2015年11月04日

民主党は基地問題の対案を!

【民主・岡田代表「対案困難」辺野古を堅持 知事と初会談】
 翁長雄志知事は20日、民主党の岡田克也代表と党本部で初会談し、名護市辺野古の新基地建設問題について意見交換した。会談後、岡田氏は記者団に「政府には沖縄に寄り添う姿勢がない。集中協議を1カ月で打ち切り、工事を再開したことは極めて遺憾であり、今の(辺野古新基地建設の)やり方は反対だ」と政府の姿勢を批判した。
 一方、普天間飛行場問題の解決策については「対案がない中で無責任に辺野古反対とは言えない」と述べ、辺野古への新基地建設は容認する立場であることを明らかにした。翁長氏にも会談で伝えたという。岡田氏は対案を模索するか問われたが、「われわれが与党時代もさまざまな案を検討したが見つからなかった」と否定。対案を見つけるのは困難だとの見方を示した上で、政府に努力を求めた。この日の会談は民主側から持ち掛けて実現。党本部の枝野幸男幹事長、県連の花城正樹代表、清水磨男幹事長らが同席した。
(沖縄タイムス、10月22日)

岡田氏は一体何しに沖縄まで行って、知事に会ったのだろうか?野党第一党の代表が、与野党対立の最前線である沖縄へ行って、「政府案しかありません」と言うのだから、「バカじゃ無いの?!」と生卵を投げつけてやりたい気分だ。

民主党は鳩山政権期に普天間基地移設問題に手を出して失敗、米帝と外務省とその指示に従ったマスゴミの一斉攻撃に晒されて退陣した。その後、菅政権でいち早く辺野古移設を表明し、続く野田内閣でも推進してきた。その結果、2012年の総選挙において沖縄県で獲得した民主党の比例票は社民、NK党すら下回り、第6党となってしまった。最新の報道では、沖縄県内の民主党員はわずか3人だけだという。1989年の東欧革命後の東欧各国の共産党の方がよほどマシだった。
岡田代表は、それほど不人気な政策を、野党に転落して「二度と復活は無い」と言われる中、敢えて続けようとしているのだから、逆に「外務省に弱みでも握られているのでは?」と勘ぐってしまう。

民主党は、菅・野田内閣が掲げた政策が全く支持されなかったため、2012年の総選挙で歴史的敗北を喫し、そのまま政策転換せずに2014年の総選挙に臨んで「微増」に終わっている。このことは、菅・野田路線が「自民党と同じことやるなら自民党にやらせればいいじゃん」という評価が下されたことを意味するのであり、ごく当然の結果だった。にもかかわらず、二度の総選挙で大敗を続けた総括をせずに、いかなる政策転換もしていないのが、現在の岡田体制なのだ。
さらに今回の安保法案の審議で野党としての存在意義を完全にNK党に奪われた形になっており、来年の参院選と総選挙をどうやって戦うつもりなのか全く分からない。

まず民主党は、菅・野田路線を完全に放棄し、鳩山・小沢路線に回帰するか、新たな方針を打ち出さねばならない。その際、沖縄問題は重要なキーとなるだろう。最も重要なのは、「辺野古基地案の放棄、ないしは見直し」であり、続いて対案を提示することにある。
アメリカは、「堕ちた英雄」といえど、自由主義陣営の盟主であり続けているだけに、外国基地の存続は「周辺住民の理解を前提とする」原則を、少なくとも建前上は崩していない。普天間基地と辺野古基地案は、「住民の支持が無い」典型例であるはずだが、日本政府が「住民の理解は十分に得られている」と米国側に公式通達しているため、正当化されている。鳩山政権の時であっても、鳩山氏が堂々と「普天間と辺野古基地はともに住民の支持が無い」と表明していれば、米国側としては建前上ゴリ押しできなかったはずだ。アメリカが裏で工作してくれば、マスコミ(フランスとかロシア?)にリークしてやれば良いし、もし失敗したとしても沖縄県民にここまで嫌われることは無かったと思われる。

そもそも、米国では「基地存続派(ジャパンハンドラー)」と「本土撤退派(再編派)」が意見対立しており、前者が自民党・霞ヶ関と手を組んでいる以上、民主党は再編派と連携すべきだったのだが、米国側にコネクションを持たなかったため実現できなかった。野党外交の重要性を示す一例だろう。
その上で、民主党は辺野古案に替わる代案を用意する必要があり、現状で可能性があるのは3つ考えられる。

@ 米海兵隊本土撤退案(ハワイかテニアン)
A 岩国基地移設案
B 嘉手納基地統合案


中国軍の近代化が進んでいる現状下で、ミサイル攻撃の範囲内である沖縄に米軍基地を置く意味は大きく失われており、軍事的には中東にアクセスする中継基地の役割しか果たさなくなっている。特に海兵隊を置く意味は殆ど無く、実際に駐留している要員は非常に少ないと言われる。日米安保上の役割について言えば、自衛隊が敵国の第一撃を止め、米軍の支援下で反撃するという設計になっている以上、アメリカにとって米軍を第一線に置くことは、自らが紛争主体になってしまうリスクがあることを意味し、そのリスクを重く見る再編派は本土撤退を主張している。ところが、日本政府は「米軍を第一撃に巻き込むために沖縄に貼り付いておく必要がある」と考えており、それが世界に類を見ない「思いやり予算」となって、「宗主国に軍の駐留を懇願する」という状況が現出している。
現実には、中国の国力が増して東アジアのパワーバランスが中国側に傾くほど、米国にとってはリスクが増すと同時に、日本にとっての米軍の価値も増すだけに、在日米軍の駐留コストも急騰するところとなる。具体的には、米国内での基地存続派と再編派の対立が高まると同時に、基地存続派にしても日本側に米軍駐留を「高く」売りつけないと国内に説明が付けられなくなってしまう。結果、日本政府は今後ますます「アメリカの言いなり」にならざるを得なくなるだろう。

問題を根本的に解決し、東アジアの安定と沖縄と日本の平穏を両立させるためには、米軍の本土撤退しかない。だが、そのためには米国内の再編派と緊密に連携を取り、霞ヶ関の日米枢軸派と対抗する必要があるが、民主党にも他の野党にもそれだけの政治力も外交力も無い。
次善の策としては、国内最大級の岩国基地への移転が考えられる。これは、「沖縄の負担を本土が引き受ける」という点で、沖縄県民の要望を実現しつつ、内地の日米枢軸派にも配慮しており、実現可能性ということでは最も高い。幸か不幸か、山口県は自民党の牙城であり、自民党県連を賛成派と反対派に分裂させる効果も期待できる。とはいえ、米軍としては中東から遠くなってしまう点で、あまり使い勝手は良くないかもしれない。
第三の嘉手納統合案は、移設コストが最も低い点で「分かりやすい」案ではあるが、那覇空港の拡張工事と軍民共用の拡大が必要となることを県民と米国側に理解してもらわなければならない。それに失敗して実現しなかったことを考えると、沖縄県民の中央不信が高まっている現状で強行しても実現可能性は低いと思われる。

どの案にするにせよ、民主党、そして野党が避けて通れないものであり、この点については対案無くして参院選を戦うのは難しいであろう。
posted by ケン at 12:11| Comment(3) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年10月19日

ユネスコ分担金:気に入らないからカネ出さない?・続

【シベリア抑留の世界記憶遺産登録、ロシアが日本を批判】
 世界記憶遺産へのシベリア抑留資料の登録について、「ユネスコを政治利用する試みだ」とロシア側が日本を批判しました。ロシアのユネスコ委員会のオルジョニキゼ書記はロシア通信に対し、日本のシベリア抑留資料が世界記憶遺産に登録されたことをめぐり、「ユネスコを政治利用する試みで、我々は反対だ」との見解を示しました。さらに、「日本はパンドラの箱を開けた。なぜならシベリア抑留資料の登録を申請し、2国間で解決すべき政治問題をまたもやユネスコに持ち込んだからだ」と批判しました。また、オルジョニキゼ氏は、ロシアが日本側に対し、登録申請をしないようすでに働きかけていたことを明らかにしています。一方、日本が問題視している中国の「南京虐殺」資料の世界記憶遺産登録については、「事件が中国国民にとってどんな悲劇だったか理解できる」としながら、これについても「2国間で解決すべき問題だ」と述べました。
(TBS、10月15日)


【<露大統領>年内来日は困難に 北方領土で隔たり大きく】

 安倍政権が目指すロシアのプーチン大統領の年内の来日が困難な情勢となった。複数の日露外交筋が14日、明らかにした。北方領土問題を巡って両国の主張の隔たりが大きく、来日時に合意点を見いだす見通しが立たないためだ。日本政府は来年早期の来日に向け、協議を続ける構えだ。菅義偉官房長官は14日の記者会見でプーチン氏の来日について「種々の要素を総合的に考慮してベストな時期を探っていきたい」と述べるにとどめた。政府関係者は「北方領土に関し、両国が受け入れられる提案をプーチン氏ができる状況ではない」と述べた。
 一方、ロシア外務省のザハロワ情報局長(報道官)は14日の記者会見で「残念ながら日本メディアは、露日関係では訪日日程にしか関心がない」と批判した。年内訪日の実現にこだわらないロシア側の姿勢を反映した発言と言え、別の日露外交筋も同日、年内訪日について「実現が難しいのは事実だ」と述べた。安倍晋三首相とプーチン氏は11月の主要20カ国・地域(G20)首脳会議などに合わせて首脳会談を行う予定だ。首相は領土問題の解決を急いでおり、プーチン氏から来日に向けた感触を探るとみられる。ただ、ロシアは領土問題で強硬姿勢を崩しておらず、9月のニューヨークでの首脳会談でも「ベストなタイミングを探る」と確認したのみだった。首相とプーチン氏は2014年11月、北京で行った首脳会談で15年中の来日で合意していた。
(毎日新聞、10月15日)

プーチン大統領の来日は、安倍政権側の懇請によるものであり、ロシア側からすればメリット無き外交日程を組むような余裕は無い。
安倍政権としては、安保法制の成立などによって東アジアで孤立を深めているだけに、ロシアの取り込みが出来ないまでも、多少なりとも敵対関係を和らげたいという意図がある。また、外交成果が上がらない中で、権威主義国家として親和性の高いロシアにより大きな可能性を見いだしているものと思われる。この辺の心理状態は、太平洋戦線で敗色が濃くなっている1944年に、敢えて中国戦線とビルマ戦線で攻勢を仕掛けた、連中の先祖とよく似ている。あるいは、敗戦直前まで「ソ連の信義」を頼ってソ連に和平交渉の仲介を依頼していたことも思い出される。

プーチン氏としては、米欧との関係が改善されない中、日本との関係改善は当然望むところだが、それもこれも日本側の条件次第であり、「サッサと北方領土返せ!」とギャンギャン吠えられるために来日するなど「あり得ない」話だ。だが、日本側としても、アメリカからシェールガスを買わされる状況にあって、ロシアから天然ガスを購入するとは容易に言えないため、ますますロシア側に提示できるカードが無い。日本側としては経済制裁を米欧よりも緩くすることで恩を売っている形だが、もともと日露の経済関係は弱く、効果としては非常に弱い。結果、日本は「要求するだけ」になってしまっている。

そういう状況下で、世界記憶遺産にシベリア抑留資料を登録した上、中国の南京事件資料の登録についてはクレームを付けるという暴挙に出たため、ロシアとしては中国と連携して日本を非難する他なくなってしまった。この対応を誤って、ロシア側を非難するようなことになれば、今度はロシアが「シベリア出兵資料(ロシア語ではシベリア軍事介入、もしくは同侵攻)」などを遺産登録する手続きをとり、日露関係は泥沼に陥ってゆくだろう。これでは平和条約交渉など「夢のまた夢」だ。

安倍政権はユネスコの政治利用が国際関係にどのような影響を与えるかなど、何も考えずに世界遺産に「自分が登録したいもの」を申請してきたが、「空気を読まない」外交はいい加減止めにしないと取り返しの付かないことになろう。
posted by ケン at 12:45| Comment(0) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年10月14日

ユネスコ分担金:気に入らないからカネ出さない?

【<菅官房長官>ユネスコ分担金「停止・削減を含め検討」】
 菅義偉官房長官は12日のBSフジの番組で、国連教育科学文化機関(ユネスコ)が世界記憶遺産に「南京大虐殺」に関する資料を登録したことを受け、ユネスコ運営のために拠出している分担金について「政府として停止・削減を含めて検討している」と述べた。菅氏は「(登録は)密室で行われ、法律に基づくものでもない。透明性や公平性をもっと出すべきだ」と述べ、ユネスコに制度見直しを求める考えを示した。南京事件に関しては「確かに南京で非戦闘員殺害とか略奪行為があったことは否定できないが、(犠牲者の)人数にはいろんな議論がある」とも語った。
(毎日新聞、10月12日)

なんかもう「リットン報告は中国寄りで気に入らないから国連脱退」してしまった帝国日本と殆ど同じだな。同報告を今日読んでみると、「どこが不満だったんだ?」と思える辺りも、なにをかを暗示している。

【参考】 リットン報告書をめぐる日本の報道について・下

日本は今年中国と併行して「シベリア抑留資料」を同記憶遺産に登録しているが、ロシア側が「日本側の捏造」「信憑性が疑わしい」などと言い出してユネスコに圧力をかけたら、どう応じるつもりなのだろうか。あるいは広島・長崎の登録に対して、米国が「不適切」「死亡者数については議論がある」などとクレームを付けてきたら、取り下げるのだろうか。
政府は、記憶遺産外でも強制労働の現場だった軍艦島や、テロリスト養成機関だった松下村塾を遺産登録、特攻資料も登録を目指し、ユネスコを政治的に利用して黒歴史の美化を図っているが、官房長官の主張は「日本によるユネスコの政治利用は正しいが、諸外国が利用するのはダメ」というものでしかない。その上、「ユネスコの決定は気に入らないからカネ出すのを止める」と言うのであれば、国際社会における日本の地位は著しく低下するだろう。

これまで中国が記憶遺産に登録してきたのは、清帝国の原資料や本草綱目、黄帝内経といった政治性の低いものばかりだった。ところが、ここに来て歴史的検証が十分とは言えない南京事件の資料を出してきたのはかなり唐突観があり、やはり日本によるユネスコの政治利用や、安倍一派による南京事件否定論が、中国側を煽ったと見るのが妥当だろう。
日本がユネスコを利用しようとすればするほど、中国や韓国も負けじと利用してくる構図になっていることに気づくべきだ。

確かにユネスコの「世界遺産」制度そのものが、商業的あるいは政治的に過ぎるきらいがあり、その上選定プロセスを一切明らかにしないため、閉鎖的な官僚機構とともに不信の対象となっていることは確かだ。だが、それは巨額の拠出者(スポンサー)として、日本がユネスコに機構改革を要求すれば良い話であり、「選定が気に入らないからカネ出さない」というのは余りにも大人げない。あるいは中国が「日本の分も払うからその分の議決権をください」と言ったらどうするのか。行き着くところは「ユネスコ脱退」なのか。
同時に日本は中国側に日中歴史共同研究(報告書は2010年)の遵守とさらなる共通歴史共有に向けて話し合いを提案すべきだろう。

【参考】
【シベリア抑留の世界記憶遺産登録、ロシアが日本を批判】
 世界記憶遺産へのシベリア抑留資料の登録について、「ユネスコを政治利用する試みだ」とロシア側が日本を批判しました。ロシアのユネスコ委員会のオルジョニキゼ書記はロシア通信に対し、日本のシベリア抑留資料が世界記憶遺産に登録されたことをめぐり、「ユネスコを政治利用する試みで、我々は反対だ」との見解を示しました。さらに、「日本はパンドラの箱を開けた。なぜならシベリア抑留資料の登録を申請し、2国間で解決すべき政治問題をまたもやユネスコに持ち込んだからだ」と批判しました。また、オルジョニキゼ氏は、ロシアが日本側に対し、登録申請をしないようすでに働きかけていたことを明らかにしています。一方、日本が問題視している中国の「南京虐殺」資料の世界記憶遺産登録については、「事件が中国国民にとってどんな悲劇だったか理解できる」としながら、これについても「2国間で解決すべき問題だ」と述べました。
(TBS、10月15日)
posted by ケン at 12:56| Comment(7) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年09月01日

「国連」を理解しない官房長官

【「国連は中立であるべき」…菅官房長官が不快感】
 菅官房長官は31日午前の記者会見で、潘基文(パンギムン)国連事務総長が9月3日に北京で行われる「抗日戦争勝利70年」の式典に出席することについて、「国連は中立であるべきだ。加盟国に対して、いたずらに特定の過去に焦点を当てるのではなく、未来志向の姿勢を取るよう促すべきだ」と述べ、不快感を示した。日本の国連代表部は27日、国連事務局に「中立性を損なう行動」などとする懸念を伝えている。
(読売新聞、8月31日)

菅官房長官は国連の成り立ちをご存じないようだ。知っていて上記のような主張をしているとすれば、国内向けのエクスキューズということになるだろう。
官房長官向けに分かりやすく説明しよう。国連の原語は「United Nations」で、第二次世界大戦中の枢軸国に対抗した連合国=United Nationsと同じくしている。軍事同盟としての連合国は、1945年6月に国連憲章に署名(50カ国)、同年10月には前身の国際連盟に替わる国際機関を発足させた。この時、英語名称は「United Nations」が継承され、前身の「League of Nations」と区別された。
日本の外務省は、軍事同盟を「連合国」とし、新たに設置された国際組織を「国際連合」と訳し、現在に至るまで定着している。これは外務省が国内世論を刺激しないよう、別組織のように見せるための配慮(陰謀)だったと考えられる。実際、新聞などは当初「連合国」と記している。もっとも、中国は軍事同盟を「同盟國」とし、国際機関を「聯合國」と訳している。

日本政府が言う「国連」は、1945年4月25日、連合国主要国だった米英中ソの四カ国が、「連合国憲章」(後の日本政府が言う国連憲章)への参加を求めて、非枢軸国に招請状を出したことが大きな起点の一つになっている。その参加条件は、「1945年3月1日までに枢軸国に宣戦布告をした国」だった。結果、スウェーデン、スペイン、ポルトガル、アイルランドなどの中立国は除外され、発足当初の参加が叶わなかった。この点は、現在の国連憲章第107条の、いわゆる敗戦国条項から確認できる。
第107条〔敵国に関する行動〕
この憲章のいかなる規定も、第二次世界戦争中にこの憲章の署名国の敵であった国に関する行動でその行動について責任を有する政府がこの戦争の結果としてとり又は許可したものを無効にし、又は排除するものではない。

この日本語訳は分かりづらいので、関連する同第53条等とともに解説しよう。
ポツダム宣言やサンフランシスコ講和条約、あるいは日ソ共同宣言などの休戦・講和条約とそれに伴う各種占領施策は国連憲章に違背するものではなく、常に有効であり、敗戦国がこれらを否定する行動に出た場合、UN加盟国はその企図を粉砕するために自由な(国連憲章に縛られない)軍事的制裁を科すことが許されている。

UNが、二次大戦期の枢軸国側の論理であるファシズム、ミリタリズムとそれに基づく侵略を否定することを大前提に成立している以上、安倍政権や自民党が進めている「東京裁判の否定(疑義)」「侵略行為に対する疑義」「大戦中の不法行為の否定(慰安婦や強制連行)」「領土要求(北方四島)」などは、国連憲章への違背と見なされる。いくら安倍政権の閣僚や自民党員などが「国内で主張しているだけだ」と弁解してみたところで、加盟国から「ファシズム再興に向けた準備行動」と認識されるのは免れがたい。そもそも彼らの「国連には留まりたいけど、講和条約の中身は否定させてくれ」という主張自体、御都合主義でしかないからだ。
戦後日本は、非武装と民主化を実現し、サンフランシスコ講和条約を締結したことで、敗戦国条項付きの「二等加盟国」ながら、UNに加盟して国際社会への復帰を実現した。ところが、その後の日本は、再軍備(世界第7位規模)、海外派兵を進め、今日の安倍政権下では、権威主義の再興を進めつつ、ポツダム宣言と講和条約に対する疑義を提唱するまでに至っているのだから、UNから「加盟資格についてマニュアルを見返してください」と言われるのは当然だろう。

話を戻そう。UNが大戦中の連合国を継承している以上、「連合国議長」が主要国の主催する戦勝式典に参加することは「議長としての務め」であり、官房長官の「国連は中立であるべき」「いたずらに特定の過去に焦点を当てる」という主張こそ、UNが何者であり、UNに加盟する日本の立場を全くわきまえないものなのだ。UNが連合国であり、安倍政権がファッショとミリタリズム(枢軸国の論理)を肯定する立場に立つ以上、両者が相容れる可能性は無いのである。安倍政権は、かような主張を続けたいならば、サンフランシスコ講和条約、日ソ共同宣言、日中共同宣言を破棄すべきだ。

なお、ソ連の対日参戦(中立条約破棄)の合法性については下の稿を参照して欲しい。

【参考】
さすが歴史修正主義者デス 
posted by ケン at 12:20| Comment(0) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年08月26日

安保法制で肥大化する軍事費

【防衛費、過去最大5兆911億円 28年度概算要求、中国念頭に強化】
 防衛省がまとめた平成28年度予算案への概算要求の全容が18日、明らかになった。米軍再編経費などを含む総額は過去最大の5兆911億円(27年度当初予算比2・2%増)で、4年連続の要求増。一方的な海洋進出や公海上空での活動を広げる中国を念頭に最新装備を導入し、周辺海域の警戒監視を強化する狙いだ。
 東シナ海での監視・偵察に向け無人偵察機「グローバルホーク」3機(367億円)や新型早期警戒機「E2D」1機(238億円)を導入。イージス艦1隻(1675億円)と「そうりゅう」型潜水艦1隻(662億円)の建造費も盛り込んだ。島嶼(とうしょ)防衛の強化では、垂直離着陸輸送機オスプレイ12機(1321億円)のほか、不法占拠された離島の奪還を担う水陸両用車「AAV7」11両も導入する。
 最新鋭ステルス戦闘機「F35」6機(1035億円)や、戦闘機などの滞空可能時間を延ばす空中給油機も購入する。哨戒ヘリコプター「SH60K」は17機(1032億円)をまとめて発注し、約115億円の調達コストを圧縮する。弾道ミサイル攻撃への対応として、海上配備型迎撃ミサイル(SM3ブロック2A)の日米共同開発費や、地対空誘導弾パトリオット3(PAC3)部隊の基盤整備費も盛り込む。ヨルダンへの防衛駐在官の派遣や、宇宙監視システムの整備に向けた準備態勢の強化なども計上。28年度当初予算ベースで初の5兆円台を視野に入れる。
(産経新聞、8月19日)

軍事費の膨張を止めるのは、古今東西どの国家・政府にとっても最大の課題の一つだった。それは「適正なる軍備」の定義が決して一定せず、国際環境に左右されるだけでなく、国内世論や権力者の思惑によって一変してしまうからだ。

その最も極端な例がアメリカである。独立戦争によってイギリスから独立を勝ち取ったアメリカは、軍の基幹が義勇民兵であったことと、巨大な中央軍が州の自治を脅かす恐れを重視して、大陸軍を解散してしまった。1812年に再度「米英戦争」が勃発したときに、連邦政府の手元にあった兵(陸軍)はたった1万人足らずに過ぎなかった。さらに南北戦争が勃発した1861年ですら、合衆国軍の規模は陸軍が1万6千人、海軍が8千人に満たない有様だった。それが、今日では大規模戦争が起きているわけでもないのに、150万人とも言われる兵力を常時維持しているのだから、南北戦争前のアメリカを理想とするリバタリアン(レパブリカン)からすれば到底容認できないだろう。

日本の場合、明治維新を経て徴兵制が施行され、常備軍が設立される。日清戦争前は対外戦争が想定されておらず、陸海軍を含めて20万人(陸軍で7個師団)という規模であったが、日露戦争勃発時には30万人(13個師団)、シベリア出兵時には40万人(21個師団)へと膨れあがった。この間、わずか20年足らずである。そこから20年後の1937年、日華事変時には100万人を超え、4年後の日米開戦時には200万人にも達した。日本の財政は、21個師団、40万人態勢ですら耐えきれずに山梨・宇垣軍縮に至ったにもかかわらず、再び軍拡を始め、日中戦争から太平洋戦争へと突入していった。
植民地が増えれば増えるほど、その統治や周辺国・列強との軋轢が過酷になるのは当然の成り行きであり、それに連れて軍も肥大化していった。特に日本の場合、有力な産業や資本を持たないだけに、植民地の開発や市場化が遅れ、その経営は常に赤字状態だった。赤字経営の植民地を維持するために、生産性ゼロの軍隊を肥大化させていったのだから、仮に大規模戦争が起きなかったとしても、遠からず財政破綻しただろう。実際、戦前期のGNPがピークに達したのは日米開戦前の1939年のことだった。

日露戦争のツケ 
朝鮮統治のツケ 

明治から昭和期の軍拡の流れを見ると、「では戦前期の日本における適正な軍の規模はどの程度だったのか?」という疑問がわき上がってくる。同時に、財政と軍の規模の関係(予算に占める軍事費の割合)を検討すると、日本がいかなる近代戦にも耐えられるような財政規模や産業基幹を有していなかったことが分かる。にもかかわらず、日清戦争と日露戦争に勝利してしまったがために、全く身の丈に合わない軍事力を常備し、周辺国との緊張を高め、さらに前進防御という名の侵略を進めていったのだ。満州事変は朝鮮半島を「守る」ための謀略であったし、その満州を「守る」ために熱河作戦を始め、華北分離工作がなされ、日華事変に至った。

興味深いことに、1935年1月22日、広田弘毅外相は衆議院における施政演説で、「万邦協和」を目指す「協和外交」を掲げ、「私の在任中に戦争は断じてないと云うことを確信致して居ります」と宣言しているが、現在の安倍首相と恐ろしいほど被っている。もっとも、当時も正規の戦争がなかっただけで、華北分離工作はガンガン進められていたんだけど。

さて、現代に話を戻そう。日本の自衛隊は元々「自国防衛のための必要最小限度の実力組織」と規定され、国民の中で一定の合意を得てきた。ところが、1992年にPKO法が成立して海外派兵が可能になり、2006年の自衛隊法改正で「本来任務」に格上げされた。そして、今回の安保法制が成立すれば、海外派兵に特別法が不要となり、常時派兵が可能となる。自衛隊は、現在も南スーダンとソマリア沖に派兵されているが、安保が成立すればアメリカなどからの要請が増える可能性が高い。
自衛隊の海外派兵はこれまで30回近くに及ぶが、これらは本来的には「自国防衛のための必要最小限度の実力」であるはずの自衛隊から、必要な部隊を引き抜いて海外に派兵しており、言い換えれば海外に派兵している部分は、「必要最小限度の実力」を満たしていないことになる。
米国などからの派兵要請に応じるためには、日本は派兵用の兵力を捻出せざるを得ないが、それは国内駐留の「必要最小限度の実力」を削るか、「必要最小限度の実力」の定義(自衛隊の規模)を大きくするかの二者択一しか無い。

また、今回の安保法制は中国脅威論を前提とし、離島に上陸した中国軍に対して自衛隊が逆上陸を試み、それを阻止すべく出撃してくる中国海軍を、米日艦隊が撃滅するというシナリオの上に成り立っている。ただ、ゲーム的な表現をすれば、退潮傾向にある米国が本当に中国と戦争するかは微妙で、いざという時に理由を付けて安保条約の履行を拒否する可能性が高まっている(議会が国益を理由に拒否するだけで良い)。
具体的に例えるなら、中国の侵略に際して米軍の参戦がD6(ダイス一個)で「1〜4」のみだとしたら、こんな不安定な同盟を頼りに戦争はできないだろう。この不安を少しでも解消するために、安保法制を成立させて、日本がアメリカの中東・アフリカ戦争に協力することで、好修正をもらい、参戦確率を「1〜5」くらいにしようよ、というのが政府・自民党の狙いなのだ(政府答弁上は100%を前提)。
とはいえ、何と言っても中国はアメリカにとって第二位の債権国であり、米国債を売ってしまえばアメリカは戦費が賄えなくなってしまう。故に日本は必死になって米国債を買って「一位」の座を死守しているわけだが、米中の共依存は日本人の想像をはるかに上回っているのが実情だ。
アメリカ軍の参戦が100%ではない以上、中国との対決を選ぶ日本は独自の防衛力を高める必要に駆られている。

安保の成立により、日本は海外派兵用の戦力と独自防衛用の戦力(名目上は実力)の両方を増やさざるを得ず、日本が「対称型封じ込め」戦略(武力対決路線)を護持する限り、今後も軍拡基調は変わらないものと思われる。

【参考】
同盟のジレンマと非対称性 
posted by ケン at 12:42| Comment(0) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年08月21日

朝鮮半島で緊張度上昇

【<北朝鮮砲撃挑発>北、2回にわたり砲撃…韓国軍、30余発で対応】
北朝鮮軍が20日、西部戦線で対北朝鮮拡声器を狙って砲撃を加えたのに続き、48時間内に対北朝鮮心理戦を中断しなければ軍事行動を取ると威嚇した。また、北朝鮮朝鮮中央通信は21日0時40分ごろ、「党中央軍事委員会非常拡大会議が緊急招集される」と伝えた。韓国政府の関係者は「金正恩(キム・ジョンウン)第1書記が砲撃挑発に関する議論を行うために会議を招集したもの」と述べた。
韓国国防部当局者は「北朝鮮軍総参謀部が午後5時ごろ、国防部宛てに電話通知文を送ってきた」とし「『今日(20日)午後5時から48時間内に対北朝鮮心理戦放送を中止し、すべての手段を全面撤去せよ。これを履行しなければ軍事的行動を開始する』と主張した」と明らかにした。この当局者は「現時点では対北朝鮮放送を継続していく」と述べた。
これに先立ち、北朝鮮は午後3時53分と4時12分の2度にわたって、京畿道漣川郡中面(キョンギド・ヨンチョングン・チュンミョン)一帯に14.5ミリ高射砲と76.2ミリ直射砲を撃ち、韓国軍は155ミリ自走砲で対応射撃を行った。南北が砲撃戦を行ったのは、2010年11月の延坪島(ヨンピョンド)砲撃戦以後4年9カ月ぶり。国防部当局者は「北朝鮮軍が高射砲を撃った直後、味方の対砲兵探知レーダーで砲弾の軌跡を捕らえた」とし「軌跡を分析している間、北朝鮮軍が直射火器で攻撃を行った」と述べた。
この当局者は「正確な原点は把握できなかったが、北朝鮮軍が非武装地帯(DMZ)の中に重火器を持ち込み攻撃したものと承知している」と付け加えた。北朝鮮軍の1回目の砲撃である高射砲弾は、この地域を管轄する韓国軍6軍団の射撃場近隣の山に落ち、直射砲はDMZの中に落ちたため軍や民間人に被害はなかった。
合同参謀本部は北朝鮮軍の砲撃直後に該当地域の対北朝鮮警戒態勢を強化し、全軍に非常警戒態勢を維持するよう指示をした。軍関係者は「人命被害が発生していないことから、休戦ライン(MDL)の北側500メートル地点に北朝鮮軍にわが軍の報復意志を示すために30余発の自走砲を撃った」とし「北朝鮮軍の射撃原点打撃には失敗した」と話した。同日砲撃戦が繰り広げられた地域には対北拡声器が設置されているという。北朝鮮は「南側が36発の砲弾を発射した」とし「そのうち21発は味方の哨所付近に落ちた」と話した。
朴槿恵(パク・クネ)大統領は同日午後6時ごろ、青瓦台(チョンワデ、大統領府)で国家安全保障会議(NSC)緊急常任委員会を主宰して「断固として対応し、軍は万全の対備態勢を維持すると同時に住民の安全と保護に万全を期すように」と指示した。
(中央日報、8月21日)

南北ともに対内的理由から小規模紛争を望む空気があり、意外と戦闘が本格化する可能性を秘めている。北は軍に対する統率強化、南は政権求心力維持への欲求が強いだけに、「ちょっとくらいの戦闘はむしろ好都合」という思惑が働くからだ。
北朝鮮では、この間旧体制派(金正日の側近)に対する粛清が続いており、それが一段落して新体制下で党・軍内における求心力を高める「何か」が欲しいところと考えられる。
韓国は韓国で、朴大統領の求心力が低迷しているだけでなく、対日関係が完全に冷却化しており、米国との関係(米側の対韓関与の現実性)も微妙になっている。ここで北との小規模紛争が発生すれば、小規模な限りにおいていずれの問題も、一時的にではあるが解決する可能性が高いだけに、朴政権にとっては魅力的な選択肢になっている。さらに韓国経済が低迷する中で、軍事産業からも兵器をアピールする機会が望まれている。

史実で言うなら、盧溝橋事件や上海事変、あるいはノモンハン事件や金門紛争(1958年、台湾海峡)などが状況的に類似している。武力を有する二者が緊張状態にあり、かつ両者がともに低強度の紛争を望んでいる(望む有力な勢力が存在する)、という状況である。この場合、偶発的な戦闘が勃発した際にブレーキ機能が非常に弱まるため、本格的な武力紛争に発展する様々な要素が浮上することになる。

常識的に考えれば、「朴大統領は中国(抗日戦争式典)に行くな!」という北朝鮮側のサインなのだろうが、もう少し裏がありそうだ。近々、中国軍による何らかの軍事行動があるのかもしれないし、ウクライナ紛争が再燃するのかもしれない。そこは分からない。ただ、各国諜報機関が「8月24日に大事件が起きる」と血眼になって情報を集めているという話もあり、何かしらの関係があるのかもしれない。
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2015年08月18日

安保は憲法に優先するか?

軍事力は国力の重要なコンポーネントの一つであるが、わが国は、もしその必要があるときも、軍事力の行使については、極めて抑制的にそれを行使する。その大原則、方針にかなったものでなければならない。憲法の学者の中では、今回の法案については、憲法違反であるという考えられる方が多いと承っている。(中略)今回の法案はもちろん、憲法上の問題を含んでいるが、同時に、安全保障上の問題である。もし、今回の法案についての意見を、憲法の専門家の学会だけでなく、安全保障の専門家かなる学会で、同じ意見を問われれば、多くの安全保障の専門家が今回の法案に、かなり肯定的な回答をするのではなかろうか。学者は憲法学者だけではないということ。

7月13日の衆議院安保特公聴会における同志社大学長・村田晃嗣氏(KM党推薦)の発言。国際政治学者や軍事・安全保障の専門家には、この手の「国際情勢が大きく変化し、憲法の理念が現実にそぐわなくなってきた以上、現実への対処は憲法に優先される」という説を唱えるものが多く、政府の立法や主張も基本的にこの説の上に成り立っている。

こうした理解は何も最近始まったものではなく、そもそも自衛隊の成立からしてそうだった。
日本国憲法の草案策定に際しては、社会党系の学者(高野岩三郎や森戸辰男など)がつくった草案ですら再軍備を前提としており、非武装や交戦権放棄など全く考えていなかった。ところが、幣原喜重郎らによって、天皇制(国体)を始めとする権威主義を温存する代償として軍備放棄する案が提出され、GHQとの協議を経て平和主義の第9条が成立した。これは自国防衛を放棄したのでは無く、将来成立するであろう国連軍が日本国の防衛を担うことを前提としており、国連軍への参加まで否定するものではなかった。ところが、実際には常設の国連軍は成立せず、米軍が国連軍に替わって日本防衛を担うことになった。そこに朝鮮戦争が勃発し、在日米軍が朝鮮半島に渡ることで、日本に軍事的空白ができると同時に共産革命の脅威(結果的には妄想だった)が発生、米軍の補助部隊として警察予備隊、保安隊を経て自衛隊が成立した。歴史的には自衛隊は「自力防衛の実力組織」であると同時に、「反革命治安部隊」としての色合いがあった。60年安保に際して岸総理が治安出動を要望したことは記憶に新しい。
外部からの侵略に対しては、将来国連が有効にこれを阻止する機能を果たし得るに至るまでは、米国との安全保障体制を基調としてこれに対処する。
「防衛白書」2013年度版

その自衛隊が発足する直前の1954年6月2日には、参議院において「自衛隊の海外出動を為さざることに関する決議」がなされているが、諸先輩方はすでに今日の事態(拡大適用)を危惧していたことが分かる。
本院は、自衛隊の創設に際し、現行憲法の条章と、わが国民の熾烈なる平和愛好精神に照し、海外出動はこれを行わないことを、茲に更めて確認する。右決議する。
(自衛隊の海外出動を為さざることに関する決議、1954年6月2日、参議院本会議)

だが、先輩たちの御意思に反して、自衛隊の海外派兵は1991年の湾岸戦争を機に解禁され、2006年には自衛隊法改正によって付随任務から本来任務に変更、以後今日に至るまで、3度にわたる多国籍軍の後方支援(ペルシャ湾、インド洋、イラク)、8度にわたるPKO参加(南スーダンは現在も継続中)を始め、30回近い海外派兵が行われている。
PKO協力法は、湾岸戦争において日本が資金協力に留まったことに対して政府、自民党などから批判が出て、軍事的な国際貢献を積極的に進めるべきだとの主張に基づいて策定された。

ところが、2001年の911テロ以降、米国が国連を無視した独自の武力行使を増やすにつれて、PKO法では対処できなくなると同時に、その都度米軍を支援するための特別法を制定することのリスクや限界が生じていった。特に2007年の参院選で衆参逆転現象が生じてテロ特措法が期限切れに終わり、インド洋における海上自衛隊の給油活動が「中断」するに至り、外務・防衛官僚や自民党安保族を中心に危機感が高まった。彼ら的には、「アフガニスタンに陸自を出すくらいなら、インド洋で給油活動するくらい安いもの」であり、給油中止によって宗主国から「給油しないなら陸自を出せ(ゲリラ討伐に参加しろ)」と言われるのではないかという恐怖感を共有していた。
そして、イラク戦争の失敗とリーマンショックに象徴される、アメリカの国際的影響力の低下に伴い、「米軍のアジアからの撤退」が時間の問題となるに連れて、外務官僚と自民党親米派に「同盟国から見捨てられる」という恐怖感が高まり、「アメリカの国際戦略により積極的に協力しなければ、米側から日米安保を切られる」という主張が霞ヶ関と永田町を支配していった。こうして出てきたのが、今回の一連の安保法制である。

ここまでの流れを見る限り、自衛隊設置にしてもPKO協力法にしても、社会党などによる「軍国主義の復活」「歯止めが利かなくなる」との反対が杞憂だったことは否めない。だが、それはたまたま政府の運用が慎重であったことや、一定の数を持つ批判的野党の存在が歯止めになってきたことも確かだ。そして、同時に自衛隊の戦力(名目上は実力)も拡大の一途を辿り、今日では世界有数(軍事費で世界6〜8位程度)の戦力を有するに至っている。憲法第9条には、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」と記されているが、規模にして世界2位とも3位とも言われる海上自衛隊をして「戦力じゃありませんから!」と主張してみたところで、全く説得力が無い。
そして、今回の安保法制が成立すれば、世界有数の戦力を有する自衛隊の海外派兵が政府の判断1つで自由に行われるようになり、米軍などに対する後方支援、兵站支援、弾薬・燃料供給が恒常的に可能になり、しかもその実態については特定秘密保護法によって一切明らかにされないという事態が生じる。これについても、交戦中の軍隊に対する補給活動や、兵站線保持活動をして「これは憲法で禁止されている武力行使には当たらない」という政府答弁になるわけだが、仮にそこで交戦が行われたとしても秘密保護法で隠蔽されてしまえば、議会で問えない仕組みになっている。

最近では総理や官房長官が必死の形相で「非核三原則は守る」「徴兵制はあり得ない」などと主張しているが、つい先日まで「集団的自衛権は憲法違反になるので行使できない」と主張していた政府が「限定容認」に転じたのに、同じ口で非核三原則や徴兵制は守りますと主張してみたところで、全く説得力が無いのは当然だろう。

【追記】
某同志に言わせると、国際政治学という「学問」自体が米国発祥の、米国の覇権に奉仕する学問なのだから、「国際政治学者」を自称する者はすべからくアメリカへの奉仕者であると認識すべきだ、とのこと。
posted by ケン at 12:27| Comment(0) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする