2019年05月22日

日露交渉を交渉学から考える

日露間の平和条約交渉が遅延し、合意も遅れていることを受けて、リベラル派を中心に「安倍首相が得点稼ぎにやっていること」などという非難が上がっている。また、「不法占拠」「四島返還」などの主張が後方へとやられたことについても、リベラル派を中心に批判が強まっている。
だが、リベラル派は「北方領土はロシアによって不法占拠されている」「四島一括返還以外あり得ない」などと言いつつ、丸山某が「武力奪還」を唱えると、これも非難するのだから、要は「ロシアとは一切話をするな」と言っているだけに過ぎない。

それはそれとして、中国にあっても、国際政治研究者たちから「日露交渉などやはり無理なのでは」という意見が上がっており、「そんなことは無いですよ」と言うのだが、なかなか納得してもらえない(表向きは反論しないが)。
そこで最近流行しつつある「交渉学」の概念を用いて、日露交渉を検証してみたい。

【1.背景と情勢】
日本をめぐる安全保障環境は大きく変化しつつある。中国が巨大化し、アメリカの影響力が相対的に低下、遅くとも2030年代前半には中国のGDPは米国を抜き、軍事力においても2040年頃までにアメリカを凌駕すると考えられている。これは早くなることはあっても、遅くなることはなさそうだ。従って、2040年頃までには在日米軍は撤退し、太平洋の東西で米中が覇権を分ける形になるだろう。

日本は米国の後ろ盾を失ってゆくわけだが、日本の選択肢としては、@中国に従属、A独自に重武装(核武装含む)、Bロシアやインドと連携しつつ、東アジアの勢力バランスを取る、が考えられる。このうち「比較的無理なく独立性を保てる」のはBであり、その連携先として最も有力なのはロシアとなる。

今後仮に中台併合が実現した場合も、アメリカの東アジアからの退去が進み、日本のシーレーンは中国の影響圏に入るところとなる。これも対中従属の決定的要素となるが、化石資源の輸入を中東・インドネシアからロシアにシフトできれば、中国への依存度は相対的に低くできるだろう。ロシアは核エネルギーの連携相手としても有望。

逆に日露協商に失敗した場合、北朝鮮型の「独自路線」か、今のアメリカが中国に取って代わられることになるが、誰にとっても好ましくないだろう。

【2.ミッション】
日露協商のミッション(大方針)は、些細な領土問題(しかも誰も住みたがらない)ではなく、「アメリカのアジア退去後」を見据えたものでなければならず、中国の独走・覇権化を抑止する目的を持つ。同時に、日本の独自性と国際的影響力を担保しつつ、エネルギー安全保障を充実させる狙いがある。つまり、領土問題はあくまでも「カード」であって、本筋では無い。
当面はエネルギー面と経済面での協力、将来的には軍事協力を視野に入れるべきだろう。

【3.日本の強みとロシアの弱み】
長期低迷しているとは言え、日本はまだ世界で第三位の「経済大国」にある(強みを言う場合は謙虚にならない)。同じく、ロシアが必要としている様々な技術力も有している。そして、人口1億2600万人を有する市場でもある。

ロシアはEUとアメリカから徹底的に敵視され孤立傾向にあるため、中国への依存を強めている。また、シベリアで生産される化石資源の輸出先も、ほぼ中国に占有されており、価格交渉で下手になってしまっている。
ロシアにとっての悪夢は何時の時代でも「東西挟撃=両面戦争」であり、絶対に回避すべきものだが、欧州方面は当面改善しそうに無い。

【4.日本の弱み】
時間が経てば経つほど、中国が強大化して米国が弱体化、日本の立場は不安定になる。経済的にも改善の見込みは無い。少子高齢化の進行で、市場としての魅力も失われつつある。つまり、時間経過は日露交渉において、日本側に不利に働く可能性がある。また、他の連携先としてインドがあるが、日印協商の実現性には疑問が残る。

また、日本では65年にわたるプロパガンダで「択捉、国後は北海道の一部」と考えている国民が圧倒的多数を占めており、これを納得させるためには、安倍政権のような「強い指導力」が不可欠で、今後の内閣で実現できるか不確定要素が多い。

【5.ターゲティングとBATNA】
最も重要な合意点は短期的には「日露平和条約」を締結することで、短中期的にはエネルギーと安保面の協力だが、日露間の信頼関係はまだ十分とは言えず、日露間の信頼醸成に多くの資源を費やす必要がある。

「BATNA」とは「最悪の状況に陥った場合の代替案」を意味する。日露の場合、「領土問題で譲歩しすぎた」と世論が不穏になることが想定される。そのため、無理して短期的にいずれかが譲歩しすぎる形は望ましくない。「無理な合意」は結局のところ「長続きしない」というのが、現代交渉学の定説になっている。

日本政府は既に「不法占拠」説と「四島返還」論を(こっそり)引っ込めており、交渉の土台は十分に積み上がってきている。「日露2プラス2」も順調に進んでいる。
「合意できなかった」と騒ぐのは、交渉(ビジネスでも何でも)を行ったことの無いものが言っているか、あるいは政争の道具とするためだろう。

ロシア側の態度が強硬と判断した場合、日本としては対中従属や日印協商をカードとして提示することも一案であろう。これらは「比較的望ましくない」「実現性が低い」と考えられているだけで、日露協商を絶対のものと考えてしまうと、日本側に不利な交渉になってしまう。

素人はどうしても「交渉するからには合意しないと損」と考えてしまうが、交渉学では「メリットの無い合意はしなくても良い」としている。
古来、外交交渉は「外交よりも内交が難しい」と言われており、自組織内の調整の方が難しい側面がある。
「合意できなかった」のは、むしろ交渉担当者が利害を強く主張した結果であり、国益を守ったためと考えるべきで、安易に非難すべきでは無い。
一方、十五年戦争期の帝国政府のように中国などに対して、どう見ても受け入れ不可能な要求を繰り返し、逆にアメリカから「ハル・ノート」を提示されると、逆ギレして宣戦布告なしで武力行使(真珠湾攻撃時に米政府に送ったものは宣戦布告の要件を満たしていない)するような愚劣さは、重々戒めるべきである。

以上から考えて、日露交渉は十分及第点にあると考えられる。

【参考】
『戦略的交渉入門』 田村 次朗/隅田 浩司 日本経済新聞出版社(2014)
posted by ケン at 12:00| Comment(1) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年05月15日

第二次日露開戦、否定される

【維新、戦争発言の丸山衆院議員除名=イメージダウン回避狙う】
 日本維新の会は14日、持ち回りの常任役員会で、北方領土問題の解決手段として戦争に言及した丸山穂高衆院議員(35)=大阪19区=を除名処分にした。
 太いパイプを維持する首相官邸に配慮して厳しい姿勢を示す必要があると判断。大阪都構想の是非を問う住民投票に向け、党のイメージダウンを回避する狙いもあるとみられる。
 松井一郎代表(大阪市長)は14日、市役所で記者団に「議員としてあるまじき行為、発言だ」と丸山氏を厳しく批判。議員辞職を促しているとした上で「今、辞めるべきだ」と強調した。
 丸山氏は10〜13日に北方領土の「ビザなし交流」に参加。同行記者団などによると、11日夜に訪問先の国後島の施設「友好の家」で元島民に「戦争で島を取り戻すことには賛成か反対か」「戦争しないとどうしようもなくないか」などと発言しトラブルになっていた。
 維新幹部の一人は13日に官邸側からの電話で問題発言を知ったという。この時点で党内には事態を楽観する空気もあったが、松井氏の強い意向を受け、丸山氏から提出されていた離党届を受理せず除名処分を急いだ。
(5月14日、時事通信)

日本はいい感じに香ってきた。
この丸山某、東大、経産省、松下政経塾、日本維新の会、国会議員という経歴。これだけでもパワーワード過ぎる。

東大出の後輩の「国家官僚なんてお勉強できれば誰でもなれる」「議員になりたいとか自己顕示欲が強いだけ」という言葉が頭から離れない。
実際、40歳以下で官僚を辞めて議員になる者は、程度の差や方向性の違いはあれど、「この手」の連中が多い。この点も私が永田町を見ていて「もうダメだ」と思ったところでもある。
エリートの決定的凋落である。

一方で、足立某もそうだが、こうした煽情的な発言をもって世論の注意を引き、一部の人気を集めるポピュリズム的手法を利用していたのは、維新の方であり、丸山某だけの問題では無い。政治に世界では、「無名よりは悪名の方が何倍もマシ」と言われ、とにかく「話題づくり」に血道を上げることが当選に不可欠とされる。少数政党では、その傾向がさらに強まるのは言うまでも無い。

もう一点、誰も指摘していないようなので、指摘しておきたい。
丸山某の発言の背景には政府の方針転換がある。
日本政府は従来「北方領土はロシアが不法占拠している」との主張を行っていた。これは、

「ソ連は第二次世界大戦において北方四島を占領したが、それらは北海道に属するものであり、戦争終結(日ソ共同宣言)と同時に占領を解除して、日本に返還されなければならない。だが、ソ連軍はそのまま居座っている」

という論旨だった。
これは後付けの論理で、日ソ共同宣言時には日本政府はそんな主張はしていなかったが、アメリカから「ソ連と仲良くしたら、沖縄返さないかもよ」(ダレスの恫喝)と言われて、震え上がって「すみませんでした!」と平謝りして、ソ連に対しては手のひらを返して「不法占拠」と罵り始めたことに起因している。
ただし、これはあくまでも「対ソ交渉はしない」というスタンスのためのもので、対外的には「すみませんが、そこは北海道の一部なんで、すみやかに赤軍を引いていただけないでしょうか」というものだった。

択捉や国後が「北海道の一部」などという主張は、戦前の地図を見れば一目で大嘘であることが分かるし、当時の人々も「それは無理ポでは」と思っていたのだが、日本政府が数十年にわたってプロパガンダを続けた結果、ごく一部のソ連・ロシア学徒を除いて、全員信じてしまっている。歴史研究者ですら、それを信じているのには本当に閉口させられる。

ところが、日本政府はここに来て対露関係改善の必要が生じたことにより、「不法占拠」論を一方的かつ何の説明も無く取り下げて、「無かったこと」にしてしまった。
政府としては「日露交渉の障害となる(そもそもロシアと話さないための根拠だった)不法占拠論を取り下げよう」という意向だったと推測されるが、何の説明もなされなかったため、これを敢えて穿って見た場合、

「(60年も言って聞かない)ロシアに立ち退きを懇願するのはもう止めだ!実力行使あるのみ!」

と解釈してしまっても、何の違和感も無いのである。これは政府側としては「そんな受け止め方をされるとは想像もしてなかった」と言うしか無いだろう。しかし、これは説明責任を果たさなかった方に問題がある。
そもそも政府の説明では、択捉、国後は北海道の一部であるのだから、少なくとも形而上あるいは論理上は自衛権の行使に何の障害もないのだ。
これを「北方領土に対しては自衛権を行使しない」と言うのは、あくまでも現政府の解釈であって、日本国が自衛権を認めて自衛隊を保有している以上、自衛権の行使範囲は時の政府によって変更可能なのだ。
これは、憲法第九条を恣意的に解釈して、自衛権と自衛隊を認めたことと、対ソ外交と対米従属の狭間にあって「択捉、国後は北海道の一部」と宣言してしまった日本政府の「合成の誤謬」だった。

恐らく丸山某は何の考えもないだろうが、結果的には彼の発言は問題の本質を突いていると言えるのだ。

ただ、敢えて丸山君に「上から目線」で教えてあげるとすれば、対露領土奪還戦争には日米安保は適用されないし、「第二次世界大戦の結果に対する異論、特に武力行使」は即座に国連憲章の敗戦国条項に違背、国連=連合国
に対する再戦と見なされる、ということである。
まぁ昔の軍令部次長によれば、「あと二千万男子が特攻すれば、日本は必ず勝つ」ということではありましたが(爆)
posted by ケン at 00:00| Comment(9) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年05月10日

ヤラないよりはマシだけどチグハグ

【政府、日朝首脳会談呼び掛けへ 拉致進展前提とせず】
 政府は日朝首脳会談の無条件開催に応じる用意があるとして、北朝鮮に早期実施を呼び掛ける方針を固めた。北京の大使館ルートなどあらゆるレベルの接触を通じ「条件を付けずに金正恩朝鮮労働党委員長と直接向き合う」とした安倍晋三首相の意向を伝達する。政府関係者が7日、明らかにした。
 拉致問題の進展を首脳会談の「前提条件」としてきた従来の交渉方針を転換した形。首相の呼び掛けに、金氏がどう対応するかが焦点となる。会談の無条件開催について、政府は大使館の公式ルートのほか、国際会議の場を利用した高官接触や、首相側近による非公式協議を通じて伝達することを想定している。
(5月7日、共同通信)

【北朝鮮に東京五輪のID付与せず 組織委、制裁が背景】
 2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会が、選手団参加や入場券配分の手続きを行うために各国・地域の国内オリンピック委員会(NOC)が必要とするIDなどの電子情報を北朝鮮NOCにだけ提供していないことが9日、分かった。北朝鮮国籍保有者の入国を原則禁じる日本独自の制裁が背景にあり、同国に厳しい姿勢を取る首相官邸に配慮した可能性がある。北朝鮮側は「五輪憲章の精神に反する」と反発、国際オリンピック委員会(IOC)を通して正式に抗議することも検討しているという。今後、日朝政府間の接触が実現した場合は、この案件も議題に上る可能性がある。
(3月10日、共同通信)

完全に時機を逸しているが、政府はようやく無条件での日朝交渉に転じる模様。
しかし、自ら拉致問題を掲げて交渉を途絶した結果、交渉ルートすらない有様。
国内的にも北朝鮮とパイプを持つ国会議員などを弾圧、あるいはバッシングした結果、こちらも関係が失われており、実はアントニオ猪木に頼るしか無いくらいにお粗末な状況になっている。
逆を言えば、猪木氏に象徴される少数派議員による議員外交は、正規の外交ルートが失われた場合の命綱になることを示しているわけだが、外務省はこれを絶対的に拒否し、ことあるごとに妨害してきた。やはり外務省は害悪しか無い省庁である。

また、北朝鮮と外交交渉に応じたいなら、当然五輪参加への便宜を図るべきところであるが、一方で五輪参加を拒否しておいて、「無条件の日朝交渉」のみを要求するというのは、余りにも虫が良すぎるだろう。

交渉手法にしても、「拉致問題を解決してから交渉」とか「北方領土の(日本への)帰属を決めてから交渉」とか、自国の都合を押しつけるだけのものであり、そもそも「双方の合意点を探る」という交渉の基本からして守るつもりが無い。

この辺の外交下手は日華事変時の「爾後国民党政府を対手とせず」や、ハルノートを一方的に「最後通牒」と見なして宣戦布告なしで奇襲攻撃を仕掛けた太平洋戦争の頃から一歩も進歩していない。
いっそのこと外務省の仕事は全て外交交渉の上手い国にアウトソーシングした方が良いので無いか(爆)
posted by ケン at 12:00| Comment(5) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年04月24日

党と政府に見る対中対応の差

【二階氏、「一帯一路」国際会議に出席…24日から訪中】
 自民党の二階幹事長は今月24〜29日、安倍首相の特使として中国を訪問する。26日に北京で開かれる中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に関する国際会議に出席する。6月の習近平(シージンピン)国家主席の来日に向け、準備を進める狙いがある。
 二階氏の訪中は昨年8〜9月に北京を訪問して以来。習氏に首相の親書を手渡すため、会談する方向で調整している。経団連の中西宏明会長、全国農業協同組合連合会(JA全農)の長沢豊会長らが同行する。
 政府は、習氏の国家主席としての初来日を6月28〜29日に大阪市で開かれる主要20か国・地域(G20)首脳会議に合わせて実現させ、今秋以降に習氏の国賓としての再来日につなげる道筋を描いている。二階氏は政府間の外交を側面支援し、関係改善の流れを確かなものにしたい考えだ。
 これに関連し、二階氏は18日、東京都内の中華料理店で開いた派閥会合に、近く離任する程永華(チョンヨンフア)駐日中国大使を招き、労をねぎらった。二階氏は会合で「日中友好は大事なことだ。これからも取り組んでいかなければならない」と強調した。
(4月18日、読売新聞)

【河野氏、習氏を国賓待遇とせず…G20来日予定】
 中国を訪問中の河野外相は15日、李克強(リー・クォーチャン)首相、王毅(ワン・イー)国務委員兼外相と相次いで会談した。会談後、河野氏は記者団に対し、6月の大阪での主要20か国・地域(G20)首脳会議に合わせて来日が予定される習近平(シー・ジンピン)国家主席について、「特にどなたを国賓にということではない」と述べ、国賓待遇とはしない考えを示した。
(4月15日、読売新聞)

日本はかなり一党独裁国に近い体制をとっている。
つい先日も、懇意にしている教授が国際会議を開催するにあたって、日本から野党議員を中国に招待したのだが、それを聞きつけた領事館員(恐らく外務省、領事館員の多くは他省庁の出向者で占められ、プロパーは少数)が教授に電話してきて、「何で自民党議員を呼ばないのか」と難癖を付けてきたという。
つまり、外務官僚からすれば、日本の自民党以外の政党など、共産国における衛星党や傀儡党と何ら変わらない認識なのだ。かといって、「では、自民党議員を紹介してください」と言うと、「それは我々の仕事では無い」などと言う始末で、温厚な教授が怒っておられた(聞いてる私の方はマジギレ寸前だったが)。

さて、政府・外務省は相変わらずアメリカの方しか向いていない。新帝即位に合わせて来日するトランプ大統領は国賓扱いなのに、G20で来日する習主席は「その他大勢と同じ」とするのが、その表れだ。これは近いうちに詳細を書くが、早ければ2030年、遅くても2040年までには米中の国力差は逆転すると言われる。
例えば、英PwC社の調査レポート「2050年の世界(World in 2050)」(2017)は、2030年時点におけるPPPベースのGDP予測で、中国が3611億ドル、米国が2545億ドル、日本が600億ドルと、中国の経済力が日米の合算を上回るとしている。「中露同盟」で考えれば、中露のGDPが4096億ドルに対して米日は3145億ドルと76.8%を維持するに過ぎない。少なくとも経済力では、近い将来「日米同盟が中露の太平洋進出を封鎖する」構図は成り立たなくなる。
にもかかわらず、アメリカしか眼中に無い政府・外務省の頭は、共産体制の存続を最後まで信じて疑わなかった1980年代の東欧諸国の共産党員を思わせる。

それに対して、自民党はさすがに老獪である。活発とは言えないし、利権目当ての側面はあるにせよ、日中関係の改善を進めているのは、やはり自民党であり、それも旧田中派の系列なのだ。それと宗教宣伝を意図するKM党。
非自民党でも、やはり旧田中派の系譜を引く小沢一郎氏が、鳩山政権期に対中外交を志向したが、親米派官僚らや反小沢派の陰謀もあって、疑獄にはまり、封じられてしまった。それを見て、小沢以降の菅内閣、野田内閣は従来の親米路線に戻り、低い支持率の中、世論を煽動するために対中強硬路線をとるに至った。
世論の支持が弱い党や議員が政権をとると、どうしてもポピュリズム的に世論を喚起する意欲が強くなり、「外に敵を作る」外交を演じやすくなる。その意味で、少なくとも外交の点からは、今の野党に政権を委ねたいとは全く思わない。仮にいま立民などが政権をとっても、再び「尖閣沖漁船衝突事件」のような悪夢を引き起こし、もちろん日露交渉は破棄され四島返還論に逆戻りするという、最悪の事態となるだろう。

とはいえ、自民党にあっても対中・対北外交を担えるのは、二階氏のような「豪腕」を持つものだけで、二階氏の跡を継げるような「やり手」が党内に見当たらない現状は、いかにも不安がある。自民党内も、支持基盤の弱い議員が圧倒的多数にあり、彼らの多くは反中・反南北ポピュリズムに対する強い誘惑と同居している。

自民党は外交的には「まだマシ」「現実的」ではあるが、「安倍・二階以降」の展望は開けない。
米大統領下の調査機関である国家情報会議が公表した「Global Trends 2030」は、2030年時点の日米関係について、「安全保障や日米同盟を非常に重視する安倍政権でさえ、ワシントンの一部が期待する自国の安全保障の底上げや対米協力強化には限界がある」と悲観的観測を述べつつ、その理由として「財政難と政治的麻痺」を挙げている。米国が2013年時点で「安倍後」の政治的混乱を予測していることは、率直に驚きを禁じ得ない。
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2019年04月21日

日露交渉は粘り強く

【日ロ与党交流、5月に第1弾=領土交渉を側面支援】
 自民党はロシアのプーチン政権与党「統一ロシア」との定期交流第1弾を5月中旬に東京で実施する方向で最終調整に入った。関係者が17日、明らかにした。信頼醸成を図ることで、安倍晋三首相が取り組む北方領土問題など平和条約締結交渉を側面から支援する狙いがある。
 来日する代表団は、統一ロシアの党首であるメドベージェフ首相の側近らで構成される見通し。日程は5月14〜18日が軸で、二階俊博幹事長ら自民党幹部と会談するほか、京都訪問も検討されている。二階氏は昨年4月にモスクワを訪れ、メドベージェフ氏と会談。その際、両党の定期交流について協定を交わし、日ロ2国間関係や国際情勢に関する「喫緊の問題」を協議したり、議員間の相互訪問を実施したりすることを決めた。
(4月18日、時事通信)

「6月中の日露合意は困難に」という報道ばかりが前面に出ているが、こういう地道な努力にも注目すべきだろう。
ロシア側が態度を硬化させている理由の一つは、対日強硬論が強い国内向けのアピールでもある。特に議会にその傾向が強いだけに、議員間交流を深めて理解を得て態度の軟化を促すのは有効な手段と言える。

自民党の凄いところはこうした嗅覚で、ちょっと前まで北朝鮮に対して強硬論ばかり吐いていた自民党議員が、いまや朝鮮総連に日参、あるいは総連幹部を招待して勉強会を開くなどしている。
これに対して野党は、対露、対北ともにいまだに強硬論を吐くばかりで、目の前にある外交課題にどう向き合うかという姿勢が全く見えない。この点でも、野党は全く現実味が無い。

日露交渉が難航している最大の理由は、恐らくは日本側が主権の明確化(要求)にこだわっていることにある。
つまり、択捉島と国後島について「主権は日本、施政権はロシア」という要求にこだわっていることが、ロシア側の態度を硬化させ、交渉を頓挫させている。
主権の有無について一切触れること無く、とりあえず施政権(行政権)の引き渡しで合意すれば、二島返還はすぐにも実現するはずだ。その他のことは些末だからだ。また、ロシア側が日本外務省を「古い価値観に基づいた交渉をしている」と非難するのも、ここに原因がある。

なぜこういうことになるかと言うと、日本側が「固有の領土」論を展開しているため、「今さら固有の領土じゃ無かったとは言えない」からだ。「固有の領土」だからこそ主権の有無を明確にする必要があるわけで、「固有の領土」でさえ無ければ、主権やら潜在主権の在り様など机上の空論に過ぎず、施政権の有無だけで十分なはずだからだ。
しかし、1945年9月2日の終戦前にソ連が占領した択捉、国後の両島については、日ソ共同宣言第6条にある、
日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、千九百四十五年八月九日以来の戦争の結果として生じたそれぞれの国、その団体及び国民のそれぞれ他方の国、その団体及び国民に対するすべての請求権を、相互に、放棄する。

によって、すでに日本側の請求権は放棄されている。これを同宣言に違背して主権を要求し続ける日本政府(外務省)は無理筋にも程がある。
ナゾなのは、一方で「クリミアやウクライナにおける現状変更行為を許すな」と主張するリベラル派が、こと北方領土問題に関しては「ロシアに妥協するな!」などと平気で四島の領土要求を行うことについて、何の矛盾も覚えていないことである。まぁ「力によらない現状変更はOK」ということなのだろうが、お粗末な話である。

逆に日本側はソ連が終戦後に占領した歯舞、色丹の両島については、「休戦協定後の軍事活動の違法性」をロシア側に対して追及できる立場にあるはずだが(これも厳密には日ソ共同宣言に抵触するものの)、「固有の領土」論があるために、こうしたテクニックが封じられてしまっている。

相も変わらず日ソ共同宣言すら読まず、下手すると終戦日すら知らない人間が記事を書いたり、論陣を張っていたりするので、全くバカバカしくなってくるが、ここは我慢して主張を続けたい。
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2019年04月06日

対露包囲網強化で日露交渉は?

【NATO ウクライナなどとの軍事協力強化 ロシアに対抗】
 NATO=北大西洋条約機構は外相会議を開き、ロシアが併合したウクライナ南部のクリミア周辺で軍事力を増強しているとして、NATOとして非加盟国のウクライナなどとの軍事協力を強化することを決めました。NATO=北大西洋条約機構はことし設立から70年となるのを記念して4日、アメリカのワシントンで外相会議を開きました。会議では、ロシアが併合したウクライナ南部のクリミア周辺で軍事力を増強し、脅威がさらに高まっているとして、非加盟国のウクライナや黒海沿岸のジョージアとの間で、海軍の訓練や合同軍事演習などの軍事協力を強化することを決めました。
 NATOのストルテンベルグ事務総長は会見で、「いままさにNATOの艦艇が黒海で警戒に当たっている。NATOは極めて重要なこの地域で存在感を維持していく」と述べ、ロシアに対する抑止力をさらに高めていく考えを示しました。NATOはアメリカとヨーロッパ各国の間で国防費の増額などをめぐって足並みの乱れも指摘されています。外相会議の冒頭でアメリカのポンペイオ国務長官は「ロシアによる攻撃や中国との5Gをめぐる競争など新たな脅威に立ち向かうため、同盟を改善する必要がある」と述べ、同盟の結束を強めたい考えを示しました。
(4月5日、NHK)

1900年代や1930年代とはまた異なる形で緊張が高まりつつあるのかもしれない。
EUは英国の離脱、南欧とフランスの混迷、東欧における権威主義政権の乱立など、加速度的に遠心力が働いている。そのため、求心力を維持するためにNATOを利用して対露包囲網の強化を進めているのが実情だろう。
ウクライナやグルジア(ジョージア)をNATOに引き入れることは、徒にロシアを刺激するだけのものであり、ロシア側の防衛本能を強化させ、より攻撃的にしてゆくだろう。同時に、ウクライナやグルジアはNATOの後ろ盾を得たことで強気になり、「失った領土を取り戻せ」などと軍事的冒険主義に走る恐れがある。この両国は極めて政治的に不安定にあるだけに、冒険主義による政治的求心力の確保を目論む蓋然性が高いからだ。
ロシアとしてはNATOの強攻策に対して何らかの対抗措置をとらざるを得ず、それは外交、軍事、インテリジェンス上の不確定要素を増やし、衝突リスクを高めてゆくことになるだろう。

ここに来て、ロシア側が日露交渉の進展の遅れに何度も不満を訴えているのは、こうしたNATOの対応による焦燥感も影響しているかもしれない。まぁ一義的には、「主権の確定」にこだわりすぎて全く妥協に応じない日本側(外務省?)に対する怒りなのだろうが。

歴史的に見て非常に難易度の高かったはずのノモンハン事件の外交交渉が、意外にもあっけなく妥結されたのは、欧州方面(ドイツとポーランド)の緊張が高まったためだった。同時に日本側交渉担当の東郷茂徳がソ連側をうならせるほど粘り強く交渉したことも良い方向に働いた。

日露交渉は外務省ではなく、主に内閣官房が中心となって動いていると聞くが、是非とも国際情勢を上手く利用して有利に成立させてもらいたい。
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2019年03月28日

「固有の領土」なる概念を放棄せよ!

【教科書明記でも言えない? =北方領土「固有」で政権ちぐはぐ】
 北方領土をめぐる安倍政権の対応のちぐはぐさが際立っている。2020年度から使われる小学校5、6年の社会の教科書全てが北方領土について日本の「固有の領土」と明記。しかし、こうした記述を主導してきた安倍政権は国会答弁などで「固有の領土」との表現を避け続けている。
 文部科学省が26日発表した教科書の検定結果によると、北方領土を「固有の領土」としたのは申請のあった6点全て。このうち3点がこの表現を初めて使った。17年告示の新学習指導要領が「竹島や北方領土、尖閣諸島がわが国の固有の領土であることに触れること」と求めているためだ。
 特に、東京書籍と日本文教出版の計2点は、申請段階で「北方領土の返還問題が残されています」などと記述。いずれも検定で「児童が誤解するおそれのある表現だ」との意見が付き、「日本固有の領土である北方領土の返還問題が残されています」などと修正に応じた。
 にもかかわらず、安倍政権は北方領土をめぐる日ロ交渉への影響を懸念し、昨秋ごろから「固有の領土」との表現を封印。27日の参院予算委員会で野党は「あまりに弱腰だ。固有の領土と言ってほしい」と迫ったが、河野太郎外相は「波静かな中で交渉を行わせてほしい」と応じなかった。
 こうした姿勢には「政府は児童を混乱させている」と批判の声が出ている。国民民主党の玉木雄一郎代表は27日の記者会見で「教科書に書いているなら、固有の領土と言うべきだ。今のままでは、領土は1島も返ってこない」と切り捨てた。
(3月28日、時事通信)

そもそも定義が存在しない「固有の領土」などという概念を使い続けているから、こういうことになる。
同時に、「固有の領土」と主張することによって外交交渉を一方的に拒否するため、外交関係も悪化の一途を辿る上、いざ交渉する段になると、今回のように「今まで言ってきたことと違うじゃねぇか!」と国内の反発を買って、交渉の障害をつくることになる。
また、国際的にも存在しない概念で、外務省が英文訳をでっち上げて和製英語で表現しているため、これまた国際社会の嘲笑を買うところとなっている。
何重にも愚かな話であり、この一点だけもってしても、外務省は即刻解体すべきであろう。
そして、政府のデマゴギーを信じた国民からの突き上げに乗っかって「固有の領土」論で政府を攻撃する野党やリベラル派も百害あって一利無い存在である。

外交や領土問題はその時々のパワーバランスや地政状況によって変化してくるものであって、交渉の手を自ら縛るようなことは愚の愚でしかない。

以下、補足。
1874年の日本による台湾出兵と79年の第二次琉球処分によって、日清間の緊張が高まり、清朝では出兵も検討されていたところ、米国のグラント元大統領が仲裁に乗り出して、北京で琉球帰属問題の交渉が持たれた。この時の裁定案は、沖縄本島以北を日本、先島諸島を清が領有するというもので、日本側も了承し合意に至ったものの、調印の直前に清朝内部で反対論が噴出、調印には至らなかった。最終的に琉球の帰属が確定するのは日清戦争を経て下関条約でのことであり、つまり沖縄諸島は1895年まで領土係争地だったことを意味する。明治を知るものであれば、沖縄が「日本固有」たりうるはずがないことは常識だったのである。なお、沖縄で徴兵が開始されたのは1898年、衆議院議員の定数が割り振られたのは1912年のことだった。
和平条件としての沖縄と「固有本土」

7月8日、東郷外相は軽井沢に滞在中の近衛元首相を訪ね、和平交渉の対ソ特使を依頼、内諾を取り付ける。9日には、昭和天皇が鈴木首相にソ連仲介による和平交渉の促進を督促。翌10日夜、最高戦争指導会議構成員会が開催され、「遣ソ使節派遣の件」が決定された。
12日には近衛が宮中に呼ばれ、天皇から直々に対ソ特使の要請がなされた。軍の反発を想定した鈴木首相と木戸内府による画策だった。
近衛はその日のうちに側近とも言える酒井鎬次中将を呼び出し、近衛を交えて数人で和平交渉案を作成した。交渉案は「要綱」と「解説」の二部からなり、前者は天皇に奏上して御璽を受け、後者は木戸の了解を得て印をもらう予定だった。

その和平案の条件は、第一に「国体の護持は絶対にして、一歩も譲らざること」とし、第二は「国土に就いては、なるべく他日の再起に便なることにつとむるも、やむを得ざれば固有本土を以て満足す」であった。
「解説」によれば、「国体の解釈については皇統を確保し天皇政治を行ふを主眼とす」とあり、但し最悪の場合は昭和帝の退位もやむを得ないとしながらも、それでも「自発の形式をと」るとした。
さらに領土について、「固有本土の解釈については、最下限沖縄、小笠原原島、樺太を捨て、千島は南半分を保有する程度とすること」と説明している。

この条件は、つまり天皇制と皇統の存続が認められない限り和平はあり得ず、本土決戦まで覚悟していたことと同時に、沖縄は日本の「固有本土」ではなく、和平条件として「捨て」うる存在であったことを意味している。
連合軍に占領された地域の返還を和平条件に入れることは、当事者の立場に立つならば現実的ではなかったのだろうが、少なくとも意識の上では沖縄は帝国の本土ではなく、あくまでも明治維新後の帝国主義戦争によって獲得した「帝国領外地」の一つに過ぎなかったことを示唆している。だからこそ和平条件の一つにすることができたのだ。
(同上)

そもそも「固有の領土」は日本語にしか存在しない、内向きの論理でしかない。欧州の歴史学で「固有の」と使われるのは、古代史における先住民との関係の場合であって、19世紀や20世紀に一国家が占拠した土地を「固有」とすることはあり得ない。例えば、”native american” という場合、移民や侵略者に対する「先住者の権利」という意味が持たれる。つまり、欧米の歴史学に準じるならば、「固有の」とは明治維新で成立した「日本人」に対するアイヌや琉球人に対してこそ用いられるべきものであり、その意味で成り立ちうるのは「北海道はアイヌの native territoryである」とか「沖縄は琉球人の native landである」といったものでしかない。

世界史を学んだことのある者ならば、少し想像してみれば分かる話だ。例えば、米国人が「ハワイはアメリカ固有の領土だ」、豪州人が「タスマニアはオーストラリア固有の領土だ」などと言おうものなら、ハワイアンやアボリジニが猛反発して非難轟々となるだろう。ロシアや中国に至っては領土の大半がそんなところであり、下手な言い方をすれば自らの支配の正当性に瑕疵を付するだけに終わるだろう。
「固有の領土」は英訳可能か?



posted by ケン at 12:00| Comment(7) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする