2017年03月31日

自殺するくらいなら働けって話

【自殺による損失額は4594億円 厚労省が生涯所得算出】
 厚生労働省の研究班は23日、2015年中に自殺した人が生きていれば得られていた生涯所得が推計4594億円だったと発表した。失業率などを考慮して算出した。自殺者数は減少傾向が続いており、損失額は自殺対策基本法が施行される前の05年に比べて992億円減った。都道府県別では、東京都が最多で669億円、大阪府が365億円、神奈川県が364億円と続いた。厚労省の統計では、全国の自殺者数は05年が3万553人で、15年が2万3152人。研究班は、自殺総合対策推進センターの本橋豊センター長や一橋大の金子能宏教授らで構成した。
(3月23日、朝日新聞)

こういう数字を出すこと自体、国家が国民を労働力としてしか見ていない証拠と言える。要は「自殺するとは情けない。死なずに働いて国家に奉仕せよ」ということであり、その結果として「もし自殺者が思いとどまれば、数千億円の生産を増やせる(はず)」などという統計が出てくるのだ。そこには、自国民を精魂を有する生命として捉えるのではなく、収奪すべき労働力という視点しかない。失われた労働力を数値化しているに過ぎないのだ。
言い換えれば、現行政府は、尊厳ある生命の消失を悔やむのでは無く、本来活用できるはずの労働力を惜しんでいるだけであり、国民を労働力としてしか考えられない権力者どもの精神が、国民を自殺に追いやっている。

同じことは、「少子化対策」にも言える。政府は、幸福を感じることのできる国民が減っていることが少子化を招いているとは考えず、「少子化が進むと労働力が減少する」という視点から「少子化対策」を政策化するため、幸福や希望が存在しないディストピアの下、全く実効性が上がらない構造になっている。

また、政府は「自殺者数が減少」と喧伝しているが、この統計は非常に疑わしい。そもそも日本政府の「自殺」定義からして、「死後24時間以内に発見され、かつ遺書が発見されたもの」という非常に狭義に設定されている。つまり、3日後に発見された自殺者も、遺書を書かなかった自殺者も「自殺」とは認められず、「変死」「異状死(死因不明)」として処理されているのが事実だ。結果、警察が検視する「変死体」の数は、2007年に1万4千を、2011年に2万を超えて増加し続けているが、ここ数年は変死体数を発表しておらず、「自殺者を変死者に置き換える」統計操作の疑いがある。しかも、この変死体以外に、検視に処されない「死因不明の死体」(異状死)が15万体以上ある。このうち行政解剖に処されるのは1万体強に過ぎず、約14万人は「異状死」として処理され、遺族が死因を知ることは無い。
この変死者と「死因不明者」の合計数は、17万人を超えるが、このうち相当数が自殺と考えられるものの、限定するのは難しい。が、少なくとも、政府発表の2〜3万人という数字は交通事故の死者と同様、実態を反映しない「公式統計」であるのは間違いない。これは、「神国で自殺する臣民など存在するはずがない」という皇国史観に基づいているものと思われる。
posted by ケン at 12:13| Comment(8) | 労働、経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年03月30日

アクセルと同時にブレーキ

【<カジノ法>議員立法で依存症対策…自民が提出方針】
 自民党はカジノ解禁に向けた「統合型リゾート(IR)整備推進法」(カジノ法)に関連し、ギャンブル依存症対策を強化する法案を議員立法で策定する方針を固めた。公明党などに呼びかけ、今国会中の提出を目指す。自民党の細田博之総務会長は17日の記者会見で「依存症問題は各党で検討している。できれば法令化して効果のある対策をとる」と述べ、議員立法が望ましいとの認識を示した。
 依存症を巡っては、衆参両院がカジノ法の採決時に「対策強化」を求める付帯決議をした。自民党はすでに法制化の検討に着手。パチンコなど既存の遊技を含めた依存症患者に対応する相談窓口の充実、国や地方自治体の責務を盛り込む。また、政府は17日の閣議で「IR推進本部」(本部長・安倍晋三首相)を24日に設置すると決めた。全閣僚が入り、カジノに必要な規制や対策などを協議。「実施法案」の国会提出を目指す。
(3月17日、毎日新聞)

カジノ解禁と同時に「依存症対策」とか、どこまでも国民を収奪の対象としか考えない連中だな。現状でも競馬を始めとする公営賭博とパチンコのせいで、公式調査で550万人もギャンブル依存症患者がいて、その数は先進国の中で圧倒的に多い。にもかかわらず、「景気対策」としてカジノ(公営名目実質民営賭博)を解禁し、全国に設置しようというのだから、もはや「国民の生命と財産を保護する」という国家の生存理由そのものを否定する所行だろう。依存症患者の大半は50代以上と言われるが、これは高齢者の老後資金や子どもの教育費を収奪していることを意味する。結果として、生活保護を増やし、子どもの貧困を深刻にしているのだから、まさに「売国的」としか言いようが無い。

これと全く同じことは、「働かせかた改革」にも言える。政府が準備している労働基準法改正案の狙いは、「年収1075万円以上の専門職」にはホワイトカラーエグゼンプションで労働時間規制を外しつつ、「年収1075万円未満の一般職」については裁量労働を広範に導入するところにある。法案が成立すれば、年収に関係なく数十パーセントの労働者に対して裁量労働が適用可能になると言われる。要は、現行法では裁量労働の適用が難しいので、労使合意や様々な手続きが適用を難しくしているという使用者側の主張を受け入れて、手続き面を非常に簡素化するという話なのだ。
また、他方で「年間720時間、月上限100時間未満」の残業規制が労使間合意されたが、「過労死ライン」を超える上限が容認されると同時に、労基署業務の民間委託が検討されており、残業時間規制を担保する術は無いも同然になっている。そもそも裁量労働制の拡大により、「残業」という概念すら消失すると考えられるだけに、この残業時間規制自体が殆ど意味を持たない。

カジノ解禁は、高齢者の貧困を加速、医療費や生活保護費が国家財政をさらに悪化させるだろう。労働規制の緩和は、今以上に労働生産性を低下させ、実質賃金も低下させる。過酷な労働環境が健康を破壊し、医療費や保険費を高騰させ、それが子どもの貧困を併発する。
すでに日本は死んでいる。
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2017年03月29日

クロネコの残業問題

【ヤマト、巨額の未払い残業代 7.6万人調べ支給へ】
 宅配便最大手ヤマトホールディングス(HD)が、約7万6千人の社員を対象に未払いの残業代の有無を調べ、支給すべき未払い分をすべて支払う方針を固めた。必要な原資は数百億円規模にのぼる可能性がある。サービス残業が広がる宅配現場の改善に向け、まずは未払い分の精算をしたうえで、労使が協力してドライバーの労働環境の正常化を進める。
サービス残業が社内で常態化していることを大手企業が事実上認め、全社的に未払い残業代を精算して支払うのは極めて異例。サービス残業や長時間労働が常態化している企業の労務管理に一石を投じる動きだ。
 宅急便を手がける事業会社、ヤマト運輸で働くフルタイムのセールスドライバー(SD、約5万4千人)と営業所の事務職員(約4千人)、ヤマトHD傘下のグループ会社で働く社員(約1万8千人)が対象。フルタイムのドライバーは全員が対象になる。
 ヤマト運輸は昨年8月、SDだった30代の男性2人に残業代の一部を払わず、休憩時間を適切にとらせていなかったとして、2人が勤めていた横浜市の支店が、横浜北労働基準監督署から労働基準法違反で是正勧告を受けた。インターネット通販の普及と人手不足を背景に、この頃からドライバーの労働環境の悪化が深刻になってきたという。
 是正勧告を機に、全社的に未払い残業代の調査に乗り出すことを決めた。遅くとも今夏までに、全社で支給を終える方針だ。
 関係者によると、川崎市全域と横浜市の一部の営業エリアではすでに調査に着手しており、3月下旬の給料日にあわせて支給する予定。最大で過去2年分について調べ、1人あたりの支給額が100万円を超えるケースもあるという。
 SDの勤務時間は出退勤の時間を記録するタイムカードと、配送の時に使う携帯端末のオン・オフの二つで管理している。原則として、給与は携帯端末で記録された勤務時間から、自己申告の休憩時間を除いた時間をもとに計算しているが、携帯端末がオフになっているときに作業する▽忙しくて休憩時間が取れないのに取ったと申告する――といったサービス残業が増えているという。
 ヤマトHDの2017年3月期の営業利益は約580億円の見通しで、未払い残業代の支給が経営に及ぼす影響は小さくない。「当然ダメージはあるが、まだ体力はある」(首脳)として、労働環境の改善に優先的に取り組む構えだ。
(3月4日、朝日新聞)

前々から指摘されていたことだが、事実が明らかになると、その膨大な人数と金額に目がくらみそうだ。対象人数にして7万6千人。1人あたり10万円でも76億円に上るが、恐ろしいことに同社横浜市内の支店で起き、記事でも触れている最近調停が成立した事案では、セールスドライバー2人が2年分で計577万円の支払いを要求していた。和解額は不明だが、数百万円であることは間違いなさそうだ。つまり、全体を見ても1人あたり10万円で済むような気配は無い。

こうした「違法残業天国」が放置されてきたのは、経営陣の無能や不道徳もあるが、労働組合の無力によるところが大きい。そもそも最大の原因は、ブラックぶりで知られる佐川急便すら投げ出したアマゾンの荷を、ヤマトの経営陣がロクに価格交渉もせずに安価のまま引き受けてしまったことにある。そのしわ寄せが違法残業となって現れている。佐川の惨状は最初から明らかだったのだから、労働組合側に十分な交渉力があれば、経営側に引き受けないよう圧力を掛けられたはずであり、組合の力である程度は回避可能な事案だった。

アマゾンを引き受けて残業地獄が始まってからも、本来であれば労働組合が職場を監督し、正規の残業手続きを行って、一分たりとも「サービス残業」をさせず、厳格に労働時間管理を行っていれば、現在のような「把握不能な残業」など生じるはずもなかったし、最初から数百億円もの残業代が計上されるのであれば、アマゾンとの契約を解消する選択肢が浮上した可能性もあるだろう。
資本に対する労働者個人の力は、まさに「象と蟻」ほどもある。労働者が提供できるのは、労働力しか無く、労働者が個人で対応する限り違法残業=無報酬労働を受け入れるか、退職するかの二択になってしまう。
だからこそ労働者が団結して、資本の横暴に対抗し、労働者が唯一提供できる「労働力」を結集して提供拒否するストライキが唯一の武器となり、その武器をカードに交渉するのが労働組合の重要な役割となる。とはいえ、伝家の宝刀は抜いてしまえば「それきり」という側面があり、抜かずに済めばそれに越したことは無い。だが、ヤマトの残業地獄は「ストをやらなかったこと=宝刀を抜かなかったこと」が招いた惨事であることも確かであり、「ストライキをやらない労働者は一方的に収奪される」というマルクスの指摘が正しかったことを示している。
1970年代以降、ストライキが減少したのは「戦後和解体制」が機能して、労使協調路線が成立したためだが、ソ連崩壊を経て同体制が解体されつつある中、労使の利害が一致しなくなっているわけだが、「平和」の時代が長かったため、労働組合は自らの役割を忘れ、戦力として機能しなくなっている。

なお、ヤマトの問題は「氷山の一角」に過ぎず、製造業などを除いて、特にサービス業では違法残業=賃金未払いの問題が、エベレストを超えるような規模で存在し、隠蔽されていると見られる。さらに言えば、現行の労働基準法が残業代の未払いについて2年の時効を設けているため、資本側は仮に10年間の違法残業を労働者に強いたとしても支払うのは2年分で済むだけに、「残業させ得」になっている。このザルのような労働法制を改正するのもナショナルセンターの最重要課題であるはずだが、連合からそのような要望を受けたことは一度も無い。
【47事業所で違法時間外労働 長崎労働局 県内88事業所を調査】
 長崎労働局が昨年11月に長崎県内88事業所を抜き打ち調査したところ、53・4%に当たる47事業所で、違法な時間外労働があったことが分かった。労働者を残業させるための労使協定(三六協定)を結んでいなかったり、協定があっても上限時間を超えたりしていた。14事業所では月100時間を超える残業が確認された。月80時間を超す残業で過労死リスクが高まるとされる。国は現在、月45時間を上限の目安としている。抜き打ち調査では、ほかに、賃金を支払わないサービス残業を10事業所で確認。過重労働による健康障害を防ぐ措置を取っていなかった事業所もあり、全体では81・8%に当たる72事業所が何らかの労働基準関係法令に違反していた。それぞれに是正勧告しており、改善されない場合は書類送検も検討するという。調査は、全国的な「過重労働解消キャンペーン」の一環で毎年実施。外部からの情報提供などを基に調査対象を選んだ。
(3月29日、長崎新聞)
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2017年03月28日

小池フィーバー続く

【産経・FNN合同世論調査 小池都知事の支持率79%】
 東京都の小池百合子知事の支持率が高水準を維持している。産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)の合同世論調査によると、支持率は2月の前回調査から1・8ポイント増えて79・3%に達した。無党派層よりも既成政党の支持層の評価が高いのが特徴で、民進党支持層では86・9%も支持がある。7月2日投開票の都議選に向け、民進党は小池氏への接近を試みているが、支持層の期待には応えられそうにない。
小池氏が事実上率いる地域政党「都民ファーストの会」は、小池人気を追い風にして都議会の単独過半数獲得を目指し、国政進出も視野に入れる。民進党は小池氏との対決を避けようと1月末に小池氏支持を表明し、都議会の会派名から「民進」の文字まで抜いた。だが、国政で自民党と連立を組む公明党が今月、小池氏と政策協定を締結し、本格的な選挙協力を進めている。民進党が苦しい立場にいるのは明らかだ。
 昨年7月の知事選で勝利した小池氏の支持率は、2020年東京五輪・パラリンピックの施設見直しに絡む質問だった平成28年12月の調査を除くと、常に8〜9割で推移している。今回の調査で、小池氏は女性の支持(84・3%)が男性(74・0%)よりも高く、全世代で8割を超える。地域別では、小池都政のお膝元の衆院東京ブロックが84・8%(前回比2・9ポイント増)と最も高い。民進党支持層に続き、公明党支持層(84・4%)も高く、小池氏との対決姿勢を強める自民党支持層でさえ8割が支持していた。
 「小池1強」状態が続くが、豊洲市場(東京都江東区)移転問題など世論の風向きが変わりかねない要因を抱え、予断は許さない。都議選の行方は国政に影響するだけに、政府・与党内では小池氏の勢いを封じる狙いから都議選前の衆院解散論がくすぶる。今後、野党各党の動きがさらに活発化しそうだ。
(3月21日、産経新聞)

10年前には「石原フィーバー」だったものが、「小池フィーバー」に変わっただけに見える。大阪では橋下、名古屋では河村とどこでも「それっぽい改革派」が大衆から圧倒的支持を受けて政権を担うが、上手くいった例しがない。大阪でも名古屋でも、好き嫌いは別にして、市長個人の能力は高いかもしれないが、自身を支持する政権与党を立ち上げると、恐ろしく低レベルの議員が乱造される傾向にある。名古屋の「減税日本」などは一期目の途中で空中分解してしまい、今では見る影も無い。だが、河村市長は、以前よりは劣るものの変わらない人気を誇っている。その一方で、名古屋市議会は、従来の利権屋や腐敗政治家がほぼほぼ復活しており、結局のところ何が変わったのか見えてこないところがある。

恐らくは、東京も大阪、名古屋に追随して、7月の都議選で小池新党が半数前後の議席を得るかもしれないが、その水準はあまりにもお粗末で酷い劣化ぶりを示すだろう。これらに共通するのは、「改革」「既得権益の打破」など共通する宣伝文句の割に、「何をどう改革するのか」「何が既得権益で問題なのか」がハッキリしないため、結局のところ「誰が敵で、どこを着地点とするのか」分からないまま、その場凌ぎの対応に終始してしまうからだと思われる。

小池知事も豊洲を争点にしたは良いものの(記事執筆後、豊洲を争点にしない旨の会見がなされた)、その本質である五輪利権に伴う築地開発利権こそが「真の敵」(腐敗)であることと、新市場をどうするかという問題を明確にしない限り、結局のところ騒ぐだけに終わるだろう。一時的な人気は得ても、実質的に出来ることは限られそうだ。

この点、民進党はさらに酷く、当初移転に反対していた旧民主党は、最後の最後で内部分裂を引き起こして一部賛成に回った経緯があるだけに、「戦犯の張本人」になってしまっている。先日の百条委員会で質問していたのは、かつて都知事選で石原氏を応援していたものであったことからも、かつて「聖戦貫徹」と叫んでいた主戦論者が戦後になった途端に「平和主義者」に転じてしまったのと同じいかがわしさを覚える。
そもそも小池改革を支持するなら、小池新党に投票するだけの話であり、わざわざ「小池改革を支持する民進党」に投票するのは愚かなだけだろう。だからこそ都議選の候補者がこぞって離党して小池新党に向かう現象が起きているのだが、むしろ合理的な選択と言える。
【都議選、民進から5人目の離党者 小池新党の公認予定に】
 7月の東京都議選に向けて、民進党が公認予定者として発表していた新顔の内山真吾氏(37)=東京都昭島市議=が、21日に離党を届け出たことがわかった。民進は36人の公認予定者を発表していたが、これまでに4人が離党届を出しており、内山氏で5人目。うち3人はその後、小池百合子知事を中心とする地域政党「都民ファーストの会」の公認予定者になった。内山氏も都民ファーストの支援を求めるとみられる。内山氏は民進の東京都連幹事長を務める長島昭久衆院議員の元秘書。取材に対し、「党勢が回復せず、民進に所属し続けることに疑問を感じた」などと述べた。都民ファーストとの連携については「選択肢の一つ」と話している。
(3月22日、朝日新聞)
posted by ケン at 12:40| Comment(2) | 政局ほか | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年03月27日

忖度と斟酌の違いを考える

森友疑獄に絡んで「忖度と斟酌は何が違うのか」という質問を受けたので考えてみたい。まず辞書的に言うならば、忖度は「他人の気持ちを推し量る」で、斟酌は「相手の事情を考慮に入れる」になる。今少し踏み込むと、忖度は「明確な要求や主張があったわけではないが、特定の誰かの気持ちや希望を推量する」であり、斟酌は「要求や主張の有無に関係なく、何らかの行動を起こす上で、特定の誰かの希望や気持ちを考慮する」という感じだろうか。
用例を見てみよう。まず忖度から。
先生の博士問題のごときも、これを「奇を衒う」として非難するのは、あまりに自己の卑しい心事をもって他を忖度し過ぎると思う。先生は博士制度が世間的にもまた学界のためにも非常に多くの弊害を伴なう事実に対して怒りを感じた。
和辻哲郎「夏目先生の記憶」

山へ遊行するにも此かくの如き有様であるから、登山になれた我々の感情によつて、祖先達の山の感情を忖度することはできない。
坂口安吾「日本の山と文学」

一体防衛庁の予算というのも少しでたらめですね。債務負担行為が非常に多くなったり、繰り越し明許に全部使ってみたりして、それは、実につかまえにくいアメリカの気持ちを忖度して、その上に立った予算だからなんです。
1963.12.4 衆議院予算委員会 淡谷悠蔵議員(日本社会党、のり子の叔父)の質問

次に斟酌。

私は、年少の友に対して、年齢の事などちっとも斟酌せずに交際して来た。年少の故に、その友人をいたわるとか、可愛がるとかいう事は私には出来なかった。
太宰治「散華」

なおこの土地に住んでいる人の中にも、永く住んでいる人、きわめて短い人、勤勉であった人、勤勉であることのできなかった人等の差別があるわけですが、それらを多少斟酌しんしゃくして、この際私からお礼をするつもりでいます。
有島武郎「小作人への告別」

在監者には、朝、昼、夕三回とも、米麦をたしか四・六の割合で、一回ごとに八百カロリー、計二千四百カロリーですから、国民の最低のカロリーはまあ保有しておると思うのです。ところがこれに関連して、三十四条を見ますと、「在監者ニハ具体質、健康、年齢、作業等ヲ斟酌シテ必要ナル糧食及ヒ飲料ヲ給ス」こういうふうに明記してあるのですが、実際こういうふうに、体質とか、健康状態等々によって斟酌して、量を斟酌をして、そういう配慮を実際なされておるのですか。
1960.2.18 参議院内閣委員会 伊藤顕道議員(日本社会党)の質問

学術研究であれば、膨大な使用例を精査する必要があるが、そこはブログという媒体であることを斟酌していただきたい。
つまり、忖度も斟酌も、「他者の背景、事情、気持ちを考慮する、そして可能であれば行動に反映させる」という意味があるのだが、斟酌の場合は背景事情や気持ちが明示されていることが多いのに対し、忖度は明示されていない背景事情や気持ちを推量することに重点が置かれている。
また、文学表現の場合、忖度は必ずしも行動には結びつかず、単に推量に止まることもあり得るが、政治上で使用する場合は推量と行動が直結しているケースが多いようだ。推量するだけでは、政治上の要請に応じられないからだろう。

森友疑獄に際して、斟酌では無く忖度が使用されるのは、便宜供与を求める森友学園や、仲介者となったであろう総理夫人などが具体的な要求をせず、「願望」や「問い合わせ」を行政側に伝え、行政側は慣例に従って政治的要求に従って政治的配慮から行政の裁量権を行使したことに基づいている。

蛇足になるが、忖度は日本の伝統芸ではない。例えば、スターリン体制下の大粛清などは「忖度」が超大規模で行われた結果起きた大惨事だった。そもそも発端となるキーロフ暗殺からして、スターリンの命令では無く、スターリンの感情を「忖度」した治安機関などが勝手に実行した可能性が高い。そして、その後起きた大量粛清も、一々スターリンが具体的に指示したわけではなく、スターリンの恐怖、願望、妄想を忖度した治安当局(エジョフあるいはベリヤ)が粛清リストをつくり、実行していったのである。現代ロシアで起こっている反体制派などに対する暗殺も、プーチン大統領らの意向を忖度して行われている可能性が高い。スターリンにしても、プーチン氏にしても、容易に自らの意思を明らかにしない人物なのだ。但し、チトー暗殺を始め、明確に指示を出した例も散見される。
例えば、スターリンが「フルシチョフ同志の御母堂は確かポーランド人だったな」と言っただけで粛清対象になりかねなかったので、フルシチョフは顔を真っ赤にして全身汗だらけになって全力で否定しなければならなかった。

日本に戻せば、今国会で審議される共謀罪の恐ろしいところは、権力者の意向を忖度した警察が、明確な犯罪容疑や捜査目的も無く、あらゆる市民を監視下、捜査対象にすることを可能にするシステムであることにある。
もちろん、現在でも大手メディアを見れば一目瞭然で、官邸が具体的な情報統制を行わずとも、メディア側が勝手に忖度して政権に不利な情報は隠蔽する態勢になっているので、せいぜいのところ「ファッショにまた一歩」でしかないのだが。
posted by ケン at 12:09| Comment(0) | 日本語、日本史 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年03月25日

Combat Commander:まだ教育中

T後輩にCombat Commanderを教育中。前回は基本ルールを確認するので精一杯だったので、今回は高低差のある地形、迫撃砲、砲撃(砲兵支援)地中海などを試してみることにした。

最初は、1943年ヴェリーキー・ルーキ戦。赤軍の包囲下から夜間脱出を図る独軍歩兵小隊のシナリオ。ソ連軍は、独軍の2倍以上の兵力を有するが、指揮混乱中で手番毎に1つしか命令できない。対するドイツ軍は捨札を選択しても1枚しか捨てられない上、いかんせんユニットが少ないので、除去され始めるとどんどんジリ貧になってしまう。後輩氏がソ連軍、ケン先生が独軍を担当。
初回は、赤軍指揮官が配置されなかった端の方から、独軍が闇にまぎれて突破を図り、ソ連軍分隊を1つずつ撃破、中央に配置された機関銃チームは煙幕で無効化され、ソ連軍は援軍も間に合わずに独軍の脱出を許してしまう。

同じシナリオでもう一度プレイするが、今度はソ連軍はマップ両端に戦力を手厚く配置し、中央に重機を置いた。独軍は中央突破を図るが、途中で移動カードが全く来なくなってしまい、そこに赤軍がスタック・オーバー無視の白兵戦を次々と仕掛け、損害過多で独軍がサドンデス敗北を喫した。

2番目のシナリオは、シナリオ集「Fall of the West」から、1940年5月、マーストリヒト郊外。オランダに降下した独降下猟兵がベルギーに通じるマース河畔の橋を占領、これに対しベルギー軍が奪還を試みる。今回も後輩が白軍、私が独軍を担当。
ベルギー軍は、フランス軍のユニットとカードを使う。ユニットの評価は「ソ連軍よりはマシ」程度だが、いかんせん指揮硬直が激しく、捨札で1枚しか捨てられない(独軍6枚、赤軍3枚)。これは、現場指揮官の自由裁量をシミュレートしたルールのようだが、ソ連軍より硬直的な軍隊って・・・・・・
独軍は、今度も戦力で半分、しかも防御側なのに重機もなく、援軍が到着するまでどこまで持ちこたえられるかがポイントとなる。もっとも、連合軍側も戦力で勝ってはいるものの、独軍は家屋に立てこもって道路を扼しているのに対し、ベルギー軍は平地や畑に全身をさらしているような状態で始まる。
案の定、ベルギー軍は地雷や鉄条網に阻まれて軽機関銃に撃たれまくり、続々と屍を積み上げる。キルレシオで1:5くらいになり、ベルギー側は完全に攻撃力を喪失、独軍の勝利は間違いないように見えた。が、ここで私はサドンデス勝利を確定させようとして、(防御側なのに)敢えて白兵戦を仕掛けてしまい、逆撃を食らって全滅、まさかの損害過多によるサドンデス敗北を喫してしまった。VP的には20点以上勝っていたはずなのだが・・・・・・教育しようとして教育されてしまった。
しかし、やはり一枚しか捨札できないのはストレスが溜まるようだ。

P1250465.jpg

3番目のシナリオは、シナリオ集「Paratroopers」から、1944年6月10日、カランタン近郊。カランタンは、上陸地であるユタ・ビーチに向かう道とシェルブールに向かう幹線道路を有する重要拠点で、早期攻略を目指して101空挺師団が降下した。だが、ドイツ側も降下猟兵の精鋭を守備に充てており、砲兵支援を受けつつ、反撃に転じる。米空挺団は、降下から4日経ち、すでに迫撃砲弾を撃ち尽くしていた。
CCでは、個々のユニット評価では米軍が最も高く(装備が良い)、その中でも精鋭の空挺隊員であるだけに、信じられないような数字がついている。対する独軍も精鋭の降下猟兵が中心だが、比較すると劣ってしまう。ユニット数的にはほぼ同数。今回もT後輩が米軍、ケン先生が独軍を担当。
ボカージュ・生け垣など、視線を妨害するヘクスサイド地形が多いものの、基本的には平地が多く、守りづらいマップ。開始早々、ドイツ軍の10.5cm砲が猛威を振るい、前方で防御していた米空挺団は次から次へと吹き飛ばされてしまう。米軍はかろうじて残存兵力をまとめて、ドイツ側の迫撃砲陣地を撃破するも、ドイツ軍らしからぬ砲弾の大振る舞いで、敗走を続け、なすすべ無く投了した。
防勢寄りの米軍が前方に配置しすぎたことが大きいとはいえ、ドイツ側も常に良いタイミングで砲撃要請カードが来たので、完全にバランスが崩れてしまった。
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2017年03月24日

江戸武士の収入を考える

母上から「わが先祖の収入は今の価値にすると、どの程度だったのか?」との下問がなされ、奉答したので、補足しつつ、ここに記しておきたい。「西南戦争の原因を考える」の補足でもある。

幕府御家人だったわが家の正確な石高は分からないが、どうやら百石超の御家人だったらしく、仮に120石とする。幕府の御家人は基本的に「出世」はしないものの(固定役職)、勤務実績に応じて200石程度までは加増された模様。これはあくまでも生産高なので、これに税金「四公六民」が加算され、年貢収入は80石となる。一石は米150kgなので計1万2千kgとなる。もっとも、これは「大名家の模範」たらんとした幕府のみの例外で、他の諸藩では「五公五民」や「六公四民」が一般的だった。
無役だとこれが全収入になるが、わが家は四谷見附の与力役を拝領しており、その役料は150俵と仮定する。一俵は米60kgなので、計9千kg。家禄と合わせると、21トン、4トントラック5台分という量になる。
現代では米10kgで5千円程度だが、これは暴落気味。とはいえ江戸期も時代を経るにつれて米価が低下しているので、一概には言えないが、仮に1万円で計算すると、2100万円となる。自分が考えていたよりも、はるかに裕福だったように思える。
現実には「搗減り」(米を搗くなどの食用処理した際に生じる目減り)などの要素を加味する必要がある様だが、ここでは省略する。

だが、現実には100石超級の家には「槍持1人、中間1人」の常備軍役が課されており、その人件費を含めての家禄である上、下女・下働きの給与も必要だった。また、役料は経費の意味もあり、これで10人以上の家族と家来を養い、職務上の経費も賄う必要があった。そう考えると、当時の人件費は非常に安かったことを考えても、「裕福」とまでは言えない気もする。
ちなみに、江戸後期の中間の給料(年給)は3〜5両、下女の給料は2〜4両。計算し直すが、家禄と役料を合わせた実収入は140石で、このうち60石程度が日常生活で消費され、残りを売却して現金化する。1石1両で換算すると、80両が与力家の「手取り」となり、ここから給金が支払われる。給金の合計を20両とすると、段々苦しくなってくる。

ただ、伝え聞くところでは、地代収入や運上金などもあったようだ。これは家禄とは別に家で所有する土地や権利などから得られる現金収入で、これがそれなりの金額になったようだ。わが家の場合、内藤町あたりに家を構え、中野に相応の土地を有して小作等に貸していたと見られる。
さらに江戸期には「付け届け」が「文化」として横行しており、役職によっては馬鹿にならない額になった。町奉行所などの場合、家禄+役料以上の収入にもなったと言われる。わが家の場合、見附与力という、現代で言うところの「税関課長」に相当するものであるため、やはり相当な額の付け届けがあったと考えられる。
完全に推測でしかないが、上記の「手取り」分と同等額=80両の「その他収入」があると考えると、家人への給金を支払った上で140両が手元に残ることになる。1両は、現代の価値に直すと10〜15万円に相当するので、私が最初に抱いた「裕福」水準に戻ってくる。

なお、幕臣の場合、旗本は婚姻に幕閣の許可が必要だったが、御家人はさほどうるさくなかったようで、わが家の場合、江戸期最後の当主は本郷の米問屋の娘を、前当主は福生の町医者の娘をもらっている。戦略的に町人との通婚を進めることで、殖財と人的ネットワークの構築に努めていたものと見られる。故に、私も人から結婚相談を受けたときは、「フローよりもストックを重視しろ、貧乏人とは絶対に結婚するな」とアドバイスしてきた。
その甲斐があってか、わが家は、御一新でも落剥することなく、敗戦をも乗り越え、私の学費まで余裕があった。
江戸期最後の当主(高祖父)は、どうやら新設の東京市にも出仕していたようだが、息子(曾祖父)を新設の早稲田大学(東京専門学校)に入れ、日本銀行に就職させている。こうした柔軟な思考と適応能力も、わが一族の「家風」なのかもしれない。

以下は補足になる。わが一族が裕福だったのは、幕臣である上に「おいしい役職」にあったためで、同じ家格の武士がみなこうだったとはとても言えない。
一般的には、江戸中期以降、幕府を始め、どの藩も財政危機に陥り、大半の藩で「家禄の借り上げ」が行われた。これは実質的な「賃金切り下げ」で、家禄の3分の1から半分が藩政府に召し上げられた。
例えば、同じ120石の与力家で考えた場合、実支給額60石、「五公五民」で手取り30石になってしまい、役料がない限り、中間や下女はおろか家族を食わせることにも苦労する状態にあったことを示している。

また、時代小説に良く出てくる「30俵二人扶持」の場合、30俵+日1.5kgの米で約2350kg、年235万円となり、現代のアルバイト並みの給与だったことが分かる。
posted by ケン at 12:25| Comment(3) | 日本語、日本史 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする