2017年07月06日

防衛費拡大へ

【GDP比2%防衛費「参考」 自民調査会が中間報告】
 自民党の安全保障調査会(会長・今津寛衆院議員)は20日、平成31年度から5年間の次期中期防衛力整備計画に向けた提言の中間報告をまとめた。北大西洋条約機構(NATO)加盟国が防衛関係費について国内総生産(GDP)比2%を目標としていることに関連し、「(NATOの目標を)参考にしつつ、厳しい安全保障環境を踏まえた上で、十分な規模を確保する」と明記した。日本の防衛関係費はGDP比1%程度にとどまっている。中間報告では増額の幅について「あくまで必要不可欠な装備の積み上げの結果に基づいて判断する」とした。調査会は当初、先の国会開会中に最終報告をまとめ、政府への提出を目指していた。しかし、宇宙やサイバー分野など議論を深める必要があると判断、来春まで検討を重ねて最終報告をまとめることにした。
(6月21日、産経新聞)

まぁこうなるわな、と。
安倍・自公政権が対中強硬路線を選択する以上、軍事費の肥大化は避けようが無い。現状、2016年の軍事費で中国が2152億ドルに対して、日本は461億ドルでしかなく、中国の戦力は全て太平洋に向けられているわけでは無いにせよ、確かに在日米軍の存在によって拮抗が保たれていると考えてもおかしくはない。単純比は21.4%である。
中国にロシアを加えれば2844億ドルとなり、比率は16%になってしまう。もっとも、ロシアの軍事力の大半は欧州方面に向けられている。とはいえ、安倍政権が必死に日露協商を志向するのは、対中強硬路線を採る上で「他に選択肢は無い」ためだ。
しかも、中国の経済力は成長が衰えたとは言え、年6〜7%もあるのに対し、日本は1%という有様で、彼我の戦力差が日に日に拡大するのは隠しようが無い。

従来の冷戦構造下では、日本と韓国と台湾が西側の最前線となっていたが、台湾は実質的に中国の影響圏入りを認め、韓国も抗戦意思を失って中国の影響圏入りを受容しつつある。彼我の国力差を考えれば、当然の選択だが、日本だけが徹底抗戦を試みようとしている。

とはいえ、中国は経済成長の赴くままで歳入も自動的に増え、特別な負担無くして軍事費を増やせる算段だが、ゼロ成長の日本の場合、軍事費を増やすためには増税するか、他の歳出を削減するほかない。
現状、日本の軍事費はGDPの1%、歳出の約5%であるが、これを2倍のGDPの2%にした場合、歳出の10%を占めることになる。だが、国債費と地方交付税交付金等を除いた政策的経費である一般歳出で見た場合、2017年度予算で8.7%に達しており、軍事費を2倍にすると単純計算で17.4%にもなる。そのしわ寄せは、自民党政権である以上は、大衆増税ないしは、社会保障費や教育費の削減に向けられることは間違いなく、今後国内の不穏はさらに高まってゆくものと思われる。

そう考えると、この間自公政権が、刑事訴訟法改正、通信傍受拡大、秘密保護法、共謀罪と治安法制を強化し続ける一方、公文書管理法や情報公開法の有名無実化を進めた理由が見えてこよう。
posted by ケン at 12:51| Comment(0) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年04月05日

領土交渉は粛々と、だが急ぎ足で

【第2次大戦の結果認めよ=平和条約交渉でロシア外相】
 ロシアのラブロフ外相は週刊紙「論拠と事実」とのインタビューで、北方領土問題を含む平和条約締結交渉について、「日本は第2次大戦の結果をはっきりと認めなければならない」と従来の主張を繰り返した。同紙が28日、インタビュー内容を報じた。ラブロフ氏は平和条約締結後の色丹島と歯舞群島の引き渡しをうたった1956年の日ソ共同宣言の有効性は認めた。しかし「日本は平和条約の締結を拒否し、(北方)4島について領有権の主張を試みた」と述べ、交渉が進展しなかった原因は日本にあると指摘した。ラブロフ氏は北方四島での共同経済活動について「集中的に作業している」と述べつつも、「事業の実現に当たってはロシアの法律に反してはならない」と強調した。 
(3月28日、時事通信)

北方領土問題については長いこと、何度も触れており、新事実や見解も無いので繰り返しになってしまう。同問題については、若干のニュアンスの違いはあるいしても、ロシア側の主張は一貫している。
1945年8月10日あるいは14日に日本政府が行ったのは「ポツダム宣言受諾表明」だが、これは軍の作戦行動を中止させる法的根拠にはならず、それは休戦条約の締結をもって保証される。せいぜいのところ、休戦協定の締結交渉中は作戦行動が自粛される程度の話だろう。その休戦条約の締結が、1945年9月2日に先送りされたため、それまでの間、ソ連軍の侵攻を止められなかっただけのことだった。ただ、歯舞と色丹は、休戦協定の成立後にソ連が占領しているだけに違法性が問われる。故にソ連は、1955年の日ソ共同宣言で二島の「引き渡し」を約束したのだ。
その日ソ共同宣言には、

【賠償・請求権の放棄】
ソヴィエト社会主義共和国連邦は、日本国に対し一切の賠償請求権を放棄する。
日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、千九百四十五年八月九日(ソ連の対日参戦の日)以来の戦争の結果として生じたそれぞれの国、その団体及び国民のそれぞれ他方の国、その団体及び国民に対するすべての請求権を、相互に、放棄する。

とある。つまり、休戦条約が成立する前にソ連が占領した国後島と択捉島に対する請求権を、日本はすでに放棄しているわけで、北方四島を要求すること自体、本来は日ソ共同宣言(正規の条約)に違背しているのだ。
馬鹿というヤツがバカな話

北方領土に関する日本政府の主張は、
「サン・フランシスコ平和条約で我が国は、千島列島に対する領土権を放棄しているが、我が国固有の領土である北方領土はこの千島列島には含まれていない。」
(内閣府HP、外務省HP)

というもの。だが、日本政府が第二次世界大戦の終戦から平和条約交渉の頃までは、択捉や国後を千島と認識していた。ところが、「ダレスの恫喝」を経て、日ソ共同宣言の後に方針を転換して「北方4島は千島ではない」と強弁し始めた。
その動かぬ証拠として、1951年11月6日、参議院の「平和条約及び日米安全保障条約特別委員会」における楠見義男議員(緑風会)の質問に対する政府答弁がある。

草葉隆圓(外務次官):歯舞、色丹は千島列島にあらずという解釈を日本政府はとつている。これははつきりその態度で従来来ております。従つて千島列島という場合において国後、択捉が入るか入らんかという問題が御質問の中心だと思います。千島列島の中には歯舞、色丹は加えていない。そんならばほかのずつと二十五島でございますが、その他の島の中で、南千島は従来から安政條約以降において問題とならなかつたところである。即ち国後及び択捉の問題は国民的感情から申しますと、千島と違うという考え方を持つて行くことがむしろ国民的感情かも知れません。併し全体的な立場からすると、これはやつぱり千島としての解釈の下にこの解釈を下すのが妥当であります。

言い換えると、「択捉・国後は国民感情的には千島じゃない」かもしれないが、従来の政府見解や地理学上の通説から判断すると、「千島じゃない」と強弁するには無理がある、ということなのだ。

戦後の日本が独立すらままならないギリギリの状態の中で、当時の政府が、「歯舞、色丹だけでも返還されれば御の字」と考えていたことが(痛いほど)分かる。
質問した両者は、ともに農水畑の議員で、根室近海の漁業従事者にとって、歯舞と色丹の返還、そして日ソ漁業協定の締結は、火急の問題だった。
それは、日ソ共同宣言となって具現化されるが、その頃には、米ソ対立が決定的となり、アイゼンハワー政権のダレス国務長官が、重光葵外相に対して、「日本が、二島返還でソ連と妥結した場合、沖縄は返還しない」と圧力を加えるに至った。
米帝に恐れをなした日本外務省が考えついた言葉が「北方領土」だった。
(「ダレスの呪縛」戦闘教師ケン)

日ソ共同宣言の北方領土に関する部分(平和条約締結後に二島引き渡し)を反故にした日本政府は、米帝からの圧力に屈したことを隠すと同時に、自らの立場を正当化するために、「ソ連・ロシアによる不法占拠」「四島返還後(潜在主権の確認)に平和条約締結」などと主張し、「北方領土返還運動」なるプロパガンダを始めた。そのプロパガンダには50年を経た今日でも毎年10億円以上もの予算がつぎ込まれ、それが利権化、「北方領土マフィア」を形成している。
官製絵はがきに見る政府の欺瞞) 

つまり、ロシア側の主張は日ソ共同宣言から何も変わっていない。ただ、ソ連崩壊から新生ロシア勃興期の混乱の最中に力技で「買い取る」チャンスがあったものの、日本側の強欲と吝嗇がその機会を逃してしまった。
今となってはその目は完全に失われ、宗主国アメリカとともに衰退期に入った日本は今後外交交渉力を低下させてゆくことが確実な情勢にある。一方で、日本は中国、北朝鮮、韓国と敵対的あるいは非友好的な関係にあり、日本国内でもタカ派路線が支持される傾向にあるだけに、今後も外交関係が改善される見込みは無い。結果、極東地域で日本は孤立状態にある。
他方、ロシアにしてみれば、直接的には最大の脅威はNATOであるが、潜在的には中国こそが最も危険な対手であるだけに、可能な限り日本とは友好関係を築いて、対中カードにしたいところだ。だが、それもプーチン大統領の意向に依存しているところが大きく、仮にメドヴェージェフ前大統領のような親中派が再び大統領になった場合、どうなるか分からない。

それだけに、プーチン氏が大統領である間に、領土紛争を解消し、早急に平和友好条約を締結することが不可欠であろう。今も昔もそうだが、北方領土問題とは日本の国内問題なのだ。

【参考】
・プーチン氏訪日首脳会談を評価する 
・北方領土マフィアなるもの 
posted by ケン at 12:24| Comment(7) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年03月17日

テロ戦争と無人機の実像

【無人機攻撃「成人男性」なら戦闘員と見なす?】
 オバマ大統領1期目の就任直後の09年1月、初の無人機攻撃で少なくとも9人のパキスタン市民が殺害された。調査報道協会(本拠ロンドン)が先週発表した報告では、それから5年間に世界で行われた無人機作戦で2400人が死亡。うち少なくとも273人は民間人だ。「パキスタンやイエメン、ソマリアで、オバマ政権は5年間に390回以上の無人機攻撃を実施した。ブッシュ前政権の8倍だ」と報告にはある。
 ブッシュ政権とオバマ政権初期には、無人機の主な標的はパキスタンのイスラム武装勢力だった。11年初めに、アルカイダ系テロ組織が活動を活発化させるイエメンに作戦は広がった。ケリー米国務長官は昨年8月、パキスタンでの無人機攻撃を早急に終わらせると約束した。
 標的を定めた無人機攻撃が合法かどうかは非常に曖昧だ。国家主権、戦争規則、国際条約や国内法がいろいろと絡んでくる。アメリカの無人機作戦の合法性を判断しようとする機関や組織もまだ現れていない。それでも米自由人権協会(ACLU)など国内の団体が、無人機作戦に関わった米当局者を相手に訴訟を起こす動きがある。
 攻撃前に標的が特定されているケースもあるが、CIAはパキスタンやイエメン、ソマリアなどで「連座」方式を採用している、とかつてオバマの対テロ政策顧問を務めたマイケル・ボイルは言う。兵士になり得る男性はすべてアメリカの敵と見なす、つまり作戦の犠牲者が成人男性なら「戦闘員」として処理される。これでは罪のない人が殺されてもどうにもできない。
 イギリスでは先週、米無人機攻撃で父親を殺害されたパキスタン人男性が、作戦に関与したとして英諜報機関を訴えた裁判があった。しかし外国の行動を裁くのは難しいという理由で、原告の訴えは退けられた。
 男性を支援する人権団体リプリーブのカット・クレイグは、この結果を強く非難する。「同盟国アメリカと一緒なら、イギリス政府は殺人を犯しても許されるようだ」
(2014.02.05. Newsweek日本版)

3年前の記事だが、日本ではまず報道されないので紹介しておきたい。
『ドローン・オブ・ウォー』や『アイ・イン・ザ・スカイ』で映画化されて少しずつ認知されているようだが、一般的にはまだまだ知られていない無人機による現代戦の実相。

無人機による攻撃はすでに米ブッシュ政権時には常態化していたが、オバマ政権は実戦力から無人機へのシフトを進め、多用していた。確かに数字上の戦果は上がったかもしれないが、『アイ・イン・ザ・スカイ』を見れば分かるように、アフリカや中東の市街地に突然米軍のミサイルが撃ち込まれるのだから、殺害した「テロリスト」の数以上に新たな敵が生まれ、米欧に対する不支持、憎悪が高まり、拡散している。同時に、自国民に対する軍事攻撃を容認する自国政府に対する不信が増大、むしろ不安定化を促進している側面もある。
中東やアフリカでは、無通告で普通の市民が「テロリスト」として殺害されているのに対し、それを実行した米欧の軍人は表彰されこそすれど、殺人として訴追されることは決して無い。「これはテロ戦争であり、殺されたものは全てテロリスト」というのは、欧米側の一方的な主張に過ぎず、これは言うなれば「国家が逮捕したものは全て犯罪者」と言うのに等しい。

もう一つの問題は、将来、ロシアや中国、あるいは日本などが無人機攻撃を始め、国内の「テロリスト」や「分離主義者」に対する無差別攻撃を行った場合、誰もこれを非難する術を持たないということである。
日本の自衛隊が、沖縄の反基地運動家や独立運動家に対し、問答無用でヘルファイアを撃ち込む可能性は、「現状は無い」というだけで、将来的には十二分にあり得るだろう。中国におけるウイグル、ロシアにおけるチェチェンは言うまでも無い。
これらに対し、米欧が非難できない状況は、自分たちが唱えてきた「正義」(自由や人道主義)を否定するものでしかなく、リベラリズムとヒューマニズムの没落は避けられそうに無い。かつて、盧溝橋事件が日中全面戦争に発展する勢いにあった際、参謀本部作戦部長の石原莞爾が、対中強硬派で同課長だった武藤章をたしなめたところ、「自分は閣下の行動(満州事変)を見習ったまでであります!」と不貞不貞しく言い返されて、二の句をつげなかったという故事があるが、いまや米欧がそれを言われる立場にある。
つまり、米欧諸国は軍事の効率化を図るあまり、自分たちの金科玉条を否定するという、長期的不利益を自ら進んで受容している。

21世紀は「そういう」時代であることを、我々は認識しておく必要がある。
posted by ケン at 12:25| Comment(2) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年01月30日

自由主義外交を放棄する日本

【対中国「もっと強硬に」55% 本社世論調査】
 日本経済新聞社の世論調査で、中国やロシアとの首脳会談を控える安倍晋三首相の外交姿勢について聞いた。中国公船の相次ぐ領海侵入を踏まえ、中国に「もっと強い姿勢で臨むべきだ」が55%に上った。韓国ソウルの日本大使館前の少女像移転が進まない中、元慰安婦支援を決めたことには異論がくすぶる。秋の安倍外交は国内世論をにらみながらのかじ取りになる。
(2016/8/28 日本経済新聞抜粋)

韓国釜山領事館前の少女像設置に対する駐韓日本大使の本国召還に対する支持は74%に及ぶという。
フィリピンでは、麻薬マフィアや反政府運動家(テロリスト)に対する無法な殺害が続いているが、そのフィリピンに対し、安倍政権はミサイルの供与や旧式武器の無償提供
を申し出ている。
また、国内で様々な人権問題が取り沙汰されているトルコとは原子力協定を結び、同じく国内外の行動で人道上の疑義が呈せられているロシアにも超接近を試みている。

これらは中国、朝鮮、韓国を一つのブロックと考え、これを包囲して封じ込めようとする冷戦期に似た思考、戦略に基づいているが、冷戦期と異なるのは、封じ込め戦略が優先されるため、自由や民主主義といったイデオロギーの前提を排除することを躊躇しないスタンスにある。
例えばトルコは、一時期は議院内閣制で政治体制的にモデル国とすら言えたものが、自ら首相位を廃し、象徴でしか無かった大統領に全権を委任しつつある。先のクーデター未遂事件に起因する粛清では、法律に基づかない捜査や裁きが横行しているとされる。

「理想よりも実利」と言えば聞こえが良いが、現実には日本自身が民主主義から距離を置き、権威主義に傾きつつある。
安倍政権は、中国ブロックと全面対峙し、権威主義国と連携強化を図りつつ、自国軍事権の拡大(海外展開のフリーハンド化)に努めている。国内政策では、秘密保護法、盗聴・監視の大幅強化、教育(思想)の中央統制、メディア統制、犯罪を検討しただけで検挙できる予備(共謀)罪の創設が進められている。
列挙してみると、昭和初期の日本と大差ないレベルでリベラリズムの放棄が進んでいることが分かる。にもかかわらず、国内の支持率は7割に達しようというレベルにある。

あとは一度傾き始めた傾斜がどこまで行くのかという話で、どこかのタイミングで戦争や大規模テロが起きた場合、それを理由にして戦時体制に移行、自由や民主主義など跡形も無く消去されるかもしれない。日本にしてもドイツにしても、1930年の段階で数年後に自国がファッショとミリタリズムに染まると考えていたものなど殆どいなかったのだから。
posted by ケン at 13:08| Comment(2) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年01月24日

そもそも島嶼は適用外デス

【尖閣へ安保条約適用、継承を=菅官房長官】
 菅義偉官房長官は12日午前の記者会見で、次期米国務長官に指名されたティラーソン氏が上院外交委員会公聴会で、沖縄県・尖閣諸島が日米安全保障条約の適用対象との認識を示したことに関し、「米国とは累次の機会に尖閣諸島はわが国の施政下にあり、日米安保条約5条が適用されることを確認している。次期国務長官にもこうした立場を取ってほしいとの思いだ」と述べた。 
(1月12日、時事通信)

相変わらず役にも立たないことを言っているが、まぁ国内向けのプロパガンダなのだろう。こんなものを垂れ流すマスコミだから「マスゴミ」呼ばわりされるのだ。米国側が「尖閣は安保の適用内」と言おうが言うまいが、全く意味が無い。一応説明しておこう。
まず日米防衛ガイドラインから。
2.日本に対する武力攻撃が発生した場合
b.作戦構想
C.陸上攻撃に対処するための作戦

自衛隊及び米軍は、日本に対する陸上攻撃に対処するため、陸、海、空又は水陸両用部隊を用いて、共同作戦を実施する。

自衛隊は、島嶼に対するものを含む陸上攻撃を阻止し、排除するための作戦を主体的に実施する。必要が生じた場合、自衛隊は島嶼を奪回するための作戦を実施する。このため、自衛隊は、着上陸侵攻を阻止し排除するための作戦、水陸両用作戦及び迅速な部隊展開を含むが、これに限られない必要な行動をとる。

自衛隊はまた、関係機関と協力しつつ、潜入を伴うものを含め、日本における特殊作戦部隊による攻撃等の不正規型の攻撃を主体的に撃破する。

米軍は、自衛隊の作戦を支援し及び補完するための作戦を実施する。

つまり、島嶼防衛についてはあくまでも自衛隊が担うものであり、米軍は自衛隊の作戦を「支援」するだけでしかないことが明確に規定されている。
そして、日米安保第5条。
各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。

このキモは「日本の施政権下にある領域」にある。北方四島に対して日米安保が適用されないのは、「施政権下に無い」からで、このことは従来政府も認めている。
問題は、島嶼の場合、敵国が占領してしまった場合、一時的であれ日本は施政権を失ってしまうため、「施政権下にある領域」でなくなってしまう点にある。少なくとも、米国側はそういう主張ができるので、仮に尖閣が他国に占領された場合、米政府が手のひらを返して「もうそこは日本の施政権下に無いから安保の適用外」と主張を一変させたところで、日本政府としては返す言葉も無い。

いずれにせよアメリカがアジアから手を引くのは時間の問題ではあるものの、当面は日本人をあやしてなだめすかして時間を稼ぐために「尖閣は安保の適用対象」と言っておく可能性が高いものの、あくまでもリップサービスであり、中身的には意味が無い。
posted by ケン at 12:46| Comment(10) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年01月23日

米国が入国者にSNSアカウントの登録を要求

【アメリカ政府が日本人旅行者に「FacebookやTwitterの報告要求」を開始 / ESTAで個人SNSを登録】
 アメリカ国土安全保障省は、日本人を含むESTA(電子渡航認証システム)登録が必要な外国人旅行者に対し、FacebookやTwitter、YouTubeなどの個人SNSの報告要求を開始した。ESTAとは、アメリカ国内に渡航する際、一般の日本人は必ず事前登録しなくてはならない渡航登録システムだ。いままでは名前や住所、国籍などの個人情報を登録すればよかったが、それに追加してFacebookやTwitterなどのSNSのアカウント報告を求められるようになったのだ。ESTAのプルダウンメニューで選択可能なSNSサービスは以下のとおり(引用者により略)。SNSサービスが選択肢にない場合は「Other」を選択してタイピングで記入する。
「オンラインサービスを利用する際、どのプラットフォーム、アプリケーション、ウェブサイトを使用して協働、情報の共有、他者との交流を行っているか、またその際使用しているアカウントのユーザーネームを入力してください」
SNSの報告は、犯罪にかかわる人物や、テロリストと関連の可能性がある人物を特定(またはターゲッティング)するためと考えられている。この案が浮上した際は、消費者保護派から強い反発があったものの、2016年12月、ESTAにSNSの報告プルダウンメニューが実装されるに至った。このSNSの報告要求は強制的ではなく、無視してESTA登録を進めることができる。よってFacebookやTwitterアカウントがあることを隠すこともできるが、その場合は「しっかりSNS登録した旅行者」よりも入国時に念入りに調べられる可能性(リスク)があるので、「SNSを教えるなんて嫌!」という人は、そのあたりのリスクを考える必要がありそうだ。
(1月6日、Buzz Plus News)

以前から可能性が指摘されていたことだが、いよいよ実現したようだ。記事にあるように登録は義務では無いものの、登録しなかったことで不審者と見なされる恐れがある以上、「任意の形式を取った強制」になっている。日本の警察が、「黙秘するのはいいけど、何度でも再逮捕して永遠に拘束するから」と言うのに近い。まぁ入国者に限った話なので、アメリカに行かなければ良い話だが、今後はこの手の「強制登録」が拡散・普及してゆく可能性が高い。

米国はすでに全世界のSNSを監視するシステムを導入しているはずだが、わざわざ入国者に登録を求めるのは、後から「登録していなかった」と責める根拠にすると同時に、登録者の交友関係を探ることでテロ組織や反政府組織との繋がりを予め把握したいがためと考えられる。いまや「SNS監視システム」は、「協力者不要のシュタージ」と化している。
これは、日本政府にとっても有益であり、公安関係者からすれば心の底から欲するものであるだけに、「マイナンバーの登録」と同様に、何らかの手段で登録を促し、収集し始めるものと見られる。対テロ戦争の主役であるアメリカと異なり、日本はジハーディストと直接敵対しているわけではなく、その監視対象は自然、国内の不満分子に向けられる。

今後は当局の監視を免れる「地下ネット」の需要が高まりそうだ。特に、量子通信による秘匿性の高いネットワークをめぐって、個人の自由と交響の治安を優先する当局の争いが本格化するだろう。まさにSFの世界である。
posted by ケン at 12:33| Comment(2) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年01月13日

駐韓大使召還という愚

【駐韓大使帰任「現時点では決まらず」…菅氏】
韓国・釜山(プサン)の日本総領事館前に慰安婦を象徴する少女像が設置された問題を巡り、安倍首相は10日午前、9日に一時帰国した長嶺安政・駐韓大使、森本康敬・釜山日本総領事を首相官邸に呼び、今回の経緯や韓国内の状況について報告を受けた。政府は韓国側の対応を慎重に見極め、長嶺氏らの帰任時期などを判断する方針だ。面会は約30分間で、杉山晋輔外務次官らが同席した。首相に先立ち、菅官房長官にも報告を行った。面会後、長嶺氏は「首相、官房長官に報告した。内容は申し上げることはできない」と記者団に語った。  菅氏は10日午前の記者会見で、長嶺、森本両氏の帰任について、「現時点では決まっていない。今後の諸状況を総合的に判断して検討していきたい」と述べた。長嶺氏らは「1週間程度は日本に滞在する」(外務省幹部)とみられる。
(1月10日、読売新聞)

韓国政府の対応を批判するのは良いとしても、「いきなり大使召還は無ぇだろっ!」というのが第一報を聞いての感想だった。一般的に大使召還は「国交断絶の一歩手前」であり、外交関係を維持する上で「最終カード」に相当する。通常、外交関係が悪化するに際してはいくつかの手順が踏まれる。例えば、

1.駐日大使を呼んで抗議
2.非難声明
3.各種外交協議の中止
4.外交官の一部召還
5.大使召還


などが考えられるが、今回は3から5まで一度にやってしまっている。言うなれば、日本政府は手持ちの外交カードを、相手の手番を見ずに、一度に全部出し切ってしまったようなもので、仮に「日本側の本気を見せつけるため」としても、非常に稚拙だった。
外交は一種のキャッチボールであって、いかに相手が暴投しようとも止めてしまったら「それきり」になってしまう。本ブログでは、これまでも例えば「日露開戦の代償」において、満韓交換論に基づく日露協商が成立寸前まで行っていたのに、それを放棄してロシアに宣戦布告した経緯を追った。日露開戦に際し、ロシア側は全く日本から宣戦されるとは思っていなかった。

また、「紛争解決に交渉は不可欠」では、1937年の日華事変の事例を挙げた。休戦交渉中に敵国首都への直接攻撃を命じ、占領後に虐殺事件を起こした挙げ句、休戦条件のハードルを上げて千載一遇のチャンスを失い、8年にわたる泥沼の戦争を余儀なくされ、戦後も「侵略国」の不名誉をほしいままにした。

いずれのケースも外交的にほとんど解決しかかっていたのに、手間を惜しむと同時に、より多くの成果を期待して武力行使を選択したために起きている。日露戦争は最終的に「勝利」したために十分な検証がなされなかったと言えるが、日華事変の事例はよくよく吟味されるべきなのに、今日でも殆ど注目されない。左右ともに「虐殺の有無」で不毛な論争を戦わせており、「歴史的知見を後世に活かす」ことが忘れられている。

今回の韓国大使召還でも、仮に日本側に理があるとしても、「いきなり大使召還はやり過ぎ、子どもじみている」との批判は免れない。そもそも韓国側に課されているのは「可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて,適切に解決されるよう努力する」という努力義務であって、日本側としては「努力」を見守り評価する必要があるはずで、いきなり大使召還は、度が過ぎている。
今回の日韓合意自体、「下からの積み上げ」が無いところに、宗主国アメリカの強い意向で「10億円やるから、今後一切口にするな」と韓国側の屈従を強いた格好だっただけに、韓国側で強い反発が出る可能性は高かった。市民の反発に対し、韓国政府にただ合意の履行を求めてみたところで、「火に油を注ぐ」ことにしかならず、むしろ比較的親日的な朴体制の寿命を縮める結果に終わるだろう。朴政権が瓦解して、より反日的な親中政府ができて困るのは日本であるはずなのに、安倍政権はそう仕向けているようにしか見えない。
韓国政府はすでに詰んでいるかもしれない。韓国はアメリカとFTAを結んだことで、経済的に従属下に置かれているが、国内では経済格差の拡大に伴う不満が高まっており、その不満を日本に向けることでこの間、政権を維持してきた。その日本では、嫌韓感情が高まって在日コリアンに対する差別・排斥運動が強まっている上に、年々軍備も強化され、武力行使の自己規制も解除する方向に進んでおり、韓国から見れば、その脅威は日本人の想像を超えるものがある。対日脅威と対北脅威の双方を解決するために、韓国政府は政治的に対中傾斜を強める選択をしていた。そこに宗主国アメリカから、対日宥和を命じられた格好だった。
本来であれば、問題の当時者たる慰安婦支援団体と調整した上で、日本政府と交渉しなければ、真の解決にはならないはずだが、今回は調整なしで日韓合意を事後報告している。これは、「当時者と話したら合意は無理」と韓国政府が判断したことを意味しており、このことも「宗主国の命令」を暗示している。しかし、命ぜられて日本政府と合意はしたものの、当時者を排除してのものであり、同時に「反日カード」の使用を制限されてしまった韓国政府は、今後民意を抑えられなくなる恐れがある。「今すぐ」ということではないが、意外と近い将来、大衆が蜂起して現体制が瓦解、親中政権が発足し、西側陣営から離脱するところまで行くかもしれない。

根本的なことを言えば、戦後補償と歴史認識の問題は、一方が謝罪して終わるものではなく、「負の遺産」を共有しながら継承してゆく姿勢が無ければ、相互理解は得られない。今回の日韓合意は、言うなれば加害者側の日本が、被害者側の韓国に「10億円やるから二度と文句言うなよ!」と凄んでいるだけの話であり、暴行傷害などの一般的な刑事犯罪を想定してみれば分かりやすいが、これで被害者側が納得(理解)できるはずがない。
実のところ謝罪自体はそれほど重要ではなく(形式的に必要だが)、より重要なのは、日本による植民地支配や従軍慰安婦の実情がどのようなものであったかを解明しつつ、日韓両国・国民が納得できる歴史を後世に継承してゆくことにある。
その意味で、韓国側が「日本悪玉論」を反日カードとして利用し、日本側が「旧軍潔白神話」を掲げて軍拡を進める現状にあって、今回の合意をもって日韓関係が修復されることは無い、というのが私の見立てである。
(2016.1.5 慰安婦問題は解決するか

日本は韓国政府の対応を慎重に見守り、最終手段としては「10億円の返還」を求める程度に止めておくべきだった。韓国側としても、「詐欺」呼ばわりされたくないだろうから、その程度の返還には容易に応じるだろう。放置することで初めて「韓国側は合意した努力を怠っている」との非難が成立し、日本側の主張に正当性が生じるのだから。
また、今回の「いきなり大使召還」は、例えば相手が中国やロシアだったらやらなかったに違いない。この辺、政府に限らず、どこまでも朝鮮・韓国を見下す日本人の「蔑視」が感じられ、その点も韓国側を刺激し、親中寄りに追いやっている。こうした態度が、アジア全体における日本の評価を下げてしまうのは避けがたく、色々な意味で悪手を打っていると言えよう。
posted by ケン at 13:07| Comment(6) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする