「中国はなんであんなに台湾にこだわるのか」はよく聞かれることだ。
私は中国滞在経験があるし、党関係者とも接点を持ってきたが、中国の専門家ではない。
ちなみに「中国共産党員と関係がある」というと、色々思われてしまいそうだが、中国共産党は1億人からの党員がおり、国民8人に1人が党員なのだ。社会や組織の枢要にあるものは党員であることが多く、有望な若者は共青団(中国共産主義青年団)に誘われる。
大学にも党支部があり、通常の経営陣を党が監督する関係にある。私がいた日本語学科の場合、学科長は非党員だったが、教務主任は党員であった。
街中の商店には「本店は共産党員が経営しています」という看板が飾っていたりして、「これは何が言いたいんだろう?」と思ったものだった。
「中国やソ連では党員が優遇されるんだろう」も良く聞かれることだが、現実は逆で能力が認められた人が党員になれる傾向が強い。つまりエリートの証である。特に中国の場合、これを徹底したからこそ崩壊せずに成長したと言っても良い。
本題に入ろう。
一般的に「中国が台湾にこだわる理由」としては、
「国共内戦の延長上だから」
「安全保障上の目の上のたん瘤だから」
「太平洋への出口が欲しいから」
「大陸封鎖の要だから」
「半導体技術が欲しいから」
などあるが、どれも納得できるものではない。
複合的なものと言えば、そうなのだろうが、どうも説得力に欠ける。
ゲーマー的に最もわかりやすいのは、
「中台統一は中共の勝利条件だから」
というものだろう。
例えば、ナチス=ドイツによるソ連侵攻はその必要性という点で大いに疑問があり、実際に非常に多くのものが懐疑的だった。
その説明としては「ソ連に背後から襲われる前にやるんだ」というものがあったものの、説得力はなかった。
結局のところ最も説得力があったのは、「スラブ人種を絶滅させて東方生存圏を確立するんだ。我が闘争にも書いてあるだろう」というものだった。
つまり、「(プレイヤーとしての)ナチの勝利条件なのだ」というものが結局のところ一番説得力があるのだ。
大日本帝国の場合は、これが「満蒙(プラス中国)」という話になる。
戦前の日本人が満蒙や中国利権にこだわった理由はいくらでも説明できるが、「それが帝国日本の勝利条件だったから」というのが最も説得力があるように思える。
もっとも、帝国日本の場合、満蒙利権を(ソ連から)守る軍事力すら不十分なのに、中国に侵攻して全面戦争を起こした挙句、アメリカから中国からの撤兵を求められて逆切れして米英に宣戦布告している。
これを合理的に説明するのは難しく、「勝利条件だったから」と言うほうが納得できるだろう。
で、日中関係の話をすると、現在の日中関係悪化の根源は、国会における11月7日の高市首相の答弁に起因している。
それは、中国が台湾に対して武力行使を行った場合、明らかに日本の存立危機事態になり得るというものだった。
右派論者は「高市首相は日本の存立危機事態と言っただけで、集団的自衛権行使を明言したわけではない。中国が日本を叩く目的で騒いでいるだけ」と反論、日本政府も基本的にはこのスタンスで反論したため、中国側が徐々にヒートアップした経緯がある。
日本側はもともと「中台戦争→台湾海峡封鎖→存立危機事態」「中台戦争→在沖米軍基地攻撃→集団的自衛権発動→自衛名目で対中戦」という二本立てで想定しており、政府の説明は日本の立場の説明としては「間違ってはいない」ものの、中国側が納得するかは別問題だった。
日本はこのスタンスを「明言しない」ことで、日中関係を維持してきたからだ。
現行の日中関係(国交回復を含む)の根源にあるのは日中共同声明である。
第二項:日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する。
第三項:中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。
日本政府は中国政府による「一つの中国」を「十分理解し、尊重」するだけで、合意・承認したとは言っていない。
だが、現実には日本政府は形式だけ退職した官僚や自衛官を次々と台湾に送り込み支援すると同時に、自民党の議員団が続々と台湾を訪問して「(独立への)連帯」を表明している。
「日本はルール解釈を逆手にとってやりたい放題している」というのが中国側の理解である。
だが、先にも述べたように、ポツダム宣言第八項は「日本の領土を本州、北海道、九州、四国の4島と連合国が認める諸島に限定」というもので、同様に台湾を中華民国に返還する旨も明言されている。
この台湾などを中華民国から中華人民共和国に継承することを「(遠回しに)認める」こともまた日中共同声明の構成要素であり、中国にとっては最も重要な点でもあった。
その担保として、中国はポツダム宣言の外にある沖縄・琉球の主権(帰属)問題を棚上げしている。
日中共同声明を護持するからには、日本は「台湾独立」や「中国と台湾の両立」を認めてはならない。
公式的あるいは外交的には、仮に中国政府が台湾に対して武力行使したとしても、それは国内に対する武力行使であって、「他国に対する武力行使」とはならない。
これを首相が「日本の存立危機事態」と国会で宣言したということは、たとえ後から「集団的自衛権を行使するとは限らない」などと個別に「ご説明」されたところで、中国側としては納得できないだろう。
中国政府と共産党は国民に対して「一つの中国」をプロパガンダしてきて、それはすでに「勝利条件」にもなっている。
日中国交回復に際しても、日中戦争の記憶が根強く残る当時にあって「日本政府は一つの中国を尊重した」と説明することで、説明してきた経緯がある。
その後も中国政府は日本政府が日台関係を保持していることは暗黙の了承を与えてきた(文句は言うが)。
しかし、台湾(中国国内という建前)への武力行使を「日本の存立危機事態である(開戦辞さず)」と宣言されてしまっては、国内への説明の上でも中国政府は黙っていられなくなった。
実際、近年の日本は対中戦を想定して軍拡を進めているのだから尚更だろう。
それでも日本側が平身低頭して「あれは首相が勝手に言ったことで、帝国政府の本心ではありません」と説明して、首相を更迭していれば、中国側も納得したかもしれない。中国も必ずしも本気で日本と関係悪化を望んでいるわけではないからだ。
ところが、日本側は独自のルール解釈を述べて自己正当化に努めただけに終わり、「日本政府は従来の方針を堅持する」とケツをまくった挙句、高市は「自分の対中強硬路線(安全保障政策の根本強化)を有権者に判断してもらう」として議会を解散してしまった。
こうなると、「従来の方針って何だ?対中戦決意ということか!」と中国側が(立場上)激高するのは避けられなかったのである。
今となっては中国側と和解姿勢を示しただけで「売国奴」と罵られ、話し合おうとすれば外務省から徹底的に妨害されるだけに、中小規模の紛争、軍事衝突は避けがたいところまで来ているのかもしれない。
日清戦争と日露戦争は外交上の失敗を武力でもって覆すために生起した。
日清戦争は朝鮮の宗主権を清に求めて拒否され、日露戦争は朝鮮の統治権と満州利権をロシアに求めて(満州部分を)拒否されたため、武力解決に及んでいる。
中国側が「こいつらまたやる気だ(軍国主義の復活)」と主張する背景を、日本人はよく考えるべきだろう。だが、歴史修正主義によって日本人はますます対外強硬主義に傾斜しつつあるのが実情だ。