日露外相間であったりとか、次官級での接触について、現時点で、何か具体的な予定、これがあるわけでもありません。ロシアによりますウクライナ侵略、これは今も続いておりまして、G7を始めとする国際社会と連携した対露制裁をはじめ、我が国の基本的な対露政策に変わりありません。
ロシア側は、日本が対露政策を見直すことが、対話の前提条件であるとこういう立場をとっておりますが、今、対露政策を見直すような状況ではないと、こんなふうに考えております。
いずれにしても、二国間が困難な状況にあるときこそ、両国間の意思疎通は重要であると考えておりまして、我が国は、隣国であるロシアとの関係を、適切にマネージしていく、こういう観点から、外交当局間を含め、引き続き、ロシア側との意思疎通についてオープンであります。
一方で、ロシア産原油の輸入再開に関する記者の質問に対しては、回答を拒否した。この記者会見のやり取りの背景には、5月4日にロシア産原油を積んだタンカーが日本に到着した事実がある。同タンカーの原油は、日本企業が参画するロシア極東の石油・天然ガス開発事業「サハリン2」で生産されたもの。日本は米欧が主導するロシア・ウクライナ戦争をめぐる対ロシア制裁に参加しているものの、諸般の事情からサハリン2で生産される製品については制裁対象外として認められていた。しかし、日本政府は欧州諸国への配慮から2022年夏以降は原油輸入を自主規制してきた。もっとも、天然ガスについては、サハリン2からの輸入を続けており、現在も日本の全輸入量の約9%を占めている。
今回のロシア産原油の輸入について、石油元売りで今回の輸入を担当した太陽石油は「経済産業省からロシア産原油受け入れの要請があった」と述べている。5月8日にタンカーが千葉に到着した出光興産も同様の見解を示している。出光興産の広報担当者は「国家備蓄原油の活用をはじめとする調達多角化の一環。石油製品の安定供給のため、あらゆる検討を行っている」と説明した。経済産業省資源エネルギー庁の担当者は、「少しでも多くの原油の調達を目指す中で、結果として2社が買う形になった」と話している。今回の中東危機で、米国政府は3月12日にロシア産原油および石油製品に対する制裁緩和措置を発表、30日間の時限措置として導入し4月に期限を迎えた後、同月17日に約1カ月の延長を発表した。だが、5月には制裁緩和措置の延長は行わないようで、5月18日現在、米政府側は何らの声明も出していない。つまり、今回の日本側の原油輸入は米政府による制裁緩和措置を受けての緊急輸入だったと見られる。今回の輸入を担った石油二社も今後の輸入計画については何も述べていない。
ロシア産のエネルギーや資源は、ロシア・ウクライナ戦争開戦後に日米欧の制裁対象になっているが、サハリン2は三井物産と三菱商事が権益を維持、欧米諸国からも例外として認められている。そのため、日本はサハリン2からLNG(液化天然ガス)の調達を継続している。資源エネルギー庁は、ガスに付随して産出される原油の輸入も不可欠と位置付けており、2025年6月にはロシア産原油が約60万バレル輸入された。サハリン2は天然ガスが中心であるが、石油も産出している。但し、今回の輸入は随意契約(不定期)とされており、あくまでも米イラン戦争に起因する中東危機への一時的対応というのが政府の基本的スタンスである。
本件について、ロシアのラブロフ外相は先に、ロシアはサハリン1とサハリン2プロジェクトにおける日本企業の参加継続を妨げておらず、両プロジェクトでの関係は一貫して互恵的という観点に立っていると述べていた。現状、ロシア産原油は全輸出量のうち中国が約50%、インドが約35%を占めており、それらは国際価格よりも20%以上安く調達されているとされる。ロシア側としては、制裁打破による資源輸出の多角化を目指したいものと見られる。サハリン1は石油が主であり、日本側も権益を保持しているものの、欧米への配慮から同地からの石油・天然ガスの輸入は控えている。欧米による制裁発動時に、ロシア側が日本の権益を回収するとする見立てもあったものの、実際にはロシア政府は引き続き日本による権益を認めており、今日に至っている。これは、東シベリアや樺太などの資源輸出先があまりにも中国に依存しており、これ以上の中国依存を避けたいとするロシア側の意向の表れと見られる。ロシアは、安全保障や歴史問題でたびたび日本を非難しているものの、資源輸出先としては現在も日本を有望視しているように見える。
天然ガスの輸入については、長期契約であることもあり、2024年と25年を比較して大きな差は無いものの、26年は3月までの輸入でやや増加傾向が見られる。これは長期契約に基づくものと見られ、日本政府の政策転換と見るのは難しい。
他の資源輸入について大きな変化があるのはパラジウムである。2025年の日本によるロシア産パラジウムの輸入額は694億円。この額は前年の575億円から20.6%増加している。但し、数量ベースでは1万2095キログラムから1万2680キログラムへと約4.8%増加に留まる。ロシアからの輸入量は絶対値では増加したが、日本のパラジウム輸入に占めるロシアのシェアは減少。前年の30%超は、2025年は約24%に減った。これは南アフリカからの供給量が急激に増加したことに起因する。南アからの輸入は全量の約57%に達しており、輸入多角化が主眼と思われる。なお、パラジウムは自動車産業に不可欠のものであり、日本政府が最重要視する戦略物資の一つである。
非鉄金属全体で見た場合、2023年の輸入量が4596MT(Metric Ton)だったのに対し、24年が441MT、25年が630MTとなっている。確かに微増傾向にあるものの、政策転換とまで言えるレベルではない。とはいえ、対ロシア経済制裁が強化ではなく、緩和の傾向にあるとは言えるかもしれないが、それも十分な根拠は提示できない。
高市政権下で日中関係が悪化する中で、経済産業省・資源エネルギー庁は特にレアアース・レアメタルの対中依存度低下を重要課題としており、特にロシアからはパラジウム、アルミニウム、ニッケル、チタン、タングステンなどを輸入しているが、欧米諸国の意向を無視してまで対ロシア依存度を上げる決断をするには、政治的意思の介在が不可欠であり、現状では高市政権が対ロシア外交方針を転換する兆候は見えない。
ただし、経済産業省は5月下旬に同省職員がロシアに出張し、現地進出企業の資産保護のためロシア側と意思疎通を図る方向で調整していることを明らかにしている。同時に、ロシアとの経済・エネルギー分野での協力を見据えた経済訪問団の派遣ではない旨を強調している。以上のことから、政策転換とまでは言えない範囲で、ロシアからの資源輸入拡大の可能性を探っているのが現状と言えそうだ。こうした経産省の動きに対して、高市内閣は否定も肯定もしておらず、高市政権首脳部もロシア側との下交渉を見守っているものと思われる。
本件について、ロシア外務省のザハロワ情報局長は5月14日、「ロシア側は招待していない」と表明、日露間のハイレベル政治対話再開について「日本政府から何の提案も受けていない」と指摘。「要請があれば応じる用意はあるがロシア側からは接触を求めていない」と説明している。ロシア側も中国への配慮があるため、本音では対日輸出拡大を希望しているものの、安易に日本に妥協する情況にはないことを強調したものと見られる。
2010年代の安倍とプーチンによる日露協力は、両首脳の強い政治力と指導力によって牽引されてきたが、今回はそれに相当する推進力がない以上、外交関係が急変するような事態は想定しづらい。
また、中東危機で国際市場の供給が厳しくなっているものの一つに農業肥料がある。例えば、国際市場での尿素の取引価格は1月から4月にかけて2倍以上に上がっている。輸出の3割〜4割強を占める中東産の供給が滞り、価格を押し上げているためだ。これにより、特に欧州の農業は肥料不足による危機を迎えつつある。日本は尿素の97%を輸入しているが、マレーシアやベトナムからの輸入が大半を占め、海峡封鎖の直接の影響は少ない。とはいえ、肥料価格の高騰は農業生産品の価格高騰に結びつき、物価上昇の一因になることは否めない。
ロシアは肥料についても、窒素、リン酸、カリウムなどを中心に世界シェアの2割近くを占めているが、日本はロシアからの輸入は少なく、カリウムで12%、窒素で3%程度に留まっており、現在も特段の変化は見られず、農林水産省が肥料輸入先としてロシアを検討している形跡は見当たらない。
逆に中国からは2020年頃には尿素の約4割、りん安の約9割を中国からの輸入に頼っていたが、中国政府による肥料の輸出規制を受けて調達先の見直しを進め、対中依存度を尿素で約2割、りん安で約7割まで下げている。多角先としてはマレーシアやベトナムが重要な位置を占めている。
補足になるが、鈴木宗男参議院議員(自民党)は、5月初頭にモスクワを訪問、ロシア側からは今年7月にフィリピンの首都マニラで開催される東南アジア諸国連合(ASEAN)の外相会合に合わせ、日本側が希望するなら日ロ外相会談に応じる用意がある旨を伝えたという。さらに、5月12日にはロシアのシュビトコイ大統領特別代表(国際文化協力担当)が参議院議員会館の鈴木事務所を訪問、同氏と面会した。シュビトコイは茂木外相とラブロフ外相の会談実現に向け、「外務次官レベルで話し合いをした方がいい」と提案したとされる。本件については、政府・外務省は一切コメントを避けており、15日の記者会見におけるメディア記者による茂木外相への質問に対しても、回答していない。
ただ、自民党も政府側も鈴木のロシア訪問を妨害したり、反対を表明したりはしてはいない。これは鈴木による議員外交を黙認することを意味しており、ロシア・ウクライナ戦争が勃発した当初とは情勢認識が変化しつつあることを示している。自民党も政府もロシアとの交渉窓口としての鈴木の活動を黙認することで、交渉ルートを確保していると見るのが妥当だろう。とはいえ、日本政府は従来の対ロシア外交の方針を転換したわけではなく、現状では方針転換を検討しているようにも見えない。経済安全保障の立場から資源輸入の多角化を主導する経済産業省もまた対ロシア関係改善と資源輸入の強化を訴えるには至っていない。
結論として、現状において日本政府が対ロシア外交を転換する検討を進めているとは言えないものの、資源輸入の多角化に向けて様々な可能性を探っている状況にあると言えるだろう。

