2016年01月18日

秘密保護法で決算不要に?

【<特定秘密>「検査院に提出」通達…施行後1年出さず】
 特定秘密保護法に基づき秘密指定された書類について内閣官房が、会計検査院から要請があれば提供するよう求める通達を関係機関に出していたことが分かった。検査院は法案閣議決定前の2013年9月、秘密指定書類が会計検査に提出されなくなる恐れがあるとして「すべてを検査するとした憲法90条の規定上、問題」と法案の修正を要望した。内閣官房は応じず、代わりに「遅滞なく」通達を出すことを約束していたが、14年12月の法施行後1年以上出していなかった。
 内閣官房によると、通達は昨年12月25日付で「秘密事項について検査院から提供を求められた際には、提供していると承知しているが、法の施行によりこの取り扱いに何らの変更を加えるものではない」としている。防衛省、外務省など特定秘密の指定権限を持つ20の行政機関に出した上で、今月8日に検査院に内容を説明した。
 13年10月に内閣官房と検査院が合意した通達案では「検査院が特定秘密を利用するときには、『(秘密保護法が秘密提供をしなくてよい場合とする)我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれ』はないと解される」と明示していた。しかし、この部分は今回の通達に盛り込まれなかった。
 内閣官房は「明示的には盛り込まなかったが、これまでの取り扱いと変更はないとしており、趣旨は含まれる。そもそも秘密保護法は憲法上問題があるとは認識していない」と説明。通達の遅れについては「実際の運用を見つつ、適切な時期に出そうと考えていた」とコメントした。
 会計検査院法規課は「法令協議の過程で、検査院が内閣官房に伝えていた内容が反映されており、検査に必要があるとして要求した場合には、各省庁から特定秘密が適切に提供されると考えている」とコメントした。
(1月12日、毎日新聞)

2年前に秘密保護法が審議された際、私も記事にあるような懸念を覚えて会計検査院の担当者を呼んでレクを受けたが、「内閣官房と調整して、秘密指定に関わる事項でも会計検査院に適切に情報提供されるようになっているので、懸念されるようなことにはならない」旨の回答があった。当時は他にも質問すべき事項が山積みされていたため、この点からの質問は見送ってしまったが、今から思えば、やらない手はなかったかもしれない。

戦前の軍部には「臨時軍事費特別会計」という魔法の財布があって、一般会計とは別に組まれ、概要のみが提示されて一括審議され、しかも会計法の適用外として予算の流用や前払い、概算払いなど軍の自由裁量が認められ、帝国議会はおろか、大蔵省や会計検査院のチェックすら働かないシステムになっていた。
秘密保護法を除外しても、現状で復興特別会計はかなりザルとなっていて、議会や検査院のチェックが十分に及んでおらず、闇の中になっている。新国立競技場建設をめぐる会計も恐ろしく杜撰だったことは記憶に新しい。そこに秘密保護法によって、防衛費や外交費の多くが検査対象外となれば、もはや「行政府の予算執行が適切かどうかをチェックする」という議会の存在意義が失われてしまう。

象徴的な例を挙げれば、2003年から09年にかけて米軍の後方支援として(表向きは復興支援)自衛隊をイラクに派遣するために要した費用は直接費用だけで1200億円以上に上るとされているが、イラク戦争の開戦経緯と戦争支持決定を検証した政府(外務省)の報告書はわずかA4で4枚(うち表紙一枚)という形でしか公表されなかった。要は、直接費用で1200億円をかけ、陸海空で1000人以上の規模でなされた海外派兵を行った根拠について、政府は主権者・納税者たる国民に対して説明・開示を拒否したのである。これでは、勝手に徴税して勝手に軍を動かして戦争を始めてしまう17、18世紀の英王室と同レベルであり、日本の国会は当時の英議会よりもレベルが低いことを意味する。
イギリスの清教徒革命は、国王チャールズ1世がスコットランド侵攻を行って敗北し、その戦費と賠償金に困り果てて、議会に新規課税を高ピーに要求したところ、議会はこれを拒否。そんな折にアイルランドでもカトリックによる蜂起が起こって、再度遠征することにもなって、議会は国王非難の姿勢を強め、その外交大権を抑制しようとしたところ、それに反発した国王が、議会の武力弾圧を試みたため、内戦を勃発させてしまった。

また、フレンチ・インディアン戦争で財政危機に陥った英国議会は、「植民地の維持費は植民地で」の方針から、植民地からの砂糖に(のみ)課税する砂糖法を可決し、さらに植民地における印紙に新規課税をなし、その上「東インド会社が輸入する茶だけは無税」という茶法を成立させるに至り、有名な「代表なくして課税なし」のスローガンの下、英国本土による独断支配を拒否する空気が強まった。そこに英国王ジョージ3世が軍隊を介入させたため、アメリカ独立戦争が勃発してしまった。
その独立戦争で英国は増税を余儀なくされるが、議会は増税を承認する代わりに軍事支出の予算科目の細目開示を要求した。それまでは軍事費全体で一括審議されていたものが、1789年から予算科目の区分と細目別の審議がスタートした。

政府の戦争遂行に対して、主権者あるいは納税者の立場から監視と統制を行い、正当な支出であるかどうかを検証するのが本来の議会の役割であり、その権限を強化してきたのが議会史の根幹だった。外交と戦争の情報が秘匿されるというのは、デモクラシーと議会制度の明らかなる逆行であり、行政府の暴走を許すことにしかならない。
集団的自衛権と秘密保護法

しかも、日本の場合、情報公開法と公文書管理法が不十分であるため、秘密指定された情報や資料が永遠に指定解除されなかったり、あるいは指定解除される前に廃棄処分されたところで、これを止める術もなければ担当者を罰することもできないため、実質的に「廃棄し放題」となっている。結果、予算執行が適切だったか、予算付け自体適切だったのかなどの政策評価や歴史検証ができなくなっており、誤りを正すことを不可能にしている。
軍事費のチェックが効かなくなった戦前の日本がどのような末路を迎えたか、改めて思い返すべきである。
posted by ケン at 13:11| Comment(0) | 財政、社会保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年12月21日

高額療養費制度など見直しへ

【高額療養費制度など見直しへ 歳出抑制案】
 政府の経済財政諮問会議の下に設置された有識者会議は、財政再建に向けて歳出を抑制するための実行計画の案を取りまとめ、医療費の自己負担に上限を設けている高額療養費制度を、来年末までに見直すことを盛り込みました。
政府は、2020年度までに基礎的財政収支を黒字化する目標の達成に向けて経済財政諮問会議の下に有識者会議を設置して、今後5年間の歳出を抑制するための実行計画の検討を進めていて、このほど有識者会議がその案を取りまとめました。それによりますと、最も歳出規模が大きい社会保障費を巡って、医療費の自己負担に上限を設けている高額療養費制度を来年末までに、現在、自己負担が原則1割になっている75歳以上の高齢者の医療費の窓口負担を3年後までに、それぞれ見直すことを目標に掲げています。
また、医療費の削減に向けて自治体や企業の健康保険組合などに働きかけ、2020年までに、40歳以上の人の健康診断の受診率を80%以上とし、メタボリックシンドロームの人口を2008年度と比較して25%減らすなどしています。有識者会議では、この計画案を7日の経済財政諮問会議に示し年内に決定したいとしていますが、社会保障費の国民負担の増加につながるだけに、政府・与党内で今後議論となることも予想されます。
(12月7日、NHK)

またぞろ旧式左翼が「医療の切り捨て」などと騒いでいるが、対案も示さずに無責任に騒いでいるからこそずっと「サヨク」でしかないことに、いい加減気づくべきだ。医療費については、過去に十分説明しているので、再掲を中心に進めたい。
財政的には公的医療保険制度はすでに破綻状態にある。
2010年度の保険支出(政管、組合、国保の合計)が29兆5千億円であるのに対して、保険料収入(同)は17兆6億円に過ぎず、12兆円近い赤字を出している。この赤字は、国庫負担の4兆9千億円と地方自治体などの負担による8兆円で賄っている。この上、保険外の公費医療(結核ほか)がある。現実の公的医療保険制度は、保険料収入全てで70歳以上の医療費を賄うだけの額にしかなっていない。

国庫負担は1970年度の4千億円に始まり、80年には2兆7千億円、95年には4兆を越し、今や5兆円に達しようとしている。これ以外に公的年金の国庫負担が10兆円を越しており、医療と年金の国庫負担だけで税収の3分の1以上になってしまい、一般歳出を圧迫している。健全な財政を保っていれば、他の公的サービスの提供に深刻な影響が出ているはずだが、税収を上回る国債を発行することで毎年凌いでいるだけなのだ。
公債は将来世代に対する負債であり、建設国債のような「投資」であるならば回収できる可能性もあるが、赤字国債は少子化に伴う生産と消費の低下に際しては額面以上に重くのしかかってくる恐れが強い。
実際、非正規雇用や不安定雇用の増加に伴い、若年世代の給与所得は低迷しており、保険料収入も横ばい状態だ。例えば、2000年度の保険料収入が15.8兆円に対して10年度は17.5兆円で増加分は1.7兆円に止まる。一方支出は23兆円から29兆円と6兆円も増加しており、その差は今後さらに拡大してゆくと見られる。
保険料の高騰を抑えるために税金を投入すると国債発行額が増え、保険料を上げると納付率が低下して収入が伸び悩むほか無保険者が増えるという悪循環が固定化している。2025年度には年金を含む社会保障給付額は150兆円に迫ると試算されており、このうち60兆円が税金等になる見込みだが、現在40兆円足らずの税収が12年後に1.5倍になるというシナリオは非現実的であり、足りない分は国債を増刷する他ないだろう。こうして国債発行が際限なく拡大してゆく。
医療費の肥大化続く

私が冒頭に掲げた記事を「無責任」としたのは、医療費が「保険料」「窓口負担」「税金」でしか成り立っておらず、要は「誰がどこで負担するか」という話であるにもかかわらず、ことさらに「国民負担の増加」を強調するからだ。自分(国民)たちが使う医療を自分が払うのは当然であり、国家が打ち出の小づちをもって治療してくれるわけではない。利用者負担を減らす、ないしは現状維持を貫く場合、医療従事者の報酬を減らすか医療を必要としない健康者の負担を増やすほかなく、医療従事者の報酬を減らせば提供される医療の水準が下がるだけの話である。保険制度や医療制度の全体像や将来像を考えないで、一方的に現在の利用者目線に立つ姿勢はコミュニストどものそれと全く変わらない。
(「安心できる社会保障」はリアルか?)

高額療養費制度も同じである。少子高齢化と医療の高度化に伴って、高額療養費制度の利用者と費用も高騰する一途にある。少しデータが古いのだが、2001年から2010年までの10年間で高額療養費の給付は8312億円から1兆9789億円へと2倍以上に増えており、利用者は3倍に達して、なお増え続けている。自己負担額(現役収入)については、20年前に6万3600円だったものが、今では「8万100円+医療費の1%」になっているとはいえ、この程度の上昇で済んでいた方が奇跡的だろう。
そして、今回の見直し案は、低中所得層の自己負担をできるだけ据え置きつつ、高所得層の負担を増やすというものであり、保険や医療財政の内実を知るものからすれば「焼け石に水」でしかない。むしろこの程度で同制度が存続するのであれば、利用者としては感謝すべきだろう。

保険や医療財政の成り立ちを知れば、無責任な言動は控えられるはずだ。例えば、超単純計算で1千万円かかる高額医療を使ったとして、自己負担は20万円で済んだとしても、残りの980万円は健康保険と税金で賄われているのである。現に私の知人には、一億円近く掛かった子どもの治療費が国と都の制度により自己負担ゼロとなったものがいる。
より具体的な数字を挙げるなら、75歳以上の高齢者が使う医療費88万円のうち、自分で払っているのは16万円ほどで、40万円は税金の補填、32万円は現役層の保険料からの転用によって賄われているのだ。その高齢者はさらに増える一方なのだから、そんな制度が「長く」どころか「短く」すら続かないことはもはや明らかだろう。
皆が医療を使えば使うほど、現役層の保険料負担や納税負担が上がるだけの話であり、「手術代が安く済んだラッキー」というのは無自覚にも程がある。高額医療と高齢者医療に対する制度・保険適用に一定の歯止めをかけない限り、近い将来破断界が来るのは間違いない。

保険財政が既に破綻しているにもかかわらず、「選挙で落ちるから」それを指摘できない点にこそ、デモクラシーの最大の弱点があることも確かである。
posted by ケン at 12:40| Comment(0) | 財政、社会保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年12月15日

法人減税と個人増税

【法人税2段階下げ決定 政府・与党 外形課税負担に緩和措置】
 政府・与党は8日、法人税改革の全容を固めた。現在32・11%の法人実効税率を平成28年度に29・97%、30年度に29・74%と2段階で引き下げる。減税に必要な財源は赤字企業にも課税する「外形標準課税」の拡大で確保する。税負担が重くなる中堅企業には、28〜30年度に負担増となる額の25〜75%を免除する緩和措置を設ける。10日にまとめる予定の28年度税制改正大綱に盛り込む。
 財源の大半は外形標準課税の拡大で賄う。また、企業が過去の赤字分を現在の黒字と相殺して納税額を減らせる欠損金の繰越控除制度の見直しや、最新設備を導入した際の設備投資減税の終了分なども財源とする。2年先の税率引き下げまで示し、企業に賃上げや設備投資の拡大を促す。外形標準課税は、資本金1億円超の企業に対し、業績が赤字でも従業員の給与や資本金に応じて課税する仕組み。対象拡大で好業績の企業は減税になるが、赤字や利益が少ない企業では税負担が重くなる。このため、資本金1億〜10億円程度の企業は、28年度の税額のうち27年度より増えた部分(負担増分)の75%の支払いを免除する。29年度は50%、30年度は25%と免除幅を段階的に縮小する。
(12月9日、産経新聞)

記事は実効税率を挙げているが、基本税率で言うと、現行の23.9%から23.4%に引き下げられる。この基本税率は、1980年代に最大時43.3%あったものが、90年代に37.5%にまで引き下げられ、2000年代には30%、民主党・野田政権の時に25.5%となり、安倍政権でさらに23.9%に引き下げられたものが、さらに下げられることになる。つまり、企業の税負担はここ四半世紀で半分近くまで引き下げられたことを意味し、今後も更なる引き下げが検討されている。

所得税については、70年代まで最高税率が75%だったが、80年代の中曽根政権下で60%、竹下政権で50%に引き下げられ、2006年の安倍政権下で40%となった。昨年、再び45%に引き上げられたものの、その対象は年収4千万円超で、実際に適用されるのはほんのわずか(0.2%?)に限られている。
最高税率が引き下げられているのに比して、復興税と称して所得税本税の10%が一律加算され、住民税も一律年1000円増税になった。

消費税については、1988年に竹下政権下で導入され、89年から3%で実施。97年から5%に引き上げられ、民主党野田政権下で8%への引き上げが決められて、2014年から8%になった。二度の引き上げに際しては、いずれも事前に「福祉のみに充てる」旨の説明がなされたものの、守られることは無かった。もっとも、仮に守られたとしても、「どこの財布から出すか」という話でしかないので大きな意味は無いのだが。

この他にも、税では無いが、社会保険料は年々高騰しており、例えば国民健康保険の保険料は地域によって異なるものの、この10年で20%以上上がっている。
以上のように、1980年代以降、日本は企業と高所得者を優遇する一方、個人増税を強化、言うなれば「金のあるところから取る」から「広く薄く取る」へとシフトしていった。だが、ここに来て「広く薄く」から「広く厚く」へとシフトしつつある。
現行の社会保障制度を維持する限り、年1兆円前後の自然増が見込まれるが、消費増税2%によって得られる税収増は4兆円程度に過ぎず、保険料アップと絡めても数年分しか保たない計算だ。ところが、高齢化は今後さらに加速し、少子が改善されるメドもない。現行制度を維持する限り、高齢者の年金と医療費だけで国家財政を破綻させそうな勢いにある。
財政的には公的医療保険制度はすでに破綻状態にある。
2010年度の保険支出(政管、組合、国保の合計)が29兆5千億円であるのに対して、保険料収入(同)は17兆6億円に過ぎず、12兆円近い赤字を出している。この赤字は、国庫負担の4兆9千億円と地方自治体などの負担による8兆円で賄っている。この上、保険外の公費医療(結核ほか)がある。現実の公的医療保険制度は、保険料収入全てで70歳以上の医療費を賄うだけの額にしかなっていない。
医療費の肥大化続く

現状において、医療費総額に占める70歳以上が使用する高齢者医療費の割合は45%を超えており、全人口の18%を占める高齢者が医療費の46%を使用しているにもかかわらず、現役層の負担強める保険料アップという選択肢を採った場合、保険制度そのものに対する懐疑が高まる恐れがある。
そして、保険制度は本来自己完結すべきものであり、社会インフラの整備と公共サービスの提供を目途として徴収された税を、社会保険の赤字補填に使うことは本来的には「目的外使用」に当たるため、モラルハザードなのだ。しかも、一度税を投入すると、固定化されてしまい、財政難になった時に「税投入を止めます」と言った途端に保険財政を丸ごと破綻させてしまうリスクを抱えている。この点でも社会保険に対する税の投入は戒められるべきなのだ。
福祉充実と高齢化のジレンマ

法人減税と個人増税のセットは、「法人減税によって市場の経済活動が活性化し、個人収入が増えるから増税OK」という前提に立っている。ところが、国民生活基礎調査を見ると、世帯収入の平均値は、1994年の664万円が最高で、2013年には529万円になっている。中央値で言えば、そこから100万円近く差し引いて考えれば良いだろう。
また、貯蓄ゼロ世帯の割合を見た場合、2000年には12.4%だったものが、2014年には38.9%へと3倍以上に増えている。
さらに言えば、家計環境が厳しい家庭の小中学生に、学用品や給食代などを援助する「就学援助制度」の支給対象者の割合は、2000年には8.8%だったものが、2012年には15.6%へと増えている。この数字は大阪市に限ると28%にも達しており、子どもがいる家庭の4分の1以上が文具を買えず、給食費も満足に払えない状態にあることを示している。このことは、若年層の貧困化が進行しており、担税力が低下すると同時に、社会保障の需要が増大していることを意味する。
他方、GDPを見た場合、名目で1993年の490兆円に対して2013年が480兆円、実質で93年の442兆円に比して13年が527兆円となっている。いずれにしても、成長率の点で中国やドイツ、あるいは米国を大きく下回っている。

要は、「法人減税&個人増税」の組み合わせは、個人の貧困化と経済格差の拡大を助長した一方、市場の発展に対する寄与は十分には認められなかったと言える。もちろん、これは税制だけの話ではないのだが、少なくとも所得や資産の個人間格差を助長したことは確かだろう。それは当然の話で、個人あるいは世帯収入が不十分な状態で増税を課せば、消費が減退する一方、社会保障への依存度が上がるのが自然な流れだからだ。
だが、「法人減税&個人増税」のセットは、欧米においても一般的な流れにあり、法人減税競争が行われている中、日本だけ増税すれば、企業の海外流出を促進する懸念がある。また、社会保障制度の持続性に対する最大の脅威となっている高齢者医療と年金は、高齢有権者層の拡大によって改革不能になっている。
posted by ケン at 12:37| Comment(3) | 財政、社会保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年10月15日

日本のGDPから分かること

安倍首相が「新三本の矢」を提唱し、「GDP600兆円の実現」をブチ上げた。だが、その具体的な道筋は示さず、残り日本の「矢」も民主党政権の政策の焼き直しな感じだった。特に「GDP600兆円」については、財界からも「あり得ない数値。政治的メッセージとしか思えない」(小林喜光経済同友会代表幹事)など疑問の声が上がっている。なぜ「あり得ない」のか。

日本の名目GDPは、本2015年こそ500兆円を超すと言われており、2011年の471兆円に比して「成長」しているように見える。安倍政権はこれをもって民主党政権を全否定し、自らの政権の「成果」を誇っている。ところが、ドル換算で見ると2011年の5.9兆ドルから2015年の4.2兆ドル(予測値)へと激減している。
これは、株価と為替に連動していると考えられる。ここ3年ほどの名目GDPの成長は、株価の上昇に伴うものと見て良いが、その株価の上昇は大量の年金基金を株につぎ込むことで成立しており、言うなれば、タコが自分の足を喰って太ったようなイメージだ。逆に、ドル換算での急減は、円安によるものであると同時に、当初考えられたほど輸出産業の成長が実現しなかったことが大きい。
安倍政権としては、円安の実現と、国内労働力のダンピングによって、海外に移転した工場を国内に回帰させることで、国内経済の活性化を図るつもりだったが、現実には工場の国内回帰は実現せず、輸出も増えず、殆どの庶民にとっては、消費物価の高騰と所得減・労働時間増が実現しただけだった。

この名目GDPは、1997年に523兆円の最大値を実現したものの、2002年には500兆円を割り込み、リーマンショック前の2007年に512兆円を実現したものの、09年には471兆円となり、昨14年の487兆円と低迷が続いていた。見方によっては、自民党はリーマンショックや東日本大震災などの「状況が厳しい時だけ」民主党に政権を任せていたと言える。
日本経済が低迷を続けた結果、2009年にはGDPで中国に追い抜かれ、昨14年は中国の10.4兆ドルに対して日本は4.6兆ドルと半分以下になってしまっている。なお、米国のGDPは同年で17.4兆円であり、近い将来中国はアメリカと肩を並べることになる。もちろん、「中国バブルの崩壊」が言われて久しく、中国が経済成長を続けるというのは楽観的に過ぎる話だが、米経済や日本経済が急落するリスクもあるわけで、短期的にマイナスになることはあっても、巨大な消費市場を抱える中国の優位性が大きく揺らぐことはなさそうだ。

それだけに「日本のGDPは10年後には中国の5分の1以下になってしまう」という声が聞かれるのも当然であり、だからこそ安倍政権や右派は「日米同盟強化」を叫んでいる。
米国は、成長著しい中国とアジアの覇権をめぐって正面対決することなどハナから望んでおらず、「アジアからの漸次撤退」を主張する声が強く、内部で議論を戦わせている。これに対して、日本の右派や外務省、一部の防衛官僚は、「日本単独では中国の脅威に抗しきれない」「中国がアメリカを追い越す前に(日米で中国の倍ある今のうちに)、一度南シナ海等で叩いておきたい」という思惑が強く、「アメリカのアジア関与を繋ぎ止めるには、米国の覇権戦争を日本が積極的に支援する必要がある」として、今回の安保法制が実現した。国会で安保法制の審議が難航したのは、こうした本音を言わずに「国際貢献」などの美辞麗句で国民を騙そうとしたことが大きい。

【参考】 同盟のジレンマと非対称性 

もう一つ、一人当たりの名目GDPを見た場合、日本の劣化が凄まじいことになっていることが分かる。2014年の日本のそれは3万6331ドルで、世界187カ国・地域中27位で、イスラエルを下回り、イタリアの一つ上というランキングだ。「円安のせいでしょ」と言われそうだが、2003年に12位になって以降、一桁代に回復することは無く、リーマンショック前の2007年でも23位だった。つまり、円安の影響は大きくないと見て良い。
さらに労働時間と比較した場合、イタリアの年間労働時間は約1350時間であるのに対して、日本の名目上の労働時間は約1750時間。ただしこれはサービス残業が含まれない数値であり、現実の数値は2000時間に上ると考えられる(一説では2300時間)。このことは、日本人はイタリア人の1.5倍も働きながら、イタリア人と同レベルの収入しか得ていないことを暗示している。別の見方をすれば、一カ月のバカンスを取るイタリア人と、2日と連続した有給休暇を取ることも出来ない日本人が、同じ収入なのだ。むしろ「日本に生まれたことが不幸」と言えるレベルだろう。

ところが、日本政府・安倍政権の施策は、日本人の労働時間をさらに増やして、かつ給与を減らそうというものになっている(労基法改悪・残業代ゼロ法案)。しかも同時に「産めよ増やせよ」と言うのだから、あり得ないにも程があろう。
一日の大半を会社で過ごし、夜12時に帰宅して朝6時には家を出て、休日出勤当たり前で有給休暇も取れず、それでも子どもの教育費すら事欠くという生活環境にあって、誰が子どもをつくるのだろうか。
非現実的な要求をするくらいなら、ロボット技術やクローン技術を国家レベルで推進する方がよほど現実的であろう。安倍政権の施策を見ていると、「人間いらないじゃん!」と思えてくるが、「自民党に奉仕する人間以外は不要」ということなのだろう。日本そのものがブラック化している証左だが、それで日本が「復活」するということは無いだろう。
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2015年10月02日

アベコベな介護政策

【首相「総裁第2期」の課題 介護離職 「経済に打撃」強い危機感】
 安倍晋三首相が24日の記者会見で表明した介護施設の整備や介護人材の育成は、超高齢社会の到来に備え、家族による在宅介護の負担を軽減しなければ、現役世代の「介護離職」につながり「国の経済は大きな打撃を受ける」との危機感が背景にある。厚生労働省によると、介護施設のうち特別養護老人ホーム(特養)の利用者は全国で約54万人(平成26年度)。これに対し、入所待機者は約52万人。うち一人で身の回りの世話ができず、自宅で待機している「要介護3」以上は15万人も存在する。
 厚労省は4月から介護の必要性が高い人に特化するため、特養の入所条件を原則「要介護1以上」から「要介護3以上」に引き上げた。介護度の軽い人は在宅介護を促す一方、「中重度の要介護の人は介護福祉士ら専門家が充実している施設に誘導する」(幹部)狙い。首相としてもアベノミクスの新たな「三本の矢」の実現には、入所待機者を抱える家族の介護負担の軽減が欠かせないという意識が強い。介護離職は年10万人に上り、40代から50代の働き盛りが少なくない。厚労省は介護離職を食い止めるため、介護を必要とする家族1人当たり原則1回しか取得できなかった介護休業を、分割取得できるよう法改正を検討している。一方、介護職の人材不足も深刻で、施設を増やしても働き手が確保できなければ、十分な介助ができない懸念がある。
(産経新聞、9月25日)

安倍首相は、安保法制の審議と強行採決により低下した支持を回復するために、またぞろ「新三本の矢」なる経済政策を発表したが、すでに新味はなく、「やっつけ仕事」観が強い。中でも記事の介護政策は従来の路線に反するものであり、もはや「思いつき」と言って良いレベルだ。

国の介護政策は、「施設から在宅へ」シフトするというもので、在宅を推進することで社会保障費の赤字や自治体負担を減らすことを主目的としていた。そこに自民党政権の復古により、「家族の介護は家族ですべき」という保守イデオロギーが加わって、さらに在宅路線が強化されていった。
確かに介護施設が充実すると、専門家による医療・介護が保証されることによって、余命が伸び、介護が長期化、待機者が増える上に施設需要が増大するという悪循環に陥っている。結果、介護施設を増やせば増やすほど施設需要が高まるものの、他方でサービス水準が低下して虐待などの事故が増加するという問題が生じている。これは、保育でも同じ問題が起きている。

また、実際に施設を増やすとしても、介護労働者の確保は至難な情勢にある。ただでさえ、今年に入って安倍政権は、サービス別に設定した「介護基本報酬」を軒並み引き下げており、特別養護老人ホーム(特養)などの事業者の大半が減収を余儀なくされ、従業員の離職に拍車が掛かっている。これは、事業者の収入減が人員削減やサービス低下に直結し、その負担が残された従業員に課されるためである。介護報酬が公定価格である以上、事業者としては独自に労働者の待遇を上げることも叶わず、離職希望者を慰留するのは難しい環境にある。

まして、安倍政権は労働基準法の改定を準備しており、これによって労働時間上限規制の撤廃と残業という概念の廃止(残業代不払いの容認)が可能になる。現段階では「部分的解禁」に止まっているが、自民党を支持する財界からは全面解禁が要望されており、時間の問題であろう。その場合、ただでさえ労働時間が長く、さらに残業代もロクに出ない介護業界のブッラク性が公認されることになり、ますます従業員の確保が難しくなるだろう。
それを少しでも緩和するために、外国人技能実習生の介護分野への「解禁」がなされるわけだが、人数的に「焼け石に水」の観が強いだけで無く、「奴隷労働の拡大」ということで国際的非難がさらに強まることになりそうだ。

結局のところ、「労働力が足りない」という財界の要望を受けて、介護政策の転換や外国人技能実習制度の拡大がなされているだけで、そこには「国民・高齢者の幸せな老後はどうあるべきか」という根本的な考え方がどこにも存在しない。そして、財界の要望を実現している限り、労働時間がさらに長期化すると同時に賃金所得はさらに低下、出生率も低下するという流れは確実と言える。

【追記】
「一億総活躍」とか「国民総動員かよ」と思わざるを得ない。ただでさえ我々の世代は年金支給年齢が70歳前後になると目され、今の30歳前後などは75歳?という有様で、一体我々は何歳まで働かねばならないのか、年金が支給される頃には施設入りか、という状態にある。かつて我々の先輩(社会民主主義者)は、ソ連をして「労働者が国家に奉仕する社会」と非難したものだが、いまや日本も誰からも強制されないのに「労働者が自主的に国家に奉仕する社会」と化している。ボリシェビキからすれば、理想的な社会なのかもしれない(爆)
posted by ケン at 12:35| Comment(4) | 財政、社会保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年09月30日

日本国債の格付けは下がる一方

【S&P、日本国債1段階格下げ「経済好転の可能性低い」】
 米格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は16日、日本の国債格付けについて、「AAマイナス」から「Aプラス」へと1段階引き下げたと発表した。「デフレ脱却や経済成長をめざした政府の経済政策が、国債の信用力の低下傾向を今後2〜3年で好転させる可能性は低い」として、安倍政権の経済政策「アベノミクス」の効果が見込めないことを理由に挙げた。格付けは、借金の返済能力を判断したもので、S&Pが日本国債の格付けを下げるのは2011年1月以来、4年8カ月ぶり。Aプラスは21段階あるS&Pの格付けのうち上から5番目。AAマイナスの中国や韓国より悪くなり、アイルランドと同水準となる。安倍政権は6月末、政権の成長戦略である「骨太の方針」と、20年度までの財政健全化計画を決定。高い経済成長と税収増によって財政健全化を進めていく姿勢を鮮明にした。
(朝日新聞、9月17日)

国会終盤の多忙にかまけて見逃してしまっていたようだ。S&P社が日本国債の格付けを引き下げたことにより、Moody’s、Fitchの2社を含めて大手三社の日本国債の格付けが全て中国と韓国を下回る結果になった。ちなみにS&P社のA+はスロヴァキア、アイルランドと同格、Moody’s社のA1はチェコ、エストニアと同格、Fitch社のAは中国、チェコ、スロヴァキアの一段下というレベル。

S&P社の説明を続けると、経済成長率の鈍化で2011年度から14年度の間に、日本の国民1人当たりの平均所得が減少、日本経済がデフレから脱却できずにいることや、巨額の財政赤字を抱えていることを指摘。また、先進国で最悪の水準にある財政状況を「信用指標における重大な弱み」とした上で、2014年4月に消費税率を8%に引き上げたが、高齢化で年金や医療などの社会保障費が膨らむため、さらに財政が悪化すると懸念を示している。

これに対し、麻生財務相は9月18日の記者会見で、「格下げで長期金利がどれだけ上がったか。市場は反応していない。格付け会社の影響力がなくなった」と反論しているが、どうであろう。
「アベノミクス」の旧「三本の矢」の一つである「異次元緩和」は、日本銀行が日本国債を無条件で大量に購入し保持し続けることで、長期金利の上昇を抑えると同時に、政府が歳出を増やして市場に現金をバラ巻くという構図の上に成り立っている。市場の通貨流通量が増えれば、通貨価値が下落し、相対的に物価が上昇、デフレを脱却するというのが財務省のシナリオで、これを日銀に強要するために財務官僚の黒田氏を日銀総裁に据えているのだ。
故に長期金利が上昇しないのは、日銀が国債を保持している間だけの話なのだが、日銀が借り換え続ければ、政府の財政規律が緩み、歳出の無制限拡大を許す恐れがある。実際、安倍政権下で大型公共事業が続々と計画されている。逆に、日銀が国債を手放すと、長期金利が上がり、民間が保有する国債は金利を付けて決済しなければならないため、国民の税負担が増えることになる。
要するに日銀の「異次元緩和」は「今のところ問題ありません」というだけで、長期的には大きなリスクを抱えたまま、「どっちに転ぶか分からない」ものなのだ。言うなれば、今の日本は負けが込んでいるギャンブラーが借金して穴に賭けているようなものであり、格付け会社が格付けを下げるのは、むしろ彼らが健全な証拠である(米国債については別の話)。
posted by ケン at 12:47| Comment(0) | 財政、社会保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年09月10日

原理は良いけど筋悪

【経団連、消費税還付案に理解 軽減税率導入には反対】
 経団連は8日、「2016年度税制改正に関する提言」を公表した。事業者の負担が増えるとして消費税10%引き上げ時の軽減税率導入に反対する一方、低所得者対策には「簡素な給付措置」を求め、負担増分を後から還付する財務省の案に理解を示した。消費税増税は17年4月に予定通り実施すべきだと主張。財務省が示した対策について、榊原定征会長は7日の記者会見で「基本的には経団連の考えに沿ったもので検討に値する。今後しっかり詰めて欲しい」と評価した。法人税改革では、30%台の実効税率をできるだけ早期に20%台に下げ、将来的には25%の実現を求めた。安倍政権は16年度に31・33%まで下げる方針だが、経団連は同年度の引き下げ幅の拡大を求める考えだ。化石燃料にかかる地球温暖化対策税は「エネルギーコストの上昇に拍車をかけている」として廃止を訴えた。
(朝日新聞、9月8日)

財務省が消費税の還付案を示したことに対し、マスゴミが一斉に反発している。新聞社や医師会のごとき特権階級がさらなる特権(軽減税率)を求め、その要求に政府が応じないためだ。KM党が軽減税率を強硬に主張している点だけ考えても、これが利権目的であることが分かる。
新聞業界や医師会の主張は、フランス革命前の貴族や僧侶と同じである。
新聞は再販価格維持制度によって、(小売)販売店に対して定価での販売を強制することが認められている。これは「新聞業界には市場原理が適用されない」という民間企業では考えられないような保護(独禁法が適用されない)を受けていることを示しているが、自分たちはその特権について一切触れない。
また、医師会(開業医)は自ら法人化することで所得税の超過累進課税(50%)を免れて、法人税(30%強)が適用される上に、社会保険診療報酬分は免税措置が取られるため、実質的な税率は民間企業よりも大幅に低くなっている。
これは特権のごく一部に過ぎないが、マスコミや医師会がこぞって自民党の支持母体(皇室の藩屏)である理由が分かるだろう。だが、連中は既存の特権に飽き足らずに、さらなる免税措置を要求しているのだ。
免税を求める特権階級ども
 
私はかねてより軽減税率の否と還付式の導入を訴えている。長くなるが過去ログを引用したい。
軽減税率を求める層の多くは、消費税の逆進性を指摘して低所得者対策として「EU諸国では当たり前」などと考えているようだが、まずこの点で大きな誤解がある。消費税に逆進性があるからこそ、軽減税率を導入した場合に得られる利益は富裕層の方が大きく、低所得層に還元されるのはわずかになってしまうからだ。具体的に考えてみよう。
税率10%、軽減税率5%と仮定した場合、2万円の牛肉で軽減される額は1千円になるが、500円の鶏肉で軽減されるのは25円でしかない。絶対額で得られる部分が富裕層に大きいのだ。
これを避けるためには、高級牛肉には通常税率を、庶民的鶏肉には軽減税率を適用しなければならないが、その境界線を決めるのは難しい。100グラム千円の牛肉でも10グラム毎にバラ売りした場合、どうするのか。
実際に欧米のケースを見た場合、国産トリュフは軽減だが輸入キャビアは通常税率が適用されるフランス、店内でピザを食べれば軽減だがテイクアウトすると通常税率が適用されるドイツ、ドーナツ6個以上は軽減だが5個以下だと通常税率が適用されるカナダなど、合理的説明がつかないナゾの境界線が続出している。
そのため、軽減税率の適用をめぐって壮烈な陳情合戦・政治戦が繰り広げられることになる。その最たるものが新聞で、今となっては完全に官邸のプロパガンダ機関に成り下がっている。今後は「官邸詣で」や「自民党参り」が急増するだろうが、結局のところ資金力や集票力による政権党に対する貢献度が検討されて優先的に軽減税率を適用されるだけの話になるだろう。また、一度決まった軽減税率は深い利害関係が絡むため、容易に変更できないという問題もある。

では、低所得者対策として軽減税率はどう作用するのか。先に結論を言えば、上記の例からも分かるとおり、軽減税率で得られる低所得者層の恩恵は小さく、軽減せずに通常税率を取って改めて低所得者に給付する方がはるかに本来の目的に合致するだろう。
政府の試算によれば、消費税を8%から10%に上げた時の増収分は5.6兆円とされるが(個人的には多いように思われる)、食料品全体を8%に据え置いた場合、増収分は4.6兆円に止まるという。この場合、軽減税率の効果は1兆円ということになる。
これをミクロで見た場合、単純計算だが、世帯年収300万円でエンゲル係数を35%として、その食費は年間105万円、軽減税率2%として2万1千円が恩恵分ということになる。他方、年収1千万円、エンゲル係数25%の家庭だと、食費は年間250万円で5万円が軽減税率の恩恵となる。普通に考えれば、格差が拡大する方向に働くだろう。
さて、現在の日本の貧困率は16%で約953万世帯が貧困と見なされているが、単純に1千万世帯と考えて軽減税率2%分の1兆円を直接給付した場合、1世帯あたり10万円の給付が可能になる計算となる。もちろん現実には、様々な行政コストや貧困線上の層の調整などの問題があるものの、少なくとも軽減税率よりははるかに低所得者対策に合目的であることが分かるだろう。
改めて軽減税率に反対する理由
 
上記の理由から今回の財務省案には基本的に賛成なのだが、どうにも筋が悪い。食料品の2%軽減税率分は1兆円〜1兆3千億円とされるのに、今回還付されるのは4千億円でしかなく、いかにもケチくさい。しかも、全世帯を対象としているため、一人当たりの還付額は最大で年間4千円でしかなく、耳を疑う少なさだ。4人世帯でも最大1万6千円とか、およそ消費税2%分の「還付」に相当するものとは言えない。

しかも、還付金をもらうためには、マイナンバー・カードを常に所持して買い物のたびに提示、小売店はカード・リーダーに通す必要がある。今時どの店でも店舗カードが付きものであり、二度手間となることはほぼ確実だろう。高齢者を中心にマイナンバー・カードの紛失が増えることも間違いない。ナンバーの重要性を考えれば、カードの紛失が市民生活及ぼす影響は非常に大きい。ネット販売や自販機にどう対応するのかもナゾだ。

エンゲル係数というのは低所得層になるほど上昇するだけで無く、格差が生じにくくなるため、国税庁が市民全員の食料品の購買リストを全て把握するなど無駄も良いところだ。財務相の現行案では、4千円の還付を行うために4千円以上の行政コストが掛かることになるだろう。であれば、問答無用に全員に一律1万円の還付を行う方がよほど有意義(消費に貢献)だろう。
個人的には、やはり16%の貧困層を中心に、一人当たり2〜3万円の還付を行うことで、所得格差の是正(再分配)をなすのが望ましいと考える。そもそも所得を正確に把握するためにマイナンバーが導入されるのだから、積極的に活用すべきだろう。消費税はその逆進性が問題なのだから、還付に際しては低所得層に厚くしなければ逆進性の解消にはならないからだ。
財務省案は、技術論に固執しすぎて税制の全体像を見失っているものと思われる。
posted by ケン at 12:53| Comment(2) | 財政、社会保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする