2026年01月19日

後期日中戦争 華北戦線 太平洋戦争下の中国戦線2

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広中 一成『後期日中戦争 華北戦線 太平洋戦争下の中国戦線2』 角川新書(2024)

華中における1941年以降の日中戦争を主題にした前作に対し、本作は華北を中心に41年以降の日中戦争を描く。
最も異なるのは、中国共産党とそのゲリラの存在である。
華北地域は単純に地図だけ見ると、日本軍の制圧下にあるように見えるが、実際には1941年の段階ですら、主要都市部を除くと、日本軍の支配下にあったのは2割以下で、残りの半分が混在地区、もう半分がゲリラ支配下という具合にあった。
帝国政府や陸軍の資料だけ見ていると、その実態は全く把握できない。
実際、大陸帰りの陸軍軍人たちは平気で「俺たちは負けてない(海軍が勝手に負けただけ)」みたいなことを述べているので、ますますネトウヨどもをイキらせる話になっている。
だが、44年後半には、日本軍支配地1、混在地3、ゲリラ支配下6とかになっている。

"A Distant Plain"や"Fire in the Lake"をプレイしている我々はこうした状況がよくイメージできる。
どちらのゲームでも、カーブルとサイゴンだけは米軍支配下にあるものの、その他は傀儡政権軍任せで全く頼りにならない。
その一方で、ゲリラは雲霞の如く湧いてきて、米プレイヤーは「俺になにしろと?」という状況に置かれる。
私としては、アメリカが勝つ図が全くイメージできない。
これと同じような状況にあったはずだが、「俺は負けてない!」と言える日本軍人は頭おかしい。

話を戻すと、本書のメインは中共八路軍によるゲリラ戦と日本軍による「治安戦」(現代に言うCOIN)である。
治安戦は多くの日本側兵士が回想を拒否するほど凄惨で、村を丸ごと焼き払い、虐殺し、奪いつくす。
ゲリラ戦は敵が見えにくいので、普通に毒ガスや細菌を使うので、さらに被害が増大する。
中国で公開された731部隊の映画は酷い代物だったようだが、日本人は先祖がBC兵器を中国で多用していた事実をよく知っておくべきだろう。

前作同様、日中戦争後半の知識は非常に少なく、特に体系的に書いたものは少ないだけに貴重な一冊である。

【目次】
はじめに
序章 「後期日中戦争」前の華北戦線
第一章 八路軍との容赦なき戦い――河北省
第二章 戦争犯罪の戦場――山東省
第三章 災害との戦い――河南省
第四章 「鬼」と「鬼」との化かしあい――山西省
第五章 終わらない「後期日中戦争」
おわりに
本書関連年表
参考文献一覧
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2025年12月17日

大江志乃夫『バルチック艦隊』

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大江志乃夫 『バルチック艦隊: 日本海海戦までの航跡』 中公新書(1999)

近代日本軍事史の大家によるバルチック艦隊史。
ピョートル大帝によるサンクトペテルブルクの建設から日本海海戦での壊滅までを描く。
ロシアは本来大陸志向の国だが、常に膨張志向を有する。
だが、東にはプロイセン・ドイツ、南にはオスマントルコ、英領インド、東には清国と日本があり、自ずから限界がある。
しかも、巨大な国土を支配するために巨大な軍隊を必要とする上に、どうしても分散配置になりがちだ。
にもかかわらず、巨大な艦隊を持ちたがる傾向もある。
特にクリミア戦争に敗北し、南進が途絶すると、東西の海に対する関心が高まってくる。
そこに絶対的な権力を持つ皇帝の嗜好や気まぐれが影響し、政策も二転三転する。

大家による新書だけに、変に奇をてらうことなく、丹念に基礎文献をあたり、必要な個所を引用してよくまとめている。
ロシア研究者以外の日本人は「バルチック艦隊に勝利した」との軍部の宣伝を真に受け、現代でもそれが基調になっている。
だが、現実にはバルチック艦隊は回航してきただけでも大事業だった一方で、現実の艦隊編成はとうてい連合艦隊に太刀打ちできるものではなく、日本海軍は「約束された勝利」を手にしただけだった。
戦後、日本海軍が「大勝利」を喧伝したことで、その戦略思想も戦術思想もすぐさま旧弊化してしまった。
その経緯を再検証するためにも、一読する価値があろう。

目次
序章 世界最北の不凍港
1章 北のヴェネチアに君臨したツァーリ
2章 ロシア海軍戦略とシベリア政略
3章 日露戦争と日本海海戦
終章 相手の敗因から学ばなかった日本海軍
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2025年12月01日

Netflix「第二次世界大戦 最前線より」

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二次大戦当時の記録映像をカラー化し、両陣営の証言を交えて第二次世界大戦を描いたドキュメンタリードラマ。
イギリスの制作なので、英国視点が中心になってしまうものの(チャーチルとモンティ成分多め)、一応世界の戦場をカバーしている。



当時のドキュメンタリーなどの映像をカラー化しているわけだが、そのカラー化具合が半端なく、解像度も上がっており、恐ろしくリアルな映像に仕上がっている。
現代の戦争映画も相当リアルに作り込まれているが、それとは一線を画す出来で、改めて本物が訴える力を感じさせる。

当事者たちの証言も上手く使っており、連合国と枢軸国、前線と後方の感じ方の違いもよく表している。
加入しても見る価値があるだろう。

どうせ加入するなら、「普通の人びと」「西部戦線異状なし」も見てほしいが。
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2025年11月08日

大学も歴史修正主義へ

【立命館が「戦争文言」削除検討 大学憲章に改正案、学生ら反発も】
 立命館大などを運営する学校法人立命館(京都市)が、学園の在り方を定めた立命館憲章から「戦争の痛苦の体験を踏まえ」などの文言を削除する改正案を検討していることが2日、関係者への取材で分かった。学生や教職員から「歴史的経緯や反省をうやむやにしている」と反対の声が上がり署名活動も始まった。
 立命館は戦時中、国家主義的な体質が強かったことへの反省から、1960年代の大学紛争の教訓も踏まえ、70年に「平和と民主主義」を教学理念に据えた。憲章は、2000年代に大学や小、中学の開学が続いて学園規模が拡大し、アイデンティティーを広く共有する必要があるとして06年に定められた。
 関係者によると、24年7月に学校法人の理事会が改正検討委員会を設置。学生側に意見聴取し、今年4月25日、改正案を学内向けに公表した。7月下旬の理事会で最終決定する。
 改正案は前半で学園の起源や教学理念を説明。後半は多様性の尊重や次世代研究大学を目指して「グローバルな平和」を実現すると締めくくっている。
(7月2日、共同通信)

>立命館大などを運営する学校法人立命館(京都市)が、学園の在り方を定めた立命館憲章から「戦争の痛苦の体験を踏まえ」などの文言を削除する改正案を検討している

どの大学も世の流れに敏感よな。
やはり軍隊を廃止して帝政を残して、一瞬にして再武装してしまった戦後の「逆コース」が効いているのだろうか。
やはり廃止すべきは軍隊ではなく帝政だったのだ。

一応今回は先送りにされたようだが、あくまでも先送りであり、高市戦時下で大学も総動員体制への移行が進むのだろう。
立命館の前身は1900年に設立された「京都法政学校」で、1913年に立命館大学と改称されました。戦争の時代になると1933年の京都大学滝川事件や1935年の美濃部達吉の「天皇機関説」に対する批判などを通じて、大学に対する軍国主義的なしめつけが厳しくなっていきました。すでに立命館大学は、1928年に昭和天皇の即位の式典が京都御所で行われたとき、「立命館禁衛隊」という武装部隊を組織し、御所の警備に当たりました。天皇から与えられた禁衛隊の旗が展示されていますが、1941年には大学に国防学研究所を設立し、陸軍中将の石原莞爾を初代所長にすえ、国防講座を開きました。学生たちは学徒出陣によって卒業を待たずに戦場に送られ、命を失った学生も少なくありませんでした。また、軍需工場に動員され、そこで被災した学生もいました。戦後の立命館大学は、こうした戦争の時代の悲痛な経験への深い反省から再出発することになります。
(立命館大学国際平和ミュージアム)
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2025年10月28日

家近亮子『蒋介石 ――「中華の復興」を実現した男』

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家近亮子『蒋介石 ――「中華の復興」を実現した男』

中国・東アジア近代史を専攻する家近氏による蒋介石評伝。
新書ではあるが500ページの大部。
学者ではあるが、やや小説風になっており、非常に読みやすい。
だが、小説ではなく評伝なので、最新の知見を踏まえて客観的に書かれており、安心感がある。
もっとも、その分蒋介石のロクでもない人物ぶり(ダメ人間っぷり)が遺憾なく発揮されており、特に女性関係の酷さは読んでいるだけでも結構辛いものがある。

何と言っても、基本が躁鬱で、気に入らないとすぐ辞職して故郷に籠もってしまい、懇願されて職場に戻るが、また嫌気をさしての繰り返し。
ただ、周囲も酷い人間が多く、中国人らしく自己主張が強すぎて、全然まとまらないし、誰も従わないという問題もある。
これでは、中共のように上から押さえつけて支配するしかないのがよくわかる。

蒋介石の視点から見た中国近代史、日中関係(普通に日本語ペラペラ)というのは非常に貴重で、内容充実していて読みやすいという点でもオススメである。

【目次】
第一章 生い立ちから少年期、革命心のめばえ
第二章 日本留学時代
第三章 辛亥革命から国民革命へ
第四章 国民革命期
第五章 宋美齢との再婚、陳潔如と蒋経国の苦難
第六章 奥地建設と西安事件
第七章 日中戦争
第八章 アジア太平洋戦争から終戦
第九章 国共内戦、大陸を追われる日
最終章 台湾時期
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2025年10月21日

基礎研究の充実を!

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ノーベル賞を政治利用しようとした大臣に対して坂口教授は、

「今後は基礎研究への支援をお願いしたいと思います」

と回答。
九州大学が有名だが、いまや国公立大学の文系は(非競争的)基礎研究費がほぼゼロになっている。
競争的研究費というのは「成果が見込めそうな研究に対して集中的に投資」するわけだが、株やギャンブルと同じで「何が当たるか」はわからない。

それでも欧米の場合は、専門家が集まって喧々諤々の議論をして結論を出すのだが、日本の場合は文科省の役人や天下りが「流行の研究テーマ」を決めているだけなのが実情。
ところが、今流行っているテーマを今から研究したところで、成果が出る頃には「時代遅れ」になっているのが普通であり、実際には人気株を買っているだけの状態にある。

また、基礎研究が疎かになり、皆が「流行」を追うようになると、研究の裾野がどんどん狭まっていく。
結果、国が必要とするテーマを定めて「競争的研究費出すよ」と突然言い出しても、応募者が誰もいないという話になってしまう(実際にあったらしい)。

AI研究などでも、アメリカではインターンレベルですら月100万円以上の給料が出て、中国でも高額の給与が出るようになっているが、日本では相変わらず院生や助手には殆ど給料が出ず、皆アメリカや中国に行ってしまう。
そうこうしているうちに、日本の科学研究費20兆円に対して中国は75兆円とかになっている。

その中国でも競争資金に偏り過ぎとの批判が出て、基礎研究費の増額に舵を切っている。

「選択と集中」は「勝つ馬に賭ければいい」「上がる株を買えばいい」という話でしかない。
どうせなら人気で当選するだけの選挙(代議)制度もやめたほうが良いのかもしれないがw
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2025年10月20日

極右女性首相の誕生を予言??

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在日狩り、愛国無罪、新大久保戦争、ヘイトクライム……20XX年、排外主義者たちの夢は叶った。そしていま、反攻の時が始まる。在日三世の気鋭作家による、日本を揺るがす爆薬小説。

世界は敵だ。希望を持つな。殺される前に、この歴史を止めろ。

日本初、女性“嫌韓“総理大臣誕生ーー新大久保戦争、「要塞都市」化した鶴橋、在日狩り、そしてヘイトクライム。
いま、7人の若者が立ち上がる。
生きるための場所を奪い合う世界に、新世代屈指の才能が叩きつける、渾身の問題作。

2020年出版か。
李龍徳氏の凄まじさよ。

確かに大正リベラリズムの終焉(治安維持法成立の1925年)から戦時・権威主義体制への移行(国体明徴運動の1935年)まで10年しかないし、国民社会主義ドイツ労働者党が国政選挙に出馬してから政権を獲得するまで5年しか無いのだから、戦後日本(いわゆる戦後デモクラシー)の命運もその程度なのかもしれない。
posted by ケン at 12:00| Comment(0) | 学問、文学、教育 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする