衛艦を22隻建造するとともに、休養時間を確保するために乗員を途中で入れ替えるクルー制を導入。無人哨戒機の導入も検討する。背景には、警戒監視などの任務が増大する一方で、少子化で隊員募集が困難になっている状況がある。
 新型護衛艦は今年度予算から取得が始まった。船体のコンパクト化を図り、乗員は現在の護衛艦の半分程度の約100人でも運用できるようにする。機雷を排除する掃海艇の機能も併せ持ち、駆逐艦(DD)よりも小型のフリゲート艦の頭文字を取ったFFMを略号とする。海自は昨年度末に47隻だった護衛艦を今後10年間で54隻まで増やすが、このうち22隻をFFMにする方針だ。
 海自は主にこのFFMを対象に、ヘリコプターなどを使って護衛艦の乗員を任務途中で入れ替えるクルー制を導入する。これまでは艦艇ごとに乗員が固定されており、休養のためには停泊しなければならなかった。クルー制にすることで、乗員の洋上勤務期間を短縮し、陸上での休養日数を増やしたい考えだ。
 近年は中国海軍の活動範囲が拡大したことに伴い、海自の警戒監視任務も増大。国連の経済制裁を逃れるための北朝鮮による洋上取引の監視任務なども加わったことで乗員の負担が増し、十分な訓練時間の確保も難しくなっている。
 このため、警戒監視任務に特化した哨戒艦も12隻導入する。海上保安庁の巡視船並みの乗員約30人、排水量1000トン級の小型艦を検討している。哨戒艦導入により、他の護衛艦が訓練などに当てる時間を増やすことができるという。さらに無人化技術の導入も推進し、他国艦艇を上空から監視する無人の滞空型哨戒機の導入に向けた検討も始めている。
 一連の施策について海自幹部は「人の確保が最大の要因だ」と話す。少子化などに伴い、隊員の募集環境が厳しくなっているが、特に洋上勤務の長い海自は募集に苦戦している。部隊の中核を担う一般曹候補生の応募倍率が昨年度は陸自(5・7倍)や空自(11・8倍)を大きく下回る2・5倍だった。
 海自は今年度、艦内の無線LANで家族とメールをできるようにするなど勤務環境の改善に努めているが、海自幹部は「現在の約4万5000人の定員をいつまで維持できるか分からない。防衛力の整備には時間がかかるので、今から省人化の態勢作りを進めておく必要がある」と話す。
(3月19日、朝日新聞)

省力化は当然の流れではあるものの、根源的な解決にはならないだろう。
一方で圧倒的な少子化が止まらずに定数充足の基盤が無いも同然の有様にある上、他方で遠からず米軍がアジアから撤退するにもかかわらず、中国との対峙関係を続けているのだから、戦わずして末期戦に突入するようなものだ。

仮に中国を仮想的とする場合、「今ある手駒でしか戦えない」自衛隊など第一戦で消耗してしまい、およそ戦争にはならない。太平洋戦争と同じで序盤は勝てるかもしれないが、その後は全く続かないだろう。傭兵でしか無い自衛隊は、あくまでも「米軍が後詰めに来るまで持ちこたえる」ための存在であって、根源的にそれ以上の能力を有していない。少なくとも、それが憲法第九条と日米安保の「奇怪なる融和」状態だった。

ゲーム的に言えば、日本はマップ上に初期配置されているユニットだけで困難な防御戦を強いられているプレイヤーであり、「援軍が来るかどうかは日米安保(米連邦議会)次第」という状態にある。だが、日本政府と自民党は後半部分の不確実性については全く触れず、単に「米軍が必ず来るから大丈夫」と言い続けたのが、この60年来の戦後史だった。
確かに1980年代まででのソ連が相手であれば、そうだったかもしれないし、上陸してきたソ連軍に対して米軍が負けることもまずなかったであろう。しかし、今日の中国軍は全く想定が異なる。第一戦では勝てるとしても、第二戦以降で勝つ見込みがなく、徒に損害(死傷者)が増えることが確実である条件下において、米軍は出てこないと考えるのが妥当だ。

いわゆるミリオタの認識が根本的に間違っているのは、現在のアメリカにおいて損害の許容度が恐ろしく低下している点にある。最近では、アメリカはシリアに対する武力介入を回避しているが、その理由の一つは「想定される損害が許容度を上回る」というものだった。アメリカはイラク戦争と占領に際して、少なくとも4千人以上の戦死者と3万人以上の負傷者を出しているが、そのために内部では非常に批判的に評価されている。
国内で急速に貧困と不満が増大しているアメリカでは、多くの死傷者を出したり、広範な支持の無い戦争はもはやできなくなっている。つまり、「日本に攻めてきた中国軍と戦うために、数万人からのアメリカ市民が死ぬかもしれない」という状況は全く許容できなくなっているのだ。
「軍人なんだから死ぬのは織り込み済みだろう」などと考えるのは、「50万人の英霊が納得しない」などと言って中国側との和平を拒んだ昭和の軍人や政治家と同レベルの考え方である。アメリカのこの辺りの感覚を理解したい人は『ロング・ロード・ホーム』を見ることをお薦めしたい。

今後、アメリカは全世界から米大陸への撤収を進めることになるが、それが進むほど日本の軍事的負担は重くなり、重武装が必要になる。しかし、日本国内にはそれだけの人的資源もなければ、経済的余裕も無い。とすれば、戦前のように総力戦を想定した国づくり(ファシズム)になるか、親中政権をつくって日中安保に切り替えるかの二者択一を迫られることになるだろう。
後者は、戦後の「象徴天皇制=自民党一党優位体制=対米従属」体制の瓦解を意味し、既存のエリート層にはまず受け入れがたいだろう。従って、現状では前者に突き進んでいく蓋然性が高いと考えられる。私が中国に来ているのもそれが一因である。
だが、日本一国で中国と対峙する総力戦体制は、戦前のそれと同様に全く現実的なものでは無い。

海自は政治的要請に則って省力化を進めているだけだが、これもまた戦略無き国家のなせる業なのである。
posted by ケン at 12:00| Comment(2) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年03月23日

日本人は短気すぎ、外交はタフに

【ロシア次官「交渉はまだ入り口」 平和条約で日本側に表明】
 森健良外務審議官は21日、モスクワでロシアのモルグロフ外務次官と会談し、両国の平和条約締結問題を協議した。冒頭、モルグロフ氏は「平和条約交渉はまだ入り口で、双方の立場には大きな差異がある」と指摘した。森氏は、日ロ関係の発展はアジア太平洋地域の安定と繁栄に貢献するとし「長年にわたり未解決な困難な問題を解決し、平和条約を締結することが肝要だ」と述べた。次官級協議では、河野太郎外相とロシアのラブロフ外相の過去2回の会談結果に沿い、日ロ間の歴史的、政治的な諸問題を協議する。ラブロフ氏の日本訪問の時期が決まるかどうかも焦点だ。
(3月21日、共同通信)

ほんこれな話、ロシア人の言うとおりである。
日本人は二言目には「あいつらは真面目に交渉する気が無い」などと言って、交渉を止めようとしてしまうところがある。
今回の日露交渉については、むしろリベラル派を中心に「ロシア人どもの虚言に惑わされるな」「四島返還から一歩も譲るな」と叫んでいるが、まさに私が連中と手を切った最大の理由でもある。

何度も述べているが、ロシア人が交渉において高いハードルを出してくるのは「いつものこと」であり、その後は信じられないほど妥協してくるケースが少なくない。確かにロシア側が圧倒的に有利な時は、妥協しないケースもあったが、今はNATOと中国に囲まれる中で、そのような余裕は無い。

日露戦争開戦前の交渉では、ロシア側は朝鮮の全面放棄まで提起してきたし、ポーツマス交渉では領土割譲に合意、全面戦争になってもおかしくなかったノモンハン交渉では、ソ連側が大きく譲歩して「現状線」で妥結している。

逆に日本は、日露戦争に際しては「ロシア側は交渉を引き延ばしているだけ」と一方的に交渉を放棄、奇襲攻撃を行っている。また、日中戦争に際しても、南京陥落で戦意を喪失し掛けていた国民政府が回答期限の延長を求めてきたのに対し、近衛内閣は「いつもの引き延ばしだ」「誠意が無い」と断じ、「爾後国民党政府を対手とせず」との声明を出して、自ら和平交渉を閉ざしてしまった。

【参考】紛争解決に交渉は不可欠

今回の米朝交渉についても、日本では「米朝交渉は破綻、第二次朝鮮戦争」などと煽る意見や報道が幅をきかせているが、百害あって一利無きものである。
外交はとにかくタフに主張し、交渉する他ない。特にロシア人との交渉は体力と精神力が求められるわけだが、諦めさえしなければ得られるものが大きいことを自覚すべきである。
posted by ケン at 12:00| Comment(3) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年03月03日

地道に進む日露交渉

【モスクワで5日に次官級協議=日ロ】
 日ロ平和条約交渉を担当する森健良外務審議官、ロシアのモルグロフ外務次官が5日、モスクワで会談する。日本外務省関係者が1日明らかにした。両氏が平和条約交渉の首脳特別代表に選ばれてから会談するのは2回目。先月16日、日ロ外相がドイツ・ミュンヘンで会談し、次官級協議の早期開催で合意していた。北方領土問題で一致点を探るほか、ラブロフ外相の来日日程も調整する見通しだ。
(3月1日、時事通信)

日本の報道では日露交渉は否定的なスタンスのものしか見られないが、地道に交渉が進んでいることの証左の一つである。
日本もロシアも政治課題は山積みで、見込みの無い交渉に限られた政治資源を費やす余裕は無い。
こう言うと、「やってる感を出すため」などと言い出すものが少なくないが、安倍総理の「やってる感」にプーチン氏が付き合う必要は無いだろう。
お互いに実益があり、「このタイミングしか無い」という思いが共有されているからこそ、タフな交渉が進んでいると見るべきだ。

確かにロシア側は強硬なスタンスを示しているが、「いつものあれ」であって、それに恐れを成すのは向こうの思うつぼでしかない。本当にそれだけのものを要求していたら、すでに交渉は成り立たなくなっている可能性が高いからだ。向こうは向こうで、「俺は交渉で頑張った」と示す必要があるのだから、あまり囚われる必要は無い。

ただ、ロシア側は「参院選で大敗したら、政権がひっくり返ってちゃぶ台返しされる恐れがある」と見て、7月前には妥結したくないという考えを持っているという話を耳にした。その可能性は否めない。
この場合、安倍総理は「日露平和条約の外交成果をもって衆参同日選」というカードが切れなくなるので、それはそれで難しい状況になるかもしれない。

これ以上は憶測になってしまうので控えるが、とにかく「日露交渉は全く可能性無し」などという見方は、対米従属派のプロパガンダに過ぎないことは間違いない。
posted by ケン at 12:00| Comment(0) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年02月18日

ロシア国民のビザ免除が実現?

【ロシア国民のビザ免除へ 旅券の事前登録で政府検討】
 政府がロシアから日本への渡航者に対し、旅券の事前登録制によるビザ(査証)の取得免除を導入する方向で検討を始めたことが14日、分かった。ロシア側が求めるビザ撤廃に実質的に応じることで、日露平和条約締結交渉に弾みをつけたい思惑もある。政府関係者が明らかにした。
 今後、不法就労や治安面の問題から法務省や警察庁など関係省庁間の調整が必要で、実施時期は未定という。河野太郎外相は16日、ドイツ・ミュンヘンで行うロシアのラブロフ外相との会談で、ビザ撤廃の検討状況も伝えるとみられる。
 旅券の事前登録は、あらかじめ日本の在外公館でパスポート情報を登録すれば、90日以内の短期滞在ビザの取得を免除する制度。有効期間内で一定の滞在期間を超えなければ、何度でも日本に入国できる。同様の対応は、アラブ首長国連邦(UAE)とインドネシアからの渡航者に適用している。
 政府はロシア側の求めに応じ、平成29年1月と昨年10月に段階的にビザ取得手続きを簡素化してきた。この結果、年間の訪日ロシア人は28年の約5万4800人から29年に約7万7300人(前年比41%増)、30年には約9万4800人(同23%増)と大幅に増えた。政府関係者は「手続き緩和の効果が確実に表れている」と分析している。
 ロシア政府は一層の緩和を求めており、河野氏と森健良(たけお)外務審議官は1月、それぞれラブロフ氏、モルグロフ外務次官と会談した際にビザ撤廃を求められていた。日本は現在、193の国連加盟国のほとんどの国からビザ免除措置を受けている。一方、日本が観光や商用での短期滞在者にビザを免除しているのは68の国・地域にとどまり、ロシアは入っていない。相手国の経済状況や治安面などからビザの発給要件を慎重に判断してきたためで、ロシア国民へのビザ免除をめぐっても、関係省庁間の協議が長期化する可能性もある。
(2月15日、産経新聞)

昨年お会いした恩師が「平和条約交渉はそう簡単にまとまらないだろうが、せめてビザ免除くらいは実現できると良いのだが」と話しておられたことが思い出される。
実際、平和条約交渉は日露両国内の反発もあって少なくとも外見上は難航しているように見られるだけに、実務面での相互利益だけでも実現して関係改善に向けて進めるべきだろう。中国とは異なり、ロシアから大量の人が日本に渡ってくることは想定しがたく、日本にとってマイナス面は比較的少ないはずだ。

平和条約交渉では、相変わらず四島返還論が幅をきかせているようだが、この機会を逃せば、まずもって二島返還(引き渡し)もおぼつかなくなるし、平和条約そのものが締結しがたくなるだろう。連中は、21世紀の東アジアにおける日本の安全保障をどのように考えているのだろうか、全く理解できない。
posted by ケン at 12:00| Comment(0) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年01月25日

今更だけど、ロシア学徒からの一提案

ロシア人との交渉は難しい。難しいというのは、タフネスが要求される点で、ロシア人は外交と軍事はほぼ一体的に考えており、基本は火力優勢主義でゴリ押しと破壊を旨とする。
明治の名残があった頃の日本人は、まだ頑張れたが、牙を抜かれたような戦後の日本人には、ロシア人の相手は務まらなくなっている。

例えば、ラブロフ外相の強硬姿勢は、日本側がアメリカの傘の下にあって強気に出られず、自立的な武力行使もできないことを熟知して、いわば馬鹿にしているのだ。
ロシア人から信用されるためには、基本的に教養は二の次で、己の蛮性を見せつけ、対等であることを示すのが良い。
その意味で、幕末・明治の薩摩人や鹿児島県人が現存すれば、最も交渉に適していたはずだった。
が、存在しないものを頼っても意味は無い。

そこでケン先生の提案である。
自衛隊の最大戦力をもって北海道に集結、戦後最大規模の軍事演習を行うのである。
いわば関特演の再演だ。

スターリンが飢餓輸出を行ってまで重工業化と重武装を推し進めたのは、「遠からずして日本とポーランドが挟撃してくる」という恐怖心に起因していた。今日からすると馬鹿げているにもほどがあるが、本気も本気だったのだ。
今のロシアは、世界の戦力の3分の2を占めるNATOと対峙しており、その脅威度はポーランドなど全く比較にならない。
だからこそラブロフ氏が日本を威嚇し、プーチン氏がなだめ役を努めている。

日本に求められているのは、「武力行使を厭わない」姿勢であり、それを示さない日本はどこまでもロシア人から信用されない構図にある。
日ソ中立条約が締結されたのは、ノモンハンで大損害を被りながらも、日本軍が「本気」を見せたことが大きく作用している。

仮に平和憲法の規定により、こうした演習ができないのであれば、軍事力を持つ意味は限りなく小さくなってしまい、21世紀にあって米中ロの狭間で生き延びられるか心配になってくる。
posted by ケン at 12:00| Comment(8) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年01月23日

日露平和条約は千載一遇の好機

ここに来て反露勢力が盛り上がっているようだ。
いわく「ロシアには2島も譲るつもりはない」「いま占領しているロシア側に妥協する理由はない」「安倍はプーチンに良いように騙されている」などといったもの。

この手の話は日露戦争前の交渉でも散々叫ばれ、結果、現実に戦争に突入してしまった。
あの時は、「ロシアが朝鮮半島を譲るわけがない」「ロシアは日本を騙そうと交渉を先延ばしにしている」「いま戦争しなければ、勝てなくなる」といったことが言われた。
だが、ソ連側の資料が公開された現在では、どれも該当しないことが分かっている。ロシア側は韓国利権を全て放棄するつもりだったし、交渉が先延ばしになっていたのはロシア側の優先度が低かったからだし、後付だが遠からずして欧州大戦が起こっていたことも分かっている。少なくとも1904年の段階で、日本が無理する必要はどこにもなかったのだ。

まぁそれは良い。では現在はどうだろうか。
確かに日露関係のみを考えれば、2島を抑えているロシアに譲歩する理由は見当たらない。
だが、マップ全体を見てみれば、ロシアは容易ならざる環境にある。
敵愾心むき出しのEUとはいつ加熱してもおかしくないし、ウクライナ紛争が再発恐れもある。カフカスとて安全ではない。ロシアの優先順位は常に欧州が第一で、次にカフカスだ。
そして、現在のところ中国とは同盟に近い関係にあるものの、世界第二位の経済力と第一位の人口を有し、軍事力も急速に強化されつつある。今でこそ中国の目は、アメリカと東南海に向いているものの、いつシベリアに向けられるかわかったものではない。ロシアにとって潜在的脅威としては中国が第一等なのだ。

これらに比して日本とロシアは殆ど利害関係が対立しない。
欧州やカフカスに火種を抱え、潜在的に信用できない中国が超大国になりつつある中で、落ちぶれたりとは言え「強国」の一つである日本と平和条約すらなく、しかも領土紛争を抱えている状態が望ましい訳がない。
日本人は停滞と失墜に我を忘れてしまっているが、今のところは世界第三位の経済力と第七位の軍事力を有する大国なのだ。その「大国」の潜在的脅威を小さな島2つ(歯舞は群島だが)で解消することができるのであれば、明らかに安い買い物である。ゲーマー的に表現するなら「クズカード一枚」捨てるだけで済む話なのだ。

ところが、日本側の国内事情の問題から、安倍政権でしか妥結しそうになく、同時にロシア国内を治められるのもプーチン大統領がいるからこそであり、これは日露両国にとって千載一遇の好機なのだ。
ロシア側としては「どうせなら高く売りつけてやれ」と思っているかもしれないが、利害は一致しており、交渉が失敗して困るのはどちらも同じなのだから、本質的には成功率が高い交渉と言える。
今回の平和条約交渉は、ポーツマス交渉やノモンハン処理に比べれば、はるかに難易度は低い。ただ、外務省がことごとく妨害しているから進まないだけの話なのだろう。

どうも軍事の専門家というのは政治の話をさせるとまるっきりダメな感じだ。

もう一点はリベラル勢力から「容易に武力行使する国と平和条約とかありえない」という声が上がっている。
グルジア(ジョージア)やウクライナを念頭に置いたものだろうが、まずグルジアについてはロシアが侵攻したわけではなく、反撃しただけだ。ウクライナについては、ソ連期あるいはソ連崩壊時の国境線処理の不具合によるもので、局地紛争の延長にあるもの。ソフィン戦争やバルト進駐と同列に扱うのは公平とは言えないだろう。
ソヴィエト・ロシア学徒として言えるのは、スターリン死後のソ連・ロシアによる武力行使は、一般的な日本人が想像するよりもはるかに慎重に行われている。

逆に考え方を逆転させてみても良い。「危険なロシア」だからこそ、平和条約でタガをはめておくべきであって、「危険なロシア」との間に「平和条約が存在しない」方がはるかに安全保障上の脅威になる。中露韓朝と対立するとなれば、日本はますます対米従属を強める他なく、それは米による覇権戦争に対するより強力な協力が求められる話になろう。せっかく建造した空母を、中東や地中海に回せと言われてしまうかもしれないが、それで良いのだろうか。

【追記】
22日の日露会談では具体的な成果はなかったものの、会談時間は3時間と非常に長く、両首脳が「双方が受け入れ可能な平和条約締結に向けて努力することを確認、2月中に外相間で交渉を行う」としたことは、少なくとも前進しつつある、あるいは平和条約締結に向けて十分な政治資源を投入することを意味する。確かに安心できる状況ではないが、否定するような要素もないということだ。ロシア外務省の威嚇的な言動は「いつものあれ」なので、冷静かつタフに対応することが必要。ロシア人との交渉は本当に疲れるのだ。
posted by ケン at 12:00| Comment(5) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年01月22日

安倍政権、2島決着案を検討

【安倍政権、2島決着案を検討 北方4島返還「非現実的」】
 安倍晋三首相は北方領土問題に関し、北方四島のうち色丹島と歯舞群島の引き渡しをロシアとの間で確約できれば、日ロ平和条約を締結する方向で検討に入った。複数の政府筋が20日、明らかにした。2島引き渡しを事実上の決着と位置付ける案だ。4島の総面積の93%を占める択捉島と国後島の返還または引き渡しについて、安倍政権幹部は「現実的とは言えない」と述べた。首相はモスクワで22日、ロシアのプーチン大統領との首脳会談に臨む。
 「2島決着」に傾いた背景には、択捉、国後の返還を求め続けた場合、交渉が暗礁に乗り上げ、色丹と歯舞の引き渡しも遠のきかねないとの判断がある。
(1月21日、共同通信)

本ブログ的には「何をいまさら」感満載だが、今なおGDGD言ってる連中が多すぎるので掲載しておく。
とはいえ、「じゃあ1956年以降60余年に渡る交渉は何だったのか!」という批判は外務省と自民党にお願いします。

ここに来てネット上には「ロシアは本気で返すつもりなど無い」云々なる言説が急浮上しているが、「じゃあ、本気で二島引き渡すならいいんだな?」と突っ込むしか無い。
「ウクライナ云々」という話も聞かれるが、ロシア学徒的にはロシア側のスタンスが揺れたのはソ連崩壊前後からエリツィン期にかけてのごく一部のみで、それ以外の時期では殆ど変化は見られない。

思い出されるのは、日露戦争直前の満韓交渉。最新の研究では、ロシア側は「最終的には韓国利権の完全譲渡もやむを得ないし、日本が占領ないし保護国化するなら、そこはそれで黙認」というところまで折れていたにもかかわらず、日本側は一方的に「ロシアは日本の韓国利権を認めるつもりがない」と断罪、「満州も南半分よこせ」と言い掛かりのような要求まで突きつけて、奇襲とともに宣戦布告した。
(参考:日露開戦の代償−開戦経緯を再検証する・上

こうした日本人の外交感覚の無さというのは、やはり島国根性なのか、異なる文化の持ち主と交渉する機会が少なすぎるからなのか、あまり文化論には触れたくないのでやめておくが、全く困ったものだ。
posted by ケン at 12:00| Comment(4) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする