2018年07月12日

中国の物は中国に?

【漢籍4000冊超を中国に寄贈】
 細川家に伝わる文化財を保管・展示する永青文庫が漢籍4175冊を中国国家図書館に寄贈する式典が26日、北京市の同図書館で行われた。写真は寄贈の署名を行い、握手を交わす細川護熙元首相(左)と韓永進館長。
(6月26日、時事通信)

日本でもらってくれるところが無いから、ついに「中国のものは中国へ」ということに(推測)。
日本にあるからこそ戦火から守られてきた側面もあるはず。中国の場合、例えば一度の太平天国の乱で信じられないほどの文物が失われている。今回二度訪中した際も、「日中戦争で失われた」よりも「太平天国で焼失した」という記述の方がよほど多く見られた。

しかし、日本を見た場合、図書館はどこも満杯で、寄贈しても倉庫に放置されればまだマシという現状がある。他に司書関連の大幅人員削減で、全く管理ができなくなっている問題もある。下手すると天下りの館長が唯一の正規職員みたいになっていて、結果、寄贈されても鑑定、分類、管理できないのが常態化している。
大政治家や大学者が死亡しても、遺された資料、文物の引き取り手がなく、そのまま散逸、廃棄されてしまうケースが非常に多くなっていると聞く。

一部の中国文学者によれば、「在庫一掃セール」的なもので、文書群自体は国内の古文書店でも入手できる程度の価値のものが大半だという指摘もあり、「中国側が喜ぶなら、それでいいじゃないか」「安いカードで歓心を買う高効率」外交カードとしての評価も見られ、一概には判断すべきではないのかもしれないが、モヤモヤ感の残る話である。
posted by ケン at 11:59| Comment(3) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年06月26日

日本は人権外交で攻勢にさらされる?

【河野太郎外相「日韓合意の精神に反する」 韓国の「慰安婦問題を人権問題に位置づける」計画準備に不快感】
 河野太郎外相は19日午前の記者会見で、韓国の康京和(カン・ギョンファ)外相が慰安婦問題を国際社会で人権問題として位置づける計画を準備していると公表したことについて「日韓合意の精神に反するものだ」と不快感を示した。そのうえで「先方の真意をしっかり確認したい」と語った。
 河野氏は、康氏や文在寅大統領と14日に会談し、未来志向の関係構築を確認したばかりだったことに触れ「いぶかしく思っている。このようなことが続けば、せっかくの日韓パートナーシップ20周年を前向きに祝い、未来志向の関係を作っていくことが難しくなるのは先方も分かっているはずだ」と語った。
(6月19日、産経新聞)

これまで韓国政府が、戦後補償問題で国内の反発を抑えて日本側に妥協してきたのは、南北対立の最前線にあって、米韓日の軍事同盟が不可欠かつ最優先事項であったためだ。しかし、南北板門店会談と米朝会談を経て、朝鮮戦争の終結が現実性を帯び、中長期的には中華帝国の成立が視野に入りつつある今となっては、韓国政府が国内世論を抑えつけて日本側に妥協する必要が失われつつある。

逆に日本側を見た場合、北朝鮮による拉致問題の交渉を進めるに当たり、戦後補償問題の解決は避けて通れない課題であり、日本は戦後補償問題で非難される立場にある。国際的にも、日本における女性の人権状況は「イスラム諸国と同レベル」という評価にある上、戦後補償問題に対する後ろ向きの姿勢や、にもかかわらず国連大使が「世界一の人権大国」と叫んでしまう夜郎自大ぶりが、日本に対する評価を著しく低下させており、この分野で日本に味方する国は殆ど無い。
この点でも、韓国政府としては反転攻勢に出る良い機会となっている。

日本側はただでさえ財政難の上、明治帝政や昭和ミリタリズムを推奨することで支持を集めた安倍政権であるだけに、今さら戦後補償問題で妥協することはできず、妥協すれば組閣の正統性を失うだけのことである。
また、戦後補償問題で日本が後ろ向きの姿勢を続けた場合、中朝韓に「共通の敵」と見なされ、下手をすれば「人権外交」で対日包囲網が形成される可能性がある。問題が問題であるだけに、日本の肩を持つ国はまず無いと見て良い。

ここで安倍政権が「中朝韓何するものぞ!」と突っぱねた場合、いよいよ日本海が冷戦の最前線となり、国内のタカ派世論も同調、軍拡・核武装論が浮上、東アジアの緊張が急上昇するかもしれない。
そう考えた場合、やはり安倍政権はそろそろ「賞味期限切れ」だと思われるのだが、自民党内にも人がおらず、9月の自民党総裁選で安倍氏が三選した場合は、厳しい展開を覚悟しておく必要がある。
posted by ケン at 12:23| Comment(5) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年06月22日

第二次日中戦争の現実味について・下

前回の続き
財政的にも日本は、現状でさえ毎年税収の2倍もの歳出予算を組んでおり、収支を改善する見込みはなく、低成長、技術的退潮、貧困化の下で、今後さらに悪化させて行く可能性が高い。この点でも、「開戦するなら早いほうが良い。戦時景気とインフレで財政赤字を解消できる」という認識を抱いたとしてもおかしくはない。
国力的には、2010年に中国のGDPが日本を追い越して、2017年には中国の12兆ドルに対して日本4.8兆ドルと対中4割近くにまで差が付いている。偶然なのか歴史のいたずらなのか、この「対中4割」はまさに1937年のそれと同じで、これまでの勢いでは中国の成長が続かないとしても、日中間格差が拡大の一途にあることは間違いない。

政治的にも、今の自民党と霞ヶ関は危機的な状況を迎えつつある。自民党・霞ヶ関とアメリカの関係は、冷戦期の東欧諸国共産党とソ連の関係と酷似している。ソ連邦の共産党と軍は、そのヘゲモニーの上に東欧諸国に共産党政権を成立させたが、それが撤退すると同時に瓦解した。
戦後日本のデモクラシーと議会政治は、占領軍支配下で昭和帝が下した欽定憲法(現行憲法)に基づいて成立しており、市民・国民が熱望して、あるいは血を流して獲得したものではない。現実に、議会選挙の投票率は国政で50%強、地方では30%前後という状態が続いており、デモや集会は警察の許可制、マスメディアは政府に従属、大学などの高等教育に対する政府統制も強化される一方で、およそ自由民主主義の実質を伴っていない。
在日米軍の撤退は、戦後体制における統治上の正統性の喪失を意味し、国民的支持が失われたままだと、現行の統治システムそのものが機能不全に陥る可能性がある。
これを回避するためには、大国と戦争して勝利することによって、独自の正統性を確立すると同時に、体制支持率(内閣支持率では無く)を回復させる必要がある。「アメリカがアジアから手を引いて孤立無援になる前に、対中戦を仕掛けて勝利しなければ、現行体制が維持できない」と政治家や官僚が考えたとしても不思議は無い。

また、経済的な行き詰まりから、資本の要請で1990年代以降、国民・市民に対する収奪が強化されつつあるが、これが国民統合力を低下させている。結果、統合を維持するために、政府はナショナリズムを称揚する傾向を強めているが、これが大衆の間で中朝韓やアジア蔑視を強化する方向に働いており、ひとたび戦闘が発生した場合、日露戦争や日中戦争が生起した際のように国論が沸騰、戦争支持が国を支配するだろう。日本政府としては、「小規模の国際紛争における勝利が望ましい」と考えても、国民が全面戦争を望む可能性がある。

以上の話は、個別的には荒唐無稽かもしれないし、「あり得ない」と一刀両断に処することもできようが、感情の底流にある一要素として何時どこで噴出するか分からない存在であり、歴史的には常に「あり得ない」可能性がいつの間にか現実のものになっていたことを忘れてはならない。例えば、日清戦争の前に、日清戦争後10年でロシア帝国と全面戦争をするなどと言ったところで、誰も本気で相手にしなかっただろう。イギリスとアメリカと中国と同時に全面戦争するなど、1935年の段階ですら、誰も本気で取り合わなかったに違いない。
少なくとも、第二次日中戦争の可能性は、確率論的には対英米中仏ソ戦争が起こる確率よりも高いと考えるのが妥当である。それは、現在の政治家と官僚、あるいは市民・国民が、80年前よりも賢くなっているという保証が何一つ存在しないことから説明できる。
だからこその「亡命」でもあるのだ。

だが、現実には憲法と国連憲章上の理由から日露戦争や太平洋戦争で行ったような先制奇襲攻撃が難しく、日本が中国側に対して何らかの開戦理由をこじつけて自衛権を発動する必要があるだけに、選択肢としてはなかなか成立しがたい。とはいえ、突発的に国境紛争が発生し、国論が沸騰して世論が対中戦争を支持する可能性は十二分にあると考え、確率を残してある。

より現実的な選択肢としては、既存のプルトニウムを利用して核弾頭を生産、核武装をもって中国に対して体制と領土(特に沖縄)の保証を要求するという、北朝鮮モデルが考えられる。
この場合、アメリカは在日米軍の撤退と引き替えに日本の核武装を容認する可能性が高まりつつある一方、中国の習近平主席は「中国は日本の核武装に関しても、一貫して反対の立場を強調してきた。これは今後も変わらない中国の外交方針だ」「(日本の核武装を阻止するためには)戦争も辞さない」との姿勢を示している(2017年11月の米中首脳会談にて)。
これは、一歩やり方を間違えると、国連憲章の旧敵国条項が適用されて安保理の許可無しで(例外規定)、軍事的制裁・介入が行われる可能性を示している。敗戦国で核武装したケースが無いだけに、現実的と考えるのが妥当だろう。この点、日露戦争では「長引けば列強が和平仲介してくれるはず」、太平洋戦争では「ソ連は中立条約を守るはず」などと常に楽観的であるのが日本エリートの特徴であり、今回も「敵国条項が適用されることはあり得ない」と判断すると見て良い。

ただし、日本側からすれば、「対中限定戦争よりはマシ」「財政負担も通常戦力増強より軽い」「国内にプルトニウムが余ってる」との理由から、「他に選択肢は無い」「北朝鮮は成功した」との判断がなされる可能性が高い。

他方、中国側からすれば、日本は現状でも「帝政」「デモクラシー」というイデオロギー的に相容れない存在である上に、世界有数の軍事力(予算レベルで7位前後、海軍力で世界第二位)を持つ「東洋最大の脅威」であるだけに、日本の核武装は中国の安全保障上、最大の脅威となるだろう。

最も平穏な道は、日本が核武装をちらつかせて実行する前に、中国側から体制保証を引き出す、という筋書きが考えられる。その場合でも、日本側は天皇制ないし議会制民主主義の放棄と人民解放軍の進駐が求められるかもしれない。
いずれにしても、非常に険しい道であり、現行の政治家や外交官に担える難易度では無いように思われる。

【追記】
もう一つ考えられるパターンは、ナチス・ドイツ型がある。極度の財政的緊張に陥った日本にポピュリズム政権が成立、緊縮財政を放棄して超規模の財政出動を行って大軍拡とインフラ整備を行うと同時に、排外主義を煽ることで破綻しかけた国民の再統合を図るというもの。この場合も、周辺国との摩擦が強まり、些細なことで戦争が勃発する恐れが強くなる。現在の日本が全体主義を求める理由については、近く見解を述べる。
posted by ケン at 00:00| Comment(14) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年06月21日

第二次日中戦争の現実味について・上

ケン先生は、日本が短中期的に中国と戦争する確率について、今のところ3〜5%程度だが、今後30〜40%程度にまで上がるのではないかと見ている。「まさか」と思う人も多いだろうが、1920年代や30年代初めに「日米戦争は不可避」と言えば大体同じような答えが返ってきただろう。

まずイデオロギー的に、日本は君主国家である上、一応形式上は議会制民主主義の態をとっているが、このいずれも現代中国からすれば「危険思想」「自国の体制を否定しかねない脅威」であり、共存の難しい体制である。
しかも、戦後日本は在日米軍のヘゲモニーの上に天皇制の存続と旧体制の温存が認められた擬制デモクラシーの国家・衛星国であるだけに、東アジア冷戦の終結によって在日米軍が撤退した場合、現行の霞ヶ関・自民党の支配体制は統治の正統性を失うことになる。
米国覇権の後退に伴って誕生する新中華帝国(仮称)と日本の現行制度の共存が困難である以上、日本政府は中国に対して遠からず「体制保証」を求めることになるだろう。それは、限定戦争を行って部分的勝利(例えば冬戦争におけるフィンランド)を得るか、核武装した上で北朝鮮がアメリカに対して行ったようなチキンレースを行うかでしか実現し得ない。さもなければ、1989年の東欧諸国のように自民党と霞ヶ関は自壊してゆくことになるだろう。
ケン先生的には、現時点の数字では無いが、最終的にその確率は、日中戦争が3割、核武装が5割、自壊プロセスが2割程度になるのではないかと推測している。

先にも述べたが、近代日本の戦争は、その大半が「やられる前にやれ」の発想に基づいて日本側から攻撃を仕掛けている。そもそも明治帝政成立に際しての戊辰戦争=倒幕戦からして、「このままでは幕府軍の近代化が進んで、数年後には太刀打ちできなくなってしまう」という判断から、薩長と王政復古派の公家が陰謀を巡らし、偽勅をつくってまで開戦に持ち込んでいる。

日清戦争は、外交交渉の中で浮上してきた天津条約案が「清国側に有利すぎる。このままでは朝鮮半島は清にとられてしまう」と日本側に判断され、危機感を覚えた日本政府は半島の軍事バランスを修正するために混成第9旅団を派兵する。この際、伊藤博文総理は平時編制の2千人程度を想定していたが、陸軍の川上操六参謀次長は戦時編制の8千人にして送ってしまう。派兵を決した伊藤にしても、不平等条約改正問題で非難にさらされる中で衆議院解散を控えて、「人気取り」あるいは「タカ派を抑える」という判断が働いていた。ところが、いざ派兵してみると、朝野のマスコミ、輿論が沸騰、さらに衆議院でも開戦論が圧倒的多数を占めるに至り、閣内でも大山陸相と陸奥外相が開戦を迫って伊藤は決断を余儀なくされた。

つまり、日清戦争は政策担当者の主観的には外交交渉の敗北を軍事的勝利をもって上書きすることを目的とし、政治的には朝鮮半島から清国の影響力を排除して日本の単独的影響力を確立することを目的として始められた戦争だった。実際、開戦に先だって日本軍が行ったのは朝鮮王宮の制圧と、李王家の確保だった。
ただし、大衆的には全く異なる文脈で受け止められており、キリスト者の内村鑑三ですら「日支那の衝突は避べからずと、而して二者衝突して日本の勝利は人類全体の利益にして世界進歩の必要なり」(1894年7月27日、国民新聞)という具合に「近代国家と封建国家による文明戦争」と捉えていた。

日露戦争は、もともと満韓交換論で妥結寸前にあった日露交渉について、日英同盟が成立したことを受けて、日本政府が満州利権を要求した結果、紛糾、日本側では「ロシアはいたずらに交渉を引き延ばしている」「ロシアがシベリア鉄道や満州のインフラ整備を進めた場合、日露が開戦した際、日本軍は戦力的に勝てなくなる」との見解が大勢を占め、早期開戦論が高まった。
日本国内の世論はすでに開戦に向けてヒートアップしつつあった。1903年10月下旬の『東京朝日新聞』の社説を見ると、「百戦、百勝の成算、我国にあること疑ひなし」(10/23)、「無期的に此痛苦を忍ぶは、有期的に戦争の痛苦を忍ぶに如かず」(10/24)、「帝国自身に和乎戦乎を決するの時機既に熟したり」(10/28)とばかりに、早期開戦を連呼している。
こうした状況下にあって、露清交渉のもつれから、駐満ロシア軍が奉天を再占領するという事件が起き、日本側の不信感をさらに煽ってしまった。逆に韓国では、11月に入って、ロシアの外交官や軍人が日本人居留民に襲撃される事件が相次ぎ、露日間の国民感情は悪化の一途を辿った。
明治帝は、1904年2月6日に開戦の勅命を下すが、ロシア側が全面譲歩した外交回答が東京に到着したのは、翌2月7日のことだった。

太平洋戦争については、ここで説明するまでも無いが、「国内の石油備蓄が尽きる前に開戦しなければ、一方的に屈服する他なくなる」という理由から、真珠湾に対する無通告奇襲攻撃を行った。無通告問題については以下を参照されたい。

・真珠湾攻撃はハナから無通告のつもりだった? 

ここで疑問に上るのは、「過去はそうだとしても、今の日本が中国と戦争する必要は無いだろう」というもの。だが、過去の戦争は、いずれも「外交的失敗を軍事力で覆す」「ジリ貧に陥る前に起死回生の一発を撃つ」に端を発しており、今日の日本が置かれた状況に似通っていることが分かる。

先に始まった米朝和解のプロセスにより、朝鮮戦争の終結が視野に入った結果、冷戦の最前線は北緯38度線から日本海に移りつつある。これは朝鮮半島が、世界システムとしての新中華帝国に組み込まれることを意味し、日本はほぼ単独で新帝国と対峙せねばならなくなる。
これに対し、旧帝国であるアメリカは、中国との直接対決を回避するため、前線をグアム線ないしはハワイまで下げる意向を強めている。この場合、軍事的には「在日米軍が撤退する前に、中国に先制攻撃を加えて、その勢力を削いでおくべきだ」と考えるのが、「合理的」となる。
自衛隊の充足度で考えても、現状でさえ定数を満たしておらず、隊員の質は年々低下する一方にあると言われており、「開戦するなら早いほうが良い。遅れれば、保有する全艦艇を動かすこともままならなくなる」という判断になるだろう。
中国軍の近代化については言うまでも無く、「開戦が遅れれば遅れるほど、自衛隊に不利になるから、尖閣で一戦を交えるなら、できるだけ早いほうが良い」という議論が自衛隊でなされているという報告を受けた。軍人としては当然の帰結であろう。
(以下続く)
posted by ケン at 12:25| Comment(4) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年06月04日

北朝鮮化する日本

【NATOの「GDP比2%」参考に防衛費確保を−新大綱へ自民】
 自民党は25日、安全保障調査会と国防部会の合同会議を開き、防衛費について北大西洋条約機構(NATO)が「対国内総生産(GDP)比2%」の達成を目標にしていることを参考に「必要かつ十分な予算を確保」すべきだとする提言をまとめた。
 中谷元・安保調査会長は党本部で記者団に対し、防衛費は「現実的には必要なものに予算をつける積み上げ方式だ」としながらも、日本は「あまりにも各国と比べて防衛費の割合が少ない」と強調。欧州の例を参考数値として提言に盛り込むことで、必要な予算の確保につなげたいとの考えを示した。日本の防衛費は18年度で5兆1911億円。17年度の名目GDP548.1兆円の約0.9%。
 提言は巡航ミサイルをはじめ「敵基地反撃能力」の保有検討を促進するよう明記。島しょ防衛や災害時の拠点機能として「多用途運用母艦」を導入し、これに搭載可能な最新鋭ステルス戦闘機「F35B」の取得も盛り込んだ。政府が年末に改定する「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画」に向けまとめたもので、来週にも安倍晋三首相に提出する。
(5月25日、Bloomberg)

GDP比2%というのは単純計算で現在の2倍を意味する。2018年度の防衛予算は5兆1900億円で、対GDP比にすると約0.95%。これを倍にするということは、現状で10兆円以上をめざすことになるわけだが、税収は約60兆円であり、歳出の10%、税収の17%を防衛費に相当する。今後もゼロ成長が続く場合、社会保障費や教育費を大幅に削ることになるだろう。

「いきなり2倍」という大転換は、東アジアにおける国家間パワーバランスの変動に起因している。アメリカの国力は、相対的にはまだまだ中国を上回っているものの、米国の覇権は全世界に対して行使されねば意味をなさないため、中国のみを相手にしているわけにはいかない。結果、東アジア方面では、アメリカは従来の勢力が維持できず、冷戦期の封じ込め政策が通じなくなりつつある。

それを象徴するのが、米朝会談に象徴される米朝和解であり、それに続く朝鮮戦争の終結である。これにより、朝鮮半島は中国の勢力圏下となり、在韓米軍は撤退、冷戦の最前線は日本と台湾のラインに移るが、台湾は経済・文化的に大陸に取り込まれつつあり、政治的独立は名目的なものになっている。

冷戦期の日本の国防は、北緯38度線を最前線とし、北朝鮮の南下に対しては韓国軍が対峙して、アメリカ軍が反撃する、ソ連軍による北海道や新潟上陸に対しては、自衛隊が対峙して、米軍が反撃するという想定の上に成り立っていた。だが、巨大な海軍を持たないソ連軍の日本上陸は全く現実性がなく、現実の脅威は朝鮮半島にしか無かった。
そのため、韓国が巨大な軍事負担によって近代化と経済発展が遅れたのに対して、日本は軽武装により、国内のインフラ整備に専念でき、高度成長を実現することができた。

朝鮮戦争の終結は、冷戦の最前線が日本に移ると同時に、韓国軍と在韓米軍が無効になることを意味し、日本は中国と最前線で直に対峙する立場に立たされる。冷戦期の西ドイツはNATOの集団安全保障に国防を依存できたが、日本には日米安保しかない上、条約上の強制力でも日米安保条約はNATO条約よりも弱い。
例えば、NATO条約は締結国への攻撃に際し「必要と認める行動(兵力の使用を含む)を個別的に及び他の締約国と共同して直ちに執る」と規定しているが、日米安保条約は「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動する」となっている。これは、第一に日本の施政権下でしか発動しないことを意味しており、例えば北方四島や竹島に対しては適用されないし、仮に中国が尖閣諸島を占領した場合、米国は「施政権下にあると認められない」と援助を拒否できる仕組みになっている。そして第二に「自国の憲法上の規定及び手続に従つて」とあるように、日米安保の場合、米連邦議会が参戦に同意しなかった場合、安保条約は発動しない。
ただでさえ日米安保は、二国間条約である上に様々な制約が課されて不安定性が高い。従来であれば、この内容でも問題なかったが、今日のように米中のパワーバランスが拮抗してしまうと、不安定要素が増えることになるため、日本は独自に防衛力を高めるほか無くなってしまう。

購買力平価GDPを見た場合、冷戦期1970年のアメリカが3兆ドルに対して、ソ連は1.35兆ドルだったわけだが、2017年には中国の23.2兆ドルに対して、アメリカは19.4兆ドル、日本は5.4兆ドルでしかない。
本来であれば、遅くとも2000年代から始めるべきであった国防力の強化を先延ばしにしてきた結果、「米朝和解=朝鮮戦争の終結」を目の当たりにして、ようやく「実はオレ、ヤバいんじゃね?」と気づいて宿題に取りかかったのが自民党と霞ヶ関だった。

だが、仮に防衛費を増やしても、超少子化の中では傭兵や外国人でしか兵力を担保できず、実質的には絵に描いた餅にしかならない。現状ですら、自衛隊は兵力定数を満たすことができず、海自に至っては保有する艦艇全てを同時に稼働することが困難になっている。つまり、防衛費を増やしてみたところで、特に下士官・兵の頭数がそろえられなくなっており、今後はさらにその傾向が強まるものと見られる。
日米開戦時の日本海軍の常用航空機定数は3019機で、運用に必要な搭乗員は3445名だったが、海軍所属の搭乗員は全3615名に過ぎなかった故事が思い出される。
それを補うためには、例えば、「5年間自衛官を勤め上げたら、日本国籍を付与する」という制度が考えられるが、国民に受け入れられるのか、それに手を挙げるような(怪しげな)外国人で良いのか、疑問だらけだろう。

歴史を見た場合、高麗王朝の対元降伏から文永の役(第一次元寇)までが15年だっただけに、「朝鮮戦争の次は対日戦に違いない!」と自民党がヒステリーを起こすのは全く根拠の無いものでもない。
今後の日本が採る戦略は、「アメリカの裾を掴んで放さない」「早急に国土をハリネズミ化」「核武装論への傾斜」となるだろう。これは「貧国強兵」の道であり、実のところ「次代の北朝鮮」となる可能性を示している。

自分が中国で講演した通りの筋書きではあるが、ちっとも嬉しくない。
posted by ケン at 12:56| Comment(4) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年03月20日

河野外相いわく北朝鮮は制裁に屈服したと

北朝鮮がいよいよ対話を求めてきました。
国際社会全体による経済制裁に耐えられなくなってきたのでしょう。
これまで日米韓三カ国は緊密に連携しながら中露両国の協力も得て、北朝鮮に対する経済制裁をかつてないほど強化する国連安保理決議を実現してきました。
国連安保理決議が完全に履行されれば、北朝鮮の貿易による外貨収入はほぼ枯渇し、石油精製品の輸入は2017年初頭に比べて89%削減されます。
(3月16日「ごまめの歯ぎしり」から抜粋)

ここまで自分に都合の良いことしか言えないというのは、おめでたいと言うべきか、これが現役の外務大臣であると嘆くべきか。

北朝鮮側は、飢餓輸出を行ってまで核とミサイル技術を進めた結果、米本土に届く核ミサイル開発の目処がついたことで、「米帝側が交渉を打診してきた」と認識している。そもそも経済制裁のみで国家が崩壊することはまずなく、北朝鮮の経済はむしろ順調で、デジタル化と仮想通貨の使用が進んで旧来の経済制裁が殆ど無効化している。
また、北朝鮮が崩壊して困るのは、中露韓に共通するだけに、真面目に制裁しようとしているのは日本だけで、その日本は今では北朝鮮と貿易接点を有しない。

現実の日本は、米朝あるいは南北会談に置いていかれて放置、孤立してしまっている。日本側は「日朝首脳会談もやぶさかではない」旨を述べているが、今となっては北朝鮮側に日本と交渉する理由はなくなっており、好きな条件を要求できる立場になっている。結果、日本は「せめて米朝交渉で拉致問題を取り上げてください」と懇願する始末になっているが、別に日本側の要望を聞いてやる必要はどこにもなくなっている。

河野外相の一連の発言は、「欧州情勢は複雑怪奇なり」として辞任してしまった平沼騏一郎を彷彿させるものがあり、現代日本の外交力や諜報力を表していると言える。

【安倍首相、「金正恩との面会を仲介してほしい」】
 日本の安倍晋首相が韓国政府に対し、日朝首脳会談を成功させるための仲裁を要請したことが分かった。南北と米朝米首脳会談を控えて、韓米、韓中日、韓日などのリレー首脳会談が推進される中、16年ぶりに日朝首脳会談の可能性まで高まっており、韓半島を巡る対話局面が本格化している。
韓日関係に詳しい外交筋は18日、「日本政府が韓国政府に対して、安倍首相と金正恩(キム・ジョンウン)北朝鮮労働党書記との面会を仲介してほしいと要請した」と明らかにした。日本は4月、日米首脳会談も準備している。これと関連して、安倍首相は16日、文在寅(ムン・ジェイン)大統領との電話で、南北と米朝米会談を機に、日朝対話の可能性への期待を表明したと、大統領府は伝えた。特に安倍首相は、2002年9月、小泉純一郎元首相が訪朝時に発表した「平壌(ピョンヤン)宣言」も言及したことが分かった。平壌宣言は、日朝関係の正常化や日本人拉致問題解決などを盛り込んでいる。
米朝首脳会談の推進は、南北首脳会談に続いて米朝首脳会談が実現されただけに、対北強硬路線を固守しては韓半島の対話政局から押し出されかねないという安倍首相の懸念によるものと見られる。これと関連して北朝鮮の朝鮮中央通信は17日の論評で、「日本は大勢を正しく見て対北朝鮮政策を熟考しなければならない時だ」とし、「我々はすでに日本の反動たちが分別を失って、悪さばかりしていては、永遠に平壌行のチケットを手にできないかねないことを警告した」と主張した。
(3月19日、東亜日報)

まぁこうなるわけで。日本外務省の無能・無定見ぶりがよく現れている。
ただし、この件でこちらが問い合わせても、「そのような事実は無い」と言い張ることは間違いないだろうから、敢えて確認して官僚のウソを録音しておくのも手かもしれない。
posted by ケン at 12:33| Comment(2) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年03月19日

日露交渉さらに困難に

【色丹島で米企業が発電所建設へ】
 ロシア極東のサハリン州の知事は、北方領土の色丹島で新たに、アメリカ企業がディーゼル発電所を建設する計画を明らかにしました。これはサハリン州のコジェミャコ知事が12日、ユジノサハリンスクで、地元メディアなどに対して明らかにしたものです。
それによりますと色丹島では、ことし9月までに新しいディーゼル発電所が建設される予定で、当初の発電規模は5メガワット、来年には施設を拡大して30メガワットを目指すということです。発電所を建設するメーカーについて、コジェミャコ知事は「アメリカ企業が投資に合意した」と述べ、アメリカに拠点をおく大手機械メーカーの名前をあげました。この発電所で作られる電力は、色丹島で計画が進む、新たな水産加工場の建設や運営に利用されるということです。
ロシアは北方領土の開発にあたって日本以外の第三国の企業にも投資を呼びかけ、今回、アメリカの企業から投資を引き出すことで、日本からの投資だけに頼らない姿勢を強調する狙いがあるものと見られます。一方、日本政府は、北方領土で日本以外の第三国の企業が経済活動を行うことは、ロシアの実効支配を正当化しかねず容認できないという立場で、北方領土の開発に対する両国の方針には大きな隔たりがあります。
(3月13日、NHK)

日露外交は時間を掛ければ掛けるほど、こういう話になる。外務省はもちろんアメリカに「最大限の圧力」をかけるのだろうがw

東アジアをめぐる日本の外交環境はますます悪化している。北朝鮮をめぐる動向では、日本は完全に蚊帳の外に置かれ、外務大臣こそ「圧力の成果」などと強弁しているが、北朝鮮にとってはもはや日本は無視して良い対象になってしまっている。
日中関係は悪化こそしていないものの、国民の対中感情は悪化する一途にあり(悪い印象を持つ者が約9割)、いま日中間に紛争が勃発すれば、再び「暴支膺懲」などと国論が沸騰しかねない情勢にある。

他方、米中関係は良好で、米朝関係の改善が進んだ場合、中国・北朝鮮と険悪な関係にある日本の存在は、米国にとって不安要素となり、日米同盟のコストが上昇する。

日本が「せめてロシアに打開点を」との気持ちを持つのは自然な流れだが、これはいささか大戦末期の「ソ連の信義」とやらに似通ってしまっている。そして、ロシア側は日本の足下を見て、要求水準を上昇させようとしているのだろう。

ロシア側としては、仮に日米同盟が存在するまま北方四島を返還して、米軍基地でもつくられた日には、目も当てられない状況が現出する。ゴルバチョフが口約束を信じてソ連軍を撤兵した結果、ポーランド国境までNATOが進出、ウクライナを飲み込もうとしている悪夢が現出しているだけに、日露同盟が締結されるのでなければ、ロシアが日本を信じることはあり得ない。

まともなロシア研究者が排除された結果、誤った認識が定着、筋違いな政策が採られるという流れは、まさに戦前・戦時中のそれを彷彿させる。
posted by ケン at 12:18| Comment(2) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする