2018年01月10日

集団的自衛権解禁から対外攻撃能力保有へ

【護衛艦「いずも」を空母改修=政府検討】
 政府は26日、海上自衛隊最大級の護衛艦「いずも」(写真)を戦闘機の発着が可能な空母に改修する検討に入った。自衛隊の空母保有は初めて。
(12月26日、時事通信)

【長距離巡航ミサイル国産化 政府検討 34年度に試作品】
 政府が敵基地攻撃能力の保有も視野に入れ、長距離巡航ミサイルの「国産化」を検討していることが27日、分かった。平成34年度の試作品完成を目指す。政府は米国などから長距離巡航ミサイルを導入する方針を固めているが、緊迫する北朝鮮情勢や中国の海洋進出に対処するには、独自開発による防衛力整備も必要と判断した。装備品の海外調達費を抑え、国内防衛産業の成長を促す狙いもある。複数の関係者が明らかにした。
 政府は30年度予算案に米国製とノルウェー製の長距離巡航ミサイルの調達費を計上した。米国製は900キロ、ノルウェー製は500キロを誇る。
 防衛省幹部は「長距離巡航ミサイルを持つことで、敵の脅威圏外からの攻撃が可能になる。空自パイロットの安全性は格段に増す」と説明する。
 一方、自衛隊が保有する対艦ミサイルの射程は約170キロ。技術的には長距離巡航ミサイルの国産化は可能とされていたが、「専守防衛」の立場から開発は見送られていた。
 これに対し、12日に開かれた自民党安全保障調査会(中谷元会長)などの会合では「長距離巡航ミサイルを保有するなら国産化も検討すべきだ」との声があがった。
 党国防族は「これまでは『専守防衛の範囲を超える』という批判に配慮してきたが、北朝鮮情勢などで局面は変わった。敵基地攻撃能力につなげるためにも国産化は自然な流れだ」と指摘する。
(12月28日、産経新聞)

戦前とは形態が異なるものの、少しずつ国家の「タガ」が外れてゆく様が見られる。
まず1990年代に海外派兵が解禁されたことを手始めに、2000年代には海外における軍事行動の一部が解禁されて国連以外の枠組みでの派兵も可能となった。そして、2010年代には特例法の必要無しに恒常的な海外派兵が許可されると同時に、集団的自衛権の行使をも容認するところとなった。そして今、集団的自衛権行使を前提とした軍備拡張が進められている。

記事にもあるヘリ搭載型護衛艦は、予算が審議された当初から「空母運用に繋がり、攻撃能力の所持になってしまう」との危惧が上がっていたが、政府・防衛省の説明は「空母運用は想定していない」の一点張りだった。
あれからわずか数年(「いずも」の予算は2010年度)で前言を翻したのだから、議会の権威はますます低下し、行政への権力集中が進む一方となっている。

空母も長距離巡航ミサイルも、本質的には先制攻撃を前提とした攻撃兵器であり、自国の領海や領土外を叩くことを目的に設計される。
政府は、北朝鮮の脅威を理由に挙げているが、それはアメリカの偵察衛星からの情報を受けた日本が先制攻撃を加えて、北の核やミサイル発射能力を先制攻撃で潰すことが前提となる。こうなってくると、ほとんど現行憲法は実質的に廃棄されたも同然となるだろう。つまり、次の憲法改正はこうした先制攻撃を許すための修正が必要となる。

また、現実には日本が想定している攻撃能力で北朝鮮の攻撃能力を無効化することはほぼほぼ不可能であり、「北朝鮮を叩くためにこれらの軍事力が不可欠」という防衛省の説明は、一見合理的に見えて、実質が伴っていない。
となると、やはり実際には、尖閣沖や東シナ海、あるいは南シナ海で中国海軍と戦うことを前提としていると考える方が合理的だろう。

他方、独自の防衛力を高めるということは、政府・自民党側も「日米安保の抑止力の低下」を認識していることを示しており、あるいは「日米同盟後」までにらんでいるのかもしれない。だが、国力が低下する中で、中国、ロシア、北朝鮮を仮想敵とした軍備を整えるのは無謀な話であり、だからこそアメリカににらまれながら対露外交を続け、今度は対中宥和を試みるといった話になっているのだろうが、どうにも「泥棒を捕らえてから縄を綯う」の観が否めない。

【追記】
今後、日中の経済格差が拡大していくと、日本ももた北朝鮮を倣って核武装を検討することになる公算が高い。
posted by ケン at 12:20| Comment(2) | 外交、安全保障 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年01月09日

女性議員が少ないワケ

【野田聖子氏「政治分野が一番、出遅れている」 「女性議員増」への協力を要請】
 野田聖子女性活躍担当相は18日、自民、公明両党の幹部と個別に会談し、国会や地方議会で女性議員を増やすため、各選挙で女性候補者を積極的に擁立するよう要請した。
 野田氏は一連の会談で「政治分野が一番、女性の活躍で出遅れている」と指摘。スイスの「世界経済フォーラム」が11月に発表した2017年版「男女格差報告」で、日本は前年より順位を3つ下げ、144カ国中114位となったことなどを踏まえ、女性議員が活躍しやすい環境づくりを進めるよう求めた。
 自民党の萩生田光一幹事長代行との会談後には、記者団に「政治は男性の仕事という固定観念があり、女性がする仕事というイメージがないところに(女性)候補者が立てられない理由がある」と憤ってみせた。
(12月19日、産経新聞)

「親の七光り」と自民党地盤の強い岐阜で苦労せずに当選し続けてきた野田氏ならではの発言だろう。
日本で女性議員が少ないのは、「擁立者が少ないから」ではなく、そもそも希望者が少なく、なり手の基盤が脆弱すぎることに原因がある。そして、その根幹には働き方の問題がある。

国会議員の働き方一つ考えても、日本の議員のあり様は尋常ではない。
例えば開会中であれば、朝7時に駅頭に立ち、その足で上京、議会に出席し、党の会議に出た後、夕方の新幹線で地元に帰って支援者の酒席をハシゴ、深夜に帰宅するという一日は非常に典型的だ。また、土日もありとあらゆる地元行事やイベントを朝から晩までハシゴするため、休日などは存在しない。
日本の国会の場合、議会の日程も議院運営委員会などの与野党協議で決定されるため、前日とは言わないまでも二日前や三日前に質問を割り振られることなどザラにある。結果、夜半まで官僚からレクを受けたり、質問答弁の調整を行ったりすることになる。
つまり、およそ常人には務まらない激務であり、肉体的条件において男性に劣る上、子育てや家事などの負担も大きい女性は、候補者選定の段階で相当に不利な状況にある。

これが欧州の場合、かなり異なる。選挙は基本的に比例代表選挙で政党単位かつ国単位や大きな選挙ブロック単位で行うため、比例名簿に掲載された候補者が必死に地元活動を行う必要は無く、まして平素から有権者の酒席をハシゴするなどという「活動」はあり得ない。そのため、議員は議会活動と党活動に専念できる。具体的には「朝の駅頭立ち」と「夜の酒席」は必要ないため、少なくとも肉体的ハードルはかなり低下する。
また、欧州では議会期制が導入されている国が多く、日本のように2カ月とか半年などの短い会期ではなく、4年ないし5年の任期中が全て会期となるため、日程闘争が行われず、かなり事前に委員会質問がセッティングされるため、余裕を持って準備できる。この点も「誰もが議員になれる」環境だろう。

日本の場合、民間企業と同様に国会議員も「24時間働けますか」という条件が課されており、それを満たせる者しか続けられない。民間企業で女性の役員がいつまで経っても増えない理由も同じで、民間企業や公共機関で女性のキャリアが増えず、議員になる前提条件も過酷であるため、候補者の裾野も議会の入口もどちらも非常に厳しいものになっているのだ。
まずは残業を原則禁止とし、誰もが9時5時で帰れる社会を実現しない限り、ジェンダー問題が解決に向かうことは無いであろう。
posted by ケン at 13:00| Comment(0) | 憲法、政治思想、理念 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年01月06日

労働生産性の低さが意味するもの

【日本の労働生産性 OECD35カ国中で20位】
 日本生産性本部は20日、2016年の労働生産性の国際比較を発表した。時間当たりの労働生産性(就業1時間あたりの付加価値)は、日本が前年比1.2%上昇の46ドルだった。国内総生産(GDP)が拡大した一方、1人当たりの労働時間が減少したためで、増加は7年連続となった。
 しかし経済協力開発機構(OECD)平均の51.9ドルは下回っており、加盟35カ国中の順位は20位で昨年と同じだった。先進7カ国(G7)でも最下位が続いている。
 1人当たりの年間の労働生産性は8万1777ドルで、OECDでの順位は昨年と同じ21位。3位の米国(12万2986ドル)の3分の2の水準にとどまっている。
 同本部では化学や機械などの分野で米国の生産性を上回るなど、製造業では競争力があるが、小売業や運輸業などサービス産業で米国の半分程度しかないことが日本の生産性全体を低くしているとしている。
 今回の結果について東洋大学の滝澤美帆教授は「日本の生産性がG7で最下位なのは極めて深刻だ。能率改善などの取り組みよりも、日本の稼ぐ力を強化することでの生産性向上が重要だ」と強調する。
(12月20日、産経新聞)

労働生産性が低いのは、「生産力が上がらない」「労働力の投入量が多すぎる」ことに起因する。GDPが上がらないのは、低収益の企業が倒産せずに温存されているためだが、それは補助金や公的金融機関が充実していることと、労働基準法が機能していないことに起因している。そして、低収益企業は低収益をカバーするために、人件費を抑制しつつ、長時間労働を強いるため、さらに労働生産性が低下する構造になっている。他方、高収益の企業はAI/ロボット化を進めるため、労働生産性の格差が拡大する一方なのだが、日本では外国人技能実習制度に象徴されるように、政府・自治体と銀行と企業が一体となって低収益企業を温存、負のスパイラルに陥っている。

マクロで見た場合、日本のGDPは1996年が525兆円(名目)、450兆円(実質)で、2016年は537兆円(名目)、521兆円(実質)で、20年間で2%(名目)、15.7%(実質)の成長となっている。これに対し、アメリカは229%(名目)、158%(実質)に成長している。
一方、労働力の投入量を見た場合、日本は1996年の就業人口が6486万人、2006年で6465万人。総実労働時間は1996年が年間1912時間に対し、2014年で1729時間。ただ、労働時間は就業者全体の数字であり、正社員に限ると2000時間に達する上、サービス残業や自主的休日出勤は数えられていない。
これに対してアメリカは、就業人口が1996年で1億2672万人で、2016年が1億5144万人。総実労働時間は約1800時間のままで推移している。
結果、日本の労働生産性はOECD諸国で20位に対し、アメリカは3位となっている。
公的融資機関、政策減税、各種補助金が、市場の自由競争を阻害し、本来退出すべき不採算企業をゾンビ化させて生き残らせ、経済成長を低迷させている。この点、倒産の無い国営企業群が経済成長を阻害した社会主義国と似ており、公的融資機関、政策減税、各種補助金の縮小、廃止は不可欠だろう。実際、「福祉国家」と言われながら、いまも経済成長を続けているスウェーデンには、この類いのものは存在しないという。
そして、政治家が企業と官僚を仲介し、官僚が減税・補助金を出し、企業が官僚の天下りを受けつつ政治家に献金する、という「腐敗のトライアングル」が日本の成長を阻害して社会をむしばんでいる。旧民主党は、その初期にその打倒と改革を謳っていたはずだが、今では完全に取り込まれてしまって、見る影も無い。

低収益・不採算の企業が生き残るということは、市場適性の低い、無能な経営者がトップに居座り続けることをも意味する。アメリカの場合、トップが天文学的報酬を得る一方で、要求される水準を満たせなければ即クビにされる。日本の場合は、企業の存続を揺るがすほどの事態でも起きない限り、経営者の責任が問われることは無い(核惨事ですら責任は問われなかった)。そのため、企業内の昇進も、能力では無く、派閥や政治力学で行われる。その結果、東電、東芝、シャープなどを見れば分かるとおり、無能な執行部が適切な対応を打てずに、延々と責任回避に終始する始末になっている。

また、日本のサービス業に象徴される通り、低価格・低収益の飲食店や小売店が乱立しているため、供給過剰となって低価格化に拍車が掛かると同時に、労働力不足が常態化している。そして、低収益であるが故に収益を上げるためには「薄利多売」する他なく、さらに出店を増やし、長時間労働を強要、低価格化と労働力不足を加速してしまっている。その労働力不足を解消するために、政府は外国人「留学生」と「技能研修生」を動員しているが、本来市場から退出すべき低収益事業を存続させ、低価格化を加速させ、労働市場の劣化(賃金低下と長時間労働)を招くだけに終わっている。
日本型ペレストロイカに必要なもの、そして失敗する理由

これを解決するためには、低収益・不採算企業の市場退出を促進させつつ、労基法の適用を強化したり、三六協定を廃止して残業を原則禁止するなどして、長時間労働や休日出勤あるいはボランティア労働を抑止する必要がある。
例えば、東京マラソンの場合、約1万人のボランティアが運営を担っているが、そのうち自発的に応じたボランティアは半分程度で、残りの半分はスポンサー企業などからの勤労動員による「ボランティア」で賄われている。つまり、公募で足りない要員を、スポンサー企業が社員に強制的に有給休暇を取らせてボランティアに応じさせているのが実情で、低生産性の象徴的事例と言える。

「なすべきこと」は明確なのに何もしないのは、政治の怠慢でしかない。
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2018年01月05日

日本政府曰く、北は崩壊寸前

対北船舶検査で米「圧力を強化」
 マティス米国防長官は29日、米国防総省で記者団に対し、北朝鮮船舶による公海上での石油密輸が問題視されていることに関し、国連安全保障理事会による北朝鮮制裁決議で密輸に関与した疑いのある船舶への検査が加盟国に義務付けられたことなどを受け、「北朝鮮への圧力はさらに強化される」と述べた。米軍として今後、船舶検査を実施するかどうかについては明言しなかった。また、北朝鮮が要求している米韓合同軍事演習や日米合同訓練の一時停止に応じることはないとした。
(12月31日、産経新聞)

官邸に近い人は、経済制裁の効果は上々で北は早々に根を上げるだろうなどと言うのだが、どうにも自分が得ている情報と話が違いすぎる。
まず仮想通貨で決済するご時世に、既存の口座凍結など役に立たない。また取引する企業もペーパー化、仮想化されているので、2年前の情報で制裁対象にされた企業などは、制裁発動時にはすでに存在しないことが多いという。北ではすでに国民の2割前後がスマホを携帯し、国内専用イントラネットやネット通販網まで整備されているとも聞く。日本政府の認識は、「国民政府は一撃加えれば必ず降伏する」と考えていた1937年頃のそれから全く進歩していない。官邸が率先して戦争をやりたがっているところも同じ。
それに乗っかるマスゴミも同罪。まぁ中国崩壊論や韓国崩壊論も、十年以上延々と言われているし(爆)

あ〜早く逃げたい〜
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2018年01月04日

12、1月の読書(2017、18)

特別国会も終わって余裕ができたので、ようやくじっくり読書に勤しめるが、気づいてみれば戦史ものばかりになっていた。まぁいいんだけど。

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『大日本帝国最後の四か月−終戦内閣“懐刀”の証言』 迫水久常 河出書房新社(2015)
終戦時の鈴木貫太郎内閣で書記官長を務めた著者が、1945年4月から8月を回顧している。1973年に刊行されて以降、歴史研究の最重要な一冊となっている。文庫化されたのは有り難い。『日本のいちばん長い日』でも重要な脇役として出てくるが、元々は薩摩閥で超のつく大蔵エリート。1973年に米国で制作された大ドキュメンタリー『秘録・第二次世界大戦』に出演して日本側の証言をしているが、ペラペラの英語で淀みなく話していたのが印象的だった。戦時期には社会主義的統制経済の推進者でもあった。ただの回顧に終わらず、自らの記憶と当時の資料や他者の証言を緻密に照らし合わせながら事実関係を積み上げており、かつ主観と客観も明確に分けて記述されていて、信頼性の高い回顧録となっている。それにしても40歳で大蔵総務局長、43歳で書記官長(現在の官房長官に近い)とは、当時の出世の早さに改めて驚かされる。

『「終戦」の政治史 1943-1945』 鈴木多聞 東京大学出版会(2011)
若手研究者による博士論文で、終戦時の政軍指導者たちの対立を、従来の「聖戦貫徹か講和か」という視点に疑問を呈し、昭和帝を始め、各派・各人の主張や考えを改めて精査して本当の狙いがどこにあったのか再検証を試みている。今日では「一億総玉砕」の権化だったように思われている陸軍の強硬派も、実は「ソ連の仲介を頼むためには一戦して勝利する必要がある」「国体護持の条件を確実にするためにも一勝する必要がある」といった具合の主張であったことが認識させられ、興味深い検証になっている。博士論文の割には読みやすいが、相応の知識が無いとついて行けないのも確か。

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『東部ニューギニア戦』(進攻篇、全滅篇) 御田重宝 講談社文庫(1988)
ソロモン諸島ガダルカナル攻略戦と併行して進められた、ポートモレスビー攻略戦(スタンレー山脈越え)と連合軍の反撃を受けたブナ・ゴナ戦の記録。スタンレー越えでは1万1千人からの南海支隊のうち7千人が戦病死し、ブナ・ゴナ戦では増援を含めてさらに7千人が戦病死して文字通り全滅している。中国新聞社の記者だった著者が、福山の歩兵第41連隊の生き残りから取材し、丹念に手記をさらい、公的記録と照らし合わせて記述している。取材が多いため、どうしても軍に批判的な記述になっているが、逆に当時の上層部のダメさ加減や、小岩井少佐のような現場指揮官の優秀さ、あるいは従軍した兵卒の率直な気持ちが反映されている。もともと「PM攻略用に偵察を兼ねて前進陣地をつくれ」旨の曖昧な命令だったものが、参謀本部(辻!)などの介入によって、「山さえ越えれゃあモレスビーまで走って下りるだけだろ」くらいの話になって、「攻略命令」になってしまった経緯は、あまりにも現代に通じる。ちなみにスタンレー山脈は4千メートル級である。普通に読んでいるだけで生きた心地がしない。

『自決―森近衛師団長斬殺事件』 飯尾憲士 光人社NF文庫(1999)
昭和20年8月15日未明に起きた宮城占拠クーデター未遂事件の一環となった森近衛師団長惨殺事件。名作『日本のいちばん長い日』は殺害者を「黒田航空大尉」としているが、この人だけ敢えて実名を伏せて名を変えているのは何故か。当時、航空士官候補生として埼玉県豊岡(現入間)の学校に在籍した著者が、上官や先輩を訪ねて全国を回り、小説とは異なる同事件の実相や関係者の実像に迫る異色の作品。特に岡本版映画は、陸軍関係者から「オレ達あんなに狂っていねぇ!」と悪評だったそうだが、旧軍批判がまだ根強かった当時の世相の中でかき消されたようだ。

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『日中戦争全史』(上下) 笠原十九司 高文研(2017)
「ロシア革命100周年」がそれなりに盛り上がったのに対し、「日中開戦80周年」は日本では殆どスルーされた観がある。そんな中で本書は数少ない80周年の成果だろう。日本における南京事件研究の第一人者と言える著者による日華事変・日中戦争の通史。通史とは言え、著者は戦争の根源を「対華21カ条要求」に求めていることから、記述は1915年から始まる。実際、青島攻撃、シベリア戦争、山東出兵、済南事件、張作霖爆殺事件、柳条湖事件等々、本格的な戦争になっていなかっただけで、日本による対中侵略は継続的に進められていた。本書の特徴の一つは、日中間の記述に止まらず、「世界史における日中戦争」という観点から俯瞰している点にあるが、全体としては大部ではないため、詰め込むところと省いているところのバランスがいささか悪いようにも見える。もう一つは、著者の従来からの主張である「陸軍悪玉論」を排し、「むしろ海軍が陸軍を戦争に引きずりこんだ」とする点で、海軍が資源と予算を獲得しつつ、兵器実験場や実戦訓練場を確保する目的から日中戦争を推進したとする説を論じている。大山勇夫大尉事件の陰謀論を強調し過ぎるところがマイナスになっているが、海軍が様々な理由から日中戦争を主導したことは、どうやら間違いないようで、それが故に終戦時に阿南陸軍大臣が自害する際の「米内を斬れ」に繋がったとケン先生は推測している。わが一族では、海軍の大伯父が支那派遣艦隊参謀長として重慶爆撃を指導、陸軍の大伯父は関東軍の情報将校として対ソ諜報を担った。他にも日中戦争に関係した先祖がいると思われるが、話は聞いていない。

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『甦るニコライ二世―中断されたロシア近代化への道』 エレーヌ=カレル=ダンコース 藤原書店(2001)
ずいぶん昔に購入してそのまま図書室に放り込んでしまった一冊。帝政ロシア末期の近代化が、帝政崩壊とソ連の勃興によって中断され、むしろ退化して現代ロシアの課題になっているというダンコース女史の論考。ソ連学徒としてはダンコース本は全て必読と言えるくらい重要なのだが、私的にはあまりにも反ボリシェヴィキ色が強すぎて今もって好きになれない。とはいえ、現代ロシアを占う上で欠かせない視点であるため、再挑戦することに。今年中に間に合うかは不明だが。
posted by ケン at 00:00| Comment(0) | 学問、文学、教育 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年01月01日

2018年を迎えて

明けましておめでとうございます。旧年中はお世話になりました。本年もよろしくお願いします。

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例年は一年の課題的なものを長々と書いていますが、今年は簡素にいきます。
昨年秋に行われた総選挙で野党第一党が分裂して大敗、その影響は今後もしばらく続くと思います。
得票を単純に比較すると、与野党は殆ど対等だったわけですが、選挙制度ゆえに議席数は与党、特に自民党が他を圧倒しました。自民党は、2012年、14年に続いて三度連続の圧勝となったわけですが、その結果、政官業報の癒着・腐敗がますます進行しています。
他方、野党を見ても、2年半おきの総選挙、参院選を含めると毎年のように選挙がある上、大衆的基盤の無い野党第一党が離合集散を繰り返しています。結果、政治家をめざすのは、金と暇が有り余っている人か、人生を「一発逆転」に賭けようとする者ばかりで、与野党を問わず、凄まじい勢いで政治家の劣化が進んでいます。

自分が永田町で見ていて実感を強めているのは、「この国は、あらゆる面でポイント・オブ・ノーリターンを越えてしまった」ということです。
私などが言うまでもないことですが、民主的議会制度の最大の利点は、民意に基づく政権交代を通じて、行政を監督しつつ、立法面から社会の改良を繰り返してゆくことにあります。ところが現実には、与野党ともに劣化が著しく、行政監督能力が低下、政官業報の癒着・腐敗が抑えられなくなると同時に、立法を通じての社会改良も社会変化に追いつかなくなっています。
しかし、社会改良が進まず、劣化が進むばかりなのに、投票率の低さも相まって政権交代が起こらず、ただ不満をため込むばかりの構造になっています。その不満の向かう先は、近隣諸国であったり、国内の外国人であったり、社会的弱者であったりしています。

若干の間をおきながらも、この15年間、自分なりに問題提起しつつ、悪戦苦闘してきましたが、「いよいよどうにもならん」という思いを強くすると同時に、自分の身を守ることを優先すべき時が来ていると感じています。
年齢的にも転身可能な最後の年代でしょうし、逆にあと15年、20年とこの仕事を続ける自分というのもイメージが付かないということもあります。自分が言うべきこと、やるべきことはやったので、新たな世界に目を向けたいというのが本音です。
詳細は、話が具体化したら、改めて報告しますが、どうやら本ブログの「激闘永田町編」も本年でひとまず終了しそうです。

もちろん、ブログ自体は続けますので、どうか今後もお付き合いいただけたら幸甚です。
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2017年12月30日

2017 ゲーム納めは「国防軍の夜」

今年は暦の問題もあって早々に「ゲーム納め」となったが、ピリオド・ゲームズ「国防軍の夜 1935」「国防軍の夜2−東洋の覇者 1937」を4人でプレイできたので大満足。

まずは新作「国防軍の夜2−東洋の覇者」から。
O先輩の山下奉文が装甲軍を率いて満州に駐屯、毎年国境紛争を発生させて1VPずつ稼いでゆく一方、残るK先輩、T後輩とケン先生は我先と中国大陸に侵攻する。やはり序盤は陸軍が人気で、海軍は空母機動部隊が共通の場に出たまま放置され、「艦隊演習」すら行われない始末。

「対米戦になったらどうすんだよ?」「そこは海軍さんの所管ですから」

日中戦争は当初順調に進攻してゆくが、武漢あたりまで進むと後方が手薄になってしまい、北部(北京)が中共軍に奪還されてしまうなど、ドロドロの殴り合いになってしまう。まぁ史実通りである。
が、支那方面総司令官職を持つK先輩が地道にVPを稼いでゆく。
日独伊三国同盟の提起に対しては、

「我々は平和を愛好するから欧州問題に首を突っ込んだりしないよ」
「アメリカと戦争になっちゃうじゃん」

などの理由から締結が見送られ、日米関係もなかなか悪化せず(外交ダイスが良かった)、対ソ国境紛争と日中戦争が延々と続く展開。
勝利得点で劣るケン先生は事態の打開を図るべく、陸軍要職を解任して対ソ開戦を試みるが、全く上手くゆかない。

そうこうしている内に日米関係が悪化、「ハル・ノート」が突きつけられる。
陸軍三長官会議と海軍大臣の承認が必要となるが、O先輩が教育総監と海軍大臣、K先輩が参謀総長を持っているので、受諾の可能性が高い。そこで、ケン先生とT後輩から教育総監と海軍大臣の解任決議案が出されるが、どれも否決され、ハル・ノートの受諾が決定、大陸から撤兵してゲーム終了となった。

「20万の英霊になんと説明するか」
「いやいや、国体護持のためにはやむを得まい」
「後世の歴史家か〜〜!!」

派閥が保有している戦艦や秘密VPを加えて計算したところ、O先輩がK先輩を一点上回って勝利した。

次は「国防軍の夜 1935」をプレイ。
一回目は、順調に軍拡と領土拡張が進み、英仏からの宣戦布告も起こらず、ドイツ人として理想的な展開。拡張すべき領土もなくなったところで開戦となり、全軍でフランスに進攻、鎧袖一触で征服した。対仏戦でほぼダメージが入らなかったため、翌ターンの生産力は全て新規に回されたが、生産されたのは全て航空機だった。そのタイミングで「英本土航空戦」が発生、独空軍はきわどいところで勝利する。イベントは、そのまま「英本土上陸」となり、陸軍総司令官職を持つO先輩の軍が上陸するも、参謀長職を持つK先輩が追加上陸を拒否する事態となる。イギリス本土が占領されると、サドンデスになるが、この時O先輩が勝っていたためだった。ところが、O先輩のダイスが炸裂して、英本土防衛軍を撃破、独力でサドンデスをもぎ取って勝利を確定させた。まさに総統の夢を具現化する流れとなった(現実のヒトラーは、ウクライナの穀倉地帯と資源を確保した上で対英戦を始めるつもりだったようだが)。

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二回目は、第一ターンの最初のイベントで「オーストリア併合」が発生、軍を有する三人の全将軍が出動するも、恐ろしいダイス目で全員敗退。その足でオーストリア軍にベルリンまで攻め込まれて、まさかの敗戦(全員敗北)に終わった。

三回目は、スペイン内戦で航空劣勢下で独軍がボコボコにされるという酷いスタートとなった上、いきなり英仏に宣戦布告されてしまうが、三長官が総辞職せず、そのまま大戦に突入してしまう。だが、その後はまず順当にドイツの領土拡大が進むも、今度はバトル・オブ・ブリテンに敗北、バルバロッサ作戦が発動してしまう。ロシアは、北中南と3つも戦線がある上、3回勝たないと占領できないという、モンスター国家(カード)である。初動でVPを稼いでいたO先輩やK先輩の軍は疲弊し、後塵を拝していたT後輩やケン先生の軍が活躍するようになって、差を詰めていった。ロシアの全戦線で2回勝って、「次全部勝てばサドンデス」というところで、アメリカが参戦した。これによって場に「D-Day」が加えられるが、「陸軍7、空軍3」という大戦力。しかも、毎フェイズダイスを振って「1」が出た時だけ戦闘解決されるため、部隊を送ったところで遊兵となる確率が非常に高い厄介なカードである。この時は、「西は捨てよう」ということで全プレイヤーが合意、ロシア戦線に傾注したが、アメリカの参戦でソ連軍の空軍力も向上していたため、北部と中央部では占領に成功するも、南部は失敗、終戦チェックも失敗してサドンデスには至らなかった。しかも、「D-Day」は1を振って連合軍が上陸、次ターンにはドイツ本土に押し寄せる事態となった。独軍は返す刀でドイツ本土に集結して連合軍を迎え撃つが、この時に私のダイスが炸裂して連合軍を撃退、VPでトップに立つも、またぞろ終戦チェックに失敗。ここからドロドロの殴り合いが始まってしまって、時間切れとなった。そこまでに何度かクーデターが提起されるも、どれも発動すること無く終わった。

「1」は簡素でゲームバランスも良いのだが、基本的にイベントが一本道で、各プレイヤーは同じ目的の中でVPを競う感じ。「2」はややルールが粗く、勝利競争は上位と下位に二分されて固定化しやすい感じだが、陸軍と海軍の争いや、軍部に全く統制がなく、めいめいが勝手に独断専行してしまう旧日本軍の悪弊を「これでもか」というくらい見事に再現していて超笑える。
ウォー・ゲーム、シミュレーション・ゲームとしての評価はさておき、超楽しいゲームであることは間違いない。
posted by ケン at 12:00| Comment(0) | ゲーム、囲碁 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする