2017年12月19日

現代日本で広がる逃散

【外国人実習生の失踪急増、半年で3千人超 賃金に不満か】
 日本で働きながら技術を学ぶ技能実習生として入国し、実習先の企業などからいなくなる外国人が急増している。法務省によると、今年は6月末までに3205人で半年間で初めて3千人を突破。年間では初の6千人台になる可能性が高い。実習生が増える中、賃金などがより良い職場を求めて失踪するケースが続出しているとみられている。近年の失踪者の急増を受けて、法務省は失踪者が出た受け入れ企業などへの指導を強化。賃金不払いなど不正行為があった企業などには実習生の受け入れをやめさせたりした。その結果、一昨年に過去最多の5803人となった失踪者は昨年、5058人にまで減っていた。
 今年の失踪問題の再燃を、法務省は「率直に言って遺憾だ。さらに分析しないと、何が原因か示せない」(幹部)と深刻に受け止めている。法務省によると、日本にいる実習生は6月末時点で25万1721人。ベトナム人が10万4802人と最も多く、中国人(7万9959人)が続いた。この半年の失踪者もベトナム人が1618人で最多。次いで中国人(859人)、ミャンマー人(227人)、カンボジア人(204人)だった。昨年上半期に比べ、ベトナム人は793人、ミャンマー人は160人も増えた。
(12月13日、朝日新聞)

ほとんど中世の「逃散」を見る思い。逃散とは、税の取り立てや領主の暴虐に耐えかねた農民が耕作地を放棄して他所に逃亡した後、あらためて税の減免や代官の罷免を求めるサボタージュ運動を指す。正確を期すなら、単なる逃亡は「欠落」になるのだが、当時から厳密な定義があったのかについては議論の余地がある。
実習生以外でも、日本人を含めてパート・アルバイトなどの非正規雇用では、ある日突然職場に来なくなり、連絡もつかなくなる「逃散」が日常茶飯事となっているという。

戦国期には耕作を放棄して逃散、欠落した農民が都市部に流入して飢饉を悪化させる一方、山賊や海賊になって荒らし回ったり、逆に足軽になって戦争被害(放火、掠奪)を激化させたりした。足軽は殆どの場合、固定給が無きに等しく、戦場で武勲を挙げるか、「戦場働き」によって自己調達する他なかった。戦国大名は兵力不足を足軽で補ったため、その増加に伴い、戦場での掠奪行為が激化していった。
中でも戦国期に特に深刻だったのは、南蛮渡来人が奴隷を商ったため、国内で略取された人質の多くが外国人奴隷商に流れ、東南アジアなどに「輸出」されていったことにあった。これにより国内の産業人口に危機が生じ、豊臣秀吉による対外貿易の縮小と、江戸幕府による「鎖国」政策に繋がっていった。

豊臣秀吉による惣無事令は、大名間の戦争を抑止することを目的としたが、同時に刀狩りや逃散禁止令を出すことで、国内市場の安定化が図られた。秀吉は晩年の蛮行が強調される傾向があるが、その政策はもっと積極的に評価されてしかるべきだ。

現代日本で逃散が発生するのは、労働基準法や労働基準監督署がありながら、殆ど機能しておらず、過酷な労働環境や違法操業が放置されていることに起因している。これでは法治国家とは呼べないであろう。
posted by ケン at 12:04| Comment(0) | 労働、経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年12月14日

コンビニも奴隷導入へ

【職種にコンビニ運営業務も 業界が申請へ】
 コンビニ各社が加盟する業界団体「日本フランチャイズチェーン協会」(東京都)が年明けにも、外国人技能実習制度の新たな職種に、コンビニの運営業務を加えるよう国に申請することが、同協会への取材で分かった。大手各社は海外展開を進めており、日本で経験を積んだ実習生に母国での店舗展開を担ってもらう狙い。
 協会が想定する実習は、レジ打ちや商品陳列に加え、在庫管理も含めた営業計画の作成など、店舗運営を学ぶ内容になる。実習制度の受け入れ職種は現在、建設や縫製、農業など77種ある。在留期間の更新時には業界団体などが試験を行っており、協会はコンビニ業務の習熟度をみる試験内容も含めて国に申請する。
 経済産業省の研究会が2015年、途上国の流通業に貢献できるとみてコンビニ業務が実習職種になり得るかどうか検討するよう提言していた。近年はベトナムやタイなど東南アジアから多くの実習生を受け入れており、各社は途上国での店舗展開に日本での経験が生かされると考えているという。
 国内店舗では、留学生を中心に既に多くの外国人が働いている。セブン−イレブン、ローソン、ファミリーマートの大手3社で4万人を超える外国人が働き、全店員の約5%に上るという。
(12月5日、毎日新聞)

以前にも取り上げたテーマではあるが、もう一度。
コンビニ側が提供する実習は、「レジ打ちや商品陳列に加え、在庫管理も含めた営業計画の作成」だという。
厚生労働省のHPは、同制度の目的を以下のように説明している。

技能実習制度は、我が国が先進国としての役割を果たしつつ国際社会との調和ある発展を図っていくため、技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的としております。

「レジ打ちや商品陳列」は「先進国」を自称する日本に来ないと学ぶことのできない「技術」だというのだろうか。まして、パスポートを奪って、タコ部屋に何人も押し込んで外出すら認めない奴隷労働が「開発途上国等の経済発展を担う人づくり」になるとヤクニンどもは本気で信じているのだろうか。あり得ない話である。

与党ほど陳情受けるわけではないが、野党の事務所でも「実習生を受け入れたい」旨の相談を受けることがある。だが、一度たりとも「安価な労働力」以外の目的で相談されたことはない。下手すると、「給料とか払わなくて良いんだろ」くらいのことを言ってくるくらいだ。

安価な奴隷労働を確保できるからこそ、生産性も向上せず、低収益の企業が生き残り、経済成長しないという事実は、誰も指摘しない。さらに言えば、毎年数万人の実習生が「騙されて来日した」ことを恨みつつ、「反日家」となって帰国していくことを思えば、これは亡国の政策でしかない。
posted by ケン at 13:51| Comment(0) | 労働、経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年12月13日

契約の自由を否定する国

【NHK受信契約義務付けは「合憲」 最高裁が初判断】
 NHKの受信契約をめぐる訴訟の上告審判決で、最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)は6日、テレビを置く人に受信契約を義務付けた放送法の規定が「合憲」と判断した。受信料制度について、最高裁が憲法判断を示すのは初めて。NHKの経営を支える受信料の徴収業務だけでなく、将来の公共放送のあり方をめぐる議論にも影響を与えそうだ。
 大法廷は判決理由で、受信料制度について「財政面で国などの影響を受けずに国民の知る権利を充足する公共放送の目的にかなう合理的なもの」などと指摘し、憲法が保障する財産権の侵害などには当たらないとした。裁判官14人の多数意見。
 一方、受信契約が成立する時期について「裁判で契約の承諾を命じる判決が確定すれば成立する」とした。「契約を申し込んだ時点で自動的に成立する」とのNHK側の主張は退けた。契約を拒む人から徴収するには、今後も個別に裁判を起こさなければならない。受信料を徴収できる期間については「テレビ設置時点まで遡って支払い義務がある」とした。
 NHKが東京都内の男性を提訴。「受信設備を設置した者は、NHKと受信契約をしなければならない」とする放送法の規定の合憲性が争われていた。男性側は「契約の強制は、契約の自由に反しており違憲だ」と主張。NHK側は災害報道や全国の放送網など公共放送の役割を強調し、「安定財源として受信料制度は欠かせない」と訴えていた。NHKによると、テレビを置いているのに契約に応じていないのは推計約900万世帯。
(12月6日、日本経済新聞)

NHK受信料訴訟の最高裁判決に際し、唯一反対意見を述べたのは、木内道祥弁護士だった。消費者の「契約の自由」を無視した今回の判決は、仮に違憲判決となった場合、過去の受信料支払いにまで遡って返還請求訴訟がなされ、大混乱に陥るという治安上の理由から合憲とされた。これに対し、木内判事は「裁判所が判決によって設置者に受信契約の承諾を命じることまではできず、設置者の不法行為や不当利得に当たるから、損害賠償請求などによって解決すべき」旨から反対した。

日本の法体系では、「契約の自由」は憲法が規定する財産権によって担保されているはずだが、「テレビについては財産権の一部を認めない」というのが最高裁の判断であり、この点でも現行憲法は紙くずと化しつつある。

今回の判決は、消費者(テレビ設置者)に相当不利なもので、NHKはテレビ設置日まで遡って受信料支払いを請求できるようになる。つまり、ますます権威主義化が進むということだ。
最高裁は「受信料支払いを拒む者は個別に裁判する必要がある」と言うが、これはすでに判決が確定しているものを裁判所で再確認する過程を強要するだけの話であり、何のことは無い「俺の了承無しでは認めない(俺にもかませろよ)」というだけのことだ。どこまでも腐敗している。

NHKは、スクランブル化を求める声に対し、「公共放送である」ことを盾に断固拒否して、全国民からの受信料徴収を至上命題としている。であれば、NHKは公共部門(ニュースと災害放送)に限定、大幅縮小して受信料も最低限度にすべきだ。しかも、その報道姿勢は近年ほとんど国営放送とかわらなくなっており、全く中立性や客観性を失っている。
NHKは中途半端な「公共放送」を止めて、税金で運営する「国家保安放送局」に改編すべきである。

【追記】
本判決は、法曹関係者に言わせると「双方敗訴」ということになるらしい。確かに「強制徴収には裁判が必要」という時点で、NHKの手間とコストは膨大なものにはなるのだが、これは「税金と同レベルに扱え」というNHKの主張がそもそもハル・ノートばりに無理筋であっただけの話で、あるいはNHKがゴリ押しの要求を行ったからこそ、「右に振れた」かもしれないのだ。そもそも放送法の規定に無理があるのだから、ここは改めて国会で議論し、法改正すべきだが、すでに議会が国民を代弁しなくなっている現状では、NHKに都合の良い改悪にしかならないかもしれない。

【参考】
・NHK受信料をめぐる決定的課題 
posted by ケン at 13:58| Comment(6) | 労働、経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年12月07日

廃炉できないもんじゅ

【設計、廃炉想定せず ナトリウム搬出困難】
廃炉が決まっている高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)について、原子炉容器内を満たしている液体ナトリウムの抜き取りを想定していない設計になっていると、日本原子力研究開発機構が明らかにした。放射能を帯びたナトリウムの抜き取りは廃炉初期段階の重要課題だが、同機構が近く原子力規制委員会に申請する廃炉計画には具体的な抜き取り方法を記載できない見通しだ。
 通常の原発は核燃料の冷却に水を使うが、もんじゅは核燃料中のプルトニウムを増殖させるため液体ナトリウムで冷やす。ナトリウムは空気に触れれば発火し、水に触れると爆発的に化学反応を起こす。もんじゅでは1995年にナトリウムが漏れる事故が起き、長期停止の一因になった。
 原子力機構によると、直接核燃料に触れる1次冷却系の設備は合金製の隔壁に覆われ、原子炉容器に近づけない。また、原子炉容器内は燃料の露出を防ぐため、ナトリウムが一定量以下にならないような構造になっている。このため1次冷却系のナトリウム約760トンのうち、原子炉容器内にある数百トンは抜き取れない構造だという。
 運転を開始した94年以来、原子炉容器内のナトリウムを抜き取ったことは一度もない。
 原子力機構幹部は取材に対し「設計当時は完成を急ぐのが最優先で、廃炉のことは念頭になかった」と、原子炉容器内の液体ナトリウム抜き取りを想定していないことを認めた。炉内のナトリウムは放射能を帯びているため、人が近づいて作業をすることは難しい。
 原子力機構は来年度にも設置する廃炉専門の部署で抜き取り方法を検討するとしているが、規制委側は「原子炉からナトリウムを抜き取る穴がなく、安全に抜き取る技術も確立していない」と懸念する。
 もんじゅに詳しい小林圭二・元京都大原子炉実験所講師は「設計レベルで欠陥があると言わざるを得ない。炉の構造を理解している職員も少なくなっていると思われ、取り扱いの難しいナトリウムの抜き取りでミスがあれば大事故に直結しかねない」と指摘する。
(11月29日、毎日新聞)

本報道に対して日本原子力研究開発機構(JAEA)が反論、「誤報」と断罪しつつ、「原子炉容器の最底部に残留するナトリウムについては、更なる抜き取り方法を検討するが、技術的に十分可能なものである」とのプレスリリースを出した。

つまり、現時点では技術的にナトリウムを取り出せないことを認め、「将来的には実現できるはずだ」と希望的観測を述べているに過ぎないわけだが、にもかかわらず、「ナトリウム搬出困難」という毎日の記事を「誤報」と非難しているのだ。
否定的な戦況を報じた新聞を発行停止にしてしまう戦時中の大本営と全く同じセンスであることを示している。

JAEAは、核技術の開発促進を担う国家機関であり、そこが原発の危険性を指摘する客観的な記事を否定するというのは、相当に危険な兆候であり、第二、第三の核事故が発生する蓋然性の高さを象徴してしまっている。
posted by ケン at 12:08| Comment(0) | 労働、経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年12月01日

銀行の貸し過ぎで生活崩壊

【銀行カードローン借入額、「過半数が年収の3分の1超」−日弁連調査】
 日本弁護士連合会によると、同連合会に相談した銀行カードローンの債務者のうち、年収の3分の1を超える額を借り入れている人が全体の52%にのぼることがわかった。消費者金融など貸金業者には年収の3分の1までしか貸せない総量規制があるが、銀行は対象外。日弁連はこれが「貸し過ぎ」の要因になっていると指摘している。
 同連合会が8月に実施した「全国一斉銀行カードローン問題ホットライン」の電話相談351件の結果をまとめた。年収の3分の1を超えて借り入れている人のうち、年収の8割以上の金額を借りた人は11%、収入がない人も4%いた。
 債務者の内訳は60歳代が32%と最も多く、50歳代が20%で続いた。借入時に収入証明書を提出しなかったとの回答は53%で、半分以上を占めた。
 全国銀行協会は3月の申し合わせで、融資審査の厳格化や広告の抑制など、銀行の過剰融資抑制に向けて動き出した。来年1月には各行が即日融資を停止する方針だ。
(11月28日、日本経済新聞)

賃金が増えていないのに消費が堅調だったり、あるいは家計貯蓄がマイナスになったりするのは、こういうことだった模様。
背景には、2006年の貸金業法の改正や広告規制などによってサラ金業者の倒産や大手銀行の傘下入りが相次ぎ、同時に超低金利で採算を悪化させた市銀が消費者金融(銀行カードローン)に参入、貸金業法の対象外(年収の3分の1などの総量規制)となっているルールを悪用して、個人に貸しまくった結果だった。カードローンによる自己破産は増加の一途を辿っている。
利用者にとっては、大手銀行のカードでできるという安心感や、街金よりも低利であること、そして総量規制が無いことが「便利」であるため、どうしても使いすぎてしまう傾向がある。

興味深いのは債務者の最大が60歳代であるということ。これは、1980〜90年代に最も良い暮らしをしてしまい、生活水準が下げられないまま、収入が減って借金生活に入っていることを想像させる。

他方、若年層は意外と謙虚な生活を保っているともいう。例えば、ニッセイ基礎研究所の2014年の調査によれば、30歳以下の単身正社員の貯蓄割合の増加率は24%近くあり、平均貯蓄額は190万円で、25年前より52万円増えたという。
とはいえ、若年の非正規雇用労働者や既婚者はむしろ貧困化が進んでおり、消費者金融にとって「良いカモ」なのは間違いない。

米国の金融情報サイト、バンクレート・ドットコムが2015年に行った調査によると、クレジットカードの負債額が緊急の際に使える貯蓄と同水準あるいは上回っているとの回答が37%に達したという。つまり、米国人の8人に3人が破産の一歩手前にあることを示している。
アメリカに比べれば、日本はかなりマシな状況ではあるが、こうした点でも米国モデルに向かって突き進んでいるのは確かだろう。
そして、銀行が本来預金者であるべき市民から個別に収奪しないと採算がとれなくなっているという状況自体、資本主義の断末魔であると言えるだろう。
posted by ケン at 12:31| Comment(2) | 労働、経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年11月30日

総理様の有り難い賃上げ要請

【首相、賃上げ「来春は3%実現を期待」 経団連会長「前向きに検討」】
 安倍晋三首相は26日夕の経済財政諮問会議で、来年の春季労使交渉について「(賃上げの)流れを持続的なものにしなければならない。3%の賃上げを実現するよう期待する」と述べた。
 安倍首相は「賃上げはもはや企業に対する社会的要請だ」と指摘したうえで「企業収益を賃上げや設備投資に向かわせるため、予算・税制、規制改革などあらゆる手段・政策を総動員する」と語った。賃上げへの環境整備を進め、年末に策定する経済政策パッケージに反映する考えだ。
 一方、同会議に出席した経団連の榊原定征会長は会議終了後、記者団に対し「経済界はこれまで相当高い水準の賃上げを行ってきた」と前置きしつつ「企業が過去最高の収益をあげるなか、社会的要請としてより高い水準の賃上げを求める声は認識している」と述べた。そのうえで「生産性革命を進めながら賃金水準の引き上げについて前向きに検討していく」との考えを示した。
 榊原会長は「賃上げは一律ではなく、消費性向の高い世帯への重点配分なども考慮する必要がある」とも指摘。政府には「所得拡大促進税制など一段の政策支援をお願いしたい」と求めた。
(10月26日、日本経済新聞)

一国の総理大臣が民間企業に賃上げを要請するとか、開発独裁国丸出しだな(爆)
すでに何度か述べていることだが、敢えて繰り返したい。
経済学の常識だが、賃上げは労働生産性の向上に対する報酬としてなされるもので、生産性の向上が無いところに賃上げだけ強行すれば、人件費負担が増えるだけで経営悪化を加速することになる。これを国家規模で行って失敗したのがソ連だった。

「生産量至上主義」に凝り固まっていたソ連政府は、ひたすらに生産における量的拡大にのみ腐心していた。そのため、各企業はリスクを伴う技術革新よりも、工場の拡大と労働者の囲い込みに走った。上から命令された「ノルマ(生産量)」さえ達成すればよく、生産物の「質」は問われなかったからだ。
工場の拡大は、市場の需要ではなく、「党の指令」によって行われる。党もまたノルマの達成のために、工場の拡大を安易に許可した。結果、工場ばかりが増え続け、労働力は慢性的に不足するという事態が生じた。ソ連、あるいは今のロシアを見ても分かるが、廃墟となった工場の多さは、こうした「計画経済」の遺物でもある。
慢性的な労働力不足は、自然、賃金を上昇させていった。
賃金の上昇と慢性的な物不足は、市場に貨幣を滞留させる結果となる。市場経済の場合なら、余った金を貯蓄に回すことによって、銀行が市場に再投資する機能を有する。が、ソ連の場合、「不労所得は悪」というイデオロギーから、預金金利は無きに等しい状態に置かれ、政府・国家に対する歴史的不信も災いして、余った貨幣の大部分が「タンス預金」として家庭に留め置かれることとなった。
また、市場経済であれば、この状態ではインフレーションが起こるのだが、統制経済下では価格は政府によって公定される。その結果、「行列」と「闇市場」が顕在化してくる。
(ソ連の「インフレーション」)

ペレストロイカは、指導層の掛け声や、西側社会からの評価に比して、全く進んでいなかった。具体例を挙げると、1989年時点で企業の民営化率は1%、90年時点で商品の自由価格率は1割に遠く及ばなかった。1990年予算で歳出に占める食糧価格調整金(補助金)の割合は20%、コルホーズを始めとする国営企業補助金が20%、軍事費が15%超という有様だった。
ミクロで見ても、1954年から90年に至るまでパンの公定価格は一切変わらなかった(70コペイカから1ルーブル)にもかかわらず、独立採算制の導入や政治的理由から労働賃金を上げ続けた結果、貨幣の過剰滞留現象が起き、潜在的インフレーションを表面化させていった。また、生産価格を無視した公定価格を維持するために、国庫から際限なく補助金が出された結果、歳出に占める食料価格調整金の割合は20%にも達していた。このことは、ゴルバチョフ政権が食糧の公定価格制度に全く手を付けられなかったことを示している。大御所が指摘するところの「社会主義離れ」とは裏腹に、現実は全く「社会主義離れ」ができなかったのだ。
ペレストロイカを再検証する

生産性の向上や技術革新を伴わずに賃上げのみを進めた結果、市場には「買いたい物が無いのに現金だけ有り余る」状況が、企業群は「売れない物や安い物を大量生産して赤字が増大するも、国からの補填で賄う」状況が現出、これらの問題を修正することができずに、市場と国家の崩壊を招いてしまった。
いわゆる「ソ連崩壊」は、西側の論者の大半が曰うような「ソ連人が自由を求めた結果」起こったものではなく、マルクス経済学からも説明できる基本的な経済失政を国家規模で修復不可能なまで強行したことに起因する。

日本の場合は、やや事情が異なるため、症状も異なるわけだが、経済学の基本から説明できることに変わりは無い。

国内需要が縮小再生産のスパイラルに陥っているのに、設備投資して人件費を増やすインセンティブなどどこにも無いのは当然だろう。需要が増える展望が無いのだから、経営側としては人件費を増やせるワケが無い。
ゼロ金利である今は、とにかく負債を減らすのが企業側として合理的な選択となる。需要が無いのだから、設備も人も増やせず、結果、内部留保ばかりが増えてゆく。この内部留保を、国債で持つか、現金で持つか、株で持つか、という程度の選択肢しか無い。
さらに日本の場合、労働法制や労働組合が機能せず、超長時間労働やサービス残業が容認されているため、企業側としては社員数や賃金を増やさずに「必要なだけ」労働を要求できるだけに、労働生産性を上げるインセンティブが全く働かない。
本来賃上げというのは、労働生産性の向上に対する対価として行われるべきものであるため、この点でも経営側は賃上げする理由が無い。
また、労働組合側も、総需要の低下を受け「現在の(正社員の)雇用を守ること」が最優先事項となり、資本への従属を強めており、労働時間削減や賃上げを求めなくなってしまい、結果的に労働生産性の向上を阻害してしまっている。労働者が資本家に協力するのは、生産性を高めることで労働価値を高め、その代償として賃上げを要求するためだが、そのサイクルが失われて久しい。
保守政権が賃上げを求める愚

日本政府・自民党は長時間労働を容認、拡大する政策を採っている。裁量労働制の拡大はその象徴だ。国内需要の拡大が見込めない中、低賃金で長時間の労働を強要できるのだから、企業としては生産性を向上させるインセンティブが機能しない。また、企業内の正社員組合は、自らの雇用を確保しつつ、低賃金を補うために残業する必要があることから、長時間労働を容認するため、労働組合にも生産性を向上させるインセンティブが働かない。
低賃金と長時間労働が容認される一方、政府による公的融資や補助金制度が充実しているため、生産性の低い不採算企業が存続でき、市場から退出しないため、労働力も資本も不採算企業が保持してしまい、市場淘汰が進まず、成長が抑制される構造になっている。

また、日本では戦後60年にわたって権威主義的な自民党政権が続いたため、社会や学校が権威主義に染まっており、技術革新に必要な創造的人材を輩出できなくなっている。「生徒が就職できるように黒髪を強制する」などという高校とそれを求める企業では、自由な発想のできる人間は育たない。

日本が「崩壊」を回避するためには、全て逆の政策を行う必要がある。政府は公的融資制度、補助金、政策減税を廃止、労働組合が主導して長時間労働を抑制することで、不採算企業の退出を促進させつつ、生産性の向上を図る。優良企業が増え、生産性の向上が実現されれば、賃金は自然に上昇するだろう。
同時に、中央統制の強い権威主義的な教育制度を自由主義に改め、生徒の身体的・精神的拘束を最小限度に止めることで、「自由な発想のできる子ども」の育成に主眼を置く。これにより、技術革新の基盤を広げることができるだろう。

ソ連学徒のケン先生から見れば、今の日本は70年代末か80年代初めのソ連とかぶるところが多い。おそらく東京五輪は日本の「モスクワ五輪」になるのだろう。
posted by ケン at 13:00| Comment(0) | 労働、経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年11月24日

人手不足では倒産しません!

【人手不足で倒産増 外国人就労拡大を要請へ】
 人手不足で企業の経営が回らなくなり倒産が増える中、日本商工会議所は、政府に外国人の就労受け入れ拡大の検討を求めることを決めた。日商の調査では、会員の中小企業のうち6割が人手不足としている。そのため、政府に外国人の就労条件見直しを求める意見書を提出する。
 現在、日本では、外国人の就労は原則、専門的・技術的分野などに限定し、大卒や10年以上の実務経験などを条件としている。しかし、日商は条件が厳しすぎるとしている。また、建設現場や運送などを念頭に、今は認められていない単純労働の分野の受け入れも検討を求めている。
 一方で、外国人の就労条件をゆるめることは治安の面などから反対の声もあり、受け入れの基準をどうするのか議論を呼びそうだ。
(11月16日、日テレ)

企業は人手不足で廃業することはあっても、倒産することはない。
連中が欲しいのは、低賃金で長時間・長期間働く「労働力」であり、だからこそ期間固定で労基法も適用されず、人権も認められない外国人技能実習制度がもてはやされ、制度拡充が続けられている。

本来であれば、労働力不足が生じた場合、賃金が上昇し、競争力が無い企業は廃業するか、生産性を高めて危機を乗り越えることで、市場の淘汰がなされ、成長が持続するのが、資本主義社会の基本構造である。
ソ連型社会主義が崩壊したのは、賃金ばかり上昇するのに、競争力の無い企業も国家補助で生き残るため、生産性の向上がなされず、「カネはあるのにモノが無い」が常態化してしまったことが一つの大きな要因になっている。

現代日本の場合、人手不足が生じても低賃金、長時間労働が認められていることもあって、賃金が上昇しない。同時に、同じ理由から経営を効率化して、生産性を向上させるインセンティブが働かない。
また、様々な補助金制度や税制優遇、公的融資が整っているため、競争力の無い企業がゾンビ化したまま存続し、資本と労働力の流動性が非常に低くなっている。

記事にある「6割の人手不足企業」は、要は賃金を上げるだけの資本も生産も無く、生産性を向上させることもできない不良企業であって、本来淘汰されるべき存在なのだ。こうしたゾンビ企業を生き残らせるために、低賃金・長時間労働を可能にする外国人労働者などを認めれば、市場はますます成長基盤を失って、衰退してゆくだろう。

経済学の基本である。
posted by ケン at 13:00| Comment(2) | 労働、経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする