2016年12月15日

日露交渉が上手くいかないワケ

【日露首脳会談、共同声明の発表予定なし…露高官】
 ロシア外務省高官は15日のプーチン大統領の訪日を前に、読売新聞などの取材に対し、今回の安倍首相との首脳会談では、平和条約締結に向けた決意などを盛り込んだ共同声明を発表する予定はないと明らかにした。この高官は、2013年4月の安倍首相の訪露のさいに共同声明を発表したものの、その後、日本がウクライナ情勢をめぐり対露経済制裁を導入し、日露間の対話が凍結したことで「履行されていない状態にある」と指摘。その上で、「履行されていない以上、新しい共同声明を採択するのは理屈に合わない」と述べ、新たな共同声明を出す必要はないとの考えを強調した。
(12月14日、読売新聞)

日露交渉を急ぐワケ」とかぶる部分が多いが容赦されたい。
共同声明が見送られたということは、発表できるだけの成果が無いことを意味する。日本のマスゴミは、「トランプ氏が当選してロシアが態度を変えた」などという外務省発のプロパガンダを垂れ流しているが、そのような事実は見受けられない。
実際、私は本ブログ9月7日付けの記事で以下のように書いている。
(日露交渉に関する)情報が少ない理由は、「情報自体が存在しない」と考える方が妥当だ。つまり、日ロ間で従来の交渉内容を覆すような特別な交渉は行われておらず、ただ経済協力をめぐる交渉のみが進んでいる、という認識である。
(領土交渉はネタでしょ?) 

日本のマスゴミは、やたらとプーチン大統領にインタビューしたり、ロシア外務省の高官や大使館員に話を聞きに行って、そればかり報じている。が、実は日本人にとってより重要なのは、日本政府・安倍政権が「どのようなスタンスで日露交渉に臨み、何を獲得目標にするのか」だったはずだが、それについてはロクに報道されていない。つまり、マスゴミは官邸や霞ヶ関が恐くて聞きに行けないため、公式発表を垂れ流しているだけになっている。

日露交渉が上手くいかないのは、その大半が日本側に原因が求められる。
ロシア側は日露交渉の価値を、

@ 安全保障
A 経済協力
B エネルギー提携


に求めており、それは「領土交渉はネタでしょ?」と「日露交渉を急ぐワケ」ですでに説明している。

これに対し、日本側の交渉方針は、

主:領土交渉
従:経済協力


であり、その経済協力もどちらかと言えば「領土交渉で妥協を引き出すため」という側面が強い。これでは、話がかみ合わないのは当然だろう。
本来であれば、ロシアが持ちかけている交渉内容は、どれも日本と利害を共有できるものだった。

安全保障で言えば、「日米安保後」を見据えた「日露枢軸」は中国の脅威から独立を維持する上で不可欠のものだ。
経済協力は、アベノミクスの無制限金融緩和で銀行や企業に溢れかえってしまっている資本の投下先として有望なものと言える。
エネルギー提携は、化石燃料の中東依存からの脱却、あるいは原子力政策を進める上で不可欠の要素となる。

常識的な国家であれば、これらの要素と領土問題の重要性や得失を計算して、前者が勝れば後者は捨てるなり凍結するなりするはずだ。日本側は殆ど報じていないが、プーチン大統領は「必要ならミサイル技術の供与もやぶさかではない」とまで述べており、日本側報道とは真逆にやる気満々にしか見えない。しかし、日本の外交は現実的利益よりも観念を先行させる伝統があり、今回も「領土交渉を前提とした経済協力」に固執したあまり、何の成果も挙げられなかったものと推測される。

ロシア・ソ連学徒の視点で言えば、順序として上の3つの要素で日露が強い協力体制を築き上げ、「日露枢軸」を構築できれば、領土問題は自然と良い方向での解決に向かうものと見られるが、日本は入口でそれを拒否してしまっているのだ。

過去にも、日本は満韓交換論を前提として日露協商を自ら否定して宣戦布告したり、日独伊三国同盟に替わる日ソ不可侵条約(日ソ同盟)を自ら取り下げて日ソ中立条約にしたりと、ことごとく(我々的には)「何故そっち?」という選択肢を採ってきたが、今回も日本は大きな魚を逃すことになりそうだ。

【参考】
日露開戦の代償 
posted by ケン at 12:42| Comment(4) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年12月13日

日露交渉を急ぐワケ

今週末、ロシアのプーチン大統領が来日する。領土問題ではほぼ進展がないだろうと推測されているが、経済協力とビザ要件の緩和などを先行して、外交関係の改善を進める方針に変更は無いと見られる。
官邸の見込みとしては、領土問題でも一定の成果を挙げて、日露平和条約への道筋を付けたことで、解散・総選挙に打って出るつもりだったようだが、そこまでの成果は難しいだろう。それをカバーするために、急遽ハワイ行きが決められ、「米ロの橋渡し役」を強調することで、成果を代替するつもりなのかもしれない。それが「成果」になるのかは分からないが、内閣支持率が圧倒的高位にある現在、「それっぽい」ものであれば何でも良いのだろう。

官邸が目測を誤ったのは、外務省が米大統領選の観測を誤ったことに起因している。外務省は早々に「クリントン勝利は確実」と判断し、安倍総理に大統領選挙の最中にヒラリー氏と会談させた上、トランプ氏が当選すると狼狽して、就任前のト氏に土産を持って会いに行かせた。ところが、日本と異なり、米国では政治家への「土産」は「買収」と見なされるだけに迷惑以外の何物でもなかった。また、大統領就任前に次期大統領を詣でたことは、現オバマ政権の幹部や国務官僚を激怒させ、改めてハワイに行くハメに陥った。ゲーマー視点では、「恥ずかしい」失点を重ねている。
外務省の望まない日露外交を進める官邸に対する、外務省の「意趣返し」という見方も可能だが、それにしては自分のクビを締めているとしか思えないので、単純に外務省の無能がなせる業と見て良い。

とはいえ、安倍総理・官邸が外務省や米国の強い反対を無視して、日露交渉を強行する理由については、専門家の間でも見解が分かれている。基本的には以前書いたものと変わりは無い。
では、なぜ安倍政権はロシアにこだわるのか。一つは、安全保障上の理由で、日本が「対中封じ込め策」を採る以上、最大のカギは「ロシアを中国側にやらない、最悪でも中立状態にさせておく」こととなる。ところが、現状では米英がロシアを「私の敵は貴公でござる」と宣言してしまい、EUが同調している以上、ロシアとしては中国と手を組むほか無い。だが、それは完全に日本の国益に反しているため、日本としてはロシアの「100%中国寄り」を、80%にでも70%にでも下げておきたいのが本音なのだ。そのためには、「日ソ共同宣言」の休戦ではなく、「日ロ平和条約」で最終講和を結ぶ必要がある。だが、それは日米安保上許されないため、少しでも講和状態に近い状態にしたいのだろう。結論としては、「平和条約は結ばないけど、実質的には講和と同じ状態」を目指しているものと推察される。

第二は、経済上の理由だろう。「アベノミクス」が完全に行き詰まりを見せているが、これは「金融緩和して市場に大量にカネをバラ巻いたけど、誰も使わない」ことに大きく起因している。この点については、改めて近いうちに説明する。安倍政権としては、銀行や企業内に滞留する巨額の資金の投資先を用意しなければ、早晩「アベノミクス」が破綻をきたすだけに、その投資先として、安全保障上の理由や同じ権威主義政権のよしみもあり、「ロシア」が選ばれたと考えるのが妥当だろう。
領土交渉はネタでしょ? 2016.9.7)

実はもう一点あったのだが、本ブログで指摘するのは穏当では無いと判断し除外していたものの、他に指摘している論者が見当たらないので、敢えて触れておく。
日露交渉を強行する第三の理由、それは核政策である。
アメリカによる「西側陣営の解体〜アジア・欧州からの撤退」が現実味を増す中、日本としては日米安保に替わる安保政策が必須となっているが、代替案としては、

1.日中同盟(対中従属)
2.東アジア共同体による集団安保
3.武装強化による自主防衛路線


が挙げられる。霞ヶ関は頭から全否定しているため、対米従属に血道を上げているが、それは政策転換のコストを高めるだけで、行政であっても政治とは言えない。だが、代替案のうち、1と2は、これまで政府が進めてきた反共・入欧政策に反するため、国民の理解と支持が得られない構造になっている。結果、第三の自主防衛路線を採るほかないが、国力が低下の一途を辿り、急速に少子化が進んでいる今、強兵路線は現実的ではない。となると、核武装した上で現行水準の武装を維持する程度が「ギリギリ」の選択肢になると考えられる。
日本がNATO並みの「防衛費対GDP比2%」を実現した場合、5兆円が増額されることになり、現在米国が負担している駐留経費の6千億円など余裕で支払えるのだ。また、トランプ氏が言うように、独自に核武装する場合も、もちろん規模によるが、英仏並みで考えた場合、開発費で3〜4兆円、維持費で年間3〜5千億円程度と見られるだけに、これも「お釣り」が来てしまう。対外リスクを全く考慮しなければ、実は核武装は費用対効果が高い。
現状、日本は「2千億円の思いやり予算」で、固定経費8千億円分の米軍を駐留させることで、自国の軍事費を大幅に低減させ、その分を自国経済に投じている。歳出の1%強を防衛費増額に充てれば(現状の5%を6%にする)、米側が負担している在日米軍駐留費の6千億円などすぐに手当できるにもかかわらず、それを拒否して「横暴、暴論」と騒いでいる。客観的に見て霞ヶ関や自民党議員らの主張は全く妥当性を欠いている。
もっとも、対GDP比2%を実現するとなると、税収が55兆円という現状では、防衛費5兆円の増額など夢の話に過ぎず、本気でやるなら大増税が必要となる。それが恐ろしいからこそ、自民党議員も霞ヶ関もトランプ氏を非難することしかできないのだろう。
米軍駐留費の妥当性について、2016.5.11)

この安保政策と併行して考慮されなければならないのが、原発政策である。世界最大級の原子力事故を起こした日本では、自民党政権ですら遅々としてしか再稼働を進められないでいる。また、核技術についても、第四世代原子炉の前提となる高速増殖炉の開発が頓挫し、原型炉である「もんじゅ」の再開は不可能になっている。政府としては、フランスと技術提携しつつ、原型炉の次の段階である実証炉の建設を決めている。核技術の進歩が止まった場合、原子力政策そのものを中止せざるを得なくなる。
核開発競争に失敗しているのに「次」のステップに進めること自体、相当な無理筋だが、それを強行するのは(利権もあるが)安保政策上の要求があるためだ。ところが、高速増殖炉の開発は、すでに米英独が放棄しており、西側陣営で残っているのはフランスだけだが、そのフランスの技術は非常に不安定で、連携してみたところで成果を挙げる見込みは低い。フランスも衰退著しく、その財政負担はすでに限界に来ている。

この分野で唯一成果を挙げ、技術的に先行しているのはロシアだ。ロシアは、チェルノブイリ事故とソ連崩壊を経たものの、巨大な国土を防衛する上で、通常軍備の負担を減らすためには核政策を取りやめるという選択肢を持たなかった。1920〜30年代に飢餓輸出して、工業化と軍備拡張を実現した経験を活かして、90年代以降も国民が飢える中で核開発を進めた。権威主義国家ならではだろう。
結果、ロシアでは高速増殖炉の最終段階である実証炉「BN-800」が今年商業運用に入っている。この実証炉の次は「商業炉」なので、実証炉の商業運転が順調に行けば、商業炉として量産体制に入る。この点、ロシアは「化石燃料後」と「安全保障」の2つの要求を同時に実現するという無理筋を通そうとしている。

ここまで説明すれば十分だろう。日本が自主防衛路線を採り、核政策を放棄しない以上、ロシアとの連携(実質的にはかなり従属)という選択肢は「一択」のものでしかない。ロシアと連携すれば、日本中の原発のプールに溢れかえって、再稼働すれば数年後には満タンになってしまう核廃棄物の最終処分先も、シベリアの永久凍土に求めることができるので、「一石二鳥」(失うものも大きいが)なのだ。

日本では、民主党鳩山政権が「東アジア共同体」路線を採り、同時に原子力政策をフェイドアウトする方向で検討していたが、鳩山政権が半年で潰え、親米・日米同盟路線の菅政権が成立、その後、福島原発事故が起こり、脱原発路線に舵を切った。ところが、日米安保はすでに賞味期限切れで、代替案として「親中」も「共同体」も採れない以上、「核抜きの自主防衛」という選択肢は不可能だった。2012年に自民党が政権に復帰し、原発再推進に舵を切ったのは「当然の流れ」だったのだ。

安倍政権の問題点は、「いま何故ロシアなのか」を全く説明せずに外交を進めていることにある。他方、民進党は安保・外交政策も核政策も明確な路線を打ち出さないで、ただ自公政権を非難するだけになっている。自民党が「親米、後に自主防衛、核武装」を考えている以上、野党としては「脱米後に親中ないし共同体、核抜き」を主張しない限り、対立軸にはなり得ないのである。

【追記】
こんなこと言ったら、またぞろ「あの人、本当に左翼なんですか?」と言われちゃうでしょ〜〜

【追記2、2016.12.14】
プーチン氏は「ミサイル技術の供与」を示唆していることからも、日本側の真意を見抜いているものと見られる。
posted by ケン at 01:00| Comment(0) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年10月25日

陸上自衛隊観閲式 2016

陸上自衛隊の観閲式に出席する。場所は朝霞駐屯地、埼玉県新座市、朝霞市と東京都練馬区にまたがる地域。副都心線ができたおかげで新宿から東武東上線に乗り入れることが可能になり、駅から駅なら1時間で行けるようになった。30分近く早くなったのではないか。
海自空自海保と参観してきただけに、これで「四軍制覇」となる。
陸自は火力演習を見ているので「観閲式はいいかな」と思っていたが、今回思うところがあり、参観を決めた。外国では、軍のパレードは良く見られるが、日本では見られないだけに、「軍隊行進」を見るならば、ここに来るしか無いからだ。

P1250318.jpg

相変わらず、式典開始が10時半であるにもかかわらず、7時開場で、我々が入ったのは9時半。すでに仮設席のかなりの部分が埋まっていたが、2人だったこともあり、幸いにして最上段の席に座ることができた。とはいえ、ひな壇の対面なので、式典中は後ろ側になってしまう。

P1250320.jpg
黒い制服は明治のかほり・・・・・・高等工科学校学生隊

P1250321.jpg
防衛大学学生隊

基本的には、総司令官たる総理大臣が訓辞を述べ、陸自の各部隊が行進し、謁見を受けるだけなので、護衛艦に乗る観艦式や、航空機の離発着が間近で見られる航空観閲式に比べると地味な印象は否めない。
とはいえ、陸自の各部隊の制服を見て、隊列や行進を見て練度を推測する楽しみは、ややマニアックではあるが、興味深いものだった。また、各種展示も火力演習時より充実しており、いろいろ勉強になった。特に陣地、掩体壕のモデル展示や、戦車の動的展示が面白い。車体を上下させ、砲塔を回すのを間近で見ると、イメージを超える収穫があった。

P1250324.jpg

P1250336.jpg
モノクロだととたんに旧軍色が醸し出される。

今年は隊員約4000人、戦車など車両約280両、航空機約50機が参加している。
隊員は、意外と学生の比重が大きく、防衛大学生隊、高等工科学校生徒隊、防衛医大学生・看護学生隊がかなりの人数を占めている。
議会関係者(野党)の立場で見ると、高等工科学校の生徒は国際条約における少年兵の規定に抵触する恐れがあり、こういう場に列席させるのは大丈夫なのかという危惧を抱いてしまう。
入場から退場まで1時間半ほどだったと思うが、学生隊、特に看護学生隊の中には、貧血で座り込んでしまう者が続出しており、これも大丈夫なのかと思ってしまった。
また、主役と言える普通科隊や空挺団を見てみると、想像以上に老兵(30歳以上?)が多く、まさに「百聞は一見にしかず」だった。防衛省が躍起になって若年層の開拓に血道を上げるわけだ。

P1250337.jpg

P1250353.jpg
相応に風が吹いていたけど、狭いところに空挺降下。

余談になるが、現代戦は昔のようには体力勝負ではなくなっているので、個々の年齢はさほど重要では無い。例えば、近年のウクライナ紛争やカラバフ紛争を見ても、「むしろ老兵の方がヤバイ」と言われるのは、40歳代ならユーゴ、チェチェン帰り、50代ならアフガン帰りの戦場慣れした連中が戦闘力を担保しているためだ。とはいえ、実戦経験の無い自衛隊の場合、この原理は通用せず、不安要素であることは否めない。

P1250378.jpg
陸自婦人部隊。ハンドバッグってなんだかなぁ。ロシア軍の婦人部隊は強そうだったけど・・・・・・

また、やたらと女性部隊が強調されていたが、これは安倍政権の「女性活躍」の影響なのだろうか。ロシア軍を何度も見ている私からすると、残念ながら背は低いし、全体の体格も微妙感があり、あまり「頼もしい」という感じは受けなかった。まぁあまりやる気満々でも困るのだが。
全体の行進も整ってはいたものの、ロシア軍を見慣れている私からすると、足の上げ方が足りず、やはり物足りなさが感じられた。まぁあまり強そうに見えても困るのだろうが。

P1250387.jpg
あえて87式自走高射機関砲。

興味深かったのは、「祝賀部隊」として参列した米軍部隊。デジカメのバッテリーが切れてしまって写真は無いが、オスプレイ(海兵隊展開部隊)とストライカー旅団の二つ。
観閲式なので、都市部にもかかわらず、オスプレイもかなりの低空を飛ぶわけだが、巷間言われているほどの騒音はなく、むしろCH−47(チヌーク)より静かだったように思われた。
ストライカーは、米軍の新型装甲車だが、高価すぎるせいか米軍以外には普及していない。見るのは初めてだったが、恐ろしいまでの静粛性があり、本当に350馬力のエンジンかと驚かされた。やはりアフリカや中東での苦戦を受けて、車輌の静粛性が求められるようになっているのだろうか。

色々「百聞は一見にしかず」を実感させられた1日だった。また機会があれば、支援者の皆さんを連れて参観したい(仕事ですからね!)。
posted by ケン at 12:03| Comment(3) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年10月20日

トップ会談だけで合意するのは無理?

【ロシア、2島で幕引きも=プーチン氏の姿勢一貫―日ソ共同宣言60年】
 日本とソ連(当時)が、平和条約締結後に北方領土の歯舞群島と色丹島の2島を引き渡すことを明記した日ソ共同宣言に署名して19日で丸60年を迎える。「引き分け」による領土問題の解決を目指すロシアのプーチン大統領は「両国が署名・批准した唯一の文書」と共同宣言を重視する姿勢で一貫。安倍晋三首相が「新しいアプローチ」で譲歩を示唆する中、ロシア側は2島返還で事実上の幕引きを図りたい考えとみられる。
 1956年10月、当時の鳩山一郎首相ら日本政府代表団は、モスクワの外務省迎賓館を交渉の拠点とした。今月13日、ここで12月のプーチン氏訪日を前に日ロ戦略対話が開かれ、杉山晋輔外務事務次官は「平和条約がない異常な状況が続いており、早期解決の必要がある」と訴えた。プーチン氏は9月、記者団に「ソ連は長く粘り強い交渉の結果、日ソ共同宣言に署名した。そこには2島を引き渡すと書いてある」と改めて強調。国後、択捉2島は交渉の対象外とする考えを示唆した。対象内の歯舞、色丹2島については、引き渡し方法や日ロどちらの主権に属させるかが検討課題だと述べた。
 プーチン氏の持論は、2島からロシア側がさらに譲歩する「2島プラスアルファ」どころか、2島返還にさえ条件を付けるものだ。ザハロワ外務省情報局長も「(四島は)第2次大戦の結果、ロシアに帰属しており、ロシアが主権を持つことに疑問の余地はない」「平和条約締結問題の進展に向けた前提条件は、日本が大戦後の領土を含む現実を認めることだ」と主張した。日ソ中立条約を無視したソ連の対日参戦を不法と見なすかどうかという歴史認識も影を落とし、問題を複雑にしている。
事態を打開すべく、安倍首相は5月のソチでの首脳会談で、平和条約締結に向けた新しいアプローチを提唱。プーチン氏に、経済分野など8項目の協力プランを提示し、全面的な日ロ関係の発展と、首脳間の信頼に基づく領土問題の解決に強い意欲を示した。両首脳はファーストネームで「君と僕」の間柄で呼び合い、9月のウラジオストク会談に続き、11月にペルーでも政治対話を重ねる。ロシア側には、プーチン氏の訪日時に領土問題で合意に達しなくても「今後の交渉の進め方やガイドラインで合意することは可能」(識者)と冷静に見る向きもある。一方、日本側ではこのところ「2島先行返還論」が再び熱を帯び、世論調査でも容認する意見が5割近くに上っている。しかし、仮に歯舞、色丹2島が返還された場合も、ロシア側が残る国後、択捉2島の交渉継続に応じる保証はない。「平和条約が締結されれば、領土問題は終わり」(外交筋)という声も出ている。 
(10月18日、時事通信)

【北方領土 日米安保適用外に 返還後想定 ロシア要求】
 日ロ両政府が進めている平和条約締結交渉で、ロシア側が北方領土の島を引き渡すことで合意した場合、引き渡し対象となる島を日米安全保障条約の適用地域から除外するよう日本に求めていることが分かった。日ロ間で北方領土の「返還後」をにらんだ議論が具体化していることが明らかになった形だが、安保条約の「適用外地域」を設けることには、シリア情勢などでロシアと対立する米国が反発する可能性もあり、安倍晋三首相は難しい判断を迫られる。複数の日ロ外交筋が明らかにした。日米安保条約は第5条で、適用地域を「日本国の施政の下にある領域」と定めている。北方四島は現在、ロシアが実効支配しているため条約の適用外だが、返還が実現して日本の施政権が及ぶようになれば条約上は米軍が活動できるようになる。日本政府高官は「特定の島だけ日米安保条約の対象外とすることは極めて考えにくい」と話す。
(10月15日、北海道新聞抜粋)

これは良記事。とかく日本側の事情や希望的観測ばかりが垂れ流されているが、ロシア側が何をどう考えているかについては殆ど記事が無いだけに貴重。
この辺から考えても現実には、アメリカの了承が無いところで日露のトップ会談だけで妥結する可能性は非常に低いと思われる。そもそもこの間の日露外交は、安倍総理が外務省を除外して官邸主導で進めてきた観があり、外務省を支配する北米課からすれば、苦々しい思いと同時に対米外交上の危機感を強く抱いているはずだ。

現状、日米安保は日本国内で施政権が履行されているところが対象にされており、故に北方領土や竹島は除外されている。現実には、色丹島に米軍基地ができて、米軍機が飛び交う可能性は殆どないわけだが、米国と対立しているロシアにすれば現実的なリスクであり、放置できないのは当然だろう。かと言って、記事にもある通り、安倍氏が勝手に適用除外にできるものではなく、アメリカと交渉するとなれば、日本国外務省も米国側につくので、まず間違いなく米国は了承しないだろう。

12月のトップ会談で十分な成果が出なかった場合、安倍氏も解散を躊躇する可能性が出てくる。そうなると、来年6月には東京都議選があり、その前後はKM党が絶対に拒否するので、解散は来秋以降になるだろう。だが、来秋以降の選挙は与党に厳しいものになりそうであり、難しい選択を迫られそうだ。
posted by ケン at 12:07| Comment(4) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月29日

二島返還で決着??

【北方領土、2島返還が最低限…対露交渉で条件】
政府は、ロシアとの北方領土問題の交渉で、歯舞群島、色丹島の2島引き渡しを最低条件とする方針を固めた。平和条約締結の際、択捉、国後両島を含めた「4島の帰属」問題の解決を前提としない方向で検討している。安倍首相は11月にペルー、12月には地元・山口県でロシアのプーチン大統領と会談する。こうした方針でトップ交渉に臨み、領土問題を含む平和条約締結に道筋をつけたい考えだ。複数の政府関係者が明らかにした。択捉、国後については日本に帰属するとの立場を堅持する。その上で、平和条約締結後の継続協議とし、自由訪問や共同経済活動などを行いながら、最終的な返還につなげる案などが浮上している。
(9月23日、時事通信)

官房長官は全力で否定しているが、全力で否定しているところと、ネタ元が「ヨミウリ」というところがますます信憑性を高めてしまっている。

60年間主張し続けてきた四島返還論の虚偽性(日ソ共同宣言の否定)をどう説明するのか(たぶん何も言わない)。それ以上に、大統領選という、米国が外交的に麻痺状態に陥っている最中に「対露単独講和」するという手法が、果たして宗主国に許されるのか。「ダレスの恫喝」の有効性を含めて興味深い。世論調査上は「二島返還でOK」が多数を占めているので、日比谷焼き討ち事件のようなことは起きそうにない。そして、日露平和条約の道筋をつけて、来年1月に解散・総選挙となる見込みが強い。自民党は三度大勝して、一党優位体制を決定づけるのか。

和田春樹、望月喜市先生から私に列なる「二島プラスアルファ」派としては「ほら、言わんこっちゃ無い、さっさとこうしておけば良かったんだ」という感じだが、ずっと四島返還を唱えていたキムラ、ハカマダ、シモトマイら主流派が何と言うのか気になるところ。我々の案を鼻で笑ってきた外務官僚はすぐにクビにしてやりたいところだ。
北方領土問題は、本ブログ開設間もなく(2006年頃)から継続的に触れてきたが、そのスタンスはずっと「二島プラスアルファ」である。

まずはおさらいしておこう。北方領土問題は、日ソ共同宣言さえ見ておけば十分で、特に90年代以降の交渉を追う必要はない。まずは【賠償・請求権の放棄】を見よう。
ソヴィエト社会主義共和国連邦は、日本国に対し一切の賠償請求権を放棄する。
日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、千九百四十五年八月九日(ソ連の対日参戦の日)以来の戦争の結果として生じたそれぞれの国、その団体及び国民のそれぞれ他方の国、その団体及び国民に対するすべての請求権を、相互に、放棄する。

ここでソ連は日本に対する(戦勝国としての)賠償請求権を放棄した。さらに、日本・ソ連は相互にソ連参戦以降に生じた戦争結果に対するすべての請求権を放棄している。日本はすでに「不法に北方領土を占拠した」ソ連(ロシア)に対する領土請求権を自ら放棄しているのだ。

もう一つ【平和条約・領土】を見て欲しい。
日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、両国間に正常な外交関係が回復された後、平和条約の締結に関する交渉を継続することに同意する。
ソヴィエト社会主義共和国連邦は、日本国の要望にこたえかつ日本国の利益を考慮して、歯舞群島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意する。ただし、これらの諸島は、日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の平和条約が締結された後に現実に引き渡されるものとする。

これは、法的拘束力を持つ条約で、領土問題よりも平和条約を優先することを自ら規定していることを意味する。つまり、「領土問題解決後に平和条約を」と言う従来の日本政府の主張は、自ら条約違反あるいは条約反故を宣言しているようなものなのだ。

日ソ共同宣言以前の衆議院の決議などを見ても、二島返還を求めるものはあっても、四島を求めるものは存在しない。
昭和27年7月31日 衆議院決議 
領土に関する決議

 平和条約の発効に伴い、今後領土問題の公正なる解決を図るため、政府は、国民の熱望に応えてその実現に努めるとともに、時に左の要望の実現に最善の努力を払われたい。
 一 歯舞、色丹島については、当然わが国の主権に属するものなるにつき、速やかにその引渡を受けること。
 二 沖縄、奄美大島については、現地住民の意向を充分に尊重するとともに、差し当り教育、産業、戸籍その他各般の問題につき、速やかに、且つ、広い範囲にわたりわが国を参加せしめること。なお、右に関して奄美大島等については、従来鹿児島県の一部であつた諸事情を考慮し特別に善処すること。
 三 小笠原諸島については、先ず旧住民の復帰を実現した上、教育、産業、戸籍その他各般の問題につき、速やかに、且つ、広い範囲にわたりわが国を参加せしめること。
  右決議する。

ところが、日ソ平和交渉当時のダレス米国務長官が「沖縄不返還」をちらつかせて、日ソ平和条約の締結に難色を示す。そこで用いられたのが「固有の領土」論だった。以降、日本政府は方針転換して、日ソ平和条約の締結を断念し、それを糊塗するために「北方領土返還運動」に邁進しくことになる。
(前略)米国は、歴史上の事実を注意深く検討した結果、択捉、国後両島は(北海道の一部たる歯舞群島及び色丹島とともに)常に固有の日本領土の一部をなしてきたものであり、かつ、正当に日本国の主権下にあるものとして認められなければならないものであるとの結論に到達した。米国は、このことにソ連邦が同意するならば、それは極東における緊張の緩和に積極的に寄与することになるであろうと考えるものである。

日ソ交渉に対する米国覚書  1956年9月7日

北方領土問題についての様々なスタンスについても説明しておこう。
上に行くほど強硬路線で、下に行くほど柔軟・現実路線である。

四島一括返還論:最右派、右翼の大半が主張するものだが、現実に四島を実効支配するロシアが一括返還するメリットも理由も全くない。研究者では、木村汎氏や袴田茂樹氏らがここにいる。

四島返還論:政府の主張。四島の日本への帰属が明確にされるのであれば、返還の時期などについては柔軟に対応する、というもの。自民党も公式的にはこのスタンスであり、旧民主党は2009年の政策転換で「一括返還」から軸足を移している。研究者では、下斗米伸夫氏を筆頭に多数派を占める。

段階的返還論:鈴木宗男氏や佐藤優氏らの主張(森元首相も?)。二島を先行返還させた上で、残る二島は「交渉継続扱い」とするもの。しかし、鈴木氏らは「我々こそが真に実現性のある四島返還論者なのだ」という旨を述べており、分かりにくい構図になっている。

二島引き渡し+α論:和田春樹先生、望月喜市先生からケン先生に列なるロシア・ソ連研究者非主流派の主張。日ソ共同宣言を忠実に履行し、日ロ平和条約を締結して二島引き渡しを受ける。但し、平和条約締結に際し、国後・択捉の共同利用や共同開発、そして漁業権・資源採掘などについて、同時に付帯条項あるいは協定を結ぶ、というもの。

その他に「三島返還論」とか「領土二分割論」などが存在するが、これはまったく勢力になっておらず、ほとんど「思いつき」の域を出ない。
「領土二分割論」(フィフティ・フィフティ論)は、中ロの珍宝島・ダマンスキーでの国境紛争における最近の解決方法を参考にしたもの。しかし、この島は、ウスリー川の「川中島」に過ぎない島であり、一度洪水でも起これば川の流れ自体も容易に変わりかねない領域である上に、交渉の基礎となる条約もなく、純粋にパワーバランスと経済効果の観点から、ロシア側が譲歩する形で国境が確定している。

今回の政府の政策転換は、公式上(官房長官は否定しているが)は「四島返還論」から「段階的返還論」に移行するものだが、現実の平和条約交渉では限りなく「二島プラスα」に近づいてくるものと推測される。たとえ「潜在的」であっても国後島と択捉島の日本側主権について、ロシア側に認めさせるだけの条件を、日本側が提示するとは考えられないからだ。現実には「継続交渉という名の棚上げ」という形でしか交渉は成立しないだろう。

日本側は、対中包囲網、北朝鮮の脅威、エネルギー確保などを考慮して、対露平和条約の価値が未だかつて無いほど高まっている。一方、ロシアとしては対露経済封鎖によって対中依存が高まっているだけに、中国以外の有力国との連携が非常に重要となっており、シベリア油田の輸出先としても日本が有力視されている。
非公式の世論調査でも、すでに「二島返還でOK」とする回答が「絶対四島」を大きく上回っており、ポーツマス条約締結後に起きた日比谷焼き討ち事件が再現される可能性は極めて低い。

だが、日本がロシアと平和条約を結ぶということは、宗主国であるアメリカからすれば「単独講和」以外の何物でもなく、明らかな「裏切り」と写るだろう。現在のアメリカにとって、最大の脅威はロシアとイスラム国(ジハーディスト)であり、その次にイランが来て、中国は5番目以下でしかない。この脅威認識のギャップが、日本政府をして「単独講和」に向かわしていると思われる。
ただ、米国では大統領選挙が始まろうという時機であり、外交的に麻痺状態にあるところを狙って「単独講和」を図る安倍政権に対し、アメリカが「天罰」を下すのか、「ダレスの恫喝」
が再現されるのか、最も興味深いところである。

12月の安倍・プーチン会談で平和条約への道筋が付けば、経済危機でも起きない限り、1月早々に解散・総選挙が打たれるだろう。民進党をはじめとする野党にはすでに対抗できる力は無く、自民党は再び300議席以上を得て、結党以来初の「衆院選三連勝、国政選挙五連勝」を実現することになりそうだ。

【参考】
北方領土問題についての基本的理解 
北方領土論争における立ち位置 
posted by ケン at 12:45| Comment(2) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月07日

領土交渉はネタでしょ?

【プーチン氏「北方領土きっと解決」…首相案評価】

ロシアのプーチン大統領は3日、極東ウラジオストクでの「東方経済フォーラム」で、安倍首相が提案したエネルギー分野など日露間の8項目の経済協力について、「唯一の正しい道だと考えている」と高く評価した。そして安倍首相が北方領土問題の解決を呼びかけたことに対し「我々はきっと問題を解決する」と応じた。安倍首相はフォーラムで演説し「私たちの世代が勇気を持って責任を果たそう。70年続いた異常な事態に終止符を打ち、次の70年の日露の新たな時代をともに切り開いていこう」とプーチン氏に呼びかけた。これは首相在任中に領土問題を打開し、平和条約を締結することに強い意欲を示したものだ。
(9月3日、読売新聞)

マスゴミがやたらと「領土問題解決へ」などと煽っているが、その出元はすべて外務省であり、どう見ても情報操作でしかない。ロシア側の報道を見ると、「経済協力進展へ」との論調が殆どで、領土問題に触れていることの方が珍しい。この傾向自体は「いつものこと」なのだが、果たして今回は「特別」なのだろうか。

とはいえ、本件については情報が非常に少なく、以下のことは推論に過ぎない。
まず、「情報が少ない」ということは、可能性としては「当局がしっかり情報統制を行っている」ことも考えられるが、日本の組織はなかなか情報統制できないのが基本で、よほどのトップダウンでない限り、どこからか情報が漏れる傾向にある。今回のケースで言えば、首相官邸が独自にロシア側と交渉しているのであれば、情報が漏れない可能性もあるが、そうではないだろう。となると、情報が少ない理由は、「情報自体が存在しない」と考える方が妥当だ。つまり、日ロ間で従来の交渉内容を覆すような特別な交渉は行われておらず、ただ経済協力をめぐる交渉のみが進んでいる、という認識である。

この認識には裏打ちがある。現在の安倍政権・日本政府は、日米安保への傾斜を深める戦略を採っており、同時に中国を「最大の脅威」と認識している。いくら朝鮮が核を保有していると言っても、放置しておけば向こうからは手を出すことはないが、中国はより直接的な脅威として存在するからだ。もちろん、これは霞ヶ関の認識の話である。
日本が冷戦期ばりの「対中封じ込め策」を採る以上、アメリカへの傾斜は避けられず、それ故に「日米同盟の強化」として集団的自衛権を解禁して、全世界で米国の支援を行えるように政策転換した。
ところが、そのアメリカにとっての最大の脅威は、イスラム国とロシアであり、その下にイランがあり、中国は4番目とか5番目でしかない。その米国が、日本がロシアと「単独講和」して平和条約の締結を認めることが、果たして「あり得るのか」という話である。
つまり、日本が米国への依存を深めるなら深めるほど、「ダレスの恫喝」の効力が高まり、日ロ関係は悪化させたままにせざるを得ないはずなのだ。

今回の訪ロにしても、この間の日ロ交渉にしても、米国側に「単独講和しますのでお許し下さい」と通達している節は全く見当たらない。外務省が米国務省に「日ロ平和条約を結びます」などと言えば、「ふざけるな!ガキが!」と激怒された上に粛清されるのがオチだろう。これは、冷戦期の東ドイツがソ連に「西ドイツと和解して壁を撤去します」と言うような話だからだ。
だが、現実には米国側があまり介入してこないでいる。このことは、あらかじめ外務省が米国側に「ロシアと平和条約を結ぶつもりはサラサラありませんが、経済協力を進める上で、何も言わないと国内世論が収まらないので、大衆向けには領土交渉を前面に出していきますこと、どうかご承知おきください。アメリカに対する日本の忠義は微塵も揺るぎません」と通達していることを暗示している。

では、なぜ安倍政権はロシアにこだわるのか。一つは、安全保障上の理由で、日本が「対中封じ込め策」を採る以上、最大のカギは「ロシアを中国側にやらない、最悪でも中立状態にさせておく」こととなる。ところが、現状では米英がロシアを「私の敵は貴公でござる」と宣言してしまい、EUが同調している以上、ロシアとしては中国と手を組むほか無い。だが、それは完全に日本の国益に反しているため、日本としてはロシアの「100%中国寄り」を、80%にでも70%にでも下げておきたいのが本音なのだ。そのためには、「日ソ共同宣言」の休戦ではなく、「日ロ平和条約」で最終講和を結ぶ必要がある。だが、それは日米安保上許されないため、少しでも講和状態に近い状態にしたいのだろう。結論としては、「平和条約は結ばないけど、実質的には講和と同じ状態」を目指しているものと推察される。

第二は、経済上の理由だろう。「アベノミクス」が完全に行き詰まりを見せているが、これは「金融緩和して市場に大量にカネをバラ巻いたけど、誰も使わない」ことに大きく起因している。この点については、改めて近いうちに説明する。安倍政権としては、銀行や企業内に滞留する巨額の資金の投資先を用意しなければ、早晩「アベノミクス」が破綻をきたすだけに、その投資先として、安全保障上の理由や同じ権威主義政権のよしみもあり、「ロシア」が選ばれたと考えるのが妥当だろう。

ロシアにとっても、米・EUからの経済制裁が長期化し、資源価格が低迷する中、日本からの投資はノドから手が出るほど欲しい。特にシベリア・極東地域への投資は殆ど中国が独占する形となっており、半ば中国資本に占拠されつつあるだけに、何とかバランスをとりたい気持ちがある。
同時にロシアにとっても、ナショナリズムを掲げている以上、領土割譲は「あり得ない」選択肢となっており、日本側の提示する「平和条約は結ばないけど、実質的には講和と同じ状態」は「十分」と判断されるものになっている。

日本側ではド派手に報道されているが、実情はこんなところだろう。

【参考】
・ダレスの呪縛
安倍訪ロをどう見るか―北方領土問題は解決しません
posted by ケン at 12:30| Comment(4) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月24日

日本人は戦争を選択したのか?

【安保法、7割が「理解進まず」=「危険高まった」も過半数−時事世論調査】
時事通信の8月の世論調査で、昨年9月に成立した安全保障関連法の内容について理解が進んだか尋ねたところ、「進んだとは思わない」と答えた人が76.0%に上った。また、同法成立により、日本が海外の紛争に巻き込まれる危険が「高まったと思う」との回答は55.9%だった。同法に対する国民の理解が進まず、懸念が根強い実態が浮き彫りとなった。安保法への理解が「進んだと思う」との回答は全体で9.0%にとどまった。自民党支持層に限っても、理解が「進んだと思う」は15.1%で、「進んだとは思わない」が68・6%と大きく上回った。安倍政権は安保法により「抑止力が高まった」と強調しているが、調査では、海外の紛争に巻き込まれる危険について「高まったとは思わない」と答えたのは27.1%だった。自民党支持層でも「危険が高まったと思う」が46.2%で、「高まったとは思わない」の39.1%を上回った。
 調査は4〜7日、全国の成年男女2000人を対象に実施し、有効回収率は64.3%。
(8月12日、時事通信)

代議制民主主義は、主権者が政策決定を政治家に委任し、委託された政治家が有権者に説明責任を果たすことで成り立っている。だが、安保関連法や、その前の特定秘密保護法では、立法事実や根拠が曖昧なまま、法律の必要性や運用方法についても明快な答弁がなされることなく、成立させてしまった。
有権者から主権を委託された政治家が、政策決定や立法について十分な説明を行わないことは、代議制民主主義の存在意義を脅かしていることになるが、当の政治家たちは認識しておらず、このこと自体がデモクラシーを危機へと導いている。

安保法制をめぐる問題点については、少なくとも本ブログ上では十分に説明していると自負しているが、ここは簡単に繰り返しておきたい。
問題はアメリカの国力と国際的影響力が減退する中で、東太平洋における「対中封じ込め政策」がいつまで機能し、採択され続けるか、である。現時点ではまだパワーバランスが米国寄りで成り立っているものの、米国の優位が保持されるのは時間の問題であり、このバランスが中国に傾けば傾くほど、日米同盟でアメリカが背負うリスクとコストが大きくなってくることになる。

アメリカには、すでに海外に巨大な軍隊を駐留させるほどの国力がなく、日本の防衛は日本が自分で賄うように促してきたが、日本側はこれを「見捨てられ」と解釈して「中国の脅威」と「日米同盟の強化」を謳うようになっていった。
ここで言う「同盟強化」とは、米国側が負っているリスクとコストを日本側が一部肩代わりするというもので、具体的には米軍が世界各地で行っている軍事行動の一部を自衛隊が担うことであり、これを総括して「集団的自衛権の行使容認」と説明されるはずだったが、安倍政権が小細工を弄してとってつけたような説明に終始した結果が、この世論調査に反映されている。
例えば、安保法制の審議に際して、政府・自民党は以下のような答弁に終始した。

「今回容認される集団的自衛権は、(個別)自衛のためのものであって国際法上の集団的自衛権とは別物」

「本法成立で自衛隊員のリスクが増えることはない」

「敵が攻めてきたら自衛隊はすぐに待避するから戦闘にはならない」

「一般的な武力行使はしないが、機雷掃海は例外」

「他国の戦争に巻き込まれることはあり得ない」


などの説明がなされたものの、どれも「そんなワケねぇだろ!」と野党に一括され、より具体的な説明が求められたにもかかわらず、ロボットのように同じ答弁を繰り返すため、ますます反発を強め、審議を迷走させてしまった。

現実には、1999年にアメリカを中心とするNATO軍が、国連安保理におけるロシアの拒否権発動を無視して空爆を強行、2003年には同じくアメリカを中心とする有志連合が、国連安保理の決議を待たずに(否決されそうだったため)イラクに侵攻したことに象徴されるように、武力行使のハードルはむしろ冷戦期よりも低下していると見られ、それだけに「米国との同盟強化」は自衛隊の参戦機会を増やすことはあっても、減らすことは決して無い。結果、「(安保法成立により)他国の戦争に巻き込まれることはあり得ない」という政府答弁は、全く現実性に欠けるもので、主権者に対する説明責任を果たしているとは言えないものになっている。
90年代以降の国際情勢の変化の中で、日本は日米同盟を主軸とした「力による大陸封鎖」路線と、国連協力とアジア協調を主とした「新たな集団安全保障体制の構築」(非対称封じ込め)の二つの選択肢が遡上に上がったものの、90年代半ばには外務省から国連中心主義派がパージされて前者に大きく傾いていった。
「日米同盟堅持」路線は、政策転換にかかるコストが掛からない代わりに、「同盟を維持するコスト」が高まっており、日本(霞ヶ関と自民党)としては同盟コストを支払うために「米国の世界覇権維持に対する協力強化」という選択肢を採ったと考えられる。
この一連の考え方は、私自身は首肯し得ないものの、政策判断としては十分な合理性を備えており、理解は出来る。例えば、

「中国の脅威がかつてなく増大しているが、対抗すべき基軸となる米国はアジア関与を弱めている」

「中国の脅威に対しては、アメリカと連携してこれを封じ込める必要がある」

「だが、米国は衰退傾向にあり、日本はそれを補うだけの軍事的貢献をしなければ、アメリカはアジアから手を引くだろう」

「東アジアの軍事バランスを維持するためには、日米同盟をより強化する必要があるが、アジアから退場しようとしているアメリカを繋ぎ止めておくためには、日本が全世界で積極的にアメリカの軍事行動を支援しなければならない」

という論理で首尾一貫主張していれば、維新や民主のような自民党の補完政党は反論の術を失い、ここまで図に乗ることはなかったものと思われる。維新にしても民主にしても、安全保障政策の基本を「日米同盟基軸」としている以上、対中国戦略として「力による大陸封鎖」路線しか選択し得ないからだ。
自民党は本音で安保を語るべき

同時に議会制民主主義という点では、野党がお粗末だった。
民主党内は超大ざっぱに言って、右派と中間派と左派に3分しており、右派は集団的自衛権行使を容認、左派は反対、中間派は「野党だから反対」という感じで、もし民主党が政権にあったとしたら中間派が賛成に回り、党は「行使容認」を決めたであろう。
その意味で、民主党に期待を寄せる方には申し訳ないが、民主党は「野党だから」反対しているだけで、その内実は非常に無責任かつ無分別だと言わざるを得ない。
繰り返しになるが、「日米同盟は維持します。でも集団的自衛権は認めません、個別的自衛権で対処します。今まで通りの国際貢献は続けますから問題ありません」という民主党の主張は、仮に政権を再奪取したところで早々に米国からクレームが付けられて、鳩山氏が基地移転を撤回したのと同様の大恥をかくことになるだろう。
集団的自衛権行使や海外派兵を本気で回避したいのであれば、NK党か社民党に投票するほか無いと思われるが、NK党の場合は「右翼権威主義を忌避するために左翼全体主義を選ぶ」という選択肢に他ならないし、社民党はすでに政党として機能しているとは言えない状態にあり、これも選択肢になり得ない。党員組織を基盤とする民主的左翼政党の設立は、我々にとって常に大きな課題である。
安保法制衆院通過を受けて雑感

結局のところ、国民は十分な説明を受けぬまま、日本の「参戦」を迎えることになるだろう。だが、徴兵制が敷かれるわけではないため、「カネで雇われた自衛隊がどこか遠くで戦っているみたい」との認識から抜け出せず、政府による情報統制もあって、「本土テロ」でも起きない限り、戦争を実感することは無さそうだ。
だが、昭和の歴史が示しているのは、日支事変・日中戦争の勃発が議会と政党政治に終止符を打ったという事実であり、そこは改めて強調しておきたい。

【参考】
・昭和史再学習A 

【追記】
戦後の造語ではあるが、「大正デモクラシー」の原点は、日露戦争のポーツマス講和条約の内容に反発して起きた日比谷事件などの一連の暴動に起因するという説がある。これは、当時の政治家が十分な説明責任を果たさず、虚偽の戦果報告を行い、条約の締結過程を秘匿したことに対し、有権者が不満を表明したことに始まった。もちろん当時の日本は民主主義体制ではなかったものの、代議制議会が設置されて間もない時機であり、市民が「委任と説明責任」の相互関係を自覚する端緒となった。
posted by ケン at 12:23| Comment(0) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする